« 2008年3月 | メイン | 2008年5月 »

2008年4月17日 (木)

NBの価格は高くてよいのだ!

Ilm06_ca07034s_6NBメーカーがPB商品を製造することは、悪魔に魂を売るのに等しいという過激な意見もある。

 シリーズ第1回で書いたように、日本のNBメーカーのなかにも、PBを製造することを断固拒否する企業と、また、それをよしとする企業と2種類ある。欧米でも、コカコーラ、ハイネケン、ケロッグ、P&G 、ネッスル(コーヒーに限り)などは小売店PBは絶対に製造しないと宣言している。

 PB製造に手を染めるときに使われる理由のひとつに、「余剰生産能力」がある。施設や従業員を遊ばせておくのはもったいない。そのぶん、PBを生産すれば付加利益も出る・・・というものだ。しかし、この説に対しては反論も多い。「Brands Versus Private Labels, Fighting to Win /NB対PB: 勝利への戦い」というハーバード・ビジネス・レビューの論文は、PB製造コストにはNB製造コストに入っている固定費が割り当てられていないことが多い。つまり、PBを受託生産すれば儲かるといっても、厳密にいえば、NBに経費の一部を負担してもらうことで利益を出しているだけだと指摘している。

 この論文は、実際の数字を使って、NBの売上が一定以上なければ、PBの利益は出ないことを証明している。つまり、NBの売上が落ち、生産能力の余剰が出たから、売上減を補うためにPB生産を受託する・・・という発想は根本的に間違っている。もし、生産余剰が長期的なものであるのなら、1)短期的にPB製造をするのはよいが、それはあくまで工場閉鎖を含めるリストラを実施して生産能力の適正化をはかるまでの過度期対策とする、2)あるいは、PB製造に専念する別会社をつくるべきだ・・・と議論している。別会社にするのは、長期的観点に立ちイメージを大切にするブランド生産と短期的な融通性と低コストを重要視するPB生産とでは、作り手のメンタリティが異なるからだ。同じ組織で矛盾する2タイプの商品を生産することは、結果として、一番大切なNBの開発製造の妨げとなる。

 同じ商品カテゴリーにおいてPBを製造すれば、自社NBが侵食される「共食い現象」を招く可能性が高いことも考える必要がある。

 日経新聞(9/15/07)に、キリンビールが、イオンのPBである缶チューハイの受託生産から撤退するという記事が掲載されていた。キリンはNB「氷結」を発売しているが、イオンPBの缶チューハイはこれに比べて30%ほど安い。もともと、キリンが買収したメルシャンが受託生産していたものであり、契約が切れるのを機に、「同じ商品カテゴリーにおける安いPB生産を引き受けることは企業の方針に合わない」ということで撤退した。賢い選択だといえる。

 PB製造を引き受ける理由として二番目に上げられるのが、小売店との関係だ。小売店との力バランスが改善されて、棚スペースの確保とか販促強化に関する交渉を有利に進めることができるというものだ。欧米での調査によると、こういった事実は実際には起こっていないようだ。その反対に、メーカーが小売店側に、自社商品のコスト構造とか最新技術を明らかにしてしまう結果になり、NBの仕入れ交渉をするさいの立場が弱くなってしまった・・・ということが指摘されている。 

 うちがしなければ競合他社がする・・・というのもある。たとえば、キリンビールにPB生産を断られたイオンは、合同酒精を傘下にもつオエノンホールディングスと生産委託について交渉した・・・と日経新聞は報道している。同じく、日経新聞(1/28/08)の記事には、セブン・イレブン・ジャパンが中華マンの取引先の大半を山崎製パンから中村屋に切り替えた。「価格や大きさで有利なPB商品を開発して欲しいセブンは、PB製造に否定的な山パンとの取引見直しを探っていた・・・」と続く。2つの記事はどちらも、「あなたがつくってくれないなら他に頼むからいいよ」という小売店側の態度を明らかにしている。

 欧米の大手メーカーは、小売に対抗する手段のひとつとして、各商品カテゴリーにおいて、売上がNo.1とNo.2になれるブランド以外は削除、あるいは投資額を減らす方針をとっている。なぜなら、大規模小売店は売上No.1やNo.2のNB2種類にPBを加えて、その商品カテゴリーの中核商品とし、この3つに十分な棚スペースを提供するからだ。ユニリーバは1999年に1600種あったブランドを400種に減らすと発表。P&Gは300種のブランドのうちトップ10が売上の50%を占める現状を考慮したうえで、年間10億ドルを稼ぎ出す14ブランドに投資を集中する方針をとっている。

 ということは、トップ3に入れないメーカーは、小売のPBを製造するほうがよい・・ということになる。実際、ヨーロッパには複数の小売業にPBを提供するPB製造専門メーカーがあり、大手NBメーカーが株主を満足させられるような成長を達成するのに苦労しているなか、右肩上がりの成長を続け、笑いの止まらないところもあるようだ。

 NBに話を戻します。

 日本ではNBメーカーに対して、(とくに最近原材料高騰による値上げが続くなか)、小売店からの価格への圧力が厳しいようだ。だが、この考え方は正しいのだろうか? PBが安いのは当然として、NBも価格を下げる必要があるのか? 消費者マインドが冷えているからといって、どの商品も値下げすべきだというのはあまりに単純すぎる考えかたではないだろうか?

 日本でも、そして外国でもPBは食料品が多い。食品は模倣しやすいからだ。模倣という言葉がいけないとしたら、多くの食品は高度な技術がなくても誰にでも製造しやすいからだ。そういった環境において、たとえば、NBのジュースとPBのジュースとの品質の違いを消費者はどれだけ知覚できるか?・・・ということだ。

 メーカーは、材料の細部にわたる違い、製造過程における高度な技術などが高品質を可能にしたとウンチクを述べるけれど、大事なことは、その違いを消費者は知覚できたか?・・・ということだ。場合によって、消費者が知覚できるのは、値段の違いだけかもしれない。行動経済学でいうように(不可解な消費者行動シリーズ第2回参照)、消費者はほとんどの場合、「値段が高ければ品質もよいだろう」とヒューリスティックな判断をして値段の高いNBのジュースのほうが品質がよいはずだと思って買っているのかもしれないのだ。

 つまり、PBが安いとして、NBも安くする必要があるのか? NBの値段が高ければ、品質が良いだろうと判断して買う消費者が一定数いる。もちろん、不景気到来かもと身構えて購買心理が冷え込み、NBを買う客数は減るかもしれない。だが、そのぶん、PBを買う客数は増えるだろう。つまり、小売店にとっては、NBが高いからこそPBの売上個数が上がる。そのうえ、NBの値段が高いことによって、売上個数は少なくなっても、一個当たりの利益額はふえる。そのうえ、これが、一番大切なことだが・・・・、消費者にバラエティに飛んだ品揃えから選択できる(厳密にいえば、選択できると知覚することができる)というサービスを提供することができる。

 もちろん、どれだけ高くてもよいのか? という問題はある。

 これに関してはフランスとアメリカで実施された調査があり、どちらも非常に似た結果が出ているので参考にしてみたい(*1)。

  1.フランスでの75種類のCPG商品カテゴリーにおける調査:

  • NBの知覚品質がPBよりも高いカテゴリーにおいては、NBの価格は56%高くともよい
  • NBとPBの品質に変わりがないと知覚されたカテゴリーにおいても、NBの価格は37%高くともよい。
  • PBの知覚品質がNBよりも高いカテゴリーにおいて、NBの価格は21%高くともよい。

 2. アメリカにおける調査

  • NBとPBとの品質の違い1%は価格差5%に関連づけられる。
  • NBとPBの品質が同等の場合、NBの価格は37%高くともよい。
  • 消費者がNBとPBの品質は同等だと知覚しても、NBと同じ価格をPBに支払ってもよいとするのは5%のみ。

 つまり、NBの価格は、消費者マインドが冷えているから高くしてはいけないとか安くしなくてはいけないという単純な考え方ではなく、1)小売PBとの値段の差、2)値上がりしたNBの売上が減ったぶんPBがどれだけ増えるか・・・といった要素を総合して判断すべきものなのだ。場合によって、NBの価格が値上がりした結果、その商品カテゴリーにおいて小売店の利益額は上がることだってありえるのだ。

 そして、メーカーは、コスト削減努力をすることは当然ではあるが、それ以上に、消費者が「知覚する品質」を向上することにさらに一層努力すべきなのです。

 消費者が知覚できるような品質の違い・・・ということで、エピソードをひとつ紹介したいと思います。NBメーカーではなくて小売店の高級PB開発の話です。日本では、まだ一般的ではないが、ヨーロッパではNBより高級なPBを、とくに食料品分野で開発している小売店があります。その先駆者ともいえるカナダ(ヨーロッパじゃないけど)のスーパーマーケット「ロブローズ」の高級ブランド「President's Choice社長の選択」の話です。

 この高級PBをつくった社長はグルメ大好き人間で、既存のチョコレートチップ・クッキーは食べるに値しないものばかりだと考えていた。世界一おいしいチョコチップ・クッキーをつくろうと自分みずから研究することにした。もちろん、既存製品とは違いホンモノのバターや高品質のチョコレートを使ったりとか食材にもこだわった。だが、消費者がすぐに知覚できる違いは、クッキーのなかに入っているチョコチップの量だ。「わたしは、二年間にわたる試行錯誤のなかで、クッキーの中に練り込むことができるチョコチップの最大限の量を発見した。クッキー生地の39%です。当時一番人気のあったNBのナビスコ・アホイに入っているチョコチップの量は19%でした」。 

 「この新しいクッキーはこれまでのものとは違う。チョコチップがいっぱい入っているわ」と知覚した消費者が多かったのだろう。一年以内に国内ベストセラー製品となり、「社長の選択」ブランドを一躍有名にした。グルメ社長の挑戦は朝食用のシリアルもおよび、消費者が品質の違いをすぐに知覚できるシリアルを開発した。シリアルの一番手であるケロッグのNBシリアルを皿にいれるとそこには平均してスポーン一杯分のレーズンが入っている。だが、「社長の選択」PBにはその倍、スプーン2杯分のレーズンが入っているのだ。

 消費者に知覚してもらえる違いとは、こういったものだ。基本的な品質改善以外にも、消費者がすぐに気づくようなところで差別化をはかる工夫が必要なのです。

 欧米での調査結果を見る限り、消費者が抱くNBのブランドイメージはまだ高いようです。だからこそ、NBは高い値づけをすることができるのです。メーカーは品質向上への努力をすると同じくらい、広告宣伝、パッケージ、その他によってブランドイメージを維持向上する試みを怠ってはいけないのです(極端なことをいえば、コスト削減に成功して生まれた余剰資金を広告宣伝に使うべきなのです)。まして、共同開発商品ならともかくも、小売PB商品を製造することには二の足どころか三も四も五の足も踏まなくてはいけないのです。そして、やむなくPB製造を始めたとしても、自分たちが製造していることなど、消費者には絶対に公表してはいけないはずなのです。 

New! 「ソクラテスはネットの無料に抗議する」を出版しました。内容については をクリックしてください

参考文献:1..Nirmalya Kumar & Jan-Benedict Steenkamp, Private Label Strategy: How to Meet the Store Brand Challenge,Harvard Business Press 2007,2. Matthew Boyle, Brand Killers Store brands aren't for losers anymore, Fortune August 11,2003, 3. John A. Quelch and David Harding, Brands Versus Private Labels: Fighting to Win, Harvard Business Review, January 1996 ,4.下原口徹「価格攻防に消費者の反乱」日経新聞1/28/08、5.「イオンのPB缶チューハイ、キリン、受託生産から撤退」日経新聞9/15/07

*引用文献:Nirmalya Kumar & Jan-Benedict Steenkamp, Private Label Strategy: How to Meet the Store Brand Challenge,p.98

Copyright 2008 by Kazuko Rudy. All rights reserved

2008年4月 9日 (水)

PBは本当に儲かるのか?

Ilm06_ca07034s_6小売店のPB(プライベート・ブランド)は景気が悪くなると売上が伸びる・・・・といわれる。事実、2007年に発表された「欧米4カ国における調査」では、PBシェアは不景気のときに増大し好景気のときには減少することが確認されている(*1) 。しかし、過去数十年にわたる長期的傾向をみると、不景気のときのPBの伸び率は好景気のときの減少率よりも大きい。結果、先進国におけるPBシェアは1970年代以降基本的に増大してきている 

 (2000年からの伸びはとくに大きく、西欧では、PBシェアは2000年の20%から2010年までには30%に、アメリカでは20から27%に到達すると予測されている(*2) )

 そんなわけで、景気後退の気配が感じられる日本においても(原材料費高騰によるNBの値上げが相次ぐこともあって)、PBを強化しようとする小売業の動きが目立つ。

 小売業者は、「PBは粗利益率が高い、だから、PBシェアが増すことは利益の増大につながる」という。日本の場合は、「PBは粗利益率が高い。だから、NBと比較して安い値づけをしても、これまでの利益を維持できる」・・・という言い方をしたほうが実際に近いような気がする。いずれにしても、「PBは粗利益率が高い。だから、利益が増大ないしは維持できる」という論理は、正しいのだろうか?

 PBシェアを増やすことは、小売店に利益を本当にもたらしてくれるのか? 欧米の調査研究資料を読んでみると、そう簡単には断言できないようだ。

 店舗小売業が利益の最適化を目指すなら、当然のことながら、商品を販売するための必要資源である棚スペースを計算にいれなくてはいけない。つまり、一定のスペース当たりの利益金額を基準として、PBとNB(メーカーのナショナル・ブランド)とどちらが得か比較判断しなくてはいけない。このとき、2つの要素を考慮に入れる。

  1. NBはPBよりも価格が高いのが通常だ。商品カテゴリーによっては、粗利益率はPBのほうが高くとも、利益金額はNBのほうが高いこともある。
  2. 棚回転率(在庫がはけるスピード。売れ足ともいえる)はNBのほうが高いことが多い(ヨーロッパの調査では、著名NB商品の棚回転率はPBより少なくとも10%は高いそうだ)。

 コカコーラが英国でした調査では、上記要素やメーカーからの販促援助金やPB管理に必要な物流経費を加味した結果、PBコーラよりもNBであるコカコーラのほうが小売店にもたらす利益は大であったという結果が出ている。「クラッカー」という食品品目においても、PBのほうが粗利益率は高いが、商品そのものの価格が低いためにNBのほうが利益額は高いという調査結果となっている(*3)。 こういった調査を通して、メーカーは、店舗ブランドよりも自社ブランドのほうが、店舗により高い利益をもたらすことを証明した。だが、メーカー自らがした調査というのは、どことなくウサンクサイ・・・・そう考える疑い深い読者のために、大手コンサルティング会社の調査結果も紹介しよう。

  1.  マッキンゼーがヨーロッパ市場において60品目の食品を調査した結果: 50%のPB商品において、1立方メーター当たりの利益は認知度の高いNB商品よりも低い。ただし、この調査は90年代半ばにされたものでちょっと古い。
  2. 2003年に実施されたボストンコンサルティンググループの調査: 米大規模小売店2社における50品目での調査によると、NBとPBとは、平均して、その利益額においてはほとんど変わりはない。ただし、商品カテゴリーや品目によって大きな差がある。

 もっとも新しい、そしてもっとも広範囲(200商品カテゴリー)にわたる調査結果は次のようになっている。(米国の大手スーパーマーケット・チェーンのデータを分析したもので、「Journal of Marketing (2004年1月号)」に発表された)

                       PB商品        NB商品

     粗利益率                   30.1%      21.7%

     純利益率                   23.2%      15.9%

     価格(PBの価格=$1と仮定)      $1         $1.45

     金額貢献                   $0.23      $0.23

     棚回転率/m2                 90          100

     単品ごとの利益貢献             21           23

 「PB戦略:PBの挑戦にメーカーはどう立ち向かうか?」という本の著者は、この調査結果を引用したうえで、「PB、つまり店舗ブランドは小売店にとって利益性が高い」とは必ずしもいえないと結論づけている。

  1. PBのより高い粗利益率は、PBの低価格によって相殺される。その結果、利益金額においてはPBもNBも変わらない。(こういうこともあって、最近は、多くの小売業者は、利益率ではなく利益額がNBより高いPBを開発するのを基本としている)。
  2. 棚回転率(在庫のはけるスピード)が非常に重要な要素となる。1)著名ブランドだったり、2)売れ足を速くするために多量に広告を出すNBはPBに勝つことができる。
  3. 粗利益率だけでなく、利益額、価格帯、棚回転率などを考慮したうえで、どの商品カテゴリー/商品品目においてPBを開発するべきかを決める。

 もちろん、小売業がPBを採用する理由は、利益以外にもある。たとえば、PBを出すことによって、メーカーへの圧力を増すことができる。これは、調査でも証明されている。PBシェアが高い商品カテゴリーにおいては、小売店はNBとの交渉において優位に立ち、より高い粗利益率を勝ち取ることができている・・・というアメリカでの調査結果がある。実際、PBシェアが高いカテゴリーでは、低いカテゴリーと比較して、小売店はメーカーのNB仕入れにおいて4%も高い粗利益率を獲得するのに成功している(*4)。

 PBで店舗へのロイヤルティを向上することもできる。これも調査で証明された。顧客のPB購買が1%上がるごとに、店舗へのロイヤルティが0.3%上がる。日本からは撤退したが世界小売業ランキング第2位の仏カルフールを対象にした調査では、カルフールPBの売上シェアと店舗へのロイヤルティとの相関関係は0.73と高かった(*5)。 20カ国以上の消費者調査によると、PBヘビーバイヤーは、店舗へのロイヤルティが高いことも明らかになっている。ただし、ヘビーなPBバイヤーは、経済的理由のためにいくつかの店舗を利用し、各店舗でもっとも安いPBを購買しているので、一つの小売業者にロイヤルティがあるというわけではない。米大手ドラッグストアにおける調査結果では、全購買金額におけるPBシェアが10%-20%くらいの消費者の特定店舗へのロイヤルティが一番高く、そのセグメントからの利益も一番高いことが明らかになっている(*6)。  

 結論は、PBを余りに強調しすぎると、選択肢の少ないことで消費者の不満足を生み出し、利益も減少する。NBより品質は落ちるが価格は安いPBなら、PBシェアは20%くらいが適当。しかし、安いPBだけではなく、高級PBも取り扱う小売業であるなら、最適なPBシェアは、20%よりも高く40~50%くらいでもよいのではないか・・・・・と、「PB戦略:PBの挑戦にメーカーはどう立ち向かうか?」の著者は書いている。

 ちなみに、2005年の数字では、欧米大手小売店のPBシェアは、ウォルマートが40%、英テスコが50%、仏カルフールが25%。ドイツの安売り店アルディ(あのウォルマートを降参させドイツ市場から撤退させたチョー激安店)のPBシェアは95%だ。

 日本の大手小売業2社(イオンセブン&アイ)はどちらも数年以内に、(とくに食料品分野において)PBシェアを20%にまで高める方針という。両社のPBも品質的にはNBより少し落ちるが価格的には安いというタイプのPBだから、上記の基準によれば、適切なPBシェアということになる。

 だが、そもそも、NBより品質が少し落ちる・・・ということは誰が決めるのか? もちろん消費者だ。ここで問題になるのは、消費者が知覚する品質だ。NBメーカーの野菜ジュースとPBの野菜ジュースと、品質の違いを消費者は知覚することができるのだろうか? この問題は、またあとで考えるとして、次は、メーカーにとってPBは儲かるのか?・・・をテーマとする。

 ・・ということで、次回は、NBメーカーがPBを製造することのメリット・デメリットを考えてみます。

 最後に、次回のテーマに関係したジョークをひとつ書きます。

 カナダのメーカーのブランドマネジャーが言いました・・・・「OXOX (ウォルマートでもセブン&アイでも恨みつらみのある大規模小売業の名前をいれる) と取引するのは最悪だぜ。条件が厳しくってさ。でも、それよりもっと最悪なことが一つだけある。OXOXとの取引がまったくないことさ(*6)」

                 ・・・・・・おあとがよろしいようで。

New! 「ソクラテスはネットの無料に抗議する」を出版しました。内容については をクリックしてください

 

参考文献:1.Francois Glemet, et al.,How profitable are own brand products, The McKinsey Quarterly November 1995 2.Nirmalya Kumar & Jan-Benedict Steenkamp, Private Label Strategy: How to Meet the Store Brand Challenge,Harvard Business Press 2007

*引用資料:1.LIen Lamey, et al., How Business Cycles Contribute to Pirvate Label Success, Journal of Marketing 71(January 2007) 2. Consumer Packaged Goods Private Label Share, M+M Planet Retail 2004, 3. Marcel Costjens, et al., Building Store Loyalty Through Store Brnds, Journal of Marketing Research (August 2000) 4.Kusum Ailawadi, et al., An Empirical Analysis of the Determinants of Retail Margins , Journal of Marketing (January 2004), 5. Jan-Benedict Steenkamp et al.,Fighting Private Label (London:Business Insights 2005) 6. Private Label Strategy:p.21

Copyright 2008 by Kazuko Rudy. All rights reserved.

                                 

2008年4月 1日 (火)

増殖するメディア(なんでもメディアになれる)

 消費者とのタッチポイントすべてを宣伝広告の機会と心得よ!

 これが、消費財メーカーや広告業界の最近の合言葉だ。マス媒体の威力が減少するなか、消費者との接点(タッチポイント)で広告を出す。その結果として、メディアの増殖(Proliferation of Media)が起こっている。

 たとえば、タマゴだってメディアになれる。

 2007年2月にテストされた「たまご広告」。300万個のタマゴに貼られたシールに日清食品「チキンラーメン」の広告が印刷されている。タマゴとラーメン・・・・レラバンス(Relevance、関連性、適切性)はバツグンだ。

 アメリカでは、2006年に、タマゴにレーザーで直に刻印する「たまご広告」が始まっている。3500万個のタマゴに、CBSテレビの番組広告がレーザー印刷された。朝食に卵料理でもつくろうかと冷蔵庫からタマゴを取り出すと、「毎晩8時の目玉(焼き)番組はなんといってもCBSニュース」というコピーが目に入ってくる。あるいは、「エッグいドラマが月曜夜9時に始まったよ」といった具合。たまご広告はどことなくユーモアがある。

 ペーパー・ナプキンだってメディアになれる。

 アメリカでは、2007年、レストランやバーでカクテルグラスを置く紙ナプキンにカラー印刷された広告が登場した。タッチポイントに広告を出すときは、1)消費者と接触している時間の長短、2)他の広告との競争の有無、3)消費者の注意をひきつけるクリエイティブが肝要だ。日本でいま伸びている屋外・交通広告で、電車の中づり広告は接触時間は長いが、他広告との競争には厳しいものがある。たまご広告は接触時間は短くても、競争が少ない。ペーパー・ナプキン広告は、消費者との接触時間が長いし競争も少ない。とくに、バーでお酒を一人で飲んでいるとき。バーテンダーとの話もつき、手持ち無沙汰のときはナプキンの広告をじっと見る。そこに、ウォッカや南国のリゾート地の広告でもカラー印刷されていれば、そのときその場の消費者の心理にスッと入っていける・・・かも。(もっとも、いまの日本なら、一人で手持ち無沙汰のときにはケータイで手遊びを始める傾向大。ナプキン広告の競争相手はケータイだ)。

 こういった「タッチポイントを利用したメディア」を使うときの問題点は、自己満足に陥りやすいこと。ROIを明確にしにくいこともあって、面白かった、話題になった・・・だけで終わってしまう。

 ROIが数値化でき、なおかつ、ターゲット・セグメントに見てもらえる確率100%、そのうえマス媒体顔負けの到達数を誇るメディアとして、アメリカで最近注目されているのがインサート・メディアだ。そして、アマゾンは、このメディアを提供することでオフラインでも広告収入を得ている。

 米アマゾンは、本を送るときのパッケージに他社の広告をインサート(挿入)するサービスを、2年の実験をへて、2004年1月に本格的に開始した。顧客に配送する本が入っているパッケージ・ボックスの中にパンフレットやサンプルを入れたり、また、ボックスの片側に広告を印刷できる。米アマゾンは、11月12月のクリスマスシーズンを除いて、毎月平均300万個のパッケージを出荷している。2007年には年間8000万個のパッケージが送り出されたという。

 メディア所有者としてのアマゾンの「売り」は:

  1. 顧客は高等教育を受けたどちらかというと高額所得者で、しかもオンライン購買者である。
  2. (自分が買ったものを見ないバカはいないのだから)、当然のことながら、開封率が100%。
  3. パッケージ一個につきインサート広告は1-4枚しか入れないから、顧客の注目を奪い合う競争が少ない
  4. 料金は一パッケージ当たり$0.04から$0.075で安い。しかも、大口割引がある

 いまはまだやっていないが、近い将来、購買した本でセグメンテーションできるようになれば、広告主はより関連性の高いセグメントだけに広告を出すことができる。しかも、到達数もマス媒体並みだ。だから、アマゾンも威張っていて、到達数最低100万人以上でなければ注文は受けない。しかも、大手メーカーや小売業の有名ブランドにしか広告サービスは提供しない。結果として、申し込み企業の80%はお断りしている状態だという。

 いったん、莫大な数の消費者を集めることに成功すれば、オンラインでもオフラインでも広告で商売ができる・・・ということだ。

 莫大な数の消費者とのタッチポイントを毎月創造することができる銀行やクレジットカード会社も、広告で付加収入を得ることができる。アメリカの銀行やクレジットカード会社が、顧客に送る利用代金明細書は、毎月合計して1億2500万通になるという。そして、小売業発行のクレジットカードの明細書は、毎月6000万通。到達数もハンパじゃない。アマゾンと同じく一流金融企業からの郵送物ということでイメージや信用度も高い。100%に近い開封率。しかも、郵便料金の関係からインサートは2-3枚しか挿入しないから競争も少ない。そのうえ、セグメンテーションもできる。

 実は、経費削減を考える金融サービス企業は、2000年ごろまでは、取引明細はネットでチェックしてもらおう・・・と考え、顧客を紙媒体からネットに誘導する方針で進めていた。だが、これだけネット利用が増えたアメリカでも、消費者は、(とくに金融関連の書類に関しては)書類を郵送してもらうことを好むことが調査結果で明らかになった。 

    紙媒体を選好する割合      99年       07年

    新商品の案内           77%        73%

    金融関連書類           93%        86%

            (ICR mail Preference Survey 2007)

 請求書や取引明細書をネットでチェックすればよいと答えた消費者は25%、書類を郵送してほしいが35%、ネットでチェックもするが書類も送ってほしいが40%。結局、経費がかかっても書類の郵送はやめられない。だったら、せっかくのタッチポイントの機会を生かして、広告料金を稼いで、経費の足しにしようというわけだ (ただし、紙の無駄使いについては、最近、とみにうるさくなってきている。今後、環境問題が深刻化するにつれて、ネットでチェックするだけで我慢しよう・・・という消費者のほうが多くなっていく可能性は非常に高い)。

 インサート・メディアの人気で、Transpromoという新語も生まれている。Transaction(トランズアクション/取引)に関する書類をPromotion(プロモーション/販促)にも利用するという意味。「転んでもタダでは起きない」精神を具体化した言葉だ。受取人一人一人に合わせたパーソナライゼーションや各セグメントごとに関連性の高い内容に変えることができるバリアブル・プリンティングの利用が進み、インサート・メディアの価値は余計に高まっている。

 メディアが増殖する社会では、どこをむいても、何を受け取っても広告ばかり。情報が氾濫する環境にいると、日本の保険会社や銀行が送ってくる、味もそっけもない通知文とか告知文風のパンフレットの入ったDMを受け取ると、なんだかホッとする・・・(って、むろん、皮肉です。お客様に対して、「お上からの御達し」ふうのDMを送ってくるなんて、ふんと、けしからんですよ、日本の大手金融サービス企業は・・・)。

 で、ここからは、「トレビアの泉」。たんなる話のネタです。

 道端で配るティッシュ広告は日本で60年代末に生まれたものだそうです。「ジャパンタイムズ4/21/07」の記事によると、高知県の紙製品メーカーが、当時、無料で配布されていた広告入りマッチ箱からヒントを得て、ティッシュを折りたたんでポケットサイズのパッケージにいれる機械を開発したのが始まりだそうです。そして、2004年、伊藤忠子会社のAdpack がティッシュ広告をアメリカで初めて配ってみた。最初は、ゲリラマーケティングの一種とみなされたようだが、いまでは、銀行やNOP団体などに利用されているらしい。

 んなこと、知らなかったなあ・・・。でも、「へえ~」度は2回くらいかな?

New! 「ソクラテスはネットの無料に抗議する」を出版しました。内容については をクリックしてください

 参考文献: 1.日本発の「たまご広告」、日本食糧新聞 2/5/07、2.Erik Sass, Wipe Me: Napkin Ads Extend Consumer Awareness, Media Post Publication, 11/27/07, 3.Alice Gordenker, Pokect Tissues,Japan Times Online 4/21/07,4.David S. Joachim, For CBS's Fall Lineup, Check Inside Your Refrigerator, The New York Times, 7/17/07, 5,Amazon Embraces Insert Opportunities, Media Buyer Planner 3/7/07,6.Amazon Rolls Out a Pakage-Insert Markeing Program for Other Retailers, Internet Retailer 3/9/04, 7.Jackie Kern, A Look Inside Statement Insert Programs, Target Marketing, 5/31/06 8.Research Shows that Mail is Still the Best Way to Reach Consumers, Pitney Bowes Homepage

Copyright 2008 by Kazuko Rudy. All rights reserved