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2007年11月10日 (土)

宗教は究極のブランド (ブランドと感情と記憶NO.8)

 ブランド関連の本を読んでいると、いつも眠くなる。

 ブランド・シンボルとかブランド・プロミスくらいはまだ理解できるが、ブランド・エッセンスとかブランド・パーソナリティとか書いてあると、頭にカスミがかかってくる.「ブランドシンボルフレームの体系化」なんて言葉が登場すると、完璧に脳が麻痺してくる。

 ブランド・マーケティングを理論化する試みにおいて、なぜ、こうも抽象的なくせにやけに複雑になるのか? なぜ、ブランド構築する作業が無味乾燥でつまらないものに思えてくるのか? 

 だいたいにおいて、ブランドとかヒット商品開発に関してのハウツー本が役に立つとは思えない。新商品をつくるための10か条とかあって、ターゲット顧客を変えてみるとか形を変えてみる・・・とか列挙される。そして、それぞれにおいて成功した商品名が具体例として挙げられる。

 でも、・・・それぞれの条項に失敗例も挙げることができる。

 つまり、マーケティングの歴史をひもとけば、同じようなことをして失敗した例もあれば、それと反対のことをして成功した例もあるのだ。

 機能を増やして成功したケータイもあれば、機能数を減らして成功したケータイもある。色をとって無色にして自然や健康を強調して成功した清涼飲料水もあれば、「ただの水みたいじゃん」とかいわれて失敗した清涼飲料水もある。

 だから、マーケティングの本で、成功するための10か条とか、ヒット商品をつくるための5か条とか書いてある本は、買わないほうがよいのだ。

 そう断言しながら、私はいま完璧なブランド10か条を紹介しようと考えている。

 ウソつき!

 だいたい、この世に、完璧なブランドなどないぞ!

 でも、あった。

 世界宗教。

 「五感刺激のブランド戦略(ダイヤモンド社)」の著者マーチン・リンストロームは、古今東西において究極のブランドは世界宗教である・・・と書いている。

 自分が翻訳した本だから賛成するわけではないが、世界宗教を完璧なブランドとみなすことは正しいと思う。なぜなら、キリスト教、仏教、イスラム教などは二千年前後の歴史をもち、世界中に信者(ファン)がおり、そのなかには熱狂的すぎる信者もいる。寿命の長さやファンの数からいっても完璧なブランドであろう。世界宗教を支える10の条件全部でなくても、そのうちのいくつかを備えていれば、グローバルな長寿ブランドになれること間違いなしだ。

 ・・・ということで、マーチン・リンストローム推薦の10の条件に従って、ブランティングについて考えてみる。

1.帰属意識

 どの宗教も共同体意識を育成することで強くなる。ユーザー同士が同じ共同体に属しているという意識が強いブランドの例として挙げられるのはハーレイダビッドソンとアップルだ。もっとも、アップルはiPodやiPhoneのヒットにより、従来の教育やデザイン分野で働くハイテクに精通した顧客以外にも、学生や一般サラリーマンのユーザーがふえた。顧客ベースの多様化と急激な膨張により、この共同体意識が薄れてきている。よって、ユーザーは以前ほどにはアップルという企業が犯す間違いに寛容ではなくなっているとビジネスウィークは報告している。

 SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を支援する企業サイトは、購買者に帰属意識をもたらすことがひとつの目的だ。ゲーム機器というかゲームソフト購買者にも帰属意識があるといえるだろう。

 帰属意識が強ければ、かつてのアップル信者と呼ばれた忠実な顧客たちのように、ちょっとくらい欠陥があってもちょっとくらい使い勝手が悪くても辛抱強く改善されるのを待ってくれる。それどころか、どうやったら改良できるのかいっしょに考えてくれたりもする。

2.目的意識をもった明確なビジョン

 自分が信じている神の教えを布教するために、宣教師たちはどんな危険な地にも出かける。通常は、ビジョンの御旗をかかげ先頭にたつ指導者を必要とする。アップルのスティーブ・ジョブズとかヴァージン・グループのリチャード・ブランソンとか・・・。だが、多くの場合、ビジョンは、創業者が亡くなるとともに、消えていってしまう。ソニーのように・・・・(ごめんなさい! ソニー精神の復活を期待しています)。

 トヨタは、ビジョンの作り手や担い手に一人の人物を特定できない珍しい例だ。イエス・キリストの死後も、その教えをまとめた聖書をよりどころにして広がったキリスト教のように、トヨタの生産方式は「カンバン」や「カイゼン」といった名称で世界中に広がっている。

3.敵からパワーをもらう

 キリスト教とイスラム教は、互いに争うことによって強烈なパワーを得てきた。同じ世界宗教でも仏教が二者ほどにパワーがないのは、敵がいないからだろうか? 敵がいることによって、社内がまとまり一丸となってビジョンを達成しようとする。コカコーラにはペプシ、マイクロソフトにはアップル。日本では、アサヒに市場シェアをとられて俄然がんばったキリンビール。敵をつくることで総選挙に勝った小泉前首相(おっとぉ~、関係なかったですね)。

4.ホンモノ 

 Authenticityという言葉を、「五感刺激のブランド戦略」では、「真正」と訳しました。疑いの余地などまったくなく本物だと信頼できること・・・300年近い歴史があるという「赤福」さえウソをつくとなると、このくらいしつこく定義しなくてはいけない。

 いつの時代でも、エセ新興宗教が登場しますが、長続きするものはほとんどない。ホンモノだけが歴史による淘汰を生き延びるのだ。

 つい最近、「Authenticity」というタイトルの本がアメリカで出版された。日本でもベストセラーになった「経験経済(ダイヤモンド社)」の著者B.J.パインとJ.H.ギルモアの書き下ろしだ。まだ読んではいないが、紹介文によると、「顧客は、世界をホンモノかニセモノかで見分けるようになっている。ホンモノかどうかは、価格や品質と同じくらい、重要な購買判断の基準になっている」そうだ。

5.一貫性

 これは言うまでもありません。企業が発するすべてのメッセージの内容に一貫性があり、企業が送り出すすべての印刷物やすべての広告物において、ロゴ、色、シンボル・・・すべてに一貫性があること。

 えー、今回は5か条で終わりです。

 残りは次回に・・・(ブランドと感情と記憶シリーズ第9回に続く・・・・)

Ilm05_cb10029s_2 独断度100%のコメント

広告製作者さんたちは、ブランドエッセンスとかブランドパーソナリティとかよーくわかっていて、広告のターゲット消費者や制作意図とかについて理論的かつ雄弁に物語ることができる。先日、ネット広告で賞をもらったというクリエイターさんの話を聞く機会があった。そしたら、年齢が若干若いだけで、テレビや紙媒体の広告をつくる制作者さんたちと同じように、どうしてこういう広告をつくったかをカッコよいノリで話された。

 でも、なんだか軽い。

 この人は、自分のフィーリングや消費者のフィーリングを基準にして広告を作っているのではないかと思った。

 ブランドと感情と記憶シリーズ第6回に書いたように、消費者(人間)の心の奥にある無意識の感情(情動、emotion)と、表出した意識できる感情(feeling)とを混同してはいけない。表面に出てきている感情(feeling)だけに目を向けて広告をつくっても、消費者の購買決定に与える影響力は小さい。また、消費者の無意識の感情を意識はしていても、自分自身のフィーリングを基準にしている限り、同じく、影響力のある広告はつくれない。

 制作者だけではない。クライエントである企業の担当者で、若者をターゲットとする広告はフィーリングが大事だと考えているひともいる。敢えていわせてください。若者だって、いや、若者であるからこそ、表に出てきてはいないemotionに(自分では気づくことなく)突き動かされて行動しているのです。

 消費者のフィーリングや自分のフィーリングを基準にして広告をつくっていては、長寿ブランドになる可能性がある商品も早死にしてしまいます。

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参考文献: 1. Louise Lee, et al., A Bruise or Two on Apple's Reputation, Business Week 10/22/07

Copyright 2007 by Kazuko Rudy. All rights reserved

 

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