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2007年9月20日 (木)

消費者は言葉では考えない(消費者調査シリーズ第三回)

 現在使われている調査手法は大半は言葉にたよっている。書き言葉中心のアンケート調査はむろんのこと、フォーカスグループ調査だって話し言葉が中心だ。だが、人間は言葉では考えていない。この事実は、進化の歴史をたどってみればすぐに理解できる。

 言葉が登場するようになったのは50万年から100万年ほど前。きちんとした話し言葉が使われるようになったのは25万年前ほどだといわれる。人間が言葉で考えているとしたら、500万年前に進化的に類人猿と別れた人類の祖先さまたちは考えることなどなかった。つまり、思考する能力がなかったということになる。

 それは、ないだろ・・。

 脳をスキャンしてみると、本人が考えていることを意識する以前に、また、言語機能に関係する部位の神経細胞が活性化する以前に、思考に関連する部位が活性化していることがわかる。人間は言葉を使って自分自身や、そして他人に対してその考えを表現し伝達することを無意識的に選択したときになって初めて言葉を使うのだ。

 進化の歴史をたどれば、言葉は人間が抽象的に思考するようになるのを促した。でも、人間は「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」といつもハムレットしているわけではない。

 無意識に考えているなんて、本能的に信じらんない!

 だが、人間が日常的に考えたり、感じたり、行動したりすることの大半は無意識のうちにしている。無意識の領域は95%を占めるという科学者もいる。この数字の正否はともかく、大半の心理学者や脳科学者たちは、意識の世界は氷山の一角であることに同意している。そして、その事実が、ほとんどの人間に信じられないのは「氷山の一角の意識の世界には、海上に出ている自分の姿しか見えないからだ」そうだ。

 ロンドン大学で神経学者(ニューロ・サイエンティスト)たちが面白い実験をしている。

 被験者はコンピュータ画面を見つめる。そして、その被験者の脳の映像を科学者たちはMRIで見る。たとえば、二つのイメージが画面に非常に速く続けて流れる。被験者は二番目のイメージしか見ることができなかったのに、スキャン映像には被験者の脳が両方のイメージを見ているのが映っていた。つまり、被験者本人は一つのイメージしか見ていないと思っていても、無意識的にはしっかり二つのイメージを見ていたのだ。 

 映画「マイノリティ・レポート」に描かれたように、犯罪が実行される前に、その意図があることを本人自身が知る前に、予知することができる--実験に携わっている科学者たちはそう考えていて、こういったテクノロジー利用の倫理基準をつくらなくてはいけないと主張している。もちろん、こういったテクノロジーを利用して、消費者の購買意図を予測するのは簡単だ (これも倫理的に問題があるだろうけれど・・・)。

 これまでの消費者調査のほとんどが、目に見える氷山の一角だけを調べていたことになる。アメリカで科学的な調査が始まったてから100年近くになるが、データの獲得方法はまったく変わっていない。消費者に質問してそれに答えてもらう・・・圧倒的に言葉を介したものだ。ガーベッジ・インにガーベッジ・アウトといわれるように、もともとのデータが消費者の本当の答でなかったとしたら? 出てきた情報が消費者を理解するのに役立たないのは当然のことだろう。

                           (第四回に続く・・・)

Ilm05_cb10029s_2独断度100%のコメント

 ブログで「消費者の声」を探ろうという動きがある。自社商品への非難や批判を早目に発見するためにブログを観察することは必要だが、ここから消費者を知ろうというやり方は感心しない。同様に、苦情・質問データを深読みしすぎるのも良くないと思う。なぜなら、情報過多な状態では、担当者が自分の仮設に沿ったデータを選ぶことは簡単にできるからだ自分の提案を正当化するために意識的にそういったデータ選択をする要領のよい担当者もいるだろう。そういった考えはさらさらなくても、担当者は無意識のうちに自分の都合の良いデータを発見してしまう傾向がある。この現象は、行動経済学でも確証バイアスとして紹介されている。それでなくとも、消費者調査というのは、上司の経営者を納得させるために実行する傾向が高い。アサヒビールがスーパードライを開発するときに日本企業としては大規模な消費者調査をしたことで有名だ。その結果、消費者の新しい好みを発見してスーパードライが生まれたような書き方をした記事も多い。だが、私の独断的意見では、あれは、仮設を証明するためにされた調査だ。

 調査は往々にして、新しい発見をするためではなく、仮設を証明するために実施される。つまり、言葉を介してする調査の、それが限界なのだと私は思うのです

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参考文献 1.Ian Sample, The Brain Scan that can read People's Intentions, The Gurdian Feb.9,2007

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