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2009年1月29日 (木)

ユニクロのアキレスけん

Stnd007s個人消費が瞬間フリージングしてしまったなか、ユニクロだけが一人勝ちしている。2008年夏にはブラカップ内蔵型キャミソール「ブラトップ」がヒットし、冬になって発熱保温肌着「ヒートテック」が2800万枚完売したという。ユニクロ・ブランドを抱えるファーストリテイリングの株価は上昇して、売上高は5864億円と小売業トップのセブン&アイ・ホールディングスの10分の一だが、時価総額はセブンの2兆2389億円の二分の一の1兆1646億円となっている(読売新聞調べ。1/26/09)。

 不況に悩む企業にとってはうらやましい限りの実績によって、ファーストリテイリング柳井会長&社長は、2008年の「社長が選ぶ今年の社長」に選ばれた(産業能率大学による調査で、回答に応じた経営者365人のうちの20%が、最も優れた経営トップとして選んだそうだ)。文句なしのバンバンザイ状態ではあるが、完璧だといわれるものに欠点を見つけたくなるのが、野次馬根性である。

 ユニクロについて書かれた新聞・雑誌記事を読んでみてください。

 「低価格」で「高品質」。消費者の声を聞きながら毎年、改良とカイゼンを積み重ね、より高い機能を備えた完成品を4・5年かけてつくる・・・・・これって、ファッションブランドというよりは家電製品について書かれた文章みたいじゃありませんか?

  1. ヒートテック」は2003年に最初に発売されたときは発熱・保温だけの機能。それに、抗菌機能や保湿効果を加え、さらに、薄い生地で軽量化を実現した。
  2. ブラトップ」は、「Tシャツ風の服を着るときにブラジャーはつけたくない」という顧客の要望にこたえようと毎年改良を重ねてきた。2008年になってやっと自信をもって提供できる製品ができたので、TVコマーシャルを流して大量販売を開始。
  3. マシンウォッシャブルニット」は「洗濯機で洗っても縮まないセーターがほしい」という要望に答えて開発。2年間かかって2008年12月に商品化にこぎつけた。

  三洋電機が2001年に「洗剤のいらない洗濯機」を発売するまでには4年の年月がかかっている。1997年に洗剤のいらない環境にやさしい洗濯機をつくろうというアイデアが生まれ、99年に超音波で洗うために洗剤が少なくてすむ洗濯機を開発、ついで洗濯槽を斜めにすることで汚れ落ちが数倍高くなることを発見して「超音波斜めドラム洗濯機」を開発。そして2001年、ついに、完成品の販売にこぎつけた・・・・こういった家電メーカーの製品革新手法に、ユニクロ製品の開発物語はよく似ている。

 だいたいにおいて、ユニクロでヒットしているのは、最初のフリースからブラトップ、ヒートテックまで機能中心の衣料品ばかり。柳井社長もインタビューのなかで、「一流メーカーの製品は使い勝手も機能も毎年確実に向上している。技術革新と消費者ニーズの徹底的追及だ。それに対抗できる製品を出せなければ顧客は家電や自動車にいってしまう・・・・」などと語っている。名前を伏せたら、工業製品メーカー経営者の発言だと誰もが思うことだろう。ファッション業界に身をおく経営者とのインタビューだとは推測できない(まったくもって余計なことだけど、柳井社長自身、ファッション業界に身をおいているひとには見えない)。

 カジュアル衣料品分野では米ギャップを抜いて1位になりそうなスペインのザラ(親会社名はインディテックス)も、製造過程をふくめたサプライチェーンシステムにおいては、トヨタ自動車のアドバイスを得てジャストインシステムを採用したという。だが、トレンディなファッションを二週間以内に店頭に並べることを特徴とするザラとは違い、ユニクロという会社には工業製品をつくっているようなメンタリティが感じられる。2000年にフリースが2600万枚売れたあと、過剰在庫の問題もあって業績も下がり、将来の方向性を模索するときがあった。そのときには、製品のデザイン性を高める努力をするということだったが・・・・結局、機能重視の方向に舵取りを変更したようだ。

 衣料品で機能を強調するのが悪いというわけではない。「ブラカップ内蔵型キャミソール」なんて解説は、近未来ゲームでの戦闘服を思い出してしまうけれど、少なくとも、カジュアル衣料品ということで同類視されているギャップ、ザラ、H&Mでは、高機能戦闘服は開発できないだろう。

 日本人は職人気質でコツコツ丹精こめて完璧なモノをつくるのに長けている・・・といわれる。その気質のせいもあってか、日本の工業製品は技術志向になる傾向が高い。ブランドのイメージや個性を築くことを考えるよりも、なるべく低い価格内で高機能を付加しよう・・・と考えてしまう傾向がある。そういった傾向が、ファッションブランドでも発揮されているのがユニクロというブランドだ。

 衣料品に機能が付加されること自体はOKだ。だが、工業製品製造業的メンタリティは諸刃の剣で、ユニクロの弱点でありアキレス腱になりうる。

 「機能」というものは、それがどういったものであるかが具体的に説明できるし理解もしやすい。だから、マネしやすい。柳井社長は小手先だけではマネできるものではないと言っているが、日本の家電やエレクトロニクス製品メーカーだってかつてはそう思っていた。

 機能は新興企業や競合企業も目標として掲げやすい。あそこの製品より高機能なものをあそこより安く売るという目標は、具体的なぶん、達成しやすい。ソニーやシャープ、NECが開発製造した高品質・低価格製品を超えるモノをつくれるメーカーが国内外から登場したように、ユニクロ人気が続けば、必ず、競合相手が出てくる。そして、消費者が知覚できる品質の違いには限りがあるから、結局は、低価格競争になる。これは、工業製品の宿命だ。

 家電製品でいえば、英国ダイソンやデンマークのバング&オルフセンはデザイン性を強調することで、他社との差別化をはかり価格の高い製品を販売することに成功した。ファーストリテイリングも、2010年までに連結売上高で一兆円達成の目標を達成するためには、機能中心の低価格で工業製品的衣料品ブランドを販売しているだけでは無理だろう。高級ファッション・ブランドを持たなくてはいけない。もちろん、そんなことはわかっているから、ファストリは世界市場に通用するブランドを買収しようとしているわけだ。2007年にはバーニーズ・ニューヨークを買収しようとして中東系ファンドに競い負けした。が、今回の経済危機はユニクロにとって大きなチャンスだ。潤沢な現金をもとに、割安な値段でヨーロッパの高級ファッションブランドを買収することができる可能性は非常に高い。

 そして、そのブランドをファーストリテイリングの工業製品製造業的メンタリティ(企業文化といってもよいかもしれない)で染め変えようとしない限り、一兆円どころかもっともっと成長することができるだろう。不況に強い機能重視の高品質で低価格のユニクロと、好況時に利益をもたらしてくれる高級高価格ファッションブランドの2つを持てば鬼に金棒。好況・不況の景気サイクルが短期化する不確実な時代で持続性ある成長をとげていくことができる。

 ところで、ユニクロって、アジアはべつにして、北米やヨーロッパでも人気が出るブランドなのだろうか? クールジャパンのイメージでいけば、ユニクロよりは「MUJI無印良品」だ。禅やミニマリストの哲学を表現した製品だと受け取られている。つまりブランドのイメージや個性が認識されているということだ(もっとも、欧米では衣料品よりは日曜雑貨のほうが人気があるらしい)。ユニクロのような機能的衣料品は通信販売のほうが売りやすいかもしれない。

 だいたいにおいて、ヒートテックのような防寒肌着って西欧人に売れるのか? どちらかというと暑がり体質で日本人のように冷え性のひとって余りいないのでは?・・・と思っていたら、あにはからんや。いま、アメリカでヒットしているのが「袖のついた毛布のスナギー」。修道院の僧衣のような形の毛布で、10月にテレビ通販で発売され、3ヶ月で400万枚売れ、中国での製造がまにあわなくて、現在では注文してから4~6週間待たされるらしい。「スナギー Snuggie (Snuggleというのは,暖かさとか愛情を求めて寄り添うとか気持ちよく横たわるといった意味)」は読書用電灯がおまけについてわずか$19.95。家でそれを着ながらソファーに寝っころがってテレビをみたり読書したり・・・不況で巣ごもり状態になっている消費者にはぴったりだというわけだ。しかも、暖房の温度を下げて暖房費を節約できる。

 スナギーってどんなものか知りたいかたは、下のページにアクセスするとTVショッピングのビデオが見られます。https://www.getsnuggie.com/flare/next

 念のために強調しますが、以上のコメントはユニクロを批判しているわけではありません。ユニクロがファッション・ブランドとしては非常に稀有なブランドだということ、そして、ユニクロをつくった企業メンタリティがあるとしたら、それが、果たして高級ファッション・ブランドとあいまじわることができるかどうか?・・という疑問を投げかけてみただけです。そして、最後に付け加えます。私もヒートテック愛用してまーす! 冬の初めに買ってみてよかったので、もっと買おうと再度お店を訪れたら、もう、私のサイズはありませんでした。来年は早めに買いにいきまーす!

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参考文献:1.「ユニクロ方式寒さ知らず」 読売新聞1/26/09. 2.「ユニクロ快走どこまで」、日経新聞 10/3/08、3、 「衣料、ユニクロ一人勝ち」 日経新聞 8/25/08, 4.Jack Neff, Marketing's New Red-Hot Seller: Hunbule Snuggie, AdvertisingAge 1/26/09 5. Kerry Capell, Zara Thrives by Breaking All the Rules, Business Week, 10/9/08

Copyright 2009 by Kazuko Rudy, All rights reserved.

2009年1月 8日 (木)

不況下で巣ごもる消費者にモノを売る 

Stnd007s一度、実験してみたいと思う。政府や日銀が発表する経済指標が明らかに景気後退を示しているときに、不景気とか不況とかにまったく関係ないニュースを流す。日比谷公園に集まる仕事も住居もない人たちにインタビューする代わりに、お正月休暇に海外(しかも、韓国とか台湾とかいった近場じゃなくて遠くヨーロッパまで)出かけるひとたちにインタビューして、ファーコートに身を包んだ美人が「ウィーンでニューイヤーコンサートを聴いてきます」と答える。あるいは、「オーストラリアで夏を楽しんできます。青いサンゴ礁が待ちきれなくって・・・。毛皮の下は水着ですわ」なんてのもいい。

 景気のよいニュースばかり流れてきたら、買い控えはもっと少なくなるかもしれない。なんたって、日本人の一世帯当たりの平均金融資産は1259万円(2007年度)で、この金額はアメリカの三分の一程度だが、英国、ドイツ、フランスよりも高い。しかも、この1259万円の5割をしめる預貯金額だけを比べると、アメリカよりも高い。つまり、日本人はゲンナマをもってるってことだ。(ひたすら自分の論理を追求していきたい私としては、日本人は、住宅ローンとか老後の暮らしのために貯金が必要だというような論理の邪魔になる話はシカトする)。

 要は、私が言いたいことは、生活に余裕があるひとはけっこういる・・・ということだ。

 消費者調査をすれば、「高いものは買えません」とか「生活は以前より苦しくなった」と答える割合が多いことは事実だ。だが、「100円でも安いものを買い求める」と答えたひとが、人気のバームクーヘンを買うために行列に並んだり、改築前の歌舞伎座での「さよなら公演」を見るために一万円以上のチケットを買っているのも事実なのだ。

 日本社会は全体的に「不況なんだからそれに似合った行動をとらなくてはいけない」ムードに陥っている。そして、まわりに同調することで文明を築いてきた人間としては(同調については「不可解な消費者行動シリーズNo.5」、ムードについては「注目のキーワード4」を読んでみてください)、そのムードから逸脱した考え方をすることはできない。たとえ、自分にはコートを買う金銭的余裕があったとしても・・・だ。

 そういった不況ムードに陥った(お金を持っている)消費者セグメントに、どう対応したら、モノを買ってもらえるのか? 

 まず大事なことは、購買を正当化してあげること。

 クビになった派遣社員たちの様子が連日ニュースで報道されれば、必需品でもないものを買うことに罪悪感を感じるようになる。だから、消費者は、無意識のうちに購買を正当化する理由を探している。食料品だと高級・高額品でも売れるのは正当化しやすいからだ・・・「病気をして医療費を払うよりは、品質のよいもの」、あるいは「たまには栄養価の高いお肉も食べなくっちゃ」。同じ理由で、健康関連商品も正当化しやすい。自分だけのためではなく、家族のための消費も正当化しやすい。任天堂のWiiは、家族と遊ぶ、健康のために使う・・・・など、購買を正当化する理由をいくつも挙げられる不況にも強い商品だ。

 アメリカでの実験: 消費者は生活や仕事の必需品(need)と自分の欲望を満たす贅沢品(want)とを同時に並べられると、たとえ、贅沢品のほうが買いたくても、購買が正当化できる必需品のほうを選択する。また、必需品は定価で買うが、自分の楽しみのために買う贅沢品は割安になっているほうが正当化しやすいので買う率が高くなる。また、贅沢品を買うときには、正当化できる効用を強調しようとする。たとえば、高級スーツを買うときに、「これなら、ちょっとしたパーティにも着られるし、仕事で大事なクライエントに会うときにも着られる」・・・本当の目的は同窓会に着るためだが、仕事の必需品でもあると購買を正当化できる言い訳を考える。

 アメリカでは不況だと口紅が売れるという。数百ドルする洋服は買い控えるが、「それに比べれば口紅2本で気分がハイになれば安い買い物だ」と正当化しやすいからだ。ちなみに、厳しい経済情勢にある韓国では、いま、赤い口紅が非常に売れているそうだ。

 「あなたがこれを買うことが社会に役立つことになる」と正当化してあげるために、購買金額の1%はXXXに寄付されます・・・という仕組みが使われる。ただし、環境保護団体に寄付されますという漠然としたものよりは、非正規労働者の雇用促進を進めるXXXに寄付されますとか・・・なるべく具体的に説明したほうが、罪悪感を消滅させる効果が高い。

 不況時にはネット販売が伸びる。その理由を、低価格とか、配送費無料とか交通費がいらないとかいったお金の観点からだけで考えるから、「だったら、自分たち店舗小売業はもっと価格を安くしなくっちゃ」・・・となり価格競争の底なし沼に足を突っ込むことになる。

 日本でも昨年のボーナス商戦において、デパートの不振をよそにネット通販が売上最高を示したそうだ。野村総合研究所は、2008年にネット通販は前年比21.6%増の6兆二千億円に達するとしている。ネット通販が不景気のときに伸びると、必ず付け加えられるコメントが店舗販売に比べて「販売価格が安い」とか「交通費がかからない」だ。だが、こういった理由は、実は、消費者のもっと強い動機を無視している。

 日米の調査・実験によって、ネット上で消費者は価格を比較して一番安いものを買っているわけではないことがわかっている。

  1. アメリカでの調査: ネットにより価格の透明化が進み、ショッピング・ボットの普及が進んでいるにもかかわらず、オンライン購買者は同一商品に異なる価格を支払うことに抵抗がない。たとえば、書籍市場においては、オフライン店舗間よりもオンライン店舗間における価格のばらつきが大きく、高い価格を提供しているサイトが市場シェアを拡大しているケースもみられる。
  2. 日本での実験:一ツ橋大学物価研究センターと価格ドットコムとの共同研究によって、「ネット上で簡単に価格が比較できるようになった結果、一番安い価格を提示する店が顧客を奪いとることになり、他店舗は淘汰されるであろう」という予想は間違っていたことが明らかになった。2つの店舗間比較で価格が高いあるいは低いときの価格差とクリック率のデータを分析した結果、消費者は最安値のオンライン店舗で購入するとは限らないことがわかったのだ。

 つまり、低価格だけがネットで買う理由ではないということだ。ショッピングに外出するという活発な行動を取りたくないムードにあるから、消費者はネットを利用するのだ。ちなみに、アメリカにおいては、大恐慌以降の6回の不況時すべてにおいて、ダイレクトマーケティングが前年対比で成長している。

 まず、最初に理解しなくてはいけないのは、不況時には消費者がいつも以上に「損失回避性」ムードになっていることだ。最近人気の行動経済学で最も重要な概念は「人間は損失を同額の利益より大きく評価する」ということだ。1万円を得するのと損するのとでは、損することから得る不満足は得することから得る満足感より2~2.5倍は大きいという。現状からの変化は悪くなる可能性も良くなる可能性もある。しかし、「損失回避性」のある消費者は悪くなる可能性が少しでもあれば、たとえ、その確率が低くても、現状がよほどいやでもない限り現状を維持しようとする。

 「巣ごもり状態」にある消費者は、みな、この「現状維持バイアス」、つまり惰性にとらわれている。英語でいうところのコクーン(cocoon /カイコなどの繭)状態にある消費者は、外に出て行きたい気持ちもあるのだが、面倒くささが先にたつ。

 ダイレクトマーケティングが不況に強いのは、巣ごもりする消費者がカタログやデジタルメディアで自宅で買い物ができるからだ。不況時こそ、ネットで安いものばかり販売しないで高価格品や贅沢品を販売するチャンスなのだ。ただし、購買を正当化するために、割安にすることは重要だ。贅沢品なら割引しても充分な利益が出るはずだし・・・。そして、店舗小売業は利益の出ない低価格品販売に焦点をあわせてばかりいないで、巣ごもりしている消費者のニーズにあわせてネットスーパーを強調し、同じ食品や日用雑貨品でも高額・高級タイプのものが売れるように仕向ける。

 一歩足を踏み出すのをためらっている「現状維持バイアス」に陥っている消費者には、「大丈夫だよ。行動を起こしても・・・」 という安心感を与えるメッセージを発信して、背中を一押ししてあげなくてはいけない。

 アメリカで経済危機が発生してからのコマーシャルで評判になったのはチャールズ・シュワッブ証券会社のコマーシャルだ。創業者で現在70歳になるシュワッブ本人が(この人は学習障害児であったが成功し、また、慈善活動に熱心なことでも知られている)登場して、「私はこういった危機的状況を少なくとも9回は経験している・・・忍耐強くあれ・・・でも、楽観的であることも必要だ」といったようなことを淡々と物静かに話すだけのインタビュー形式のコマーシャルです。しかし、その率直で正直な話し方は(人格者と尊敬されているがゆえに)、消費者に安心感と希望を与えるものです。日本でいえば、たとえば、松下幸之助が生きていて、「あんたがお金を使ってくれることが景気を良くすることになるのです」とか言って、購買を正当化してくれたほうが、定額給付金をばらまくよりはよっぽど消費向上には役立つでしょう。

 ところで、アメリカで不況のときの良く売れるといわれる商品のなかで面白いものを3つ紹介します。

  1. スープ・・・安い値段で満腹感が味わえるからでしょう。スープの一種ともみなされるラーメンもよく売れています。とくに東洋水産のマルチャンラーメン(maruchan rahmen)は70年代や80年代の不況のときも大人気。今回も種類によって違いますが5%から40%売上が高くなっているそうです。
  2. 便秘薬・・やっぱりストレス性の便秘でしょうか?便秘薬は不況時にはいつも売れ、昨年秋には20%以上も伸びたそうです。
  3. スパム・・・迷惑メールじゃなくて、沖縄のゴーヤチャンブルに使われる缶詰のポークランチョンミート。もとも、1937年の大恐慌の最中に発売されたもので、第二次世界大戦にアメリカ兵時の常備食(だから、沖縄に普及した)で、すでに71年の歴史がある。現在、売上は二桁台の成長で、ミネソタ州の工場は一週7日無休のダブルシフトでフル稼働しているそうだ。このスパムが売れるのは安いからではなくて、不況時に食べるものだというブランドイメージが定着しているからだという説がある。つまり、100g当たりの値段を比べると、実際には豚肉やひき肉を買ったほうが安かったりする。だが、缶詰のデザインも昔から変わらず、なんとなくリッチじゃない雰囲気がそこはかとなく漂っていて、それが不況時に売れる理由なのだともいわれている。

 このスパムの例からもわかるように、消費者は必ずしも値段をきちんと比較して安いから買っている訳ではないのだ。安いというイメージで買っているのだ。不景気のときに買うべき商品であるスパムを買うことで、自分が正しいことをしているという良心の悦びを楽しんでいるのだ。消費者心理を理解する点において、これは非常に興味深いヒントだ。

 ところで、スパムを製造しているホーメルフーズは2008年12月に伊藤忠商事と輸入代理店契約をして、日本市場で本格販売を開始すると発表したそうです。景気サイクルが短くなる時代において、日本にも不景気にふさわしいイメージのブランドが必要だと思ったのかな? でも、それだったら、日本にも、コンビーフの缶詰がある。昔ながらの牛のデザインの缶詰は、レトロでつましい雰囲気をかもし出している。

 「ノザキのコンビーフよ。スパムに負けるな!」 

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参考文献: 1.Matthew Creamer, Spam: The Ultimate survivor, AdvertisingAge 6/16/08,2. Arvind Sahay, How to Reap Higher Profits with Dynamic Pricing, MIT Sloan Management Review Summer 2007, 3.Recession-Proof Business, AdvertisingAge 12/15/08, 4.Laura Petrecca, Some ad campaigns rose above the bad times in 2 ad campaigns rose above the bad times in 2008, USA Today 12/28/08,.5. Natalie Zmuda, Why It's No Time to Neglect Cause Efforts, AdvertisingAge, 10/13/08. 6. Emily Bryson York, Economy May Be Rotten, but It's Ripe for Package Food, AdvertisingAge, 9/22/08, 7.Erica Mina Okada, Denying the Urge to Splurge, Harvard Business Review, Sept. 2005,8. 渡辺努、水野貴之、比較サイト普及とネット上での価格形成、日経新聞、11/28/08、9.ネット通販は売上最高、日経新聞、12/19/08

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