マーケティング2012 Feed

2012年9月 2日 (日)

表情から感情を判断して、今の感情にあった広告を提示するコンピュータ・システム

 

 アップルの株が最高値をつけたとか、フェ-スブックの株が公募時の半値になったとか・・・。企業は投資家をハイな気分にさせる材料を定期的に提供することを要求される。とくに、「新しい」ことを創造しつづけることを期待されているIT企業としては、ニュース(News /新しいことや変わったこと)を発信しつづけなくてはいけないようだ。

 マイクロソフトが今年の6月になって、2年前の2010年12月に申請した特許の内容を明らかにした。特許の内容は、ユーザーのそのときの感情にそった広告を提示できるように設計されたコンピュータ・システムで、ゲーム機、パソコン、スマートフォンを含めたモバイル端末などすべての機器がふくまれる。検索キーワード、eメール、オンラインゲームからのデータに加えて、顔の表情、スピーチのパターン、体の動きにもとづいて、ユーザーの感情を測定・判断するシステム(ソフトウェア)・・・・だそうだ。

 特許には、幸せを感じているユーザーはダイエット商品を買う傾向は低いので、そういった広告は提示しない。大いなる幸福感を感じているユーザーにはエレクトロニクス製品や旅行の広告を提示。困惑したりイライラしている客には、オンライン技術サポートの広告を提示する・・・といった例を紹介し、「広告が適切な客に提示され不適切な客に提示されないことにより、金銭的無駄をはぶくことができる」と記されているそうだ。

 eメールやチャット、ソーシャルメディア上のコメントの内容にもとづいて広告を提示することは、Facebook やGoogleもやっていることだから目新しくもない。が、「ユーザーのその時々の気分や感情にあった広告をリアルタイムで提示する」ことはニュース(新しいこと)になるかもしれない。                                                

 マイクロソフトが2010年にゲーム機Xbox用に開発・販売したKinect(キネクト)は、カメラ、マイクロフォン、赤外線をつかった深度センサーを内蔵していて、プレーヤーの体の位置や動き、ジェスチャーや音声を認識して反応する。その後、Windows 対応のKinect ソフトウェアも発売されている。ボディーランゲージやスピーチ・パターンを把握する基本はできているのだから、マイクロソフトはいつでも特許内容を実現することができるはず。だが、いつ、実際に、そういった広告システムを販売するかについては発表していない。

 ボディーランゲージ(身体言語)には、顔の表情、視線、ジェスチャー、しぐさ、姿勢などが含まれ、日常のコミュニケーションにおいては、言語よりもボディーランゲージ(身体言語)のほうが伝達する内容が多いし、中身が濃いという説もある。最近は、このなかでも、表情、とくに微表情を読み取ることで、他人の心理を察知しようとする(とくに、ウソをついているかどうか見抜こうとする)話をよく耳にする。 

 米TVドラマで日本でも放送されDVD販売されている「Lie to me/ライ・トゥ・ミー 嘘の瞬間」は、「あなたのウソは顔に出る! ウソを見抜いて真実を暴くリアルサスペンス・ドラマ」と宣伝されているように、微表情(microexpression)からウソを察知する精神行動学者カル・ライト博士の活躍を描くミステリードラマだ。    

 また、アメリカでは、9.11後、セキュリティ要員に微表情を読み取る訓練をして、テロリストが飛行機内に乗り込むのを事前に防ぐ方法を採用する空港も登場するようになってきている。      

 微表情は1/25秒から1/15秒ほどしかつづかない瞬時に表れて消える表情だ。顔の筋肉を一瞬動かしたということで、それは、当人が、自分の本当の感情を意識的あるいは無意識的に抑制しよう、つまり、隠そうとしていることを示している。たとえば、浮気をして帰宅した夫が、「どこにいってたの?」と妻に問われて、「部長と飲んでた」と答えたときに、罪悪感を感じるだけの良心がある場合には、一瞬目線を下げ、眉は「ケンカする気などもうとうありません」的に外側にたれ、ちょっと悲しそうな口元をつくる。    

 表情で感情を測定するシステムは、マイクロソフトだけでなく、CIAや国防省、アニメーション映画のピクサー、アップルやGoogleも関心をもっている。セキュリティ関係の場合は表情を判断できるように人間を訓練することが多いが、IT企業は自動的にテクノロジーで分析判断しようとする。どちらの場合も、心理学者ポール・エクマンが考案したFACS(Facial Action Coding System)という表情解析技法を基本としているものがほとんどだ。ソニーが2008年に発売したデジカメの「笑顔を検出して自動で撮影するスマイルシャッター機能」を開発するときにもFACSを採用している。また、ピクサーもアニメ映画「トイ・ストーリー」のキャラクターの感情を表情で表現するときに利用したそうだ。

  ポール・エクマンは、TV ドラマ「ライ・トゥ・ミー」の主人公のカル・ライト博士のモデルとなった人物であり、このドラマの監修もしている。「表情と感情」研究の第一人者。

 進化論のチャールズ・ダーウィンは1872年に発表した著書「人間および動物の表情について」で、顔の表情がどういった感情を表現しているかは、人類に普遍的なものだと書いた。つまり、世界中どこにいっても、喜んだ顔や悲しい顔の表情は同じだということだ。が、1950年代になると、マーガレット・ミードに代表される人類学者が、表情は学習するもので文化や環境によって異なるという説を主張した。

 ポール・エクマンは60年代から70年代にかけて世界規模での調査をした結果、基本的感情を示している顔の表情は世界に共通するものであると、「やっぱりダーウィンは正しかった」という研究を発表した。つまり、怒り、恐れ、悲しみ、嫌悪、驚き、幸福感を表す顔の表情はすべての人類に共通しているということだ。たとえば、眉をひそめるのは幸せでないことを示し、目を見開くことは驚きや恐怖、鼻をしかめるのは嫌悪の感情を表しており、これは日本の東京でも、フランスのパリでも、未開地の部族でも変わらないというわけだ。

 顔の表情は50以上あるという顔面筋肉の動きや位置によってつくられるものだが、顔の筋肉のなかには自分で意識的に動かすことができない筋肉もあり、これらは学習や経験をほとんど必要としない反応と考えられており、本能的感情に密接にむすびついているといわれる。

 (笑顔には本当の笑顔とニセモノのつくり笑いがあり、表情から簡単に見分けられることをご存知ですか? 心から楽しんでいる笑いと他人におもねたり本当の感情を隠すための愛想笑いでは、どちらも口角を上げる頬骨筋をつかうことは同じだが、本当の笑いは大脳辺縁系という古い脳から生まれる反射的な動作であり、無意識に目のまわりの小さな筋肉が収縮して目じりにシワがよる。人間は目まわりの小さな筋肉を意識的に動かすことができないので、つくり笑いの場合は、口に笑いを浮かべることはできても、目じりにシワができない。そういうことが分かったうえで観察してみると、大人の笑顔のほとんどは、つくり笑いであることが多い)

 エクマンは、1978年に、解剖学的基礎にのっとったうえで、どの筋肉をどう動かしている場合はどの感情を表現しているかを判定するツールとしてFACSを開発した。90年代に、6つの基本的感情以外に、楽しい、軽蔑、満足、興奮、罪悪感、自負心、安心、喜び、困惑、恥ずかしいの感情を加えたうえで、2000年代初めにFACSの改定をしている。

 自動顔表情分析を専門とするMPT(Machine Perception Technology)は、ポール・エクマンが顧問をしている会社で、前述したように、ソニーのスマイルシャッターカメラのエンジンをつくったそうだ。それ以外にも、P&G,やインテルといったクライエントをかかえている。

 マサチューセッツ工科大学の研究所MIT メディアラボの研究員が独立してつくったAffectivaという会社も感情測定テクノロジーを専門とする。FACSを基本としているが、独自のアルゴリズムにもとづいて感情を分析している。表情から相手の気持ちを察することを苦手とする傾向の高い自閉症児の治療分野で成果をあげている。最近では、調査会社のMillward Brownと組んで、広告がもたらす感情を測定する仕事や、オンラインゲームをしているプレーヤーやオンライン教育を利用しているユーザーの関心度や退屈度、あるいは理解できずに困惑している度合を測定する仕事もしている。

 たとえば、TVコマーシャルのテストの場合、Webカメラが搭載されている機器を通じて、Affectivaのサイトでコマーシャルをみることができる状況にあるなら、誰でもテストに参加できる。Affectivaはユーザー自身のWebカメラを通してユーザーを観察。表情をアルゴリズムで自動的に分析して、どういった感情を引き起こしているか認識することができる。               

 現存する表情・感情分析ツールの基本となっている研究を確立したポール・エクマンは、1934年生まれだから、現在78歳。エクマンは、自分が考案したFACSは脳に焦点をおくニューロマーケティングよりも、ずっと正確で役に立つといっている。たしかに、fMRIは被験者がMRIのなかに横たわらなくてはいけないし、分析は複雑。広告や質問などへの反応を分析するだけなら、FACS を基本としたツールのほうが簡単だ。

 エクマンは14歳の時に母親が自殺しており、その時、手遅れになる前に母の顔の表情の変化に気づいていればよかったと非常に後悔したらしい。そして、精神的に病むひとたちの命を救おうと決心した。その過程において、新しい学問を確立したということになる。

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参考文献: 1. Microsoft Fiels patent to Serve Ads based on Mood, Body Language, AdvertisingAge 6/12/12,  2. Coutney Humphries, The Emotion on Your Face, The Boston Globe, 2/12/12, 3. Kevin Randall, Human Lie Detector Payl Ekman Decodes The Faces of Depression, Terroirism, And Joy, Fastcompany 12/15/11, 4. Steve Henn, How did that ad make you feel? Ask a computer, NPR, 1/3/12    

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2012年6月22日 (金)

最新メディア事情。ソーシャル・ローカル & 「アナログでもガンバってる」ダイレクトメール

 

飛ぶ鳥をも落とす勢いだったFacebookの株価にケチがついた。上場直前に自動車メーカーのGMが広告出稿をやめたと発表したこともあって、「はたして、Facebookには広告媒体としての価値があるかどうか?」という議論が沸騰。

2011年初めには、Facebookにサイトを出すFコマースに注目があつまった。だが、GAPとかデパートのノードストロームやJCペニーなどは、いったん開店してから「効果がなかった」といって閉店している。GAPなど560万人のファンがいたけれども、「自社ウェブサイトに誘導すればよいだけのこと。ユーザーにとっても使い勝手の悪いFコマースを開ける必要性がみあたらない」と言っている。

「Facebookは交際の場。バーでおしゃべりしている人たちにモノを売れるはずがない」という声もあがっている。

とはいえ、むろん、Facebookの価値が落ちたわけではない。ソーシャルメディアはまだ始まったばかり。広告を販売しているFacebook側も、購買しているスポンサー側も、どう利用すべきなのか手探り状態なのだ・・・という意見が多い。「なんといっても、TVには50年の歴史がある。ソーシャルメディアをメディアとしてどう利用すべきかは、いまだ実験段階にある」。

TVの番組つくりだって、最初はラジオ番組や劇場での芝居作りをそのままマネをすることから始めたのだから・・・。

いっときのブーム状態から、経験をへて新たな知見もえて、客観的に分析できるようになってきているということだろう。

あれほど騒がれたクチコミについても、「オンライン上のクチコミはオフライン上のつまり現実世界のクチコミとほとんど変わらない」という、「え~、なに、それ~!」と脱力したくなるような調査結果も出ている。

先に調査結果を明らかにすると、情報が共有される中央値の人数は、Facebookが9人、Twitterが5人。つまり、一時流行語にもなったインフルエンサー(影響者)の影響力はそれほどなかったということだ。(BuzzFeedやYahooによる調査)

もっとも、これは、日本でもベストセラーになった「スモールワールド・ネットワーク」の著者でコロンビア大学教授のダンカン・ワッツの主張するネットワーク理論では、以前から、いわれてきたことだ。つまり、現実世界の場合、情報は、情報源の本人の親しい友人、家族、仕事上の同僚という小さな近しいグループ内の多くの人たちにひろまるだけで終わることが多い。(つまり、顔を見知っていて直接言葉を交わすひとたちの集まりということ)。

ダンカン・ワッツは、ヤフーの主任研究員となり、ツイッター上での分析をとおして、オンライン上でも同じことが起こっている・・・と証明した(ワッツ氏は、この研究を発表したあとで、今年になってからヤフーを退職している)。

ワッツ氏の調査研究によれば、ツイッター上で多くのフォロワーをかかえる人やカリスマブロガーのようなインフルエンサーの発信した情報が多くのひとたちに拡散したとしても、その影響は一時的なもので流行にまではいたらないことがほとんどである。流行するかどうかは、1) オフラインの現実世界と同様に、偶然に左右される。また、2) YouTubeなどで人気動画を何百万人が視聴したりする現象が起こるのは、少し話題になった段階でTVのようなマス媒体がその事実を報道することによって発生している・・・のだそうです。

考えてみると、そうだよね。テクノロジーがいくら進化しても使っているのは人間。現実のオフラインの世界とオンラインの世界がまったく異なる別世界になるわけではない。

そういうわけで、「人間と人間が交わる場であるソーシャルメディアの使い方」として賛成したくなるのが、ソーシャル・ローカル(social-local)です。

ウォルマートはアメリカ本土だけで3800件ある各店舗ごとにブランドページを作成した。自分の住んでいる地域のウォルマート店舗のページをみれば、各店舗ごとのセール情報やサンプル配布情報、店舗内の地図というかレイアウト情報(自分がほしいものがどこにあるのか事前にチェックできる)。また、地域のイベント情報やニュースも掲載。客の質問にも答えることができる。

各ページは各店舗の担当者が編集する。ウォルマートは、2011年から、店舗からのネット売上は各店舗に割り当てる方針をとっているので、担当者や店長も真剣にページ編集をすることが期待されている。

ソーシャルメディアが人と人とが交わる場であるのなら、コミュニティ(共同体)を単位として人と人が交わる形が一番自然なのではないだろうか(スモールワールドのネットワーク理論にもあっているし・・・)? 地域のイベントやニュースを掲載し、地域の人たちをもまきこんで便利な情報ページだと思ってもらえるようになれば、そして、コミュニティ・ページだと思ってもらえるようになればしめたものだ。ウォルマートはソーシャルメディア上でのコメントやチャットの分析(テキストマイニング)もローカル単位でして、各店舗の販促や品ぞろえに利用することを考えている。

私ごとですが、80年代に「データベースマーケティングの実際」という本を出版したことがあります。そのとき、「テクノロジーの進化のおかげで企業はパーソナルなサービスの大量生産化ができるようになった」と書きました。その例として、昔の八百屋さんは、加藤さんが買い物にくると、加藤さんは二人暮らしで大根は一本つかいきれないと知っているので、「奥さん、半分に切るから買ってきな!」と声をかける。残りの半分は、いつも六時ごろ、帰宅途中に立ち寄る、これも二人暮らしの佐藤さんに売ればいい・・・と心づもりする。顧客データベースを構築すれば、昔のようなパーソナルなコミュニケーションを実現できるはず。

こう書きましたが、2000年に新版が出版されるときに訂正しました。なぜなら、当時のテクノロジーでは、昔の商売上手な八百屋さんのようなパーソナライゼーションはできないと思ったからです。

いま、ウォルマートはソーシャルメディアとGPS機能つきスマホのようなモバイル端末をつかって、これを実現しようとしています。そして、こういった試みを「バック・トゥー、ザ・フューチャー(Back to the Future)だ」と言っています。

さて、90年代から雨後の竹の子のように増殖しつづけているデジタルメディア(チャネル)。なかでも、ソーシャルメディアばかりに注目があつまっていますが、私などは、検索エンジンとかQRコードが誘導チャネルとしての確固たる地位を築いているほうが、大げさにいうと、なんだか感慨深いです。

でも、久しぶりに、ダイレクトメールについて書いてみます。

15世紀にグーテンベルグが印刷機を実用化して以来の古い古い媒体です。が、このダイレクトメールが、アメリカでは、最近ちょっと注目されています。ビジネス雑誌の「Forbes」にも、今年になって、「DMは恐竜みたいに思われているかもしれないけど、死んではいない。ぴんぴんしている」という記事がありました。

デジタルの世の中だからこそ、リアルに触って感じることができるDMに人気がでており、18歳から34歳の若い世代でさえも、マーケティング情報はオンラインではなくDMで受け取ることを選択しているという調査結果が紹介されている。また、B2Cにおいては、顧客の維持はむろんのこと新客獲得においても、DMのROI(投資利益率)はNo.1となっているという調査結果も紹介。紙の広告媒体はデジタルに比べて、感情に訴える力が強く、その分、記憶に残りやすい。また、デジタル媒体とはちがい、紙媒体上の情報は意識を集中して読まれているといった以前にブログに書いた調査結果も紹介されています

結局、マーケティングは差別化が大事なのだから。そして、人間の脳はいつも新しもの好きだから。

デジタルが新しければそれにすぐに飛びつく。が、世の中がデジタルばかりになると、それとは違うリアルな紙媒体が新鮮にみえてくる。だいたいにおいて、いつも新しい世代が交代で登場してくることを忘れてはいけない。ネットが普及したのがアメリカで1990年で日本で95年。モバイル端末が普及してから、もう10年余。デジタル世代には、紙媒体はある意味「新しい」のだ。

だから、いつもBack to the Future!

全日本DM大賞という、優れたDMに与えられる賞がある。もう10年以上つづいているが、この数年、金賞をとっているのはソフトバンクモバイルとかグーグル。どちらも、ターゲットを絞った顧客セグメントに、受取人一人ひとりにパーソナライズされたDMを送っている。両社ともに、メッセージを送るだけならeメールで送れる。安いし。だが、あえて、紙媒体のDMを使っている。

日本企業は(ネット企業も含めて)顧客の維持を考えるならもっとDMをつかうべき。つかわない理由は、

  • 媒体コストが高い・・・・データ分析をしないから顧客の価値がわからない。顧客の価値が計算  できていないから、顧客の継続化に効果があるDMのコストを高いと思う。
  • マーケティング投資をしたくないからテストをしない・・・・だから、効果的なDMの作り方がわからない。へたなDMをつくるから十分なリスポンスがこないという悪循環。
  • つまり、一言でいえば、理解不足に経験不足。

ところで、Back to the Futureって、温故知新の反対で温新知故と訳してもよいのではないでしょうか?(でも、これは日本語訳なのかそれとも中国語訳なのか?)

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参考文献: 1. Duncan J. Watts, et al., Everyone's an Influencer: Qauntifying Influence on Twitter, WSDM'11 February 9-12, 2011, 2. Jon Steinberg, Jack Kranwczyk, How content is really shared: close friends, not influencers, AdvertingAge, 3/07/12, 3.Clara Shih, How Walmart is localizing its stores with Facebook, 5/17/2012, 4.  Steve Olenski, direct mail: alive and kicking, Forbes 11/3/12

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2012年4月22日 (日)

Facebookのタイムラインで「ブランド・ストーリーづくり」を考える。

ブランディングについて書かれた本は、「他と差別化できる強力なブランドをつくる」のに役立っているのだろうか?と、いつも疑問に思っていました。まず第一に、なぜ、ブランディングとかブランド戦略について書かれた本はこれほどまでに退屈なのか?

たとえば、ブランド論を確立しブランド戦略に関する本を5冊も書いているデイビッド・アーカー氏の本は、ページ数が多くて枕にできるくらい分厚いものが多い。これまで何度もチャレンジしたけれど途中で眠くなってギブアップ! ブランド論の権威で電通の顧問もしているというアーカー氏にケチをつける気などさらさらないのです。が、ブランドをつくるという最もエキサイティングであるべき仕事が、理論化されて本になると、どうしてこうも退屈なものになってしまうのか!

二番目の疑問は、資生堂のブランド戦略に関する本です。資生堂のブランド戦略の素晴らしさをたたえる内容が多いようです。が、これもよくわかりません。そもそも資生堂に商品のブランド戦略なんて存在していたのでしょうか?

「資生堂」という企業ブランドはたしかに立派です。「資生堂」という会社の信頼性や真正さに疑いをいだく消費者はほとんどいないでしょう。でも、これまで発売された商品ブランドは100以上におよぶといわれていますが、いまだに資生堂という会社名なしに一人歩きできるブランドは出ていない。TSUBAKIにしてもマキアージュにしても、ほとんどの消費者にとっては、資生堂のヘアケア製品であり資生堂の化粧品。商品ブランドとしての力は弱い。

資生堂の歴代の経営陣にブランディング能力がなかったと批判しているわけではありません。なぜなら、資生堂の経営陣も、こういった問題があることには10年どころか20年前から気がついていたからです。でも、長年のしがらみもあって、問題の解決方法はわかっていても、即実行するわけにはいかなかった。

資生堂の戦後の成功をもたらしたのは、大正12年(1923年)から始まり、ピーク時には2万5000店舗以上あったというチェインストアと呼ばれる系列店網です。長い間、資生堂にとってのお客様は系列店のオーナーであり、消費者ではなかった。だから、お店から売上をあげるために新製品を出してくれといわれれば、たとえ店舗在庫が残っていても、新しいブランドをつくって発売し、TVや雑誌といったマスメディアをつかって大々的に宣伝した。

消費者がお客様ではなく販売店の店主がお客様だったという過去の歴史をもっているのは、化粧品メーカーだけではありません。いまのパナソニック(昔の松下電器)のような家電メーカーだって、キリンビールのような酒造会社だって、系列の家電専門店や酒屋さん、居酒屋さんがお客様だった。

消費財メーカーでありながら、消費者にモノを販売しているという意識は弱く、対企業にモノを販売している産業材メーカーのような意識がつよかった。そういった歴史から、日本のメーカーは企業ブランディングは上手でも、商品ブランディングはいま一、いま二、いま三時・・・のところが多いのだと思います。

その良い例がサッポロビール(サッポロビールさん、ごめんなさい。昔のことです)。5年以上も前に、当時のサッポロビールの経営者がビジネス雑誌のインタビューに答えて、「ヱビスビールがサッポロのブランドだと知らないひと(酒店や飲食店の店主のこと)が多い。だから、営業マンに(サッポロは高級ビールのヱビスもつくってるんですよと)もっと宣伝しろといってるんです」というような発言をしていらっしゃいました。

本当に商品ブランドを大切にするのなら、ヱビスがサッポロのブランドの一つである事実は、反対に、一生懸命隠さなくてはいけないくらいです。ヱビスがサッポロの数あるビールブランドのなかの一つであると思われてしまった時点で、ヱビスのブランド個性(ブランド・アイデンティティ)はうすまってしまう。

もちろん、当時の経営者はビジネス雑誌のインタビューだということで、つい口をすべらせてしまったのでしょう。経営者としては、サッポロ製品を小売店や飲食店に売り込むためには、知名度もイメージも高いヱビスの名前を利用すれば、営業マンも売りやすいと考えたのでしょう。理屈に合った考え方です。でも、そのとき、究極の買い手であり一番大切な消費者に、ヱビスがサッポロの一ブランドであると知られることのリスクは頭のなかから消えていた・・・ということだと思います。

商品ブランドを守ろうという意識の希薄さが、結局は、高級ビールNo.1の座を、サントリーのプレミアムモルツに譲ってしまう結果となった・・・・そう結論づけたくなってしまいます。

過去の成功をもたらしてくれた系列店制度や、それに合った考え方を、国内市場の成長が停滞したとかグローバル市場で競争に勝つためには邪魔になるからといって切り捨てることはなかなかできない。資生堂は系列店のニーズにこたえるために、店頭在庫などの問題をかかえながらも、次から次へと新しい商品ブランドを出し続けた。だが、国内市場の成長が止まったどころか縮小していくなか、系列店の整理削減にも手をつけ、2005年ごろからTSUBAKIやマキアージュといった新しいブランドを開発し、マーケティング投資を集中して大きく育てていくメガブランド戦略を実行するようになった。

中国市場では、国内市場での反省も含めてチャネルとブランドをきちんと分けて展開する戦略をとっている。だから、たとえば、デパート向けの「オプレ」とか専門店向けの「ウララ」といったブランドには、あえて、資生堂というメーカー名は入れていない。

これで、やっと、欧米のグローバル化粧品メーカー並みのブランド戦略がとれるようになったというわけです。 系列店に遠慮をしてなかなかはじめられなかったネット販売にも、2012年4月からやっと踏みきることができました。過去の成功体験が大きい企業ほど、しがらみやレガシーシステムをたちきるのには時間がかかります。

企業ブランドが強すぎると、商品ブランドを構築するときの邪魔になることがあります。

たとえば、レクサス。

日本市場においては、トヨタという企業ブランドの傘の下に甘んじ、トヨタのいくつかのブランドのなかで最上位にある高級ブランドだという位置づけになってしまう。洋服でもそうだが、10万円~20万円で買える日本の著名デザイナーブランドの服があるとして、その金額まで出せる消費者なら、それに5万円足してもイタリアかフランスの著名デザイナーブランドの服を買いたいと考える。中国人だって同じだ。だから、中国市場でも日本市場と同じく、高級自動車のポジショニングをしっかり握っているBMW、メルセデス・ベンツ、アウディを超えることができない。

いっそのこと、トヨタ製であることをひた隠しにして、イギリス人とかドイツ人を社長にし、英国やドイツの工場で製造して日本や中国に輸出したほうが、長期的には売上台数は上がったかもしれない。

ヨーロッパでのレクサスについて書いている記事をいくつか読んでみると、品質についてのホメ言葉がつづいたあとに、きまったように、最後にこう書かれている。「・・・でも、レクサスには、メルセデスベンツとかBMWのようなHeritage(伝統)やPedigree(血統や名門の系譜)がない」。

結局のところ、建国236年で国としても歴史の短いアメリカだからこそ、レクサスの品質やVIPサービスは欧州車の伝統や血統に勝つことができたのか?

もっとも、自動車なんだから欧州車でもそれほど長い歴史があるわけではありません。一番古くて、1886年創立のメルセデス・ベンツ。

 単なる「歴史」ではなく「伝統」とか「血統」というような言葉をつかっているのだから、過去の長さだけが問題というわけではないのでしょう。祖先から受け継がれた生まれながらにもっている伝統とか血筋の話をしているわけです。要は、レクサスのヨーロッパ市場担当社長が、たとえば、徳川家十何代目の子供だとか、数百年の歴史ある茶道や剣道の宗家の子供。で、そのひとが、ヨーロッパの由緒ある家系のセレブと結婚する。夫婦そろって地球環境とかその他もろもろの慈善活動に熱心で、チャリティパーティなどにもよく顔をだす・・・なんて、物語(ストーリー)をつむぎだしてくれれば、レクサスも伝統ある高級独車と肩を並べられるようになる?かもしれません。

レクサスは「欧州市場で受け入れられるためには、もっとセクシーでなくちゃ・・・」とも、よく言われる。この場合のセクシーは、必ずしもデザインそのものをさしているわけではない。が、少なくとも、日本の高級ブランドが得意とする「つつましやかで控えめで謙虚な上品さ」とはあいいれない。世界的に通用する高級ブランドはある意味「傲慢」で「目立ち」「胸をわくわくさせるもの」でなくてはいけないのです。(雄のクジャクの羽です)

その良い例がグッチ(Gucci)。グッチは2011年のグローバルブランド100(インターブランド調査)で39位。18位のルイヴィトンについで、高級ファッション部門では第2位です。1921年に創業したグッチは80年代には、年寄り好みのださいブランドとみなされるまでにイメージが落ちました。だが、1995年、グッチ元CEOで創業者の孫が、離婚した妻がやとった殺し屋に殺されるというセンセーショナルな事件が起こることによって、再生のきっかけをつかみました。

だって、元妻がやとった殺し屋に殺されるなんて、なんてセクシー!

事件によって知名度があがったちょうどそのころ、新進デザイナー、トムフォードがグッチのチーフ・デザイナーとして、セクシーでエレガントな作品を発表。お上品ぶった保守的なイメージからファッショナブルで洗練されたグッチへと変身したのです。

強いブランドになるには、物語(ストーリー)が必要なのです。

2012年4月1日より、フェイスブックのブランドページが強制的というか自動的にタイムライン化されました(やっと、本題・・・かよ)。

日本では、カバー写真がいいとか悪いとかに注目が集まっているようですが、新しいデザインでの重要ポイントは、やっぱり、タイムライン(年表)です。

フェイスブックは、タイムライン(年表)の使い方について、ブランドストーリーが効果的に語れるようなデザインにしたのだから、上手な物語の語り手になれよ・・・と、ちょっと押しつけがましい解説をしています。写真も動画もつかえるんだから、いままでのように文章ばかりのテキストベースはやめろよといっています。

コカコーラのタイムラインでは、1983年に、ドラッグストアの店主の手書きの手紙を掲載。「20年間、この仕事にたずさわってきたが、コカコーラほど誰もが満足し売上をもたらしてくれる飲み物はいままで存在しなかった」という推薦状です。ニューヨークタイムズのタイムラインでは、1865年4月14日にリンカーン大統領が暗殺されたことを告げる新聞紙面を掲載。見出しは「恐ろしい出来事が起こった!」です。

百聞は一見にしかずというコトワザどおり。文章だけで時系列に会社やブランドの歴史を書いていくと、無味乾燥な資料になってしまう。いわゆる「社史」です。昔の広告や最初の商品や最初の店舗の写真・・・・ビジュアルを強調して、企業やブランドの歴史を紹介するわけです。

フェイスブックが写真の利用をすすめるのには理由があります。写真は、テキスト(文章)や動画よりもエンゲージメントを高めるという調査結果があるからです。2010年のフェースブック上での調査で、写真はテキストだけよりも54%、そして、動画よりも22%高いエンゲージメントを獲得しています。なお、動画はテキストよりも27%高いエンゲージメントを獲得しています(Virtrueによる調査)。

とはいえ、日本企業のブランドページでよくあるように、新製品や新店舗開店の写真を時系列に次から次へと見せられても、面白くもなんともないでしょう。そこに、ブランドのアイデンティティを強調するストーリーはあるのでしょうか?

明確なブランド・アイデンティティがあり、それを強調するためのストーリーの流れを考え、それにしたがって、写真やエピソードを時系列で選ぶ。

日本のブランドページでは、創業開始とかブランド発売時ではなくて、フェースブックに登場したときから年表を始めている例が多くみられます。創業やブランド開発についてこれといって語るストーリーが何もないというのなら(って、語ることが何もない企業やブランドが社会に継続して存在しつづけることなど信じられませんが)、思い切ってフィクションにするのも、面白い方法です。

たとえば、男性用デオドラントのオールドスパイスは、1938年に創業しています。が、タイムラインでは、1938年に、シュルツ船長が航海中に、吸血鬼のキバとかクールなサングラス、その他のあやしげな材料を混ぜたら偶然オールドスパイスができあがったことになっています。そして、船長と相棒の片目のヒョウのツーショット写真までも掲載されています。

タイムラインをつかってストーリー性を意識してブランドの歴史をたどろうとすると、気がつくことがあります。

  1. 企業ブランドだと、創業のころには多くの逸話(エピソード)がある。が、創業者が亡くなるとともに、紹介するようなエピソードもなくなってくる。 パナソニックしかり、ソニーしかり。エピソードがなくなってくるとともに、企業ブランドとしての力も弱くなってくる。アップルは企業ブランドであるとともに商品ブランドでもあります。創業者のスティーブ・ジョブズが生きている間は面白いエピソードが次から次へと生み出されました。彼が亡くなったいま、もう、「物語」が生みだされなくなれば、彼の「物語」を鮮明に覚えている世代が消えていくたびに、アップルというブランドの力も弱くなっていくことになるでしょう。
  2. 商品ブランドも開発されるまでのエピソードがあっても、売上規模が大きくなる過程のなかで、その物語性が失われていくことがよくあります。ファンケル化粧品が発売されたときの容器・・・わずか5mlしか入らない密封性の高いバイアル瓶(注射液用のアンプル容器)の容器そのものが、防腐剤が入っていない化粧品が開発された物語を具現化してくれていました。パッケージそのものに「物語」がありました。市場規模が大きくなり、競合商品が続々と誕生し、環境問題、コストの問題、テクノロジーの進化、その他もろもろの事情があって、パッケージが変わっていくとともに、ファンケル化粧品の個性(アイデンティティ)は失われていきました。でも、いま、ファンケルは1982年の創業以来初めての大規模なリブランディングを実行中です。新しい「物語」を生みだすことに成功すれば、リブランディングが成功したことになるでしょう。

ブランドのストーリーを継続して生みだしつづけることはむつかしいことです。でも、長寿ブランドは、それに成功しているブランドということです。

フェイスブックはストーリーにこだわっています。なにせ、広告すらもストーリーと呼ぶ会社ですから。*注1

フェイスブックがストーリーという言葉をよくつかうのは、アメリカのマーケティングにおいてストーリーテリングが重要視される傾向がつづいているからでしょう。 2005年ごろからは、ブランドのアイデンティティの強さが競争優位に立つために重要であることがあらためて認識されるとともに、ブランドのストーリーづくりを専門とするサービス企業が登場するようになっています。

こういったブランドそのもののストーリーを創りだす仕事をしている人のなかには、 フェイスブックがタイムラインで写真を強調するようにアドバイスしているのに対して、「それはストーリーテリングには逆効果だ」と反対する人もいます。「物語が強い力を発揮するのは、同じ物語でも、それを読む人それぞれが異なるイメージを抱くことができるからだ。また、同じ物語をなんど聞いても、そのときどきで異なるイメージを想像することができる。だから、飽きることがない。だが、イメージ写真を掲載してしまったら、そういったダイナミックな作用がなくなり、ストーリーの力を弱めることになる」・・・・という理由で反対しているのです。

そういった意味で、どういった写真を選ぶかも重要です。コカコーラの自筆の推薦状や、ニューヨークタイムズのリンカーン大統領暗殺をしらせる新聞・・・こういった写真は見る人の想像力をかきたてることでしょう。何を想像するかも、一人ひとりで異なることでしょう。でも、新しい製品や新しい店舗の写真を次から次へと並べても、それは、見る人たちの想像力を刺激するでしょうか?

物語を意識してタイムライン(年表)をつくろうとしても、歴史のない会社やブランドには無理ではないかという疑問もあります。

ブランド・アイデンティティが明確であれば、大丈夫です。

例えば、化粧品会社のロクシタン。

1976年創業で、それほど長い歴史もなく、はっきりいってそれほどたいしたエピソードもありません。南仏プロヴァンスで生まれ育った創業者が23歳のときに、愛する故郷に育つローズメリーやラベンダーからエッセンシャルオイルをつくり販売したのが始まりです。自然の材料を昔からの伝統的手法でつくった化粧品。このくらいのコンセプトをもった競合商品なら他にもあります。

でも、ロクシタンは、世界に通用する明確なブランド・アイデンティティを確立しており、2010年には80か国1500店舗を抱えるまで成長しています

ロクシタンの成功は、哲学を学び詩人でもある創業者と化粧品のパッケージングの経験ある会長兼CEOの絶妙な組み合わせにあります。プロヴァンスの風土の詩や哲学が、ノスタルジアを感じさせつい手に取りたくなるようなパッケージに包まれたのです。もちろん、プロヴァンスという地域の風物が、映画や小説をつうじて、世界に共有される物語となったという幸運もあります。だからこそ、ロクシタン(L'occitane)は、90年代後半に、ブランド名を、そのルーツを明確にするためにプロヴァンスを付け加えてL'occitne en Provanceと改名しています。

ロクシタンの商品パッケージ、店舗ディスプレイ、そして広告クリエイティブ、どれをとっても、プロヴァンスの大地のストーリーがあふれています。ブランドストーリーを具現化していて、見ているだけで、プロヴァンスの風が薫ってくるようです。

ロクシタンのタイムラインには、これといったエピソードもなく、プロヴァンスの風景写真や商品写真や店舗の写真がつづきます。でも、それらは、南仏の景色、食べ物、ワイン、ゆったりと流れる時間、風や空気・・・こういったものすべてにあこがれる消費者に様々なイメージを想像させることができるのです(ただし、日本のロクシタンのタイムラインより、アメリカのものの仕上がりのほうがずっと効果的です)。

自社ブランドのストーリー性をチェックするために、フェイスブックのタイムラインにチャレンジしてみたらどうでしょうか。そして、他のブランドのタイムラインと比べてみてください。どちらのほうが心に訴えてくるでしょうか?

 

*注1: 2011年に、Sponsored Story(直訳すればスポンサーつきのストーリーですが、日本では「スポンサー記事」と訳されました)という広告サービスが始まっています。たとえば、ユーザーの友人がスタバの店舗でチェックインすると、その投稿内容をそのまま利用して広告としてユーザーのページに表示されることもあり、プライバシー侵害だという批判がでています。

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参考文献: 1.「新製品は半分でいい」 日経ビジネス2/27/12、2.Prime Time: Gucci, Glamour and Greeds, 2/15,  abccnews.com 3. Michael Leamonth, Meet the coolest facebook brand timelines from coke to ESPN to Ford, 2/29/12, Adage. com. 4.「新製品は半分でいい」日経ビジネス2/27/12 5.Facebook Posts More Engaging Early in the Day, with Images: Vitrue, Chief Marketer 9/23/10, 6. Facebook Timeline for Brands: It's About Storytelling, Eric Savitz, Forbes 2/29/12、7.「南仏」で世界を攻める、日経ビジネス10/18,10, 8. Michael Leamonth, Meet the Coolest Facebook Brand Timelines From Coke to ESPN to Ford, AdvertisingAge, 2/29/12

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2012年3月 9日 (金)

「ビッグデータ」のビッグ(Big)は「ビッグマック」のビッグとは違う。でも、やっぱり、数(量)は力なり・・なのだ。

 

 ビッグデータ(Big Data)が流行語になっている。NHKの「おはよう日本」でも話題として取り上げていたから驚いた(ビジネスマンをターゲットとした夜のBizスポならわかるけど・・・)。ビッグデータをテーマにした記事も多いが、「データの話ならなんでもビッグデータというタイトルをつければ注目される」的な発想で書かれた内容も多い。

 たとえば、コンビニ大手のローソンが三菱商事が運営しているポイントカード「ポンタ」との連携に本腰をいれている・・・といった記事。 

  • コンビニ大手のローソンは2010年から共通ポイントカード「ポンタ・カード」の採用を開始。1年で、ローソンの売上のうちカード会員が占める割合は35%になった。POSデータに誰がその商品を買ったかの顧客を識別するデータが組み合わされることにより、有益な情報が得られるようになってきている。たとえば、新商品を出したときに、同じ顧客が2回以上購買したかどうかのリピート率がわかるようになった。それによって、この商品は短命に終わる確率が高いとか低いとか需要予測をして在庫を調整することが可能になった。

 ポンタの会員数は2011年末で3500万人くらい。ローソンの購買客でポンタ・カードを利用する客は300万人くらいだと推定される。このくらいのデータ規模でこのくらいの分析なら、カタログ通販企業が25年以上前にやっていた。

 これくらいのことを、ビッグデータのくくりで書かれると、ちょっとこけそうになる。

 もっとも、ローソンはYahoo! Japanと提携して、ヤフー会員のネット上での行動履歴データとポンタ会員の購買履歴データとを重ね合わせて、スマホでの販促に利用するという。そういった活動が本格化すれば、ビッグデータという言葉にそってくるかも。

 現在世界中にあるデータの90%は過去2年間に創造されたものだといわれる。つまり、そのほとんどがインターネット関連で生まれたものだということです。ケータイ契約者は世界中で59億人、インターネットにアクセスしている人は20億人。そして、そういったひとたちが、ネットにアップロードするデータ量は毎年増大するばかりです(2009年に1人当たりがアップロードしたデータ量は3年前の15倍になっているそうです)。 

  ネットを通じて入ってくるデータは、顧客データやPOSデータのように、コンピュータが計算しやすいように表形式で整理し管理できるものばかりではありません。文字列や数値データで表形式に管理できる「構造化データ」は、米ウォルマートやeBayのデータウェアハウスのようにテラバイトやペタバイト(テラバイトの1000倍)の大容量になっても、リレーショナルデータベースシステムで管理されているのがフツ―です。

 が、ネット上にあるデータは、ウェブページやサーバーへのアクセスログや、ソーシャルネットワーク上のコメント、写真、動画のような「構造化データのようには管理できない、あるいは、しにくいデータ」です。また、Suicaのような乗車カード、 Edyのような電子マネー。自動車のカーナビやGPS機能付きケータイからもたえまなく新しいデータがはいってきます。こういった「構造化データ」でないデータは、現在、企業がもっているデータの80%に達しているといわれます。

  そういった意味で、次のような例をみると、「ああ、ビッグデータだ!」と思うわけです。

  1. クチコミ分析で有名な(株)ホットリンクがホットスコープという株価動向を予測し投資アドバイスをする子会社を設立した。この会社は、2008年からの過去3年分のクチコミデータ(フェースブックやツイッターでのコメント、ブログ記事、2チャンネルへの投稿など)68億件を蓄積。こういったクチコミデータと株価動向との関係性を分析した結果、数十万件のキーワードの組み合わせにより、当日の日経平均株価の騰落との相関性をある程度導き出した。2009年末より実際に少額を試験運用したところ、年率換算で投資額が1.6倍になる運用益を達成したことから、投資助言をする会社を設立するとともに、実際に資産運用をするファンドも立ち上げた。
  2. 自動車保険会社は、これまでは、性別、年齢、住所、どのくらいの頻度でどのくらいの距離を運転するかとか、過去の事故歴などの情報に基づいて保険料を決めていた。だが、自動車に搭載したGPS機能つき機器を通じて、運転手一人ひとりの運転習慣を知ることで保険料を変えることができるようになった。最初に、一定期間内の一定走行距離数を想定して保険金額を支払ってもらう。その後、自動車につけられた機器から、運転距離数、スピード、突然ブレーキをかけたりコーナリングをしたり危険度の高い運転している、ブレーキをかけないでどのくらいの距離を走行しているかなどといった運転データがリアルタイムで入ってくる。そのデータにもとづいて、安全な運転をすれば、それだけ保険保証距離がのびる。保険料がそれだけ割安になるので、運転手が安全運転をする動機づけにもなる。

 「ビッグバン」みたいにカッコづけで「ビッグデータ」という言葉を最初に使ったのが誰かははっきりしません。ただ、2001年に発表されたIT調査会社ガートナーのレポートで、ビッグデータの3要素が明確にされ、その後、多少言葉がちがっていても、この3要素でビッグデータが定義されるようになっています。① 大容量(Volume) ② さまざまの種類のデータ(Variety) ③ 速さ/リアルタイム性(Velocity)の3つのVです。

 「3つのVはビッグデータの定義」と書きましたが、正確には、「今後しばらくの間、この3つの問題を解決してくれるようなテクノロジーを、企業は必要とするであろう」という、ガートナーからITベンダーへのアドバイスだといったほうがよいかもしれません。

 ビッグデータを支えるテクノロジーを開発したり、実際に発展させてきたのはネット関連企業です。誰よりも早く、上記3つの問題に直面したのですから、当然の成行きだといえます。

 たとえば、Googleは世界で36か所にデータセンターをもっており(2008年現在)、合計90万台のサーバーをつかっている(2011年現在)といわれます。90万台のサーバーというとびっくりですが、一つ一つのマシンは性能もそれほど高くないフツ―の安価なものです。でも、たとえば、プログラムを分割して同時並行的に複数のコンピュータ上で実行させる。複雑な計算をネットワークを介して複数のコンピュータにふりわけ、同時並行的に処理させることで、仮想的に非常に高価なスーパーコンピュータをつかっているかのように、大量のデータを高速に処理することができます。データ量が多くなればサーバーを付け足せばよいという融通性もあります(サーバーの数を2倍に増やせば、データ処理時間は半分になるといわれます)。

 こういった分散コンピューティングのやりかたによって、ペタバイトのデータを高速で、しかも以前よりコスト安に処理することが可能になりました。でも、従来のリレーショナルデータベースは分散処理にはあまり向いていません。だいたいにおいて、増大するばかりの非構造化データはリレーショナルデータベースシステムでは効率よく処理できません。そこで、Googleは「世界中のありとあらゆる情報を集積する」という自分たちの目標にあったデータ処理をしてくれるソフトウェアフレームワークMapReduce(マップリデュース)を開発しました。(MapReduceをつかって1000台のサーバーで1ペタバイトのデータを個々のサーバーにふりわけ68秒で処理できたそうです)。

 Googleは2004年にMapReduceの特許を申請し、ソースコードやファイルシステムを除いて、そのアリゴリズムだけは公表しました。

 その論文をよんだ当時Yahooの社員だった人が、同じアルゴリズムをつかって大規模の構造・非構造化データを処理・保存できるソフトウェアフレームワークを開発し、自分の息子の象のぬいぐるみの名前をとってHadoop(ハドゥープ)と命名しました。Hadoopは非営利団体アパッチソフトウェア財団からオープンソフトウェアとして無料で提供されています(Apache Hadoopのトレードマークは黄色い象です)。

 YahooやFacebookも2006年からHadoopを採用。オープンソースであるために、その後、多くのITベンダーがHadoop対応のソフトやツールを、続々と開発し販売するようになっています。ビッグデータは業績をあげるビッグチャンス! IT産業は久しぶりに活気づいています。

 NHKまで朝の番組で特集をくむほど騒がれる結果となっています。

 でも、マスコミでとりあげられることによって、これまでデータやデータ分析の価値を無視しつづけてきた日本の企業経営者が、関心をもってくれるようになればシメタものです。米大学MITが大手企業179社を調査したところ、データに基づく意思決定している企業は生産性が5~6%高くなることが判明しているのですし・・・。 

 ちなみに・・・Googleが2004年に申請したMapReduce並行プログラミングモデルの特許は2010年にみとめられました。「もしかしたら、Googleは自分たちのアルゴリズムを基本としているHadoopを特許侵害で訴えるのではないか? 」・・ アパッチソフトウェア財団だけでなくHadoopを使って新しいソフトやツールを開発した企業はちょっと心配したようです。が、Googleにはそのつもりはないとわかり業界は一安心したということです

 で(やっと)・・・、本題の「数は力なり」の話にうつります。

 データ量がとてつもなく大きいということは、これまでとは180度異なる発想の転換が起こることもあります。たとえば、私が「目からウロコ!」と思ったのがGoogleの翻訳サービスです。

 グーグルの翻訳サービスは、コンピュータに翻訳をさせようという過去40年間の試みを、全く無視したというか、まったく異なる発想から生まれたものです。

 これまでのやり方は、人間に外国語を教えるのと同じようにコンピュータに教えようとするものでした。まず言語構造を理解させる。つまり、文章の中のどこに名詞がありどこに動詞があるのか? 現在形なのか過去形なのか? はたまた過去完了形なのか? こういった文法というルールを定義づけ、それをコンピュータにプログラムするという言語学と人工知能の問題だったわけです。

 つまり、言葉の意味と言葉をむすびつける文法のルールを人間である翻訳者が理解したように、コンピュータにも教えこもうとしたわけです。

 でも、グーグルは、この問題を、膨大なデータ量とデータ処理能力で解決できる数学の問題だと考えました。どうしたかというと・・・。

  • 欧州委員会の公文書は23か国語に訳されているのだが、当然のことながら、非常に正確で優れた翻訳となっている。それに加えて6か国語に訳されている国連会議の議事録も使用した。コンピュータに各言語のルールをおぼえさせるのではなく、こういった公文書をスキャン入力し、どれとどれが同じである確率が高いか統計的推定をさせたのです。一つの言語のある言葉や語句は、他の言語のどの言葉や語句と同じである可能性が高いと判断できるようにさせたのです。コンピュータに入力した文章を理解させる努力をあきらめ、原文とそれを翻訳した文章をできるだけたくさん入力して、統計的先例にもとづいて、言葉や語句が正しい確率を計算するシステムにしたのです。

 90年代初めにIBMも同じことを試みました。英語と仏語で記録されているカナダの国会が持っている公文書をつかったのです。でも、このときは、数百万くらいの公文書しかなかったために、良い結果が得られずプロジェクトは中止となった。Googleは数十億の公文書をスキャンし、最初につくられたシステムでは2兆個の言葉をデータ処理したそうです。

 いまでは、50か国語を即時に訳す。もちろん、その完成度には問題も多々あります。が、入力する文書が多くなればなるほど、精度はよくなるはずだとGoogleは考えています。

 「いや、これ以上良くはならないだろう」と、Googleの今の方法の限界を指摘する専門家も多くいます。が、Googleのリサーチディレクター、ピーター・ノービッグの次の言葉は、ビッグデータに対するひとつの真理を語っていると思います。

 「充分な量のデータを集めれば、いくつかの比較的シンプルな統計アルゴリズムで、自動翻訳のような機械学習の分野での難問も解決することができる」。

 こう考えるのは「世界中の情報を体系化すること」をミッションとしているグーグルだけではありません。アマゾンの元チーフサイエンティストも、「(伝統的企業が考えもしなかったような膨大な購買者データを、新しいネット関連企業はもっています)・・・こういったデータがあれば、アルゴリズムを改善するよりももっと良いシステムを構築することができます」と言っています。

 グーグルのリサーチディレクターは、また、「昔は、コンピュータのメモリーがいっぱいになったときが限界だったが、今は、データセンターがいっぱいになったときが限界だ」とも言っています。つまり、生データを保存する能力が発展したことが重要だといっているのです。アマゾンのベゾスCEOは「顧客データを何年間保存しますか?」と聞かれて「永遠に」と答えています。ビッグデータとよばれるデータ革命はデータ保存能力の拡大と低価格化がもたらしたものなのです。

 データは垂直軸(時間)においても水平軸(空間)においても集積されることによって威力を増すのです

  2012年1月にスイスの保養地ダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会「ダボス会議」でも、ビッグデータはテーマのひとつとしてとりあげられました。報告書「ビッグデータ、ビッグインパクト」には、データは、株、債券や現金のように経済資産のひとつとなったと書かれています。

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 参考文献: 1.「つぶやき分析で相場予測」日経産業新聞1/5/12、2.Ameet Sachdev, Insureres try basing rates on individual cars' data, Los Angeles Times 10/10/11, 3. Rich Miller, Report:Google Uses About 900,000 Servers, Data Center Knowledge, 8/1/11, 4. Derrick Harris, Why Hadoop Users Shouldn't Fear Google's New MapReduce Patent, Tech News and Analysis 1/19/10, 5. Tim Adams, Can Google bread the computer language barrier? 12/19, 10, 6. Aaron Claassens, Google's research chief: The power of big data, Transcurve, 5/10/11 7. Clicking for gold, How internet companies profit from data on the web, The Economist 2/25/10, 8. George Lawton, Distributed data-analysis approach gains popularity, Computing Now February 2010 9. Why big data matters to companies in retail and media, A straightforward guide for business folk February 2012, Keplar LLP, 10.Richard Macmanus, The Coming Data Explosion, The New York Times, 5/31/10, 11.Rachael King, Getting a handle on big data with Hadoop, Bloomberg businessweek, 9/7/11, 12. ビッグデータ、スマホ、ソーシャルで進化する「デジタルクーポン」 日経デジタルマーケティング2011.8 13. 栗原潔、「クラウド系企業の「ビッグデータ」戦略」、ZDNNet Japan, 14. Doug Henschen, Hadoop Spurs Big Data Revolution, InformationWeek, 11/9/1 16.イアン・エアーズ「その数学が戦略を決める」 文春文庫 17. Steve Lohr, When There's No such Things as Too Much Information, The New York Times 8/23/11

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2012年1月29日 (日)

O2OではなくてO2Sの話です。最後に勝つのはネット専業ではなくて店舗小売業か?!

 

 O2Oという用語を見て、H2OとかC2Oとかいった化学式を思い出したとしたら、それは、あなたが常識ある人間だということです。これをオンラインToオフラインの略語だなんてフツ―思わないでしょう(って、そう思うのは私だけ?)

 2010年の夏に、米ベンチャー企業TrialPayのCEOが某雑誌に、「オンライン上の見込み客を店舗に誘導して購買にむすびつけるプロセスを、B2CとかB2Bにならって、私は、online-to-offline(O2O)コマースと呼びたい」と書いたのが、この新語の始まりだと言われます。

 (このTrialPayという会社のビジネスモデルはちょっと変わっていて、もしかしたらO2Sの話より面白いかもしれないので紹介します。たとえば、ネットで新商品を買うとして、通常はクレジットカードで支払う。だが、無料でゲットすることもできる。ただし、その場合は、TrialPayが提案するいくつかの商品やサービスの中から選んで購買しなくてはいけない。たとえば、ネットの花屋で50ドル分の花を買えば、新商品は無料になる。つまり、使ったこともない商品を買うべきかどうか迷っていても、バラの花を50ドル買えば無料にすると提案されれば、ためしに買ってみても損はないと思えるかもしれない。試用(Trial)を促すことになる支払システムだから、TrialPay。そして、この例では新商品販売会社は獲得した注文数に応じて広告料金をTrialPayに支払う・・・・フリー(無料)にも、アイデアしだいで、いろいろあるもんだ!)

 オンラインからオフラインに客を誘導するやり方は、2008年に創業したグル―ポンといった割引クーポン共同購入サービスが人気を呼び、注目されるようになりました。日本でも、2010年にリクルートのポンパレが登場。クーポン共同購入サービスは、広告と実際とがちがっているという問題が発生したこともあって、期待されたほどの成長はしていません。が、O2Oコマース普及のきっかけとなりました。

 その後、ケータイにGPS機能がついたり、スマホの利用が進むことによって、たんなる割引クーポンで誘導するだけでなく、それに+αをつけることによって、割引(価格)競争におちいるのを避ける試みも進んでいます。たとえば、ゲーム感覚にアピールするクーポン。アディダスジャパンのニュースレター登録会員に、ある日突然、時限クーポンつきメールがおくられてくる。時限クーポンの配信と同時にカウントダウンが始まり、店舗に到着するまでの速さによって、もらえる特典がちがってくる。 「最速で直営店にたどりつき、アディダス史上最大の会員特典をゲットせよ!」・・てなわけです。

 GPS機能付きのケータイなら、いまいる場所に近い店舗のクーポンを配信することができる。

 でも、ゲーム性を強調しようが、位置情報を利用しようが、割引は割引。結局は、どれだけ安いかで競うことになる。

 同じ、O2Oでも、サービスというか便利さを強調するものもあります。たとえば、アメリカ最大のドラッグストアチェーンのウォルグリーンは、スマホにRefill by Scan(スキャンして補充)というアプリを提供しています。処方箋についているバーコードの写真をとって、それをウォルグリーンに送信すれば、指示した最寄りの店舗で指定時刻にクスリがうけとれるシステムです。便利さがうけて、2010年3月に始めたサービスですが、2011年秋には200万人が利用しているそうです。

 日本でも、「Google ローカルショッピング」というアプリを利用すれば、自分が欲しい商品がいま自分がいる場所近くのどの店舗にいけば在庫があるかどうかがわかります。現在、東急ハンズ、マツモトキヨシ、無印良品やローソンの在庫情報が検索できるようになっています。

 ・・・・長々と書いてきましたが、この記事で書きたいのは、こういったO2O用のサービスとかアプリの話ではありません。(・・・ずっこけますよねえ? ゴメンナサイ)

 ネット専業小売業と店舗とネット(ウェブやケータイサイト)2つの販売チャネルをもっている小売業と、どっちが競争優位にたてるのか?・・・といった話にうつります。この話は、以前に、サイトから店舗へ(Site to Store)という記事で書いたことがありますが、そのつづきです。

 日本でも、良品計画(無印良品)が2011年5月から、ネットで注文をして指定した店舗で商品をうけとれるサービスを始めました。マルイは2009年から、「ネットで選んでマルイで試着」と、買う前に試着できることを強調するサービスをつづけています。ネットで注文した洋服が数日以内に指定店舗に届き、そこで商品をうけとる。実際に着てみないと似合うかどうか不安な洋服の場合などは試着してから購入できるわけです。

 アメリカでは、こういったO2S(online-to-store。私がつくった造語です。語呂も悪いので流行らないことまちがいなし!)サービスは2005年ごろから採用が進みました。2007年にはウォルマートが2年間のテストをへたうえで、全国展開を開始。テストでは、このサービスを利用する顧客の60%が来店したついでに平均$60の付加購買をすることがわかっています。いったん店舗に入れば、つい、ついで買いをしたり衝動買いをしたりする。それが$60の付加購買です。しかも、店舗までとりにきてくれるのだから、個別の配送費もかからない。

 こういったことから、当時でも、店舗もネットも含めたマルチチャネル販売をしているところは、ネット専業に比べて競争優位にたつのではないかと予測するアナリストもいました。

 その予測どおりというか・・・・。アマゾンは、2011年の7~9月四半期の売上高は前年対比44%と好調で「不景気にかかわらずやっぱり強い」と一般的には騒がれた。が、その実、純利益は、前年から73%減と大幅に下がっていた。アマゾンの純利益は、これで、3四半期連続して減益となっています。

 原因のひとつが、物流への投資。アマゾンは、翌日配送を可能にし、無料配送での経費負担を軽減するために(2010年の配送費は売上の4%)、物流センターを増大。2010年に52か所だったセンターを11年には69か所に増やす予定。こういった物流設備にかかる費用は前年対比で65%増です。

 それに比べて、ウォルマートはすでにあるプラットフォーム、つまり3800店舗や150の物流センターを利用できる。そのうえ、O2Sで店舗での商品うけとりを誘導すれば付加購買も期待できる。

 アマゾンの過去5年間の平均営業利益率はわずか4%。アメリカのディスカウント・ストアや百貨店の平均は6%だから、ネット専業としては低すぎる。(もっとも、日本の小売業の平均2%に比べればずっとまし)。

 考えてみれば、デジタル化をどれだけ進めても、どうしてもできないのは、物理的商品を梱包して配送するプロセス。スタートレックのようにテレポートできない限り、最後までのこる部分。つまり、どんなに進んだITを駆使するネット販売であろうと、デジタルでないリアルな商品を個別にしかも迅速に配送する経費は高く、利益率を大きく下げる。

 日本の通信販売の数字をみると、通販会社の対売上高物流コスト比率は2010年度で11.7%(日本ロジスティクスシステム協会調べ)。小売業のなかではむろんのこと、全業種のなかでも最も物流コストが高いことがわかる。

 つまり、ネット小売業でデジタル化できない商品を販売する場合には、物流がネックになる。だが、ある程度の数の店舗をかかえるマルチ小売業であれば、店舗を利用して物流経費を軽減あるいは、その経費をカバーするだけの付加販売をあげることができる。

 アマゾンは、世界一の総合小売業を目指して、1) 最大級の品ぞろえ、2) 低価格、3) 便利なショッピング体験・・・の3つを「うり」にしてきた。ウォルマートもおなじように品揃えや低価格を「うり」にしてきたが、ネット小売業、とくにアマゾンのような小売業に比べると、便利なショッピング体験という点では、負けっぱなしの感がある。

 が、ここにきて、2つの点から、ウォルマートの巻き返しが期待される。

 第1に、ウォルマートが本腰をあげてネットに力をいれるようになったこと。第2に、ネットスーパーへの進出です。

 2011年、ウォルマートはKosmixというeコマースやソーシャルメディア・テクノロジーに優れたシリコンバレーの会社を買収。その会社の創業者はウォルマート・グローバルeコマース担当上級副社長となり、すぐに、次の3つの仕事に着手している。

  1. レコメンデーションとかパーソナライゼーショといったアマゾン並みのインタフェースをWalmart.comサイトに採用する
  2. モバイル端末のマーケティング利用を促進するために、スマホ用のアプリ開発
  3. ソーシャルメディアを利用して来店を促す(たとえば、店舗商圏内のソーシャルメディア上での会話を分析して各商圏にそくした関連性高い品揃えをする)

 ウォルマートは、また、ネットと店舗との連動をうながすために、2011年2月より、各店舗の商圏内におけるネット売上をその店舗の売上として付加するようにしました。日本でも、店舗小売業がネットショッピングを採用しようとするとき問題になるのが、「店舗の人間」の抵抗です。O2Sのシステムをつくっても、店舗側の人間の協力がなかったら、効果は発揮できない。ウォルマートは、ネットの売上を店舗売上に加算するという思い切った決断をすることで、店舗側の人間が顧客にサイトの利用をすすめたり、iPad、iPhone、Facebookのアプリを積極的に紹介するように動機づけできる。

 国内市場の成長が頭うちのウォルマートは、まだ未開発の大都市市場に進出したい。そのためには、売上高の2%しかないネット販売を伸ばす必要がある。また、ネットスーパー(宅配サービス)も展開しなくてはいけない。ということで、カリフォルニア州サンホセで2011年にテストを始めています。

 そして、このネットスーパーの分野では、ウォルマートはアマゾンに比べて絶対的に競争優位にあるはずです。

 アマゾンは、一部の生鮮食品や日用雑貨品を宅配するサービス(日本でいうところのネットスーパー)を2007年からシアトル地域でテストしている(英国とドイツでは2010年に全国展開)。配送方法や配送費などいろいろ変えてテストをしているが、アメリカでも全国展開する用意があるといったあとで、否定したり、方針が定まっていない。2011年6月にはベソスCEOみずから、「ネットスーパーは非常に経費がかかるサービスだ」と認めています。

 この点、ネットスーパー世界一の小売店テスコが英国でしているように、店舗を物流センターとして利用できるウォルマートは、アマゾンより絶対的に有利な立場にあります。

 ということで、やっぱり、物理的商品を取り扱うならオンラインもオフラインのチャネルも利用できるマルチ小売業ということになる。が、日本の店舗小売業は、あまりにもオンラインチャネルの採用スピードが遅すぎる。逆説的にいえば、店舗をお荷物とみなし資産として前向きに利用しようという考え方がないから、オンラインチャネルの利用が遅れているのだ。なぜなら、店舗を資産として積極的に利用しようと考えれば、オンラインでの積極的活動が選択肢のひとつとして出てくるはずだから。

 デパートがやっとネット販売に力をいれ始めたといっても、店舗商品との連動ができないのでは、何の意味もない(場所を貸しているだけで、自社でリスクをとって仕入れている商品が少ないので、連動ができない)。

 また、マルチチャネル化が進んでいるファンケルやオルビスといった化粧品会社の場合、無印良品などに比べて品ぞろえが少ないので、店舗に誘導しても、衝動買いとかついで買いとかがあまり期待できない・・・という問題がある。 

 (それで思い出したが、ネットスーパーでの注文だと、買う食品が必要なものだけに限られてしまう傾向が高いらしい。店舗で買えば、ダイエットのためには食べてはいけないデザートとか揚げ物とか、つい衝動買いしてしまう。だが、ネットで注文するときにはその欲望を抑えらえるというわけだ。だから、ネットスーパーでも、自宅配送以外に、選択肢として、商品を袋にいれておくので、自宅への帰り道に立ち寄ってくれ・・・というのもある)。

 やっぱり、お店は大事なのだ。

 とはいえ、ネット専業小売業が店舗販売に進出するというのも、単純すぎる発想だ。店舗の運営は固定費が高い。たしかに、Appleはアップルストアで成功しているが、ある程度高額でしかも継続してつかってもらえるIT機器と、安い衣料品や日用雑貨品とは利益額も利益率もちがう。

 結局、レガシーシステムとして店舗を持っている企業が、一番競争優位にたっているということらしい。

 コンピュータ用語でレガシーシステムといえば、一時は、時代遅れとなった古いシステムであり、新しいシステムに更新すべきという議論がつよかった。が、「近年は、レガシーシステムは重要な情報資産であり・・・新規システムと連携・統合させ、いかにこれを有効活用すべきかといった形で論じられることが多くなった(@IT用語辞典)」そうだ。店舗とネットの関係みたい。

 でも、レガシーシステムをかかえていながらも、新しいシステムも採用できるという、ある意味矛盾したメンタリティーをもった企業というか経営陣って、なかなか存在しないんだよね。

 ・・・ということで、レガシーという言葉で、なんとか煮え切らない記事にうまくオチがついた。

 ホッ~(・・・と、一息つく)。

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参考文献: 1. Alex, Rampell, Dollar Opportunity, Techcrunch.com, 8/7/10, 2. Chris Gullo, Walgreens lets customers order refills via SMS, Mobihealthnews. com10/12/11、3.店舗とECの相互集客「O2O消費」を後押し、日経デジタルマーケティング2011年11月、4. John Letzing, Amazon's Spending Habit: Profit Plunges as Cost Rise, The  WSJ. com, 11/26/11、5. Wade Roush, Inside WalmartLabs: How the Former Kosmix Team Plans to Help the World's Largests Retailer Get Social and Mobile, Xconomy .com 8/1/11,  6. Sleeping Giant at Walmart Wakes--Its Vast Workforce, AdvertisingAge, 11/27/11,  7. Gareth Halfacree, Amazon looks to grocery shopping with Amazon Fresh, Expert Reviews 6/11

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