製品ライフサイクルなど存在しない! (ブランドと感情と記憶No.5)
製品ライフサイクル理論(PLC理論、Product Life Cycle)はマーケティングの入門書にはいまでも必ず紹介されている。
製品にも生物のように寿命というものがあって、導入期、成長期、成熟期、衰退期の4段階をへて死にいたる。だから、それぞれの段階にあったマーケティング戦略をとりなさいよ・・・・という考え方だ。
製品ライフサイクル理論は60年代半ばまでには一般的に知られるようになっていたらしい。現代マーケティングの理論化に貢献したセオドア・レビット教授は1965年、ハーバードビジネスレビューに、ライフサイクル理論に基づいたマーケティング戦略について書いている。
たとえば・・・・ナイロンは最初は軍事用のパラシュートとかロープ用として使われていたが、その後、女性用のストッキングとして使用されるようになった。カジュアル化が進み素足の女性が増えストッキング市場が衰退期に近づいてきたとき、メーカーのデュポンは、柄模様のついたストッキングやカラフルなストッキングを発売し、製品のファッション性を強調して寿命を延ばした。ストッキング以外にも、タイヤ、衣服用繊維、敷物など、ナイロンの新しい使い道を次から次へと開発していったことで、ナイロンは成長期を持続している・・・・・というぐあい。
レビット教授は、「商品は自然にまかせれば死んでいってしまうのだから、適切なタイミングで新しい命を吹き込む努力をしなければいけない」と主張するために、ライフサイクル理論をガイドラインとして使ったのだ。
だが、70年代半ばには、ライフサイクル理論の妥当性そのものについて疑問が出されるようになった。
1976年には、「PCLなど忘れちまえ!」という論文で、次のような調査結果が発表されている。
- 食料品、美容健康関連の100種の商品カテゴリーにおいて、実際の売上とモデルとを比較したところ、PLCの4段階に従う商品はわずか17%しかなかった。
- いわゆるブランドと呼ばれる著名商品ではPLCの流れに沿うものはほとんどなかった。
PLCはマーケティング活動の従属変数であり、マーケティング戦略とか計画に使う独立変数ではない・・・・と論文の著者は結論づけている。
つまり、自分たちが充分な努力をしなかったために長寿ブランド創造に失敗した。なのに、「どんな商品も死ぬ運命なんだから」と、ライフサイクル理論のせいにすんなよ・・・ということだ。
PLC理論は、1)新商品をむやみに発売することを正当化し、2)マーケティング努力の欠如を正当化する・・・とまで批判する学者もいる。
P&Gの最高執行責任者(COO)で日本法人社長の経験もあるロバード・マクドナルド氏は、日経MJとのインタビューで「ブランド育成の秘訣は何か?」と聞かれて「顧客を徹底的に理解することです。ブランドにライフサイクルはありません。常に古くさくならないようによみがえらせ続けることが重要だ」と答えている。
古臭くならないようによみがえらせる?
言うは易し行うは難し・・・だ。
実際のところ、多くの企業は消費者に公表しない目立たない形で商品をリニューアルしている。キリンビバレッジの「午後の紅茶」だって、20周年目に大々的に発表する形でリニューアルする以前に、すでに6度リニューアルしている。伊藤園の緑茶飲料「おーいお茶」も2005年に「16年ぶりの味と香りのリニューアル」とコマーシャルで訴える前に、幾度かマイナーチェンジし、2002年にはパッケージも一部変更している。
コカコーラが1985年に新しい味のニューコークを新発売して消費者から大ブーイングをくらい、数ヵ月後には昔ながらのクラシックコークを再発売したことは有名な話だ。だが、実は、創業以来クラシックコークの味は何度も微妙に変えられている。
消費者に気づかれない程度に・・・。
パッケージとかロゴとかシンボルマークでも、気づかれないよう微妙なレベルで変えられることはよくある。30年前のものと比較して、こんなに変わっていたのだ・・・と初めて驚くことがある。
そうかと思えば、大々的に鳴り物入りでリニューアルしなくてはいけない潮時というものもある。
ブランドを若返らせるために定期的にエステを施し、プラセンタの注射をする。場合によっては、シワとりの整形手術をするかもしれない。でも、顔を変えるほどの大手術はいけない。
「メルセデス・ベンツはメッキの施された重厚なフロントグリル、BMWは縦格子、アルファロメオは逆三角形、プジョーは猫目--。欧州メーカーはクルマの顔を大きく変えない。しかし、日本車のなかには全面改良のたびに『顔』まですっかり変わってしまうモデルが多い・・・・」と読売新聞(10/5/07)に書いてあった。
「新・車社会論」というタイトルのその記事には、自動車評論家の千葉匠氏のコメントものっていた・・・「ブランドイメージを浸透させていくには繰り返しが大事なのに、日本のメーカーは『昨日とは違うこと』を追求して自ら深みにはまっている」。
アウディのチーフデザイナーも「新モデルを発売したら7年間は売り続けるのが基本。売れないからとデザインで需要喚起を狙うのは邪道。ブランド価値が高まるデザインを目指している」といっている(朝日新聞10/13/07)
日本の売り手(メーカー)はすぐに飽きる。
入社以来ずっと同じ商品を売りづづけていれば飽きてくるかもしれない。同じ広告を制作しつづけるのにも飽きてくるかもしれない。でも、長寿商品のオロナミンCは1965年発売以来、ずっと、広告の基本テーマは「元気ハツラツ」だ。62年発売のリポビタンDは77年からずっと、広告テーマは「ファイト・一発!」だ。
飽きるということは、その商品への愛着がないということだ。自分が愛着を感じない商品を客に売ることはできない。
「あなたの手がけている商品は、あなたが死んでも生き続けるブランドになるかもしれないのです」
商売(あきない)の極意は飽きないことです。
だいたいにおいて、売り手が主張するほどに、日本の消費者は本当に飽き性なのか?
ってゆーかぁ・・・、消費者は多様化しているとか、個性化しているというのは本当のことなのだろうか?
この点については、次回に考えてみたいと思います。
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参考文献 1.Nariman K. Dhalla, et al, Forget the Produc Life Cycle Concept!, Harvard Business Review Jan-Feb 1976 2.Theodore Levitt, Exploit the Product Life Cycel, HBR Nov-Dec 1965 3.「商品寿命短命のカラクリ」日経新聞朝刊7/5/05, 4.「成果出す業務改革の現場」日経情報ストラテジー11/24/2006, p.178-181 5.「男にも好かれる企業に」、日経MJ8/6/07
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