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2011年4月13日 (水)

危機のさいのリーダーシップ、そして現場と本部

 

  「消費者の動きについていえば、今回の震災は、16年前の阪神・淡路大震災のときとはかなりちがう」と、ある大手通販経営者がおっしゃっていました。自粛期間が短い。最初の2週間はさすがにばったり注文がこなくなった。が、その後は順調に回復してきているそうです。

 その傾向は、調査結果にも出ています。日経MJ(4月6日)によると、地震発生から3週間をすぎたころから娯楽サービス施設への客足がもどり、映画館を運営するTOHOシネマズによると、3月最後の週末の観客数は前年同期の1.3倍になった。サントリーグループで飲食店チェーンを経営するダイナックでは、震災直後には通常の7割まで落ちこんだ客数が、3月最後の週には9割くらいまでもどったそうです。

 東日本大震災と16年前の大震災と、消費者の動きがちがうのはなぜでしょうか?

 消費行動が活発なのは、自粛することが結局は被災地復興に悪い影響をもたらすという考え方が、多くの一般市民に浸透したおかげでしょう。

 日経電子版の調査によると、「自粛ムード、いきすぎだと思いますか?」という質問に、「そう思う」と答えたひとは77.9%。「そうは思わない」と答えたひとは12.2%だった。若い年代ほど、自粛ムードはいきすぎだと考える人が多く、その理由は「経済がまわらないと被災地へのお金もまわらない」など、日本経済が立ちなおらなくては復興資金がでないと答える人が多かったという。

 一時の感情にとらわれた自粛ではなく、こういった理性的な考え方が若い人ほど浸透したのは、ソーシャルメディアのおかげでしょう。

 震災直後、かなり早い段階で、こういった意見はブログに書かれ、ツイッターやフェイスブックをつうじて広がっていった。ネット上に登場するキーワード検索では(ホットリンクの「クチコミ@係長」による分析)では、「自粛」や「巣ごもり」といった言葉は3月17日ごろにピークをむかえている。自粛の是非についての意見がネット上でとびかったのかもしれません。17日以降は、「宴会」「解禁」「パーティ」といった言葉の数がふえ、21日時点で震災前の84%まで回復しています(私も3月20日に自粛反対のブログを掲載させていただきました)。新聞やTVで、「自粛しないほうがよい」という意見がきかれるようになったも、このころからです。

 4月2日には被災地である岩手の蔵元がユーチューブに投稿し、「自粛をしないで、お花見をしてお酒をのんでください。被災地以外の方は普通に生活し、経済活動をすることが結果的には被災地の支援につながるのです」と訴え、アクセス数は37万件におよびました(4月10日現在)。

  一般市民である消費者の多くは自粛をしないほうがよいと早目に判断した。それに比べて、大手企業は16年前の阪神大震災のときと同じような判断をしたようです。こういう災害時には広告を自粛したほうが無難だと・・・・。

 ACジャパンの公共広告に批判が集まったのは、「同じような広告を繰り返されてうんざり」や「災害とまったく関係ないガンの広告を流すな」とか「♪ エーシーというどこかノーテンキなメロディーが不謹慎」などの理由による・・・といった表面的な受けとめ方をしてはいけないと思います。

 一般市民は、あの広告に、「ことなかれ主義」の匂いを敏感に感じとったのだと思います。「非常時に通常の広告を流して不謹慎だと批判されてはいけない。かわりに無難な公共広告を流しておけば問題ないだろう」という「ことなかれ主義」に、非常時だからこそイライラっとしたのだと思います。

 私たちは不安でした(いまでも不安です)。余震も続くし、原発も一触即発状態。不安なときに、人間は、人恋しくなるし、安心させてくれるような言葉を耳にしたくなるものなのです。枝野官房長官が落ち着きはらった態度で、理論整然と状況を説明するのをみると、内容に関係なく、なぜか安心できる心理だったのです。

 震災直前の3月10日の内閣支持率(フジテレビ調べ)は19.8%だったのが、震災後の3月17日に36.6%にまで上がった。ひとえに、一日平均5回の記者会見において、枝野長官が発信したメッセージのおかげだと思います。

 不安な人間は、理性では「ほんとに大丈夫なのかな?」と疑っても、「心配するほどの状態ではありません」というメッセージを聞いて安心したい・・・という複雑な心理状態にあったのです。

 静止画像でロゴと会社名が出ているだけでいい。音声だけでいい。なぜ、消費者に直接語りかけるようなメッセージを流せなかったのか? 「大惨事がおこりました。私たちの工場も損害を受けました。でも、一日でも早く商品をおとどけできるように頑張っています」とか・・・・。こういったメッセージは、「大変なのは自分だけじゃない。みんな頑張ってるんだ」と私たちを力づけてくれたはずです。そして、不安なときに、自分たちを安心させてくれた企業やブランドには「きずな」を感じることができたはずです。

 広告はメッセージであるという基本を忘れたのでしょうか?

 どんなメッセージをどのメディアをつうじて流しても批判するひとはいるでしょう。でも、それを恐れていて、これから、どうやって、ソーシャルメディアを手にした消費者とつきあっていくのでしょうか? 自分たちの商売にツイッターやフェイスブックを利用はする。でも、批判はコワイ・・・では、本当の意味でメディアをつかいこなしていることにはなりません。

 アメリカでソーシャルメディアを駆使しているといわれる企業は、批判の攻撃にさらされた苦い経験ももっています。あのスターバックスも「器具を洗浄するのに大量の水を無駄につかっている」というウワサが流れ、真実を証明するのに多大な時間をついやしています。家電量販店ベストバイのCEOは「ソーシャルメディアをつかって良い経験だけを楽しもうなんてことはできないのです。天気のよい日もあれば雨の日もある」と語っています。 

 一般市民はソーシャルメディアをつかい、自粛が被災者のためにならないという流れをすでにつくっていました。そんなときに、広告というメッセージを自粛し、「無難」な公共広告を流しつづけた企業は(ACジャパンは企業やメディア、広告代理店からなる団体です)、消費者と感情的につながった「きずな」を築くせっかくのチャンスを逃がした・・・と、私は思います。

 震災から一ヶ月。コーズマーケティングを採用する企業が続々とふえてきています。

  • 宅急便のヤマトは国内で扱う宅配便1個につき10円を復興支援に寄付すると発表した。2010年の実績から計算すると、1年で130億円の寄付になる。ヤマトは被災地でも、自衛隊に協力し救援物資の輸送を手伝うなど大活躍しました。現場のドライバーの自発的な動きだったそうです。
  • ファッションサイトのゾゾタウンは、3月15日にチャリティTシャツの販売を開始。1枚税込み2100円のTシャツを買うと、2000円が寄付される仕組み。ゾゾタウンで見習うべきところは、結果をきちんと発表していることです。176,988枚のシャツが売れ(購入者数94,270人)、寄付金額は353,976,000円で、どの団体にどれだけ寄付したかも細かく説明されています。それとは反対に、広告の下のほうに、「売上の一部を寄付します」と、とってつけたようなコピーを掲載している企業があります。この企業はいったいどういうメッセージを伝えたいのでしょうか? 「他の企業が寄付しているのだから、自分たちもしないとマズイのではないかと思って・・・」というメッセージしか伝わってきません。寄付するかしないかはあくまで自発的なもの。中途半端なメッセージを送るくらいなら、寄付うんぬんのコピーは書かないほうがよいと思います。
  • 流通大手イオンは発行している電子マネー「ワオン」の総利用額の0.1%を寄付すると発表。つまり、客がカードを利用すればするほど、寄付金額がふえることになる。イオンはがんばっていて、同グループ下の1150店舗で、「がんばろう日本! 東日本大震災復興支援 黄色いレシートキャンペーン」を4月8日に始めました。期間中に商品を買ってうけとった黄色いレシートを店内のボックスに投函すると、イオンがレシートの合計金額の1%を復興支援に寄付する。被災地にすこしは貢献できるし、消費者もそしてイオンにも得になる三者三得のコーズマーケティングです。

 ゾゾタウンがチャリティTシャツを販売したようなことを、ユニクロのような店舗販売がすれば、消費活動をより活発化することができます。なぜなら、巣ごもりする消費者でもネットでは買う。店舗チェーンを運営しているところが、コーズマーケティングをすれば、家にこもっている消費者を外にひっぱりだすことができる。いったん外に出た消費者は食事をしたりコーヒー飲んだり、他にも消費活動をしてくれるはず。高額品を買う中高年の消費者を外にひっぱりだす企画を、デパートや旅行業界などは考えてほしいと思います。

 現場はみんながんばっています。

 本題に入りたいと思います。

 震災で日本の「強い現場と弱い本部」が再認識された・・・と東京大学の藤本隆宏先生が書いていらっしゃいます(日経新聞3月29日)。・・・・「海外の友人たちからは、極限状況での日本の『現場力』に対する、驚嘆と賞賛の声が多く聞かれる。被災地の復旧現場、コミュニティ、生産現場などの秩序・互助・対策・実行の水準の高さと、対照的な一部企業や政府の中枢のもたつき。官民双方における、日本の『強い現場・弱い本部』症候群が、全世界により再認識された形だ・・・・

 日本の企業や政府組織において強いリーダーシップが発揮されていないことは、以前から指摘されてきたことです。

 が、そこで、ふと考えました。日本の組織の現場が強いのは、まさに、強いリーダーがいないからではないのか? ボタムアップの日本の組織においては、リーダーには組織全体のバランスを維持する調整役が求められていたのではないのか? 反対にトップダウンの欧米組織では、強いリーダーが存在するぶん、現場にはやる気がない従業員も多い。アメリカにおけるCEOと平社員の給与差は数百倍、場合によって500倍もの差がある。そのくせ業績が悪くなるとすぐにクビをきられる社員は不満をだきながら働いている。その点、日本の上場企業の役員報酬は従業員の4.5倍くらい(日経調査2010年)で、格差が少ない。

 こういった背景を考えると、日本の組織に、有事のさいに決断ができないリーダーがいるのも仕方ないのでは・・・?

 欧米では、2008年のリーマンショック以降、ビジネスマンむけの雑誌で、リーダーシップをとりあつかう記事が目立つようになりました。「不確実な時代における強いリーダーとは?」「危機におけるリーダーとは?」 といったようなテーマです。 2010年11月のハーバードビジネスレビューでは、「軍隊から学ぶリーダーシップ」という特集もありました。

 戦時や非常時に任務を遂行するときのリーダーは、

  1. あいまいな状況下においてもタイムリーに決断を下して行動する、
  2. 目的を明確に部下に伝達。ただし、どうやるかの実践は現場の判断にまかせる、
  3. 第一に任務の遂行。次いで、隊員全員を無事に帰還させる。自分のことは一番最後。

 ・・・・だそうです。どおりで、原発で一触即発の状況のとき、自衛隊や東京消防庁ハイパーレスキュー隊がたのもしく見えたはずです。

 欧米でリーダーシップ論がさかんになっているのは、不確実な時代においては、企業のリーダーも、(たとえば軍隊組織から)危機的状況におけるリーダーシップを学ぶ必要があるということなのでしょう。

 21世紀は不確実な時代です。いつなんどき危機的状況が発生するとも限りません。とくに、地震活動が活発化している日本列島では、マグニチュード7クラスの地震が毎年起こってもおかしくない状況にあるといわれます。やっぱり、日本でも、強いリーダーは必要です。そして、強い現場と強いリーダーと両方をもっている強い日本企業もあるわけで、そういった企業は、金融危機にも負けなかったし、今度の大震災でも、荒波を乗り越えて成長していくはずです。

 私たちは不安です。被災者の方たちのことを思えば贅沢だと思いながらも、大きな余震があると恐怖心を感じます。そのうえ、福島の原発はいつになったら安心できる状態になるのか?

 不安になると人間は内にこもったり(巣ごもり)、あるいは、「どーせ先の見えない人生なら、将来のことを考るだけバカらしい」と、せつな的に考えるようにもなります。アメリカでは9.11同時多発テロのあと、ダイエットしてきれいになってもしょーがない・・・とやけになる人が多く、結果、高カロリーだけどおいしい肉厚ステーキとか濃厚なアイスクリームを売る店が繁盛したといいます。

 人間は自分が努力すればなんとかなる状況では、それほど不安は感じません。自然災害とか原発とか、自分の力ではなんともできない状況だから不安なのです。そんなときは、とにかく身体を動かす。なんらかの行動を起こすことが、一番良い方法です。自分の家族の病気回復を祈って千羽鶴をおったり、神社でお百度参りをする習慣は、古来からの生活の知恵です。いま現在に集中して行動すれば不安を少し忘れていられるのです。

 被災地において、家を流され、工場を流され、店を流されても、翌朝にはガレキを片付けているひとたちがいる。売るモノもまだないのに、避難所をまわり御用聞きを始めた商店もある。地震列島日本に伝わる古来からの知恵です。

 放射能汚染の風評被害で野菜が売れなくなった福島の農家のひとたちは、自暴自棄にならず、いっしょに立ちあがっています。ネットで販売することにしたのです。「里山ガーデンファーム」には全国から注文が殺到し、、9日現在で購入者951人、野菜販売量7トンになったそうです。

 農家のひとたちは、「何もしていないときは不安でした。でも、ネットで、つくったものが売れるようになっただけでなんだかちょっと心がやわらぎました・・・」と、語っています

 東北の被災者、原発による被害者、そしてその方たちに比べるればずっと良い状況にある被災しなかった一般市民・・・・誰もが、(そのレベルに高低があっても)不安です。強い余震があれば、一度復旧した電気や水がまた止まります。それでも、日常の生活を平静につづけることが、いまできる最善の方法であると信じて、ヒステリーもおこさず、自暴自棄にもならず、冷静に前向きに行動をしているのです。

 「戦後最大の日本の危機」とか「第二の敗戦」・・・・とか週刊誌などでは書いていますが、そのタイトルは間違っています。私たち一般市民は、いま、まさに、戦争をしているのです。自分たちの不安や恐怖と戦いながら、少しでも前進できるように戦っているのです。

 一般市民が十分な武器ももたず、互いにはげましあいながら、前線に立って戦っているというのに、私たちのリーダーたちは何をしているのでしょうか?

 私はマーケティングのブログを書いているのであって政治の話はしたくない。まして、民主党とか自民党とか、どっちがよいかも関係ない。天災ではなく人災だったといわれる福島原発にしても、東電や政府の初動のミスだけが問題ではないはずです。原子力安全委員会、原子力安全・保安院、原子力委員会という似たような名前の委員会が3つもありながら、安全を死守する機能を果たせなかった。こういった体制がつくられたのは自民党政権下だったはずです。 なのに、互いに協力して、前線で戦っている一般市民を援護しようともしない。 

 条件をつけなければ協力しあえない与党に野党。互いに足をひっぱりあう与党内の議員たち

 自分たちが政権を握りたい、そのときは自分が首相や大臣になりたい、復興予算の分け前にあずかりたいといった私利私欲。過去の確執。保身に責任のがれ・・・・・・こういった党のリーダや派閥のリーダーに従っている民主と自民の国会議員も全員、同罪です。

 ハリケーン・カトリーナで壊滅的打撃をうけた被災地で陣頭指揮にあたった米沿岸警備隊司令長官はリーダーシップについてこう語っています。

 ・・・「自分自身の士気を高く維持しなくては、隊員たちの士気を高く維持することもできません。悲惨な状況をみて感情を動かされない人間はリーダーにはなれません。でも、感情にとらわれることで、自分たちの任務や目標遂行に悪影響を与えることがあってはならないのです。沈着であればあるほど、有効な決断ができます

 福島原発での放水作業をおえたあとの記者会見。東京消防庁の総括隊長は、「一番大変だったことは?」と聞かれて、涙をこらえるようにして、こう答えています・・・「隊員の家族に申しわけなかった。感謝とお礼を申し上げたい」。隊長は、任務を遂行するためには、隊員に死にいたるかもしれない行動を命令する可能性も覚悟していたのでしょう。家族が夫や父親を失うことを知りながらも、それでも、自分は冷静に命令を下さなくてはいけない。家族の気持ちに涙しながらも、その感情に動かされることなく、任務を遂行するためには命令を下す。それが、現場におけるリーダーです。(ただし、その場合、隊長は部下だけに危険をおかさせるようなまねは、決してしないでしょう)。

 一般市民が前線(現場)に立ち戦争をしているのです。私たちを率いるリーダーは官においても民においても、私たちに目標を示し、自分の意図を明確に語り、果敢な決断をするひとであってほしい。目標達成のためには、一時の感情に動かされることなく、冷静な決断ができるひとであってほしい。

 自分は国民の代表者だというプライドが少しでも残っているのなら、国会議員は全員協力して、被災地の復旧・復興を進め、福島原発の収束を進め、これから起きると予測されている地震から日本列島を守る防災対策を進めてほしい。

 マーケティングの観点からみても、与野党が協力して事に当たる姿を内外にみせることは、一般市民を安心させ(よって、消費活動が活発になり)、企業心理を好転させ、海外の企業や投資家を安心させる。日本の経済を立て直すのに、最も効果的なメッセージを発信することにつながると思います。

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参考文献: 1.「消費じわり日常へ」日経MJ4/6/11、2.「自粛行き過ぎ78%」日経新聞4/7/11、3、「現場重視を復興の起点へ」日経新聞3/29/11、4、「3・11不屈の国」日経ビジネス4/11/11、5、Leadership Lessons from the Military, Harvard Business Review Nov.2010、6.「新報道2001、今週の調査より」フジTVホームページ

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