« 2009年12月 | メイン | 2010年2月 »

2010年1月24日 (日)

アバクロと草食系男子

 

 昨年末からお正月にかけて2つの新聞記事が目につきました。

  1. 米国のカジュアル(でも、値段はちょっと高めの)ラグジュアリー・カジュアル衣料品チェーン「アバクロンビー&フィッチ(通称アバクロ)」のアジア1号店となる旗艦店が、昨年12月15日、銀座6丁目に開店した。アバクロのシンボルともなっているシャツから胸をはだけた、ないしは、シャツなど身につけていない半裸のイケメン・ストアモデル(店員のことをストアモデルと呼ぶ)も勢ぞろい。初日は、(最近の新規開店ではおきまりのようになっている風景だが)閉店まで行列ができた。
  2. 1月11日に成人式をむかえる男女1300人にネット調査をしたところ(マクロミル調べ)、男性の53.9%が自分のことを草食男子だと「思う」「どちらかというとそう思う」と答えた。自分は肉食系女子だと思うと答えた女性は11.8%。 男女ともに、恋愛に関しては50%強が「消極的」「どちらかというと消極的」と答えた。

 この2つの記事の間に、どういった関係があるのか? 男性肉体美のセクシーさを売り物にしたようなアバクロと、異性とのセックスに関心がないといわれている草食系男子との間には、「無関係」という関係しかないようにみえる。ところが、実は、この2つの間には、(週刊誌的な書き方をすれば)衝撃的な共通点がひそんでいたのだ!

 アバクロ店内でひときわ目立つのは、半裸の男どもが運動会をやっている大壁画(ちゃかしてごめんなさい。きっと、紀元前のギリシアで全裸の男たちがスポーツを競った古代オリンピックをイメージしてるんだよね)。こういった店舗の内装や、半裸の男性モデルがやたらと登場するカタログ(ネットでも見られます)から、アバクロンビーは「メトロセクシャル(Metrosexual)」のイメージそのものだとマーク・シンプソンは書いている。

 マーク・シンプソンは英国の一風変わったジャーナリスト。彼が、1994年に造語したメトロセクシャルという言葉は、2002年にアメリカで注目をあびるようになり、しばらくの間流行語になっていた。

 日本では、メトロセクシャルとは「都会(メトロ)に住み、女性のようにファッションやスキンケアに関心をもつ洗練されたライフスタイルの男性」といったような意味合いで紹介されている。が、これは、この言葉が造られた背景をまったく無視したものだ。マーク・シンプソンは、メトロセクシャルの代表的人物として、当時人気絶頂だったデビッド・ベッカムを例に挙げた。それは、彼がイケメンだとかセクシーだとかいった単純な理由ではなく、彼が、男性的(マッチョ)であるということはどういうことか?・・・という欧米のそれまでの基準を、公共の場で破った最初の有名人だからだ。

 ベッカムは、2002年に、男のなかの男であるべきサッカー選手が絶対してはいけないタブーを破り、ゲイ雑誌のグラビアに登場し、インタビューでも、「自分はストレートだけど、ゲイのアイコンと呼ばれることは嬉しい。他人から憧れの目で見られるのは大好きで、それが女性だろうと男性だろうとかまわない」と答えている。ベッカムは爪にピンク色のマニキュアを塗ったり、巻きスカートをはいて公共の場に登場した。また、奥さんのビクトリアが、「彼は私の下着をつけることが好きなの」などとも発言している。

 メトロセクシャルという言葉を造ったマーク・シンプソンによれば、メトロセクシャルな男は、異性ではなくて自分自身を一番愛している。ナルシストであり自意識過剰。だから、自分の外見やファッションに強い関心を持つ。こういった性向は元来はホモセクシャルのものであったが、ストレートの男性もこういった性向を示すようになった・・・・と書いている。 

 男女両方の憧れの対象となりたいと言うデビッド・ベッカムは、男性的とか女性的とかいう境界線を超え、「女みたい」と従来から言われてきたようなことでも、自分が好きなら平気でする。その結果として、メトロセクシャルの代表格として選ばれたのです

 当時、英国のマーケティングリサーチ会社が市場調査をしたところ、女性用に開発したスキンケア化粧品の10~15%を男性が自分のために買っていることがわかった。このセグメントをさらに詳しく調査したところ、ナルシズムやファッション意識が高いことに加えて、より優しく穏やかで、より繊細で、より家庭的で、仕事での競争や出世にはあまり関心がないことを発見した。(ここらで、やっと、日本の草食系男子との共通点が見えてきた)。

銀座のアバクロ店を訪れたゲイのひとが、ここはゲイのための店か!と喜んだという。また、女性客のなかには、女性専用の男性ストリッパーの店か?!と、これも喜んだという。ゲイの男性も女性も引き寄せる。だが、アバクロが具現化していることの本質は、欧米の若い世代にみられるナルシズムの世界なのだ

 さて、ここで、マーケティングNOW15(2009年10月12日)に書いた「宝島社女性誌とナルシズム」の記事を読んでいただきたいのです。その記事では、異性をひきつけるためではなく、同性の目を意識してお洒落する日本の若い女性たちのナルシズムについて書きました。そして、異性とのセックスに余り関心がないという要素だけでひとくくりされている「草食系男子」のなかにも、欧米のメトロセクシャルに共通するナルシストたちが存在すること。また、自信を喪失したナルシストたちはオタク化しやすい・・・ということも書きました。

 つまり、1万年くらいの間に構築された異なる社会や文化の枠組みによって、世界の各地域での表面的な違いはあっても、いまの新しい世代にナルシズムや自意識過剰な傾向がみられることは、先進国に共通しているようなのです。

 自己愛(ナルシズム)が余りに強くて異性に無関心になる。そしてまた、セックスそのものに無関心であるがゆえに、異性に無関心になる。

 英国の2009年の調査では、18才~59才の男性の15%がセックスに興味がないと答えています。これは10年前にくらべて40%の増大だそうです。男性が異性への関心をなくしている理由のひとつに、社会における男女平等の考え方がひろまったからだという説があります。

 進化の歴史をたどってみると、人類は過去20万年以上(いや、その前の類人猿の時代からいえば過去数百万年以上)、男女の役割は異なっていました。女は妊娠して子供を生み独立できるまで育てる。そういった役割を果たしてもらうために、男は、食べ物や安全を提供する。食糧や安全を継続して提供することができる「強い」男は、自分の遺伝子を遺すチャンスをそれだけ増やすことができる。人間に一番近い親戚の野生のチンパンジーの群れでの行動を観察して、メスに肉をプレゼントするオスは、他のオスよりも2倍も多くセックスしてもらえることがわかっています。これが、人類の数十万年の歴史の99.9%以上の期間において、男女の間で公平だとみなされたギブ&テークの関係だったのです。

 だが、日本でも1985年に男女均等雇用法がつくられ、欧米先進国ではそれよりも早く、女性が社会に進出した。結果、アメリカでは共稼ぎ夫婦の3分の1において、妻のほうが夫よりも多くの給料をもらっているのです。男からしてみると、そういった現状を、理性ではOKと思ってはいても、何十万年、いや類人猿の時代からいえば何百万年続いた、「男は女を養い守る強い存在でなくてはいけない。そして、強い男に守られる女は弱いもの」という本能がNOと拒否します。そういった本能が理想とする従順な女性は、ネット上では見つかっても、現実には存在しない。だから、アメリカでも、男性の25%がセックスに関心がないという調査結果が出ているそうです。

 いまの男女の役割に本能が適応していないのは女性も同じです。家の掃除や皿洗い、料理、みんな平等に手伝ってもらいたいと思いながら、本能的に、「男は男性的じゃなければセクシーじゃない」とも思ってしまうのです。職場では男女平等を主張しながらも、割り勘デートとか、クリスマスにプレゼントをくれない相手にうんざりしてしまうのです。

 いまの若い男性は、家庭で強い存在にある母親をみて育ち、学校でも多くの女性教員に教えられて育ち、男女平等をリアルに体験してきた世代です。なのに、なぜ、食事をこっちが払わなくてはいけないのか? なぜ、男がプレゼントをあげなくてはいけないのか? と思うわけです。

 高級ブランドを買うメトロセクシャルな男性たちは、2008年の経済危機以降、影をひそめました。しかし、自分の女性的側面を表に出すことをためらわない男性は、欧米でも日本でもふえてきています。女性の社会進出が進むとともに、男性は昔の意味で「男性的(マッチョ)」である必要はなくなっているのです。男が強くなった女には性的魅力を感じないと戸惑っているのと同じように、女もフェミニンな面を隠さない男を優しくてよいとは思いながらも心がときめかないのに、やっぱりちょっと戸惑っているのです。

 こういった男女間のちぐはぐな関係は 進化の歴史上における適応問題だとする考え方があります。男女ともに、新しい役割に適応していないことが、セックスへの無関心、そして結婚しない男女が増大し少子化が進む理由なのです。新しい世代は、新しい男女の関係に、果たして適応できるのか? できるとして、どのくらいの時間がかかるのか? その間に、異性間の交配回数が減り、人類は自分たちの遺伝子を遺すことができなくなり、滅亡に追いやられるのでしょうか? それとも、SF映画にあるように、互いに惹かれあうことがなくても子孫を産むことができるように、精子と卵子を人工的に交配するような制度を採用せざるをえなくなるのでしょうか?

 未来の話はさておき、こういった新しい現象の結果、男性用身だしなみ製品が売れるようになる。が、女性をナンパ(この言葉も死語の運命にあります)するのに必要な自動車が売れなくなる。男女ともに、一人で旅行、一人でコンサートや演劇鑑賞。もっと新しいところで、ストレートな男同士が2人で海外旅行に出かけるといった目新しい消費現象が見られるようになる。しかし、やっぱり、異性の目を意識して異性をひきつけるためにする消費のほうが、ナルシストが自分のためにする消費よりは、金額が高くなるのではないでしょうか?

 皆さま方のコメント、お待ちしております。

 ここで、宣伝です。この記事のテーマをより深く理解するためには、日経プレミア新書「売り方は類人猿が知っている」の第4章を読まなくてはいけません。買ってください。1章くらいすぐに読めるだろうと、本屋で立ち読みなどしないように・・・。やってみるとわかりますが、新書版を立ち読みするのって、けっこうツライものがあります。

New! 「ソクラテスはネットの無料に抗議する」を出版しました。内容については をクリックしてください

 

参考文献: 1.「自分は草食男子」5割超 新成人は恋愛に臆病」 産経ニュース1/10/10, 2.Why UK men are losing interest in sex? TopNews Health 02/10/09, 2. Mark Simpson, Meet the Metrosexual, Salon. com. 07 Simpson, Meet the Metrosexual, Salon. com. 07/22/02, 3. Who are the Metrosexual? Louis A. Berman, NARTH 03/09/08

Copyright 2010 by Kazuko Rudy. All rights reserved.

 

 

 

 

 

2010年1月 3日 (日)

Twitter(ツイッター)はクチコミ媒体ではない。

 

 Twitterはソーシャルメディアではない・・・というタイトルにしようかとも思い迷いました。というのは、ツイッターのユーザーは、じつは、それほどソーシャル(社交的・・人が互いに交わる)ではないのです。

 ツイッター創立者の一人であるエヴァン・ウィルアムズ自身こう言っています・・・「ツイッターはもともとは放送媒体に近いものとして設計されました。一件のメッセージを発信すれば、それが全員に配信される。自分も自分が関心あるメッセージだけを選んで受信することができる。特定の人物や特定のメッセージにだけ返信できる機能がつくようになった(つまり、双方向性あるコミュニケーションができるようになったのは)、ツイッターに人気が出てからのことです」。

2008年から2009年にかけて利用者数が1000%以上増加(ニールセン調べ)という驚異的数字が発表されるとともに、ツイッターの利用実態があいつで調査された。そして、クチコミ媒体というイメージが強いツイッターだが、意外にも、その特徴は、「昔ながらのマス媒体的性格」にあることが明らかにされたのです。

 たとえば、ハーバード大学の学生が2009年5月に無作為抽出した300,542名のユーザーの利用実態を調べたところ・・・

  1. 投稿メッセージの90%以上は上位10%のヘビーユーザーが発信しているもので、これは、他のソーシャルメディアにおいて、上位10%がメッセージの30%を投稿しているのに比べると、かなり偏っている。
  2. 利用者一人当たりの「生涯」における投稿数の中央値はわずか1回。ツイッター利用者の半分以上が74日ごとに1回以下しか投稿していないことになる。  *ところで、投稿する(tweet)ことを日本では「つぶやく」と訳しているのはなぜ? Tweetの本来の意味は小鳥が鳴くとかさえずること。「つぶやく」というからオタクっぽいイメージになるのでは?

 いずれにしても・・・調査結果が明らかにしてくれたことは、ツイッター流行におくれまいと一応登録はしてみたが、実際には利用していないひとが多いこと。その証拠に、ニールセンの調査によると、2008年1年間において、ある月のツイッター利用者が、次ぎの月に戻ってくる率は30%以下、つまりリピート率が下がっている傾向がみられました。

 ヒューレットパッカード研究所の調査結果では、他のソーシャルメディアに比べると、ツイッターは1対1の双方向コミュニケーション・ネットワークというよりは、1対多数の一方通行の発信サービスであることが、より強く浮き彫りにされました。調査した309,740名のうち、誰かをフォローするだけのひとや、反対にフォローされるだけのひとが圧倒的に多く、特定の相手とダイレクトメッセージのやりとりをする「友人」と呼べる関係は非常に少ないのです。ヒューレットパッカードの調査では、特定の人に最低2回メッセージを発信した場合に、この相手を「友人」とみなしました(つまり、メッセージを互いにやり取りしているわけでもない。通常なら友人とも呼べない関係をあえて友人と定義した)。それでも、この「友人」の数をフォローしている数で割ると平均して0.13で中央値は0.04.つまり、フォローしている人数にくらべて友人の数は1人以下で極端に低いことになるのです。

 この調査結果をふまえて、ヒューレットパッカード研究所は、「ソーシャルメディアはクチコミの研究に適した媒体だと考える傾向があるようだが、少なくとも、ツイッターにおいては、二人の人間にリンクがあったとしても、必ずしも二人の間に相互作用があるわけではない」と結論づけている。

 たしかに、アメリカで、ツイッターをマーケティングに利用して成功した実例を見てみると、どの企業もツイッターをマス媒体のように使っている。

 たとえば、世界第2位のPCメーカーのデルと、米大手家電量販店のベストバイ。

 デルは2007年にツイッターにアカウント(DellOutlet)を登録し、過去2年間で650万ドルの売上を上げ、フォロワー(デルをフォローしているユーザー)の数は60万人(2009年6月現在)で、最もフォロワーの多いアカウント上位100のひとつだ。そりゃそうだろう。デルは2週間に6~10回投稿して(投稿と訳したけれど、tweetしていること。これを「つぶやき」と訳したらおかしいよね?)、その大半がクーポン付きかセールスサイトにリンク付けされている。そして、こういったオファーの半分くらいがフォロワーだけへの特別オファーなのだ。

 デルがしていることは、一方方向的に特典つきメッセージを流し、それに引き寄せられたフォロワーが反応して購買する。DMやeメールの使い方と変わらない。違うところは、たった一件のメッセージ発信で、一瞬のうちにグローバルに到達でき、リスポンスを獲得することもできる。しかも、DMに比べたら経費がかからない。

 案外知らない人も多いようだが、Twitterは現在までのところ、アカウントを登録する企業から登録料を徴収したり、そのアカウントから売上をあげても1円も手数料をとっていない。実際のところ、Twitterは収入のほとんどない企業なのだ。ベンチャー投資家たちから集めた5500万ドルのうちまだ使われていない数百万ドルをよりどころに存続している会社なのだ。どういったビジネスモデルを採用して売上を獲得するのか・・・「まだ考慮中」だと創業者たちは言っている。そのうち、デルのような販売活動に従事している企業から売上の何%かを徴集するようになるだろう・・と推測されているが・・・。

 他のソーシャルメディアであるフェースブックとかミクシーもツイッターに類似したサービスを登録者に提供するようになっている。だが、企業が料金その他の制約なしに販売活動に従事できるのは、ツイッターだけ。どうりで人気が集中するはずだ。

 ベストバイは顧客サービスにツイッターを利用している。2009年6月からTVCMで、質問とか苦情とかあったらツイッターのアカウントに返信してくれと宣伝し、4ヶ月間で2万件の質問に答えている。こういったフォロワーのメッセージに答えているのはベストバイの2500人余の店員たち。オンライン顧客サービスを、店舗店員が時間があるときに提供していることになる。

 デルでは100人の従業員が投稿(tweet)に従事しているという。通常の仕事時間の20%を投稿に使うとして、100人の従業員の給料合計の20%、つまり、1年間に50万ドルを投稿作業に費やしていることになる。よって、投資の見返りは1300%になると計算したジャーナリストもいる。ベストバイでも、ツイッターを顧客サービスに利用することにより、コールセンターの人員削減にどのくらい貢献しているのか計算したうえでやっているのだろう。

 ツイッターだけでなく、他のソーシャルメディアでも、1)実際に利用しているのは少数派。つまり、ソーシャルメディアは思っていたほどソーシャルではないということだ。よって、一時話題になったようなクチコミマーケティングへの利用を夢想するよりは、リアルタイムに大規模ターゲットに広告メッセージを送ってリスポンスを獲得したり、顧客へのサービスを提供する場だとわりきったほうがよい、2)デルやベストバイの例からもわかるように、常にアップデートしてオンライン上で生存していくためには、人件費がかかる。非常に労働集約的なサービスだ。従業員の手のあいたときに投稿(tweet)してもらうというけれども、実際問題として、従業員の時間の管理や動機付けなどむつかしい問題がある・・・といった意見がよく聞かれるようになってきている。

 最後に、ソーシャルメディアにおける「友人」に関して、ちょっと面白いエピソードを・・・。

 日本でもオックスフォード英語辞典で有名なオックスフォード大学出版局が、2009年の「今年の言葉」としてunfriendを選んだ。そして、Unfriendは動詞として使われ、「フェースブックのようなソーシャルネットワーキングサイトにおいて、誰かを『友人』から削除すること」と定義した。

 Unfriendという言葉はdefriendとともに、ソーシャルメディア利用者の間では2004年ごろからすでに使われていました。が、この言葉を有名にしたは、米バーガーキングです。2009年1月に大きなサイズが売り物のワッパー・ハンバーガーの販促に「ワッパーの生け贄(犠牲)」キャンペーンを始めた。フェースブック上での友人のうち10人との関係を絶てば、ワッパー1個が無料で食べられるという、前代未聞のキャンペーン。開始して10日間で234000人の犠牲者リストが集まったところで(ということは、23400人がワッパー無料クーポンをもらうために友人たちを犠牲にしたわけだ)、フェースブックの異議申し立てで、あえなく終了。

 クチコミを拡大したかったのだろう。バーガーキングは、友人リストから削除された元友人たちにまで、「あなたは誰々さんの友人リストから削除されました」と通知を送ったのだ。「ハンバーガー1個、正確には10分の1個より価値無しと仕分けされた」元友人たちが猛然と抗議し、フェースブックはプライバシーの侵害にあたるとしてキャンペーンを即時中止するように要請した。

 このキャンペーンは、ソーシャルメディア上の友人とは何か? 友人との関係を絶つ(unfriend)ときの正しいマナーとか何か? やりとりなどまったくない相手で、自分だって友人などとは思ってもいない相手なのに、unfriendされると、自分でも驚くくらい心が傷つくものだ・・とか様々な議論を誘発しました。

 このエピソードですぐに思い浮かんだのが、映画「二十世紀少年」(私は漫画は読んでません。映画ヴァージョンしか知りません)。「二十世紀少年」では、「ともだち」に絶交されることは、ともだちの一味に殺されること。日本の中高生などでは、友人リストから削除されたことで自殺するケースもある。オンライン上でも、絶交される(unfriend)ことは、非常に感情的な経験だということが明らかになった。バーガーキングは、「数百人の友人リストを整理する良いチャンスを提供しようとしただけだ」とキャンペーンの正当化をしながらも、人間関係はたとえデジタルな関係でもデリケートなものだといまさらながら驚いたようだ。

 前述したヒューレットパッカード研究所の調査によると、ツイッターでどれだけフォロウィーが増えても、友人の数はある一定のレベルで止まってしまう。人類学者のロビン・ダンバーの主張する150人のレベルを超えることはないようなのだ(150人の制約についての詳細は、12月に発売した拙著「売り方は類人猿が知っている」を読んでください・・・と、ここでさりげなく新刊書の宣伝をする。えっ? 『さりげなく』じゃなくて『あからさま』だって?)。

 言葉が生まれることによって、友人・知人の数は150人に増えた。そして、ソーシャルメディアのような「ソーシャル・ソフトウェア」が登場したことによって、ロビン・ダンバーの150人の制約を越えることができるのではないか? という期待もあった。だが、いまのところは、そうはいっていないようだ。テクノロジーは発達しても、人間の脳がそれに適応していないということらしい。

 実に面白い~(「ガリレオ」の福山雅治ふうに独りごちてみる)

 突然ですが、2010年です。新しい年が明けました。

 不確実な時代を「強い心」で乗り越えましょう!

 皆様の2010年が素晴らしい年になりますように!!!

 New! 「ソクラテスはネットの無料に抗議する」を出版しました。内容については をクリックしてください

 

参考文献: 1.Douglas Quenqua, Friends, Until I delete you, The New York Times 1/29/09, 2. Clare Baldwin, Twitter helps Dell rake in sales, Reuters 6/12/ 09, 3. Gne Markes, Beware Social Media Marketing Myths, BusinessWeek 5/26/09, 4. Bill Heil and Mikolai Piskorski, New Twitter Research: Men Follow Men and Nobody Tweets, The Conversation 6/1/09, 5. Saul Hansell, Best Buy Plans a Very Twittery Christmas, The New York Times 10/1/09, 6.Kit Eaton, Twitter Really Works: Makes $6.5 Million in Sales for Dell, Fast Company 12/8/09, 7.Bernardo A. Huberman, et al., Social networks that matter: Twitter under the microscope, First Monday, vol 14, no.1-5 January 2009

 

Copyright 2009 by Kazuko Rudy. All rights reserved.