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2007年10月 5日 (金)

消費者も進化の歴史から逃れられない(ブランドと感情と記憶No.1)

 人間の脳は大きく3つに分けることができる。

  1. 脳幹・・・・・呼吸や心臓の動き、体温調節など、生きていくために必要な基本的機能をつかさどる。5億年前の魚類に登場し、その後進化を続け、2億5000年前の爬虫類で完成。
  2. 大脳辺縁系・・・・・2億年から1億5000万年前に地球上に出現した小さなネズミに似たもっとも原始的な哺乳類に登場。感情や記憶をつかさどる。
  3. 大脳新皮質・・・・・このなかでも、前頭前野は「脳の中の脳」と呼ばれ論理的思考など高度な精神活動をつかさどる。ヒトの脳の大きさは、200~300万年前ほどから急速に大きくなり始め、大脳の大きさは3倍にもなった。が、その間、前頭前野は6倍も大きくなっている。前頭前野の発達がヒトをヒトとして特徴づけ他の類人猿との違いを決定的なものにしたといえる。認知症予防のためのゲームとか本とかは、この前頭前野を活性化させるための訓練をするタイプが多い。

 本能をつかさどる爬虫類の脳、感情をつかさどる哺乳類の脳、そして、理性をつかさどるホモ・サピエンスの脳・・・・・と単純に分けて話を進める (脳科学者には叱られそうだけど)。

 消費者(人間)は、感情をつかさどる部位と理性をつかさどる部位とが協力しあうことで、初めて、意思決定をすることができる。事故や病気でどちらかの部位に損傷を受けた場合、どんなに簡単な決定もできない。これは、実際の症例で明らかになっている。

 だが、感情に関係する脳の領域は一億年を越す歴史があるのに比べ、理性をつかさどる部位はたかだか数百万年の歴史。後輩が先輩に逆らえないのはスモウの世界だけじゃない。どうしても、感情のほうが優位に立つことが多い。ある心理学者はこれを「理性と感情のダンス」と名づけた。迷っているときには、最終的には、必ず感情がリードする・・と断言する学者もいる。 

 「経験経済」とか「経験価値マーケティング」といった本が書かれ、感情に訴える経験を提供するというテーマがマーケティングに登場するようになったのは、90年代以降のこういった脳科学の新しい発見が背景にあるからだ。

 感情と強く結びついた経験の記憶は半永久的に保存される。

 「記憶と情動の脳科学(講談社)」という本を読んでいたら、中世のヨーロッパにおいて、記録を文書で書き残す習慣がなかったときに、重要な出来事を記録するためには7歳くらいの子供を選び、その子に記録したい行事をきちんと観察させ、そのあとで川の中に投げ込んだ・・・という箇所があった。たまたまその後、アメリカの雑誌を読んでいたら、「中世のフランスの村では、重要な出来事を長く記憶しておくために、覚える役割を負った子供の耳をぶんなぐった」と書いてあった。

 子供に恐ろしい体験をさせて重要な出来事を記憶させるという方法は、ヨーロッパ各地で見られた習慣だったようだ。

 子供にトラウマ体験をさせるってことだ。

 一生忘れられない記憶をつくるために・・・。

 ここで考えてみてください。

 モノを販売するときに楽しい嬉しい感動を与える経験を提供すれば、それがずっと記憶として残り、その店であるいはそのブランドをずっとずっと買い続けてくれる。

 ホントに?

 んなわけないでしょう。

 子供のときに理由もなく突然川に投げ込まれる恐怖、驚き、悲しみ・・・・こんな体験に匹敵するような(といってもトラウマ体験のような否定的なものではなく、その反対の肯定的な意味での)感動的な経験や体験を提供できるビジネスなんて存在するでしょうか?     ディズニーランド以外に・・・。

 それでも、売り手企業は、ブランドやサービスを通じて、長く記憶に残るような肯定的感情に強く結びつく経験を顧客に提供しなくてはいけないのです。(しつこくずっと覚えていられるような否定的感情に結びつく経験を与えるのは、なぜか、すこぶる簡単なのですが・・・)。

 「ブランドと感情と記憶」シリーズでは、こういったことを考えていきたいと思います。

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