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2008年3月23日 (日)

ウォルマートという名のTV局

 メーカーが小売業と比べて相対的にその力を失っている理由にはいくつかある。そのひとつに、消費者との接点を持っていないことがあげられる。メーカーには消費者と直接接触して商品を売り込む機会は少ない。でも、その代わりにマス媒体があった。とくにTVという威力ある媒体があって、コマーシャルを大量に流せばある程度モノは売れた。

 だが、そのTVがかつての馬力を失っている。マッキンゼーの調査によれば、アメリカにおいては、TV広告の威力は2010年には1990年の35%に減少するそうだ。チャネル数が増えた結果、TiVoに代表されるDVRを利用する消費者が増え、「コマーシャルが飛ばされる」ようになったのだ。メーカーは、ネット、プロダクトプレイスメント、ゲリラマーケティングなどさまざまな新しいメディアや風変わりな手法を駆使しているが、こういった「話題にはなっても効果的には限定されている」手法では、TVの失われた威力を補うことができないでいる。よって、ブログとかSNSとかサーチエンジンとか騒がれてはいても、米メーカーは大部分の広告予算をいまだに旧来からのマスメディアに投資しているのだ(広告費用の10~20%を新しいメディアに使っているのはメーカーの二分の一、そして三分の一が10%以下しか使っていない)。

 メーカーが消費者に影響を与える手段を以前にまして失ってきているというのに、小売業は、消費者ともっとも濃密な関係を持てる接点(タッチポイント)である店舗を、より効果的に利用する方法を拡大している。

 最近、注目されているのは、店内TV放送。そして、この分野でも先駆者は、(いわずもがなの)ウォルマートだ。

 ウォルマートが店内テレビ放送を始めたのは1997年。そして、2007年現在で、アメリカ全土における3100店舗に12万5000台のスクリーンが設置され、毎週1億2700万人が見る(厳密にいえば、見る可能性がある)。コマーシャルだけでなく、ニュース、天気予報、スポーツ、コンサート、会社のPRなども流し、コマーシャル自体の放送時間は一時間に34分となっている。広告主はクラフト、ペプシコ、ユニリーバといった大手消費財メーカーを含めた140社で、コマーシャル一本を4週間流すのに、(コマーシャルの長さや放送する店舗数によって値段は上下するが)、13万7000ドルから29万2000ドル支払う。ウォルマートは広告収入の具体的数字を公表するのを避けているが、数百万ドル・レベルだといわれている。粗利益率の低い小売業にとっては純利益を押し上げてくれる貴重な財源だ。

 ほとんどの商品の購買決定の70%以上は店舗内できめられるという。そして、2005年の調査によると、来店客の約42%が店内のTVスクリーンから流れるコマーシャルに目を留める。しかも、店内テレビ広告の平均想起率は56%で、(当然のことながら)通常のテレビ広告の21%よりずっと高い。特定商品の広告を店内TVで見た来店客の15%がその商品を買うという調査結果もある。まさに、シリーズ第1回で紹介したP&GのCEOの名言どおり・・・「メーカーは消費者と交渉しているというのに、小売店は購買者と交渉できる」のだ。小売店は消費者が購買するその場で、最適なタイミングで購買者に商品を売り込むことができるのだ。

 ウォルマートTVは最初こそ視聴者数の規模が話題になった。毎週1億3000万人が見ているTV局は、CBS、ABCといった米四大ネットワークに次ぐ、第五のTVネットワーク局だ・・・といった具合に・・・。だが、ウォルマートTV局はネットワーク局とは違い、セグメンテーションやターゲティング機能もそなえるように進化した。衛星放送からインターネット・システムに変更することで、どの店舗のどの場所に置かれたスクリーンにどのコマーシャルを流すかが変更できる。たとえば、歯磨き関連の商品が並んでいる棚近くにあるTVスクリーンからは、ファイザーのリステリンの使い方を説明するインフォマーシャル広告が流される。ボディ関連商品の陳列棚付近を歩いていると、前方の天井から吊り下げられたTVスクリーンから、「ユニリーバのダブ製品を使っているおかげで肌がとってもきれいになったわ」と自慢げに語るウゥルマートの従業員が登場するコマーシャルが流れてくる。店舗のある地域の特徴や気候・経済状況にそった適切なコマーシャルを放送することもできる。

 ウォルマート以外の大規模チェーン小売店も店内TVネットワークを拡大する傾向にあり、2008年に小売業がメーカーから獲得する広告収入は3億3000万ドルに達すると予測されている。

 「これじゃあ、太刀打ちできないな。小売店PBと競争するために、店内でコマーシャルを流してもらう。そのために、小売店に広告料金を支払う。『ふんだりけったり状態』だな。頼りにしていたマスメディアの衰退とともに、メーカーもかつての栄光を失っていく運命にあるのか?」 

 「大丈夫だよ。メーカーもネットを使えばいい。サイトで消費者との相互交流をはかる。ブログやSNSのクチコミ宣伝だけではおぼつかないのなら、ネット販売すればいいじゃないか? 単価の安い商品はまとめ買いしてもらわないと配送費のほうが高くなってしまうという問題はあるけど・・・・」

 たしかに、日用品とか食品とかをメーカーが直接ネット販売するためには、克服しなくてはいけない多くの問題がある。だが、その話は後にするとして、ここで提議したいことは、「消費財のネット販売ですら、ウォルマートのような大規模チェーン小売店には勝てない」ということだ。アメリカでマルチチャネル化が進むなか、「ウェブサイトを駆使している店舗小売業者は、ネット販売業者との競争において優位に立てるだろう」と予測している証券アナリストもいるくらいだ(注目のキーワード5「サイトからストアへ」参照)。 

 インターネットで儲けるビジネスモデルは、結局、いまのところ、ネット上でモノを販売するか、あるいは人間をたくさん集めることによって広告を販売するかだ・・・ということがわかり、つかみどころのなかったモノがつかめるようになって、なんだかホッと安堵したひとたちも多いことだろう。こんなことを書くと、「ウェブ進化論」の著者梅田望夫氏に「ネットの世界に住まない」旧世代の典型的コメントだとタメ息つかれそう。

 だけど、しょーがないじゃん! それが事実なんだから。

 だいたいにおいて、インターネットに民主主義とかイデオロギーとか哲学を見るのは勝手だけど、だからといってネット・ベンチャーの担い手がそれだけ思想家というわけでもないし金儲けに興味がないわけでもない。(って、ネット評論家全般にみられる風潮を皮肉ってるだけで、「ウェブ進化論」を批判しているわけでは決してありません。この本は、「将来ともに捨てない本」として私の書棚に確固たる位置を占めています)。

 話をネット広告にもどします。

 広告料金を徴収するには、1)より多くの人に広告を見てもらうか、2) 数は少なくてもターゲットとして適切な人たちに広告を見てもらう。Web2.0も、結局のところ、その2つの手段を提供する仕組みづくりのために利用されている。要は、好ましい客をたくさん集めて広告収入を増やす・・・そのために様々なテクノロジーが駆使されているのだ(そう考えると、また、ホッとする)。

 この観点からネットビジネスの現状を見ると、ウォルマートのTVネットワークがけっこうすごいものだとわかってくる。広告を見る場に集まる人の数もすごい(アメリカだけで一週間1億3000万人)。だが、購買するその場所でRelevance(関連性)の高い広告を流すことができるという行為は、どのメディアにもマネができない。この限りなく臨場感の高い広告には、デジタルメディアにも到底マネのできない、説得力、ド迫力がある(もちろん、その場でダウンロードできるデジタル商品は別だ)。

 人が集まる、しかも、買い物をするために集まる物理的な場所をアメリカだけでも約3400ヶ所(2008年現在)所有しているということは、すごいことなのだ。アナログでもこれだけの規模の場所を確保できていれば、ネットには負けない、いや、それ以上の力を発揮することができる(海外の約3000店舗にTVスクリーンを設置する投資費用を考えると、店内TV網を拡大する費用はネット上ほど安くはないことは認めるけれど・・・)

 梅田氏によれば、インターネットの真の意味は、「不特定多数無限大の人々とのつながりを持つためのコストがゼロになったこと」だそうだ。不特定多数無限大の人々から1円もらえば一億円になる。これは、従来では、儲からないビジネスモデルだった。でも、数が増えれば儲かることになる・・・と「ウェブ進化論」には書かれている。ウォルマートはもともと薄利多売で数が増えれば儲かることを信念に、強迫観念にかられたように、国内そして海外で店舗数を増殖させてきた。この店舗がネットと結びついたとき、アマゾンのようなネット専門販売企業にはマネができない底力を発揮する。そして、また、ショッピングすることを目的とする人が集まる場所をヴァーチャルの世界ではなくリアルな世界で提供することにより、非常に魅力的な広告の場を提供し広告料金を徴収することもできるようになるのだ。

 (日本の場合は、コンビニや郵便局で同じようなことができるし、すでに、コンビニではレジ広告、ATM設置、ネット購買商品の受け渡しなど物理的拠点としての機能を生かしたビジネスが始まっている。ただし、日本の場合は、TVの威力はアメリカほどには衰えていない。いぜん強力な媒体だ。したがって、コンビニや郵便局は広告メディアとしては利用価値はまだ余り高くないかもしれない。こういったことについては、また、次の機会に・・・)。

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参考文献:1.梅田望夫「ウェブ進化論」ちくま新書、2.「販促は店内TV]日経MJ、3/24/07、2.Eric Newman, What's In-Store? Lots of TV Ads, Brandweek  Com. 11/19/07,3.Laura Petrecca, Wal-Mart takes in -store TV to the next level, USA Today 8/28/07, 4. Constance L. Hays, Wal-Mart Is Upgrading Its Vast In-Store Television Network, The New York Times 2/21/05,5. Blair Crawford, et al., How Consumer Goods Companies Are Coping With Complexity, The McKinsey Quarterly May 2007

Copyright 2008 by Kazuko Rudy. All rights reserved

2008年3月12日 (水)

小売がメーカーになる日(小売とメーカーのバトルロワイアル)

 メーカーと小売りが合体した業態もある。たとえば、衣料品分野ではユニクロや無印良品のようなSPA(製造小売業)。だが、日用雑貨や食料品分野では、メーカーと小売店(総合スーパー)とに分かれていて、粗利益の10円や100円をどう分け合うかで熾烈なバトル・ロワイアルをくりひろげている。

「メーカーと分け合わなければ、もっと多くの利益を手中にすることができる」・・・・小売業者がPB商品をつくるようになるのは自然の成り行きだ。

 (日本では、PB『プライベート・ブランドPrivate Brand』と呼ぶが、英語ではプライベート・レイベルPrivate Label。生産を委託されたメーカーが製造した製品に小売店独自のブランド名が印刷されたラベルを貼ってPBとして販売する。だから、プライベート・レイベルと呼んだ)

  日本では、食料品の場合、NB(ナショナル・ブランドNational Brand)商品の粗利益率は20%前後だがPBは30~35%。よって、価格もNBより20~30%安くすることができる。総合スーパーのイオンは2011年までにPB商品売上比率を20%にすると発表。コンビニのセブンイレブンと総合スーパーのイトーヨーカドーを抱えるセブン&アイも、食品売上の15~20%をPBに・・・と計画している。大規模小売店の二強がいよいよPB導入に本腰をいれるということで、メーカーは戦々恐々としている。

 海外のPB商品の勢いはもっとすごい。米ウォルマートのPB比率は40%だが、食料品、日用雑貨品、衣料品、家庭用品など約30種類のPBがある。広告宣伝費をつかわないことで有名だったウォルマートも、自社PBのTV広告を始めたし、PB商品のためのロゴのデザインや広告コピーをつくる専任クリエイティブチームもつくった。ウォルマートは「大規模小売店を運営する能力だけでなく、ブランド管理のノウハウも持たなくてはいけなくなった」と業界筋は語っている。

 ウォルマートのPBで驚いてはいけない。なんといっても、PB先進国はヨーロッパなのだ。ドイツやフランスのディスカウント・ストアの超安値のPB、英国の総合スーパーの高級イメージのPBとの戦いに苦戦して、ネスレ、ユニリーパ、ダノン、ロレアルといった超一流企業の誰もが知っているグローバル・ブランドの売上が落ちているくらいだ。ヨーロッパにおける小売PB商品は、化粧品、ベビー用品、風邪薬などの大衆薬(そして、英国では金融サービス)にまで広がっている。こういった商品は、消費者がその品質や安全性に関してもっとも神経質になるタイプの商品であり、信頼のおける企業からしか買わないタイプの商品だった。

 伝統的に、小売のPB商品はNBより値段の安い類似品という位置づけだった。NBより品質が劣るけれど、その分安い代替品で、食品や日用雑貨という低関与品が中心だった。小売店は価格でNBより優位に立つことだけを考えて、NB商品になるべく似せてPBをつくった。こういった低価格のPB商品と競争するためにNBも価格を下げざるをえなくなり、結果、NBの利益率が低くなる。これは、いまの日本市場で見られる現象だ。(もっとも、小売はメーカーに対して、「もっと企業努力しろよ。小売のPBがこれだけ安くできんだから、てめえらだってもっと頑張れるだろ」って、まあ、もっと上品な言葉は使っているだろうけど、こんなようなことは言ってるらしい)

  1. NB商品に依存しているだけでは、他店との差別化ができない。なぜなら、NB商品はどこでも売っている。
  2. だからといって、価格だけで差別化したPB商品を販売しても、結局は、他店のPBやNBとの価格競争に陥り、利益が損なわれる。

 ・・・ということで、英国の大手スーパーは2001年ごろから、価格志向のPBだけでなく、高級品志向の顧客セグメントに合ったPB商品も開発するようになった。英国最大手の総合スーパー「テスコ」のPB比率は40~45%。労働者階級の家族のための低価格で低関与品のPBを販売すると同時に、高級イメージのグルメ食品からパッケージデザインに凝った化粧品まで、さまざまなPB商品を取り扱っている。

 (個人的感想でいえば、日本のセブン&アイは「低価格なNB類似品」的なPB商品開発に興味があり、イオンは英国型の「NB並みの価格で他店と差別できるような個性的PB商品」も開発販売したいという意欲があるように思われる)。

 大規模小売業はメーカーに比べて、自社PB販売において、次の4つの点で優位に立っている。

1.販売できる商品カテゴリーに制限がない: 

小売店なら食品から寝具のシーツ、子供のおもちゃ、家電・・・と範囲をひろげていっても消費者の心理的抵抗はない。だが、たとえば、アサヒビールがサプリメントを売るのはOKでも化粧品を売り始めたとしたら? 顔に塗るだけで酔っぱらいそう。ビール会社製造のベビーフーズもちょっと買いたくない。

英国の大手スーパー「セインズベリー」が2002年に発売したトイレタリー/化粧品のPB「Active Naturals」はセロリ、蜂蜜、オレンジ、緑茶といった自然の原料が少なくとも2つ含まれていることを特徴としている。名前も「マンゴ&ネクタリン ボディクリーム」とか「ライスミルク&バニラ ボディーローション」なんておいしい名前になっている。そして、パッケージは、材料に使ったマンゴやネクタリンの写真がデザインされたお洒落でファッショナブルなもの。化粧品にはうるさい私もちょっと使ってみたくなるパッケージだ。食べ物を使うことで、食料品を販売しているスーパーが発売するのにふさわしい化粧品・・・そんなふうに消費者に知覚されるように工夫したのか? セインズベリーは、「Ative Naturalsというブランドは、食品を買うときに、どういった食材が使われているか、その真正さを厳密にチェックするタイプの消費者にアピールすると考えて開発されました。顧客データを分析したところ、こういったタイプの消費者は、我々の顧客の40%を占めることがわかったのです」と言っている。

2.店舗そのものが広告媒体になる: 

NBメーカーの卸値が高い要因のひとつは莫大な広告費が含まれているからだ。だが、大規模小売店は、店舗内のPOPディスプレイや陳列手法を最大限に活用することで自社PBを宣伝できる。P&Gのアラン・ラフリーCEOは「メーカーは消費者と取引しようとしていますが、店舗は購買者と取引できるのです」といっている。なんといっても購買決定の70~80%は店舗内で決まる。コマーシャルを流しているテレビの前ではないのだ。

3.小売業者は消費者について知識をもっている: 

日本や米国の大規模小売店はポイントカードは発行していても、顧客データを役立つ形で分析するまでにはいたっていない。英国の大手スーパーは買い物客の顧客データベースに基づいて金融サービス業を始めたくらいだ。顧客データに基づいて、適切なセグメントに適切なPB商品を開発し、そのセグメントにDMや雑誌を通じて宣伝する。

4.サプライチェーンに融通性がある: 

発展途上国援助への関心が高まるなか、英国の生協はチョコレートのPB商品にフェアトレードの材料を使うと発表した。NBメーカーは、原材料の品質や価格を長期的に維持するために、原産地サプライヤーに資本参加したり、あるいは、自ら現地の施設に投資をする。簡単に仕入先を変えることはできない。ネッスルが人気ブランドの「キットカット」にフェアトレードの原料を使おうとしたら、経費が高くなり値上げせざるをえなくなるだろう。

 カナダの最大手スーパー「ロブローズ」は、NBよりも高品質でそのくせ安いPB商品で有名だ。「プレジデントの選択President's Choice」というこれみよがしの名前をもったPBは、直接競合関係にならないスーパーで販売されている。アメリカ、香港、南アメリカのスーパーでも販売されている。ロブローズが食品卸業も兼ねているから比較的たやすくできたことではあろうが、それでも、小売業者が自社ブランドを他の小売業者に販売するという現象は注目に値する。

 「小売はメーカーにすでになっている」・・・のだ。

Ilm05_cb10029s_2独断度100%のコメント

 小売店PB商品を製造しているのはメーカーだ。PB専門に製造するメーカーもあるが、NBメーカーも小売PBを製造している。それは、誰もが知っている事実だ。でも、消費者には秘密にするものだ。だって、同じメーカーが、たとえば野菜ジュースをつくっていて、PBとNBと値段が違っていたらおかしい。メーカーとしては「品質が違います」と言い訳するつもりかもしれないが、高品質だから150円、低品質だから120円というのは、正しいようで正しくない。どういった具合に品質が悪いのだ?と顧客に尋ねられて、どう答えるのか? まさか、「悪い材料を使っています」とか「味がちょっと落ちます」とかは答えられないだろう。そういったふうに野菜ジュースの材料や加工過程を変えることで値段を上下できるということは、メーカーのNBの品質そのものの真正さがゆらいでくる・・・少なくとも消費者はそう感じるだろう。どんなに正当化しようとも、「XXが違うから値段が違います」という言い訳は、きちんとしたメーカーならできないはずだ。

 だからといってメーカーがPBを製造するなと言っているわけではない。工場の稼働率を上げ生産性を上げ、ひいては、NBのコストをさげるためにPB生産を引き受ける必要もある。あのP&Gだって、アメリカではやっていないが、ヨーロッパでは「工場施設を遊ばせないため」にトイレットペーパーやペーパータオルの委託生産を引き受けているという。ただし、あくまで、密やかに・・・・だ。

 ところが、日本では、NBメーカーがPB生産を引き受けていることがおおやけにされた。2007年、セブン&アイはPB「セブンプレミアム」のパッケージの成分表示部に委託製造業名を示すメーカー名を印字すると発表した。消費者にも誰が製造しているかわかるってことだ。「大手メーカーと組んでいることをあえて表記し、消費者が気にかける安全性を担保した」のだそうだ。でも、これはおかしいだろう。自分たちは消費者に信頼されていない・・・と自覚しているのか? それとも、何か問題が起こったら、メーカーの責任にすればよいということなのか? メーカーが小売の圧力に屈したということだろうけど、これは、やっぱり、おかしいと思う。

 ネスレ、クラフト、デルモンテ、ユニリーバなど、グローバルブランド・メーカーも、小売のPBブランドを(とくにヨーロッパでは)供給している。15~20年前なら絶対にしなかった。たとえしていてもウソをついた。でも、背に腹は変えられない・・・といったところか。最近では、半分、おおっぴらになってきている。だけど、やっぱり、消費者が小売PB商品のパッケージを見て製造元としてNBメーカーの名前を見つけるのはおかしいと思う。それは、メーカーが自分のブランドの価値を自ら引き下げていることと同じではないだろうか? (『おかしいと思う』という言葉を4度も使ってしまいました。それほど『おかしい』と思っているのです。あっ、また、使ってしまった!)

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参考文献:1. Meera Mullick-Kanwar, The Evolution of Private Label Branding, BrandChannel  Com. 5/9/04, 2. Nathalie Hayward, Private Label in the U.K. 11/26/02-12/2/02, Euromonitor International, 3.Carol Matlack, The Big Brands Go Begging in Europe, BusinessWeek  3/21/05, 4. セブン&アイとイオンのPB戦略、日本食糧新聞5/30/07、5. PB商品2強激突、日本経済新聞5/18/07、6.セブン&アイが自主企画商品、日本経済新聞 7/09/07、7

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