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2016年2月14日 (日)

世界の消費者の最新動向とコンテンツマーケティング

  1月に発表された、ユーロモニターのレポート「世界の消費者、2016年の動向」を読んでみた。「ユーロモニター」はロンドンを拠点とするリサーチ会社で、世界210か国781都市の消費者や産業データを1997年から蓄積・保存し分析している。

  このレポートを読むと、グローバル化が進むなか、どの国の消費者も考えることや行動が似てきている・・といった感想をもつ。もう少し厳密にいえば、どの国でも、ある程度の規模の都市の住民は、消費者として同じような傾向を示すようになっているということだ。

  レポートでは、最新動向として、① 矛盾する購買行動、② 時間を買う、③ 高齢化(エイジングに挑戦する消費者たち)、④ 社会問題への関心 ⑤不明瞭になる性差、⑥ 安全で自然な食べもの(また、食品廃棄をなくすようなグリーンな行動)、⑦ 精神的健全さ(心の問題)、⑧ デジタル機器依存症 ⑨ 安全を守るための消費、⑩ 旺盛な消費をみせる独身者(一人用の旅行パッケージの人気。姪や甥に浪費する叔父、叔母)・・・など10点をあげている。

  似ているとはいっても、地域によって程度の差が出てくるものもある。たとえば、⑨番の「安全を守るための消費」では、ガードマンを雇うのはブラジルとかメキシコその他の中南米諸国が圧倒的に多い。空気清浄器を買うのは中近東やアフリカで世界平均の2倍以上だ。日本は、こういった面での消費は少ないほうだろう。

  アパレルメーカーや小売業者の関心を呼ぶのが、⑤番のジェンダーの境がぼやけている点だ。女優のメリル・ストリープは映画祭の授賞式にフェミニンタッチの黒のタキシード姿で登場し、「アンドロジニアス・ルック」だと話題になった。アンドロジニアスは両性具有と訳される。ユニセックスのことじゃないかと思うかもしれないが微妙に違う。ユニセックスというと余り性を感じさせない。が、いまの性差がない洋服というのは、セックスアピールを強く感じる。だから、ユニセックスと思ってデザインすると、メーカーは大きな間違いを犯すことになるだろう。

  アパレル産業だけでなくおもちゃにも男女の差がなくなってきている。これも、男女共用のものを作ればいいかというとそうでもない。女の子用のサイエンスおもちゃとか、兵器好きの女子のためのピンク色の銃器とか・・・。ミクロセグメンテーションが進み、一つひとつのセグメント規模はますます小さくなる。

  レポート②番の「時間を買う消費者」について、ちょっと詳しく考えてみます。 

  世界の都市に住む消費者に共通することは、とにかく「時間がない」こと。都市部で働く人たちは給与も高いが労働時間も長い。共稼ぎ率も高いから家事を専門にする家族はいない。日本で「おせち料理」をつくるのではなく買うことが主流になってきているように、英国でも、全世帯の三分の一が時間の節約と料理することのストレスから解放されるためにクリスマス料理を小売店で買うとされる。インドの18歳から35歳の富裕層の70%は、「贅沢」とは購買力ではなく自由な時間をどれだけもっているかだと考えているそうだ。(ちなみに、同調査で、同じように考えている人は中国では59%だった)。

  留守の間に掃除をしてくれるロボット掃除機は世界中で人気だし、最近では、ロボットシェフなるものも登場している。イタリアやポルトガルでiPadを超える売上だというBimbyは、ロボットというよりは、マルチタスク調理器といった感じだが、2018年に英国のベンチャー企業が発売予定だというロボッティック・キッチンは、ロボットアーム付きのシステムキッチン。著名シェフが実際に調理しているところを3D化し、ロボットアームがシェフの動きをそのまま再現。現在は、「蟹のビスク」しかつくれないが、2018年には2000種類のメニューから選択できるという。

  今の消費者は、自分では料理する時間はない。だが、できあいの惣菜がはたして健康に良い材料を使っているかといった安全性への不安も抱えている。その意味で、ロボットシェフは絶対売れると、この会社経営者は考えている。

  時間への意識は、「オンデマンド経済」を促進している。オンデマンド経済は、消費者の要求があり次第、即、商品やサービスを提供する経済活動を指す。ネットスーパーを含めたオンラインショッピングの世界的人気は、これにあてはまる。アマゾンの配送日数というか配送時間も、ますます短縮されている。最近では、都市部において一時間配送を始めた。この場合は有料なので、消費者はまさに時間が買えることを実感することとなる。

  アマゾンが朝注文したら夕方には届く即日配送を始めたときは、消費者は最初は驚いて感動した。が、慣れてしまった今は、それが当然のように思う。自分が欲求している、まさにそのときに、欲しいものを手にいれられないとストレスを感じるようにまでなっている。

  たとえば、パソコンの反応が遅いとイライラする。

  アドビ(米国ソフトウェア会社)が2015年末に実施した日本を含めた6か国の調査では、インターネットで情報を得ようとするときの消費者の待ち時間への耐性が低くなっていることが明らかになった。たとえば、デジタル機器を使っていて、我慢できないことがあって、見るのをやめる人は、米国で92%、ドイツ92%、フランス92%、オーストラリア90%、英国89%、日本80%となっている。我慢できない理由をみると、① 表示に時間がかかっているので見るのをやめたのは41%、② 表示された内容が長すぎるのでやめたのが41%、となっている。

  サイトにアクセスしてから内容が表示されるまでに8秒以上かかるとユーザーは他のサイトに行ってしまうという「8秒ルール」は、もはや通用しない。実際にはその半分の4秒でなくては・・・という声もある。

  常に時間を気にし、イラつきやすい消費者の姿が実感できる数字だ。

  時間に追われる消費者は、また、心の問題(自分の精神的健全さが損なわれていること)を懸念する消費者でもある(ユーロモニターのレポートで⑦番目にあたる)。心の平安を保つために、シンプルな暮らしにあこがれる人たちもいる。

  ミニマリストになることが世界の都市部で流行している。モノを所有する欲を捨て、シンプルな暮らしをし、精神的により充実した生活をする。Less is Moreで、「少ないことがより多いことにつながる」というわけだ。

  ミニマリストにあこがれる理由にはいくつかあるが、時間に対する観念もその一つだろう。あまりに多くのモノを持つことは掃除、整理整頓に時間がかかる。また、ミニマリストになろうと決断すれば、モノを買わなくわるわけで、ショッピングにかかる時間も減る。日本で流行している断捨離は、人生を追えるまえに身辺整理をしなくてはと切実に考える高齢者が実行した感もあるが、近藤麻理恵著の「人生がときめく片づけの魔法」が世界的ベストセラーになったのは、年齢に関係なく、シンプルな暮らしを促進するためであろう。

  モノだけでなく人生のごたごたを片づけることはミニマリストになる第一歩だから。

  心の問題(精神の健全さ)を追求する傾向は、それだけ世界の経済的レベルが向上したからだともいえる。衣食住の心配をしなくてもよくなり、社会的にもある程度の成功を収めると、人間の次なる欲求は精神的なものになる。その証拠に、ミニマリストとして本を書いたりメディアに登場したりする人たちの経歴をみると、一度は欲しいものは何でも買えるくらいの金持ちになって、そして、物質的欲求が満たされても幸福感はもたらされないことに気がつき、ミニマリストに転向した・・・というような共通点がある。

  つまり、同じモノを持たないシンプルな暮らしをしていても、こういった人達は、買おうと思えば何でも買え、食べようと思えばキャビアやステーキでも食べられるといった点で、低所得者とは違う。皮肉な言い方をすれば、お金持ちだからこそ、クールでかっこいいミニマリストになれるのだ。

  たとえば、アップルの創業者の故スティーブ・ジョブスはミニマリストだといわれる。その理由の一つに、彼がジーンズと黒のタートルネックばかりを着ていたことが紹介される。逸話では、三宅一生にタートルネックを100着注文したといわれるが、これって、忙しくて何を着るのか考えるのがめんどくさいというだけのことではなかったのか?(ジョブズは、自分自身をブランド化する手段のひとつとして、いつも同じ服を着ていたともいわれる。もちろん、彼は禅への造詣も深い。会社経営も製品デザインもSimplicityをモットーとしていた。だが、ブランドとは何かもよく理解していた)。

  ミニマリストもシンプルライフも、ある程度の経済レベル以上になって、初めて、登場してくるタイプのライフスタイルなのだ。スティーブ・ジョブズが、どこにでもある黒のタートルネックではなく、三宅一生のものを選択したことを覚えていないと、メーカーや小売業者は都市部の一定の所得者たちのシンプルライフには対応できない。

  テロ、不安定な経済、地球温暖化。日本には自然災害があるように、多くの国には戦争がある。先行き不安の世界において、モノをもっていることは重荷となるだけだ。3.11をニュースを通じて間接経験したひとたちでさえ、家や家具、自動車、その他の物が一瞬に破壊されるのを目のあたりにみた。また、戦火に見舞われた地域の住民は、命からがら身一つで逃げる。

  シェアリング経済が登場した背景がここにある。

  だからといって、先行き不安のなかで誰もが物欲をなくすとは限らない。

  同じ経験をしても、異なる反応はある。たとえば、9.11のテロをニュースを通じて間接体験した米国人のなかには、人生の無常さを実感した結果として、好きなように生きようと決めた人たちもいる。ダイエットしてウェストが細くなったとして、それが何なの? どーせ死から逃れられないのなら、好きなものを食べたほうがいいじゃないか!と達観(?)した人たちもいた。だから、脂肪分の多いアイスクリームが売れ、ステーキや大きなハンバーガーが人気を呼んだ。

  同じことを経験しても反応は人それぞれだ。

  ここで、ユーロモニター調査の①番目の「矛盾する購買行動」の出番となる。

  今の消費者の購買行動は矛盾しているように見える。将来への不安が漂うなか、所得レベルに関係なく、誰もが節約しなければいけないという思っている。でも、自分が気に入ったものは買いたい。こういった心の葛藤を解消して、かつ、自分の行動を正当化するために、「価格が安かったから買うことにしたのだ。お買い得だったのだ」と自分自身に言いきかせる。でも、そういった言い訳を本音ととり、今の消費者は安くなければ買わないと考えるのは早トチリ。どんなに低価格でも、欲しくないものは買わないのだから。

  都市部の消費者は、教育レベルも高く、またネットのおかげで情報だけは一杯もっている。しかも、不確実な社会において常に不安を感じている。不安があるということは、選択できなくて迷うことだ。だから、消費においても、自分の購買行動を正当化して自分を納得させる理由を必要とする。ちょっとしたきっかけで、そういった理由が見つかれば、購買を決める。そのきっかけ(動機づけ)が、低価格やポイント付与だけでは、企業として知恵がない。自分は社会に善いことをしている(ユーロモニターのレポートでいえば④番や⑥番)。自分や家族の安全を守るには必要(レポート⑨番⑦番⑥番)。こういったふうに思ってもらえるような価値を提供するのも重要なきっかけ(動機づけ)となる。

 では、こういった価値提供(動機づけ)が効果ある消費者を見つけるにはどうするのか? その答えがコンテンツマーケティングであり、コンテンツマーケティングが注目されている理由でもあります。

 とらえどころのない消費者を見込み客として捕まえるのがコンテンツマーケティングだ。ターゲットとして余りに規模が小さくて、マスメディアでは効率が悪い。そういったミクロなセグメントの場合は、企業が客を見つけるのではなく、客のほうから企業を見つけてくれるような仕組みが必要だ。コンテンツマーケティングが力を発揮する。

  レポート⑩番に、「旺盛な消費を見せる独身者」とありました。これに対応して、ヨーロッパのクルーズ会社は、一人用の船室を増やしている。ホテルも一人用のシングルだけどスペースも広く設備も贅沢な客室をふやしている。しかし、独身者といっても若いとは限らない。配偶者に先立たれた夫や妻もいる。また、独身者でも30代半ばになると、ある程度の年齢になった甥とか姪がいる。こういった甥や姪を連れて旅行に出ることもある。それぞれが、ミクロなセグメントをつくる。各セグメントの客のプロフィールやライフスタイルを想像して、彼らがするであろう旅に役立つ情報やストーリーを、ブログとかサイトに掲載する。

  一人旅を考えている某客は、次のようなキーワードで検索する。「一人旅、大阪、静かなホテル、広いシングルルーム、24時間ルームサービス」。この検索で、某ホテルを訪れた30代の女性の経験談が1ページ目の上位に紹介される(このホテルは泊まり客の感想文を募り、読み物として面白い感想文はサイトに掲載し、書いてくれた客には宿泊券を提供している)。自分と同じような好みをもつらしい女性の経験談を読んで、このホテルは自分にぴったりだと思った某客はサイトの予約ページにアクセスする。

  (株)エコンテがコンテンツマーケティングを実施している企業のマーケティング担当者600人を対象に調査したところ、76.3%が効果を実感していると答えている。フェイスブック、ツイッター、ライン、ユーチューブといったメディア、ブログ、自社サイトにおいて情報を提供することで、ブランド認知、見込み客獲得につながっているということだ。

   経済的レベルが一定以上となり、衣食住に関する基本的欲求(生理的かつ安全に関する欲求)が満たされると、人間は精神的満足度を求めるようになる。この段階になると、何に価値を感じるかは人によって大きく違ってくる。社会的に認められたい欲求といっても、それが大きな家を建てることやエルメスのバッグを所有することを意味する人もいるだろうし、そうではなくて、高齢者を助けるボランティア活動を意味する人もいる。何に価値を感じるかは人によって違う。だから、市場は小さなセグメントに分割される。

  花王の吉田専務は「スモールマス」という造語を使う。「マス市場がなくなり、スモールマスと呼ぶ一定の規模を持つ市場が数多く生まれている」と語っている。すでに花王ではスモールマスと位置づける商品群の売り上げ合計がマス商品を上回ったそうだ。スモールマスの時代は、特売は減り、シェアより顧客の声を丹念に追うマーケティングになると説明している。

 あ~、やっと終わり。なんて長いコンテンツ。アドビの調査でいったら、「表示された内容が長すぎるので見るのをやめた41%」に絶対的にあてはまりますね。

 

 

参考文献: 1.Daphne Kasriel-Alexander, Top 10 Glocal consumer Trends for 2016, Euromonitor International, 2. The State of content  Rules of Engagement 2016,Adobe com. 3.「経営の視点、学歴と肩書きでは生き残れぬ」日本経済新聞 2/1/16 4. 「変革の好機 到来」日経MJ 1/4/16、5.「EC関連リサーチ、76.3%がCマーケの効果を実感」日本ネット経済新聞5/28/15

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