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2009年5月 7日 (木)

製造業の人間はサービス業には移れない!

 先進国における第三次産業(サービス業)のGDP(国内総生産)に占める割合が60%を越したということで、今世紀に入ってからのサービス業への関心には高いものがあります。

 日本においても金融や通信サービス業を除く狭義のサービス業は2005年にGDPの23.2%となりました。製造業は22.7%で、5年前に比べると、立場が逆転したことになります。 

 問題は、日本のサービス業における労働生産性が他先進国に比べると見劣りすることです・・・・と、これまでは、こう続くのが通常でした。そして、次ぎのような統計数値が紹介されます。

  • 経済協力開発機構(OECD)の調査によると、1995年ー2003年のサービス業の生産性の伸び率を製造業の伸び率と比較してみると、日本は製造業で年率4%強で米国の3%強や英国の2%強より高い。しかし、同じ期間のサービス業の伸び率は、日本は年率0.8%で2%強の米国や1%強の英国より低い。

 つまり、日本は製造業での生産性は他国よりも高いが、サービス業では落ちる・・・というのが定番のコメントでした。ところが、最近の発表をみると、2000年前後から他の先進国のサービス業における生産性が落ちており、1991年から2005年の統計数値をみると米国(マイナス0.5%)、英国(マイナス0.4%)、フランス(マイナス0.1%)で、15年間、ほとんど成長なしという結果になっています。

 どの国もサービス業の生産性向上には苦労しているということです。だからこそ、サービス・サイエンスといったサービスに科学をとりいれることで、もっとコスト効率がよくならないか?という研究は、国家的プロジェクトにまでなっているわけです。

 このサービス業について、最近読んだ面白いコメントをいくつか紹介します。

1. 劇作家・演出家の平田オリザ氏(朝日新聞2009年4月29日)・・・「政治家を演じる」という寄稿のなかで、製造業に従事していた非正規社員が失業すると再就職が難しいことに関して、次ぎのように書いています。

 「・・・なぜ他の産業に転職がきかないかといえば、それは端的に言って、コミュニケーション能力の問題なのだと思う・・・・産業構造が大きく変わったにもかかわらず、日本の教育制度は工業立国のスタイルのままではないか・・・・派遣村の問題は、だから根本的には、コミュニケーション教育を放棄してきた教育行政の失政であり、その失政のつけを、個々人が払わされる由縁はない・・」

2. みずほ総合研究所チーフエコノミスト中島厚氏(日本経済新聞2009年1月9日)・・・日本の過剰サービス社会を批判して、次ぎのように語っています。

 「(過剰サービスを廃止すれば)まずコストを低減できます。さらに手厚いサービスには追加的な出費が必要だと皆が了解すれば、高付加価値型のサービス産業が今より成り立ちやすくなるでしょう。いずれもサービスの生産性を上げるのに役立ちます・・・・過剰サービスは日本人をひ弱にしてはいないでしょうか。手厚いサービスや気配りに満ちた日本社会は住み心地が良い・・・しかし、世界の標準は違う・・・あらゆるサービスは本来、有料なのです。そう自覚したほうが、気配りが身に染み、今のように『サービスは無料で与えられて当然』と考え続けるよりも他人への思いやりの心も育つのではないでしょうか」

3. ビジネスウィークは2007年10月22日に「急成長の煽りで顧客サービスが低下? 米アップル、評判に陰り」という見出しの記事を掲載した。そして、アップルは熱狂的なファンがいることで有名で、そういったファンはアップルがたとえ欠陥商品を販売しようがそれを許してくれた。が、iPhone人気で顧客ベースが急激に増大し、以前ほどにはアップルのすることに寛容ではない顧客が増えた。それにともない、苦情も増え、顧客満足度も落ちている・・・と指摘しました。

 ですが、つい最近発表された調査によると(Forrester Research)、PC産業におけるアップルの満足度は80%で第二位のゲートウェイの66%に大きく差をつけています。しかし、この満足度は、他の産業に比べて非常に低いもので、PC産業よりも低いのはインターネット接続業、ケーブル/衛星TV,保険サービスだけだそうです。

 ちなみに、すべての産業をひっくるめての顧客満足度ランキングで晴れてNo.1に輝いたのはバーンズ&ノーブル(書籍のチェーン店兼ネット販売)で、3位のアマゾンを抜きました。アップルは23位、ウォルマートが35位、デルが93位になっています。

4. 読売新聞2008年1月27日「電話窓口を閉ざす企業」では、ヤフーやミクシィーといった著名ネット企業が消費者に電話番号を明かさず、苦情や問い合わせの窓口をメールを限定していることについて特集記事が書かれていました。ヤフーオークションに苦情のメールを出してもその返答に一ヶ月以上かかったという顧客の経験を紹介し、ヤフーは「電話が殺到すると業務の混乱をきたす」として今後も電話番号を公開する予定はないとしていると伝えています。読売新聞が大手IT企業26社を調べたところ、ヤフーやミクシィーなど6社が公式サイトで電話を掲載せず、うち、5社は番号案内(104)にも登録していなかったそうです。

 顧客ベースの大きいところは、電話で受付を始めれば、莫大な経費がかかるようになります。不況のなか、これまで電話での対応を顧客サービスの一環として積極的に取り入れていた企業のなかでも、コールセンターの閉鎖、人員削減をするようになっています。

 昔はコスト・センターと厄介者扱いだったコールセンターがCRMとか顧客サービスとか叫ばれるようになってプロフィット・センターになった・・・・などと言われたものですが、不景気になると、やっぱり、コスト・センターに戻ってしまうようです。

 いずれにしても、利益を生み出す「顧客サービス」は、多くの企業にとって「永遠の課題」です。サービスを提供するのも人間(なるべく機械を使いたくても、いまのところ品質の良いサービスは人間の介入なしには成り立っていません)、サービスを受けるほうも人間。どちらも人間というややここしい要素から成り立っているために、1)感情の問題、2)品質のばらつきの問題、3)経費の問題・・・がサービスの生産性向上を妨げています。

 ということで、サービスを科学するシリーズを書いて見たいと思っています。海外でのいろいろな新しい試みとか研究例をご紹介できたら良いなと思っています。でも、二回目はもしかして一ヵ月後になってしまうかもしれません。夏に公開する映画をいまから宣伝する予告編みたいな感じになってしまい・・・・ホントにどーも、スイマセン(三平ふうに・・・・)

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製造業の人間はサービス業には移れない!を参照しているブログ:

» 【話題】「サービスサイエンス=IBMモデル」ではない (Science and Communication)
今日,たまたま『「サービスサイエンス=IBMモデル」ではないですよね』 と話をして,首肯してくださった先生がおられた. この先生は,よくわかっていらっしゃる. それこそ,様々なサービスサイエンスのかたちがありうる訳で. サービスサイエンスとコミュニケーションの課題,もっと深堀りしてみたいな. それにしても,サービスサイエンスを念頭に入れているサイエンスコミュニケー ション研究者/教育者って,国内に存在するのかな. 関連ブログエントリー: 製造業の人間はサービス業には移れない!(サービスを科学... [続きを読む]

コメント

ルディ様、ご無沙汰しています。
サービス業の生産性が低いのは、もしかしたらですが、対BtoBサービスが低いのではないでしょうか。
日本企業は社外の企業に対して中々付加価値を認めません。
社員よりも付加価値が高くても社外を認めず、非常に対価が低い。
身をもって感じております。

サービスを重視している企業に2連発でインタビューしました。ひとつは小売業、もうひとつはサービス業です。両者に共通するのは、その前提として価格訴求に走らず、高粗利を目指していることです。さらに顧客を絞る、商品を絞るなど、ビジネス目標をクリアにすることも重要だと思います。

http://gray.ap.teacup.com/impress/703.html

アメリカの自動車産業における労組の存在を見て、日本の第二次産業の労働生産性が高かったのは、単に人件費が低かっただけではないかと思い始めています。

今日のセミナーのさわりだけ、tumblr/twitterログさせていただきました。
http://twitter.com/tyamamotowebark/status/2290918889

"サービス業の生産性の低さ"というのはどうしたら向上するのか、という課題は日頃から仕事で自分も身を持って経験している関係で考えさせる問題です。
特に接客業ではコミュニケーション能力云々の話は非常に納得させられます。
例えばコミュニケーション能力関連でしばしば出る言葉で"相手の気持ち察しろ"とか"空気を読め"です。
特に日本人同士ではこの能力がお客様だけでなく、同僚との間でも必須のスキルなのですが、人によってかなり格差があります。
これまで、"学校教育で教えるようなことではない"、生活する上で個人個人が自然身に付ける(または身につけさせられる)とされてきましたが、考え直すべき時期と思います。
接客マナーだけでなく、社会人マナーなどもほとんどコミュニケーション能力に関連することばかりです。
さらにコミュニケーション能力の格差は少子化問題における結婚の問題にも影響があると言われています。
つまりこれまでお見合いなどでコミュニケーション能力が低い人でも結婚できたけれども、社会構造の変化でそうはいかなくなり、その能力の低い人は結婚できなかったり、できてもすぐ離婚しまうのです。
学校でコミュニケーション能力の教育をするとともに、無償でその教育が全ての社会人が受けられるようにすれば、その能力格差がある程度解消され、サービス業の生産性向上と、少子化問題の緩和を実現できる可能性があると思います。
ただ、過剰サービス云々についてなのですが、サービスの受給者の意識が変わらない限りはまず何もできないと考えます。
>しかし、世界の標準は違う・・・あらゆるサービスは本来、有料なのです。
>そう自覚したほうが、気配りが身に染み、今のように『サービスは無料で与えられて当然』と考え続けるよりも他人への思いやりの心も育つのではないでしょうか」
とのことですが、これは日本の文化に深く根ざしたことだけに、多くは変えることは困難でしょう。
例えば諸外国では"チップ"の慣習がサービスの対価の役割を果たしていますが、日本ではサービスは無料、その対価は商品の購入価格にすでに含まれているという考えできました。
ここにチップ文化導入する方法を私は思いつけません。
確かに接客サービス従事者の給与を引き下げ、その代わりチップでその人達は収入を得るという形に速やかに移行すれば、生産性は向上するでしょうが、絶対にそれは不可能でしょう。
(続きます)

ただ、サービスに対価を、というこれまでの日本の慣習に疑問を投げかけたこと自体は興味深いとは思います。
なぜサービス産業の生産性が向上しないのか、という原因を知ることは、たとえそれが慣習故に変えることが困難だとしても重要であることは確かです。

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