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2015年10月21日 (水)

多様性で生産性は上がるのか?・・・「男性が輝く社会」の実現

 

   「女性が輝く社会」とか、「一億総活躍社会」の実現がスローガンとして叫ばれている。女性や外国人の雇用・登用を促進するだけでなく、高齢者を雇用することも、職場の多様性の範疇に入れることができるはずだ。もちろん、転職者の中途採用は、ともすると「井のなかの蛙」になりやすい日本企業において、即効力をもつ多様性だ。

  が、ここでは、性の違いによる多様性に話をしぼり、多様性を進めることで生産性が上がるかどうかを考えてみたいと思います。

  日本人の、とくにホワイトカラーの生産性の低さについては常に指摘され、耳タコの感がある。とはいえ、基本となる事実を明確にしておくため、一応、よく紹介されるOECDの調査結果を並べます(耳タコの人は飛ばしてください)。

 2013年度のOECD34か国調査によると、一人当たりの労働生産性では、日本は22位で73,270ドル(758万円)。1位はルクセンブルグで127,930ドル、米国が3位で115,613ドル、ドイツが15位で86,385ドルとなっている。これを、時間当たりの労働生産性でみると、日本は20位で42.3ドル(4,272円)、1位のノルウェイは87.0ドル、4位の米国は65.7ドル、9位のドイツは60.2ドルとなっている。

  OECD2012年の調査にに基づく平均年間労働時間ランキングをみると、加盟国の平均は1765時間で、20位の日本は1745時間。1位のオランダは1381時間で、23位の米国は1790時間となっている。面白いのは、ドイツに「怠け者」よばわりされたギリシアが2000時間以上働いている。ドイツの平均労働時間は1400時間だが、時間当たりの生産性は、ギリシアより70%高い。

  ギリシア人は怠け者だと非難されたというニュースが流れた後で、「私が観察したかぎりギリシア人はよく働いている」という、ギリシアを訪問したり住んでいる日本人の反論が新聞やネットでよくみられるようになった。だが、ここではっきりしたことは、ドイツの「怠け者」の定義は、労働時間ではなく生産性だということ。

  ドイツ人の定義で行くと、日本人と韓国人(年間労働時間はギリシアより長く、OECD加盟国で1位となっている)も、怠け者の部類にはいるのかもしれない。

  経済学者ケインズは1930年に書いたエッセイ「孫のための経済の可能性」において、2030年までには、週15時間以上働く必要はなくなっているだろうと書いている。ということは年間一人当たり780時間ということなるから、1位のオランダですら、達成不可能な数字。ケインズの予測は当たらなかったわけだ。

 OECDの労働時間ランキングをみるかぎり、米国人はけっこうな仕事人間で、日本人より年間45時間多く働いていることになる。スタンフォード大学の経済学者が2014年に発表した研究によると、一週間の労働時間が50時間を超すと生産性が急激に低下し、55時間を超すと崖から落ちるように落下し、70時間働いている従業員は、50時間働いていたときと同じくらいしか生産していないことが明らかになっている。

  日本人の生産性の悪さについては、長く働くことが美徳とされる文化において、仕事がすんでも上司や先輩を残して先に退社はできない。だから、だらだらと長時間働くことになる。あるいは、また、家族よりも仕事を優先する価値観にあるといわれる。こういった企業文化や価値観は、高度成長時代のとくに製造業においてつくられたものだろう。製造業においては長時間働くことが、即、生産量につながる傾向が高い。だが、ホワイトカラーの場合は違う。

  長く働いたから革新的アイデアが生まれるわけでもない。

  リクルートワークス研究所の2012年度調査によると、日本の一般労働者の年間平均労働時間は2030時間でOECDの調査結果よりも多くなっている。、そのなかでもホワイトカラーの労働時間は2238時間。これを男女別にわけると、男性ホワイトカラーは2300時間、女性は2094時間となっている。

  最近・・・というか、この10年くらい、女性のほうが男性より元気がよく積極的だと評価する企業経営者が多い。社内結婚が多いという某会社の社長が、「イクメン大いに賛成。女性のほうが優秀だから、夫が家でイクメンして、奥さんのほうには早く職場に戻ってきてほしい」とコメントしていた。

  「優秀でなくて元気のない男性社員」が多いとしたら、それは、高度成長時代の製造業で構築された「男社会」の働き方が残っているからだ。日本の有給休暇日数の20日は他国に比べてそれほど少ないというわけではない。たしかに世界平均の25日よりは少ないし、スペインやフランスの30日とは大きな差がある。だが、米国の19日よりは多い。問題は有給休暇の消化日数が低いことだ。有給休暇をとるのを躊躇させる企業文化がある。

  こういった調査をしたオンライン旅行業者エクスペディアによると、「有給休暇をとるとき罪悪感を感じるか?」という質問に対しては日本人の26%が「はい」と答えている。これは、調査対象25カ国のなかでNo.1だ。

  男性は、「男は世帯主で働いて家族を養う責任がある」という「男の役割」を、子供のころから刷り込まれている。そのうえ、日本社会は雇用の流動性が低いから、会社をクビになったり左遷されては困るという恐怖心が高い。だから、同僚や上司とうまくやっていくこと、つまり同調することに過分に気を使うようになる。

   反対に、女性は、とくに若い女性には、仕事をやめても結婚するという選択肢がある。親と同居していれば可処分所得も高いので、旅行、観劇、趣味、外食、・・・・その他、好奇心に応じてさまざまな経験をする自由度も心の余裕もある。豊富で新鮮な体験をすればいろいろなアイデアも生まれてくる。

  男はこうあるべきで女はこうあるべき・・・といった男女の伝統的役割に関する刷り込みは、時代が変わっても、自分が思っている以上に心に頑固に残存している。

  たとえば、最近の例では、マンションデータ改ざんで旭化成の社長が涙を流して謝罪した場面が、TVで放送された。男性社長だから、「男が泣くなんてよほどのことだよなあ」とちょっと同情というか憐憫の情を抱く人もいるだろう。あれが女性社長だったら、「いいよなあ、女は。泣けば許されると思ってるんだろう」と非難めいた目で見るのは男性だけではない。「女は泣けばいいと言われるんだから、泣かないでよ」と働いている女性も思うことだろう。

  昔からある男女の役割に、男性も女性も束縛されているのだ。

   長時間労働をして、自分の生活の大半を職場で過ごす男性社員には、精神的余裕もないし、自分の会社以外の人達とつきあう時間の余裕もない。「井の中の蛙」になりやすい。男性社員が元気もなくアイデアも浮かばないのは当然だろう。

  だからといって、いくら多様化を進めても、雇用された女性が、男性と同じような働き方をするようになれば、結局、「元気で積極的で優秀な女性社員」が「元気なくアイデアも浮かばない」男性社員予備軍になるだけだ。

  日本企業の社員のモチベーションというか、仕事へのやる気が他国に比べて低いという調査結果がある。

   組織・人事コンサルティング会社のタワーズ・ワトソンは、社員の会社への自発的貢献意欲をエンゲージメントと呼んでいる。2014年の世界調査によると、日本企業でエンゲージメントレベルが高い社員は全体の21%(世界平均は40%、米国39%)、ある程度高い社員は11%(世界平均19%、米国27%)、低い社員は23%(世界平均は19%、米国14%)、非常に低い社員は45%(世界平均24%、米国20%)だった。

  たった一つの調査では納得できないという人達のために、もう一つ同じような調査結果を紹介します。

  米国の人事コンサルティング会社ケネクサ(Kenexa)は、エンゲージメントを「会社の成功に貢献しようとするモチベーションの高さや、会社の目標を達成するために努力しようとする意思の強さ」と定義している。この定義にしたがった調査の結果が2012年に発表されているが、世界各国の従業員エンゲージメント指数は、インドが77%で1位、米国が59%で5位、英国、ドイツ、フランスといった先進国も40%台後半であまり高くない。が、日本の社員のエンゲージメント指数はそれより低く最下位の31%だった。

  どちらの調査結果をみても、会社への忠誠心が高くマジメで一生懸命働くといわれた日本企業の社員のかつての姿は見られない。

  職場での多様性を進めることが、社員のモチベーションを高め生産性につながることになるのだろうか?

  何度もいうようだが、なんだかんだといっても、日本企業の中核は男性社員がつくる「男社会」にある。この男社会に女性が同調するようでは、多様性にはつながらない。

  だが、マジョリティの男性の「男社会」にマイノリティーの女性が融合され、男性の視点や観点でモノゴトを判断するようになるのは簡単なことだ。最近、それを実感したのは、安保法案の採決でもめた国会での出来事だ。野党の女性議員はピンクのハチマキをつけ会議場に入れないように通せんぼをし、排除しようとした自民党議員に「さわったらセクハラだ」と抵抗した。これは、すでに、自分達女性を男性の視線で見ているし、出来事を男性の観点から判断している。

  多様性は消え、男性議員と男性のように考える女性議員がいるだけだ。

  だから、男性社員自身がその働き方を変えなければ、女性社員を雇用・登用しても、真の多様性にはつながらない。

  最後に、性の違いによる多様性が生産性を上げることにつながっているか?という海外の調査があるのでご紹介します。

  MITの経済学者が、1995年~2002年の7年間、米国および海外に60件の事務所を開けているホワイトカラーからなる大手企業を調査しました。その結果報告には、「性別の多様性は職場の生産性を向上するのに貢献したが、従業員の満足度は低下した」と書かれています。男性ばかりとか女性ばかりといった同質性の高いオフィスほど、協力、信頼、そして職場における楽しさといったソーシャルキャピタル(社会関係資本)のレベルが高いと結論づけています。

  全員男性ばかり、全員女性ばかりのオフィスから男女半々くらいの職場に転換することにより、収益が41%向上したということで、これを、生産性が向上した根拠としています。研究者は、多様性があるということは、さまざまな技能や経験をもつことにつながり、それによって組織がより良く機能し、組織全体の集合的知識が高まるからだろうとしています。

  面白いことに、自分の働く職場が多様性をもつようになるという認識自体は従業員に満足感をもたらすが、実際にそういった職場で働いている従業員の満足度はかえって低くなる。つまり、会社が多様性を採用するというアイデアというか期待感は従業員をハッピーで協力的にさせるが、実際に多様性が普及して収益も上がっているオフィスでは、そういった満足感は低下するということです。

  自分が働いている企業が多様性を採用する・・・ということを認識する段階において、期待もあるのだろう。従業員はハッピーで協力的である。だが、実際の運用段階になると、従業員の満足度は落ちるようだ。

   実際、多くの女性上司は、「女性の部下は男性上司のほうが格が上だと考えて、女性上司の下で働くことをいやがる」と嘆いているという調査結果もある。また、論理的かつ理性的に自分の意見を述べると、男性上司の場合は「優秀でやり手」だと評価されるが、女性上司の場合は「冷たい」と評価されると苦情も言っています。こういった調査は、男女均等雇用法が日本より20年早く施行され、職場での男女平等が進んでいると思われる米国その他の先進国での調査結果なのだから、多様性ある職場で働くことのむつかしさを推測することができる。

  女性の輝く社会を促進するなかで、男性の輝き度がさらに落ちないことが肝心だ。女性がいくら輝いても、男性も輝かなければ多様性が職場の生産性をもたらすことはつながらないでしょう。そういった意味で、性別による多様性は、雇用の流動性を伴わない限り、生産性を向上するのには結びつかない・・・・と結論づけてもよいのではないかと思います。

  雇用の流動性を高めることで、男性社員を束縛感や不安から解放する(人間は選択肢が与えられることで自分が主導権をもっていると感じることができる)。中途採用の男性社員が増えることで、男性社員の働き方を変える。そういった多様性が促進されなければ、いくら女性や外国人を雇用・登用しても、革新的アイデア創出をふくめた生産性の向上はむつかしいのではないでしょうか?

 最後に宣伝です。

 最近出版しました「格差社会で金持ちこそが滅びる(講談社+α新書)」では、こういった内容をさらに具体的に書いています。ご興味がありましたら、読んでみてください。

参考文献:1.「世界に通ずる働き方に関する企業経営者の行動宣言」 経済同友会 2015年、2.竹井善明昭「世界でダントツ最下位!日本企業の社員のやる気はなぜこんなに低いのか?」ダイヤモンドオンライン 1/15/2013,3.Study:Workplace diversity ca help the bottom Line, Science Newsline Psychology, 10/6/2014, 4. Get a Life, The Economist, 9/24/2013, 5.Bob Sullivan, Memo to work martyrs: Long hours make you less productive, CNBC 1/26/2015

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2015年6月11日 (木)

100年続いた価値観が変わるとき・・・マクドナルドとコカコーラの場合

  米国のアイコンともいえる2つのブランドが、いま、大きな転換期を迎えている。マクドナルドとコカコーラは、20世紀の、とくに第二次世界大戦後の米国の繁栄を象徴するブランドであり、米国の覇権が世界に広まるとともに世界市場に広まっていった。だが、21世紀の新しい環境のなかで、変化に対応することの難しさが表面化している。

  日本市場を例にとれば、たしかに、日本のマクドナルドの売上が急落したきっかけは、2014年7月に、中国工場で期限切れの鶏肉の使用が発覚したこと、ついで、追い打ちをかけるように、2015年初めにチキンナゲットにビニール片が入っていたといったような異物混入の苦情があいついだことにある。だが、こういったことは、消費者が納得するかたちで問題がすみやかに解決され、消費者の信頼を取り戻せば、一時的な売上減少ですむ可能性もある。

  しかし、マクドナルドの問題は、もっと根本的なところにある。消費者の食べ物に関する価値観が変わってしまったことだ。

  世界の先進国市場において、健康志向が高まり、国民の3割が肥満といわれる米国でも2014年には過去10年間で最大の売上減少が起きていた。米調査会社テクノミックによると、毎月マクドナルドに通う19歳~21歳の割合は、この3年間で、82.4%から69.5%に減っている。

  高カロリーの肉中心のファストフード・チェーン店に代わって人気を呼んでいるのが、食の安全や健康志向を強調しているファスト・カジュアルと呼ばれるチェーン店だ。ファストフードとカジュアルレストランの中間といったような意味でファストカジュアルと呼ばれる。2000年代末ごろから、とくに18歳~34歳くらいの若者層の人気を得るようになった。そのなかでも一番人気の「チポトレ・メキシカン・グリル」は、抗生物質不使用の肉や有機栽培の野菜を積極的につかい、新鮮な素材をその場で調理する。1993年の創立だが、2015年現在1700店舗を展開し、2014年度の売上は40億ドルを越した。2010年度の売上は18億ドルだから毎年20%前後の売上増を達成していることになる。

  皮肉なことに、このチポトレを育てあげたのは、マクドナルドなのだ。1998年当時、まだ16店舗しかなかったチポトレに出資し、その後、筆頭株主になっている。マクドナルドの資金のおかげでチポトレは2005年には500店舗を展開するまでになり、2006年に上場。IPOは大成功で、そのタイミングで、マクドナルドは持ち株を売却している。結果的には、約3億6000万ドル投資して15億ドルを手に入れたことになる。投資としては良い投資だったかもしれないが、マクドナルドはチポトレを買収して子会社とするべきだったと考えるアナリストもいる。

  なぜなら、マクドナルドが低迷している業績を改善するためにどのような再建計画をたてようとも、価値観の変わった消費者を取り戻すことはできない。たとえば、米国マクドナルドの再建策には、① 直営店を売却し、フランチャイズの割合を現在の81%から90%に引き上げることによるコスト削減、 ② グローバル市場の管理体制を、現在の地域別から、市場の状況別(成熟市場とか新興国の成長市場といったような状況)に変える ③ 客が具材を自分で選べるパーソナライズされた(オーダーメイドの)ハンバーガーの提供 ④ 抗生物質を投与した鶏肉の使用を2年以内に停止、成長ホルモン剤を投与していない乳牛の牛乳に切り替える・・・などが含まれている。が、こういった再建策は根本的問題解決にはならないというのが一般的意見だ。

  20世紀には、まだ、肉が富のシンボルだった。肉がたくさん食べられるということは、金持ちである証だった。所得の少ない家庭は、収入が上がることで、一週間に一回しか食べられなかった牛肉が、週に2回食べられるようになるといいなあ・・・と願っていたものだ。

  歴史をもっとさかのぼれば、多くの文化において、肥満体が富の象徴であり、「やせた人間はすなわち貧乏である」という一般化が通用した。中国の唐の時代では、理想の美女はふくよかに肥えていなくてはいけなかった。渡辺直美が当時にタイムスリップしていれば、第二の楊貴妃になっていたかもしれない。西洋でも、19世紀から20世紀初めには、まだ、ルノワールが描いたような太った女性が美の基準だった。1825年に「美味礼賛」を出版したフランスの美食家ブリヤ=サヴァランは次のように書いている・・・「肥満は未開人には見られない。同じく、食べるために働き、生きるためにのみ食べる階級の人間にもありえない」。

  開発途上国や新興国でも、経済レベルが上がる最初の段階では肉を食べることがお金持ちの証となり肉の消費が急激に伸びる。その段階を超して経済レベルが上がると、こんどは肉を食べないことが洗練されたお金持ちの証となる。世界の先進国どこもが通ってきた道だ。太っていることではなく、スマートに(健康的に)痩せていることが、美の基準となる。こういった価値観の変化にマクドナルドの再建策では対抗できない・・・と、市場関係者の多くが考えている。

  たしかに、それでも肉が好きなセグメント、ジューシーなハンバーガーには目がないセグメントはどの時代でも必ず存在する。たとえば、日本のモスバーガーは、安全で安心できる高品質のハンバーガーを食べたいセグメントにアピールしている。ただし価格はマックより高い。マックは100円バーガーを売っているが、モスバーガーはいちばん安くても2倍の220円だ。そして、両社の売上の違いは大きい。2014年度の売上2200億円を超えるマックに対して、モスフードは約660億円。3倍の開きはある。

   同じように、米国で高級グルメバーガーとして人気を呼ぶファストカジュアル・チェーン店「シェイク・シャック」は自然の環境で放し飼いの牛の肉をつかうことで急成長しているといわれる。しかし、2014年度の売上は1億1900万ドルで、売上が減少しているとはいえ270億ドルの売上をたたき出すマクドナルドとのギャップは大きい。

   21世紀の消費市場には、異なる価値観をもったさまざまなセグメントが存在する。モスフードにロイヤルティの高いファンのセグメントが存在するとしても、マクドナルドにはなれない(まあ、なろうとも思っていないだろうが)。シェイク・シャックとかチポトレのような新興勢力がいくら急成長しようとも、マクドナルドの売上に追いつくことはできないだろう。

   しかし、また、マクドナルドのファンのセグメントが縮小し売上が減少することを止めることができないことも事実だ。だからこそ、豊富な資金が残り少なくなる前に異なるブランドを買収して傘下におさめ、異なる価値観をもついくつかの消費者セグメントにアピールすることにより、(先進国における)今後の成長をつづけていくしか方法がないのではないか。M&Aによる多様化で価値観の変化に対応するというわけだ。ところが、マクドナルドはそれとは全く反対の戦略を実行した。2006年ごろに、チポトレを売るとともに、同じくファストカジュアルの有望株であったボストン・マーケットを売り、ピツァチェーンも売り、英国のサンドイッチ・チェーン店の株も売却した。

  マクドナルドは、なぜ、戦略的に間違ったとみなされるような決断をしたのか?

  それについて考えるのはあとにして、先に、コカコーラの場合を考えてみよう。

  コカコーラもマクドナルドと同様に、世界の先進国における「ヘルシーであることオーガニック(ナチュラル)であること」に重きを置く価値観の変化によって、打撃を受けている。コークのような炭酸飲料水に代わって、スポーツドリンク、レッドブルに代表されるエナジードリンク、そしてミネラルウォーターが人気となっている。米国に限っていえば、2009年には米国民1人あり当たり92.5リットルのコーラ類ドリンクを購買したが、それが、2015年には72.5リットル、2019年までには64.7リットルに、つまり10年間で30%減少すると予測されている(Euromonitor調査)。コカコーラの営業利益の半分は米国市場で生まれているわけだから、影響は大きい。

  しかも、人工甘味料の健康への悪影響を訴える報告があいつぎ、カロリーを気にするセグメントのために開発したゼロカロリーやシュガーフリーのダイエット・コーラに対する消費者の不安が増大している。結果、ヘルシー志向の消費者に応えるためのダイエット商品の将来性に期待がもてなくなってしまった。

  どちらにしても飲み物の甘さへの価値観は、肉と同様、経済レベルで変わる。私が子供のころ、田舎にいくとジュースにお砂糖をいれて出され、甘すぎて飲めなかった覚えがある。いまでも、開発途上国や新興国に行くと、コーヒーやお茶にとてつもなく多くの砂糖を入れて出すところがある。砂糖は貴重なエネルギー源であり、しかも体への吸収が早い。経済レベルが低いときには、ケーキやチョコレートといったスイーツがあふれているわけでもなく、農作業のような過酷な肉体労働に従事したあと、甘い飲み物を摂取する必要があった。だが、さまざまなスイーツがあふれるいま、飲み物は甘くないほうがよいのだ。

  コカコーラの場合は、海外市場では、すでに対策をとっている。ジュースとかコーヒーとかお茶を販売すればいい。日本市場全体として、どのブランドが売れているかの情報を手に入れることはできなかったが、西日本の販売を担当するコカコーラウェスト(株)のIR資料によれば、2013年の販売数量実績で、一番売れたのはジョージアで約4400万ケース、ついで、アクエリアスで2200万ケース、三番目がコカコーラで1500万ケース、これにぴったりくっついているのが綾鷹の1400万ケースだった(ちなみに、コカコーラゼロは700万ケースだから、コカコーラとの合計で2200万ケースになる)。

  缶コーヒー「ジョージア」や緑茶「綾鷹」のTVコマーシャルをみてもコカコーラの社名が出てくるわけでもない。自動販売機で買うときには、コカコーラと綾鷹がいっしょに販売されているとしても、、綾鷹はコカコーラが製造しているんだとか爽健美茶はコカコーラが販売しているんだ・・・とか知らない消費者はたくさんいることだろう。

  コカコーラはこういったブランドポートフォリオ戦略が実行できる。世界の各地域の消費者が要望するブランドを開発すればよい。だが、ライバルのペプシコーラを販売している会社ペプシコのグローバルでの炭酸飲料水の売上に占める割合はすでに半分以下になっているが、コカコーラはいまだに75%だ。

  世界市場、とくに先進国における価値観が変化してきているというのに、コカコーラの反応は遅い。やはり、歴史の重みとそれからくるプライドが邪魔をしているのだろうか。

  コカコーラはいま世界市場でコカコーラ生誕100年を象徴する広告を展開している。たしかに、私を含めて一定以上の年齢層にとっては、エルビスやマリリン・モンローがコークのボトルを手にとって飲んでいる写真はそれなりにノルタルジックな感情を喚起する。だが、コカコーラが将来の売上を託す世代には、エルビスとかモンローは過去のスター。「って、誰?」という若者が多いことだろう。あの広告キャンペーンは、コカコーラという企業が、自分自身のための、自分達のプライドを満足させるために展開しているキャンペーンにしか思えない。

  100年間、米国のアイコンでありつづけた誇りを抱いているだけでは、価値観の変わった世界市場、とくに先進国市場に対処していくことはできないだろう。

  それは、マクドナルドも同じだ。

  先に書いたように、マクドナルドは2006年前後に、それ以前の90年代末から進めてきた多様化のためのM&A努力をムダにする形で、チポトレやボストンマーケットといった人気を集めている新しいタイプのファストカジュアルレストランの持ち株を売却した。ハンバーガービジネスに集中するという名目のもとに・・・。

  マクドナルドはコカコーラほどの歴史はないが1940年に創立した75年の歴史ある企業だ。歴史とプライドがここでも変革のさまたげになっているのだろうか? マクドナルドと別れたチトポレの創業者は、サスティナビリティに関心をもち、良質な原材料をつかうという考え方は、加工した材料や冷凍した材料をつかい、生産性一辺倒の機械化されたプロセスを採用するファストフードの企業文化とはあいいれなかったと言っている。「ドライブスルーを採用したらどうか」とかいってくるマクドナルドのアドバイスに「ノー」を繰り返しているうちに、両社のあつれきが大きくなったと語っている。

  価値観や企業文化が違うブランドを傘下におさめるからこそ、異なる価値観をもつセグメントが乱立する世界市場でも全体として売上をあげていくことができる。自分たち親会社とな異なる価値観をもった子会社(ブランド)の個性を認め管理していくことは、忍耐と理性を必要とする非常に難しい仕事だ。が、それに成功すれば、21世紀の異なる価値観をもった複数のセグメントにアピールして成長していくことができる。

  そう判断できなかったのは、やはり、歴史に裏打ちされた誇りだろう。いや、変化への不安感のせいかもしれない。

  だが、たとえば、フランスのマクドナルドは、米国のマクドナルドとは異なる方針でチェーンを経営している。朝食には、フランスパンにジャムとコーヒー、あるいはクロワッサンにカフェオレ。また、食材も地産地消の考え方で、抗生物質や成長ホルモンをつかっていない高品質の肉が提供されるという。郷に入れば郷に従うということなのだろう。

  日本でも月見バーガーとか、最近では、とんかつバーガーとか、日本特有のメニューに力を入れている。とんかつバーガーはまだしも、カマンベールチーズとバケットを食べていて、それでも、「私はいまマクドナルドで食べているわ」と思えるだろうか? 緑茶「綾鷹」のTVコマーシャルに、赤いコカコーラのロゴが大きく出てくるような違和感を感じないだろうか?

  いずれにしても、同じマクドナルド・ブランドで、これだけの個性の違いを、文化が違うのだからと認めることができるのなら、なぜ、チポトレやボストンマーケットも同じように管理運営できなかったのか?・・・やはり、首をかしげてしまう。

  

参考文献:    1.マック世界で苦境、読売新聞5/5/15、2.米マクドナルド、内憂外患、日経新聞9/11/14、3.米、野菜主役の外食台頭、日経MJ 5/8/15, 4. George Arnett, How Coca-Cola is fighting against a US public losing the taste for it, the guardian, 2/13/15,5. McDonald's tried to turn Chipotle into another McDonald's, Money, 2/3/15, 6. Joe Satran, Steve Ells, Chipotle Founder, Refelcts On McDonald's, Huffingtonpost, 7/12/2013, 7. Lara O'Reilly, The end of the Coke eram Business Insider 8/4/2015, 8. Andrew Ross Sorkin, McDonald's said to weigh an arches-only strategy, The New York Times 28/3/03, 9. 高遠弘美、肥満の文化史「ポッチャリ礼賛」、現代社会における肥満の実態に迫る

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2015年4月 5日 (日)

生産性を下げたインターネットと生産性を上げるロボット

   

   いま、ロボットに注目が集まっている。といっても、ソフトバンクのペッパーのような人間の形をしたロボットではない。私たちは鉄腕アトム以来のコミックの影響をうけてか、ロボットというと、つい、人間型のヒューマノイドロボットを思い浮かべてしまう。だが、いま、第四次産業革命をもたらすと期待されているロボットは、AI機能を備えた機械、器具、装置と考えたほうがいい。

   人類の歴史上4回の産業革命を、それぞれを象徴するキーワードでまとめれば、18世紀末の第一次産業革命は蒸気機関、次いで、18世紀末から20世紀にかけての第二次産業革命は、石油、化学、そして電化(電気の利用)。1970年代からの第三次産業革命はコンピュータやインターネットに代表されるデジタル革命。そして、いま、ロボットが第四次産業革命を引き起こす!

   ・・・・・というような記事が、最近、ビジネス誌をにぎわせている。そのなかで、「そーいえば、そうだよなあ!」と、妙に納得させられる記事があった。英国の新聞「The Telegraph」に掲載された、「インターネットは生産性を向上することはなかったが、ロボットは生産性を向上するだろう」というタイトルの記事だ。

   過去20年間における最大の技術進歩は何かと問われたら、大半の人はインターネットだと答えることだろう。なぜなら、私たちの日常生活に大きな変化をもたらした技術だからだ。「アラブの春」のような歴史的イベントを引き起こしたこともあって、インターネットの力を過大評価する傾向もある。だから、それが生産性を向上しなかったどころか、どちらかというと生産性を下げた・・・といわれると、ネットを生産性の観点から考えてみたことがなかったことに、ふと、気がつく。

   考えてみれば、eメールで仕事のやりとりが便利になった面もあるが、やたらにCCのついたメールが届くようになり、過剰な情報にふりまわされるようになったきらいはある。そのうえ、Facebook, Twitter,あるいはLine のようなソーシャルメディアが、職場での生産性を下げている具体例もよく耳にする。職場ではネットを個人的に利用しない人でも、日常生活においては、ソーシャルメディアやゲームにかなりの時間を費やしており、ネット中毒とまではいかなくても、生活に時間の余裕がなくなっている人は多いはずだ。

   ネットでの交流やゲームが楽しみや癒しになっている人は、暮らしのなかでの生産性を考えるなんてバッカじゃない・・・と思うかもしれない。ふりかえってみれば、1950年代に登場したテレビも、子供が勉強しなくなったとか、主婦が怠け者になるとかいって、当時は批判された。反対に、50年代に一般家庭に普及した電気洗濯機は(その他の家電製品といっしょになって)、家事に費やす時間を大幅に減らし、女性が仕事をもち社会進出する促進要因のひとつとなった。

   暮らしのなかにおいて、電気洗濯機は個人の生産性を向上し、テレビは下げた・・・と比較することはできる。

   インターネットはテレビみたいなものなのだ。「アラブの春」に象徴されるように、ソーシャルメディアは多くの人を結びつける。ネットが革命をもたらしたとあまりに騒がれたために、わたしたちはインターネットはメディアであること、つまり何かと何かを結びつけることが、その役割であるという事実を忘れていた。人が集結した結果が民主主義に結びつかなかったのはネットのせいではなく、結びついたあとのフォローができなかった人間のせいなのだ。

   インターネットが生産性に結びつくようになったのは、つい、最近、それがモノ(物理的世界)と結びついてIoT(Internet of Things、モノのインターネット)といわれるようになってからだ。さまざまなセンサーを装備したモノがネットによってコンピュータに結びつく。

   たとえば、GEは140万の医療機器と2万8000基のジェットエンジンに対し、1000万のセンサーを取りつけ、日々5000万件のデータを収集し分析している。これにより総額一兆ドルの資産である設備や機器を効率よく安全に稼働させ、機械の維持や事故を未然に防ぐのにも役立てている。

   ネットはモノに結びついて初めて実質的というか他産業に波及する経済効果をもたらすことができるようになったと聞くと、ある意味、ホッとする(デジタルな世界にとどまったままのネット・ビジネスで富を得たのは、GoogleとかFacebookとかいった企業とその創業者に限られている)。人と人とがソーシャルメディアで結びつくだけでは、民主主義が実現されなかったことからも明らかなように、私たちは、ネットという目にみえないヴァーチャルなものの威力を、(たぶんヴァーチャルだからこそだろうが)、力のスケールという意味では過小評価しすぎ、力の本質という意味では過大評価しすぎていた。

   インターネットは私たちの生活に便利さという素晴らしい贈り物を提供してくれた。が、ネットが物理的世界とつながることなく、ヴァーチャルなデジタル世界だけでものごとを完了しているときには、社会の不安定さを増長する傾向がある。

   たとえば、2008年の金融危機・・・。

   2008年に金融危機が発生した要因のひとつに、インターネットによる過剰な相互結合や相互依存をあげることができる。ネットが存在していなかったら、信用危機の問題は発生したであろうが、その地域範囲も規模も限られたものになっていたことだろう。ネットのせいで、ポジティブフィードバックと呼ばれる投資行動が瞬時に全世界に感染伝播した。株を例にとれば、本来なら、株価が上がれば多くの投資家は株を売る。こういったネガティブフィードバックによって、株式市場は自己調整がなされ常に均衡が保たれる。が、ポジティブフィードバックが発生すると、株価が上がると、他人の行動につられて理性的に判断することもなく、その株を買い、株価が下がればその株を売るという異常な状況に陥る。株でも土地でもチューリップでも、投資行動にポジティブフィードバックが発生するとバブルが起こる。

   情報がデジタル化された金融サービスに、これまたデジタルでヴァーチャルなインターネットが結びついた結果が、2008年の金融危機だといっても、過言ではないだろう。こう考えると、ネットがリアルな物理的世界と結びつくことで初めて生産性を上げることができるようになった・・・という事実は、社会の健全性を証明するようで、なんだかホッと安心できる。

   ここで、「ネットと違ってロボットは生産性を上げる」という、そもそものテーマに戻します。

   「機械との競争」といった本に代表されるように、技術(イノベーション)は常に雇用を破壊するという考え方もある。もちろん、著者エリック・ブリニョルフソンは、技術は常に雇用を創出するともいっている。ただし、最近は、デジタル技術のあまりに急速な進化のために、それについていけない多くの人が仕事を失うようになったとも書いている。

   IT分野の大手調査会社ガートナーは、10年以内に、現在の仕事の三分の一は自動化によって失われると予測する。ボストンコンサルティングが2015年2月に発表した調査結果では、世界の25の製品輸出大国において、製造業における自動化は労働コストを平均16%押し下げるであろうとしている。韓国、中国、日本、ドイツ、米国で世界の産業用ロボット購買の80%を占めているが、こういった国では、2025年までには、自動化機能の25%をロボットが分担するだろうとしている。ボストンコンサルティングは、最先端のロボットテクノロジーへの初期投資は大きなものだが、長期的にみれば、ロボットの運用維持費用は、先進国で人間を雇用するよりも安くつくだろうとしている。

   人間は機械との競争で仕事を失うのか?

   米国シカゴ大学がトップクラスの経済学者にアンケート調査したところ、88%が、歴史的にみて、自動化がアメリカの雇用を削減することはなかったと答えている。自動化によってコストが削減され価格が下がることによって、需要が伸び、結局は、仕事が増える・・・ということもある。また、製造業の自動化によって製造業にかかわる仕事がふえることはないかもしれないが、そのぶん、他のタイプの仕事、たとえばmechatronics(=electrical +mechanical )engineer/メカトロニクス・エンジニアのように5年前には存在しなかったような職業名や仕事がふえる・・・ということもあるわけだ。

   高齢化、少子化の進む先進国、そのなかでも先端をいく日本にとっては、機械に仕事を奪い取られる心配よりも、ロボット工学の進歩が人手不足の解消に役立ってくれる可能性に明るさを見出すことができる。ボストンコンサルティンググループの会長は、日経新聞のインタビューで、「日本は人口減の問題を移民ではなく、自動化によって乗り切ろうと選択しているようにみえる」と答えている。

   人手不足が心配されている介護事業でも、マッスルスーツのような装着型ロボットにより介護される人間の自立を促すことができるし、また、腰痛をかかえる高齢者でも他人を介護することが可能になる。年をとったらできなくなるとみなされていた肉体労働も、装着型ロボットの利用で、50を過ぎても続けることができる。視力の衰えや手先のふるえをロボットで補うことによって、ベテラン外科医の寿命を延ばすことにつながる。自動運転自動車になれば、運転手の人手不足も解消できる。 

   多種多様なパーソナルアシスタント機能をもった生活支援ロボットは、高齢者や子育て中の母親など、従来は職場から離れていく人達をも仕事場に戻す役割を果たしてくれる。

   戦時中の国家総動員法じゃあるまいし、年をとっても働かせられるのか!と嘆く人もいるかもしれない。だが、日本人には、仕事に生きがいを見出す人が多い。そういった人達にとって、ロボットは大きな希望を提供してくれる可能性がある。

   ロボットが人間に取って代わると懸念される。たしかに、人件費の安さで産業誘致をしている開発途上国ではそういった問題もあるだろう。が、日本の場合は、悪影響よりも好影響のほうが高いだろう。少子化、高齢化問題で暗くなるのは、まだ、早い。

   話は変わるが、長崎のハウステンボスが、ロボットが接客する「変なホテル」(これは本当の名称)を今年の7月に開業すると発表している。まあ、今の段階では、ペッパーを接客に採用するという日本ネスレと同じように、ロボットは客寄せパンダ的要素が強い。が、試行錯誤をしながらもAIが進化していくロボットをサービス業でも利用していく動きは進んでいくことだろう。

   私は、いまよりずっと高いAIをもったペッパーがいわゆるモンスター顧客にどう対応するかを見たいものだと思う。土下座しろといわれたらするのか? ロボットの場合も、土下座を強要したとして客は逮捕されるのか? CMでのペッパーは、北大路欣也にけっこう生意気に言い返しているが、実際には、ロボットに言い返されたら「アッタマにくる」から、客は、つい、ド突きたくなるかもしれない。その時、ペッパーは反撃に出るか? それとも、スタートレックのドクター・スポックと同じように、暴力を感情がもたらすムダな行動とみなすのだろうか? ちょっと楽しみ・・・。

 

 

参考文献: 1.Timothy Aeppel, What Clever robots Mean for Jobs, The Wall Street Journal 2/24/15, 2. Andres soergel, Robot could Cut Labor Costs 16 Percent by 2025, U.S.News, 3. Matthew Lynn, The internet hasn't boosted productivity, but Robots will, Telegraph 2/23/15, 4.「特集、AI 革命 ロボット」 ダイヤモンド社 2014年6月14日号 5.戦慄の人口知能、日経ビジネス 2015年3月30日号, 6, Dbill Davidow, How the Internet Powered the Financial Crisis, Forbes 3/23/11, 7.「人口減、生産性向上で対応」 日経新聞 3/9/15

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2015年3月 7日 (土)

格安航空(LCC)に学ぶ「悪い模倣」と「良い模倣」

 

 

  2012年は、日本の格安航空元年だといわれる。が、この年に出そろった3社のうち、好調なのはピーチ・アビエーションだけ(2014年3月期には単年黒字を達成)。あとの2社のうち、エアアジア・ジャパンは出資元の全日空とマレーシアのエアアジアが合併を解消してバニラ・エアになってしまったし、ジェットスター・ジャパンは2年目も赤字で低空飛行のままだ

  1998年に運航を開始したスカイマークは、日本の航空産業の規制緩和によって新規参入できた航空会社の第一号だ。ピーチやバニラやジェットスターのように全日空や日航傘下にはないので第三局とよばれることが多い。が、サービスの簡素化と大手二社に比べて安い料金をウリにしているということで、(利用者視点からみれば)LCCのグループにいれてもよいだろう。このスカイマークも、2015年、経営悪化で民事再生法の申請にいたっている。

  世界のLCC(Low Cost Carrier、格安航空)は米国のサウスウェスト航空のビジネスモデルを基本として、つまり、模倣(マネ)をすることで創られたといえる。米国の航空業の規制緩和は1978年からだが、サウスウェスト航空は、それ以前の1971年から営業を開始。その年こそ赤字だったが、その後40年以上利益を計上しつづけている。固定費比率が高く利益をだすことがむずかしいとされる航空業では、非常に珍しいことだ。2014年の旅客数は8600万人で全米一位、世界でも第四位につけている。

  模倣するに値する会社だ。

  世界の航空市場に占めるLCCのシェア(座席数ベース)は25%を超え、特に欧州では35%にまで成長している。だが、各国で数多くのLCCが誕生する一方で、すでに50社以上が倒産しており、好調な会社は非常に少ないのも事実だ。同じ会社をマネしているのに、なぜ、マネのへたな会社が多いのか? その点を考えてみます。

  サウスウェスト航空のビジネスモデルの基本は次の4点にあるとされる

  1. 同じ1種類の航空機(ボーイング737)を使用⇒パイロットを含めた乗組員や整備士の訓練の簡素化(部品在庫を含め機体の維持経費の削減もできる)⇒従業員の生産性が高くなる
  2. 2つの空港をノンストップで結ぶ。しかも、中小の混雑の少ない空港を利用⇒スケジュールの遅延が少ない⇒便数を増やすことができる⇒機体の稼働率を高める
  3. 限定的な顧客サービス。食事サービスや指定席を排除⇒20分以内に発着作業を完了することで航空機の回転率を上げる⇒機体の稼働率を高める
  4. マルチタスクをこなす従業員。たとえば簡単な清掃は乗務員がこなす⇒発着時間が短くなる⇒従業員の生産性が高くなるし機体の稼働率を高める。

  サウスウェスト航空は燃料価格のヘッジングを競合に先駆けて採用している。たしかに、これも、利益をだすには重要な要素だ。が、利益を上げながら低料金を実現するLCCのビジネスモデルということでは、上の4つが基本要素としてあげられるだろう。

  4つの要素は複雑にからみあっている。たとえば、大都市の二番手空港や中都市の空港とをノンストップで飛ぶ。長距離路線は飛ばないから機体はボーイング737一種類ですむ。また、数時間の飛行だから食事を出さなくてもすむし、狭い座席でも乗客は我慢できる。目的地に着いたら乗務員が簡単な清掃をして新たな乗客を迎える。だから20分以内に離陸できる。このように4つのうち1つでも欠けると全体に問題が出てくる。

  競争戦略で有名なマイケル・ポーターは、マネしやすい企業(ビジネスモデル)とマネしにくい企業との違いを「活動マップ」を描くことで視覚的に説明した。つまり、その企業のビジネスモデルに特有な要素が(つまり、競合他社との差別化に効果的な要素が)互いに影響を与え合い複雑に「蜘蛛の巣」状にからみあっていればいるほど、簡単にはマネができない。LCCの場合、顧客サービスを排除すれば成功するというわけでもないし、機体を1種類にすればそれで成功するというわけでもない。4つの要素は互いに影響を及ぼしあい全体として頑強なビジネスモデルを構築する。

  サウスウェストは、米国で1978年から始まった航空業規制緩和が進むとともに、路線を拡大して成長していった。日本の場合は、1986年以降段階的に規制緩和政策がすすめられているとはいっても、制約はいまだに多々存在する。

  たとえば、空港における制約。

  日本のLCCでピーチだけが好調なのは、ピーチが関西空港を拠点としているからだといわれる。他の2社の主要拠点は成田空港。関空は24時間運営だが、成田は騒音問題で、夜11時から翌朝6時までは発着ができない。しかも、混雑する空港だ。1路線で安定的な黒字を出すには1日4往復(8便)の運行が必要とされるが、成田を拠点としたエアアジアやジェットスターはせいぜい3往復6便。そのうえ、午後11時の門限に遅れれば、翌朝の初便が欠航となる。

  24時間利用可能な関空を拠点にしたピーチは、2012年開始からの一年間で、平均定時出航率は83%でLCCで一番。欠航率も大手並みの1%。当然のことながら利用率もふえる。2014月までには平均搭乗率は83%へと向上した。

  そもそも、日本の大手空港のインフラ条件はLCCが利益を出して飛べるような内容にはなっていない。発着枠などの運航条件の制約もあるし、着陸料とか使用料も中国や韓国に比べると3倍くらい高い。もちろん、成田や他の空港も、海外の空港との競争を視野に、こういった制約や料金を変更する傾向にはあるが、そのスピードは遅い。(ちなみに、1座席1キロメーター当たりのコストをみると、マレーシアのエアアジアが3円台、国内LCCは8円台、国内大手航空会社は10~11円だとされる)。

  こういったような日本の航空産業にまだある「制約」が、日本のLCCがサウスウェスト航空のまねがきちんとできない大きな理由のひとつだ。だが、もう一つ、日本のLCCが中途半端に終わっている理由がある。顧客サービスの簡素化に関係することだ。これに関しては、とくにスカイマークの例がわかりやすい。

  スカイマークは2012年に消費者への苦情対策に関連して、消費者庁からそれこそ苦情を受けている。機内で配布していた文書「スカイマーク・サービスコンセプト」には、スカイマークの機内サービス方針が8項目記されていた。たとえば、「機内での苦情は一切受けつけません・・・不満がある場合はお客様相談センターあるいは消費生活センター等に直接ご連絡を」と書いてあった。苦情を公的機関に押しつける姿勢は容認できないとして、消費者庁は文書回収を指示したのだが、この文書の書き方が傲慢だと世間一般からも批判された。たとえば、荷物の収納の援助をおこないません」とか「幼児の泣き声に関する苦情は一切受け付けません」とか、LCCではこういった手厚いサービスがないのは当然だとしても、文章の書き方自体が断定的で上から目線だと批判された。

  この出来事を紹介するときの、メディアの論調には次のようなものが多かった。

  「日本の消費者には日本流のていねいなサービスが、たとえ格安航空でも必要なのではないか」とか、「海外では格安と引き換えの不便さを利用者はある程度理解して利用しているが、大手の高いサービス水準に慣れた日本の利用者には戸惑いがある」というコメントもあった。つまり、「価格」と「サービス」の両立を日本の消費者は求めている・・という意見だ。

  これは、正しい意見だろうか?

  私は、このメディアの論調は間違っていると思う。

  現に、ピーチのCEOは「関西のひとたちは合理的だから価格が安い分サービスが簡素化されていることを納得している」と言っている。関西と関東では、たしかに、消費者の考え方に違いは少しはあるだろうが、それよりも、消費者にいかに上手に事前広報をしたかどうかの違いのほうが大きいと思う。

  ピーチに関しては、関西財界が積極的サポートをして地元メディアでも大きくとりあげられた。これによって、一般消費者も、低価格であるということは低サービスだというトレードオフの関係についてかなり啓蒙されたといえる。

  日経消費インサイトの「LCC利用者の意識と行動調査2014年」によれば、2012年以降に飛行機で国内旅行した人のうち国内線LCC利用率は関東13%に対して関西30%。それだけPR効果があったということだろう。しかも、ピーチの利用者の2~3割は飛行機を初めて利用した客だ。大手のサービスがどうであるかわかっていて、それと比較してLCCのサービスを批判しているわけではない。

   サービスを研究するサービスサイエンスという学問においては、客がサービスを利用する前に抱いている期待(事前期待)を、実際に利用したあとの感想とか評価が上回れば満足する。反対に、期待が大きすぎると評価との差が大きくなり不満足度も大きくなる。つまり、顧客満足は絶対値ではなく事前期待と実績評価の相対値できまるとされる。

  そういった点でいくと、LCCのサービスについて、日本の消費者は(関西を除いて)事前に、サービスと価格との間にトレードオフがあることを、きちんと知らされていなかったのではないかという疑問が残る。つまり、LCCにはサービスを期待すべきではないという広報活動(啓蒙活動)が十分なされていなかったということだ。

  たとえば、欧州最大の旅客数を誇るLCCにアイルランドのライアンエアーがある。ここのCEOは過激な発言で、つねにニュースになる。2011年には、機内トイレをつかうにはお金を支払わなくてはいけないようにしたいと発言して話題になった。「乗客が空港でトイレをすませてくればばトイレの数を減らすことでき、結果、座席数を増やすことになり、、結果、運賃を安くすることができる」・・と有料トイレは客にとっても得になると説いた。

  実際にやるかどうかは別にして、こういった発言はメディアも面白がって取り上げニュースになる。それが客の事前期待をつくる。2006年に持ち込み荷物の有料化にふみきったときには批判もあった。だが、有料にすれば客も機内持ち込み荷物を減らそうと考える。よって、チェックインカウンタやそこで働く係員の数も減らせる。コストも減るから運賃も減らせる・・・と説明した。

  このアイデアは実行に移され、手荷物一個につき約500円徴収したが、そのぶん、基本運賃を同額値下げした。これなら客も文句がいえない。また、こういったことで、「価格」と「サービス」はトレードオフの関係にあるということを一般消費者も実感できる。そのうえ、会社経営者のコスト削減に対する真剣さも実感できる。

  ライアンエアCEOは、2012年には、立ち席をつくる計画もしたが、規制に反するとその筋から反対されたとかであきらめた・・・というのもニュースになっている。こういったニュースがメディアに登場すればするほど、ライアンエアーはドケチな会社⇒それだけ料金が安い・・・という事前期待ができあがり、実際に乗ってみると、思っていたよりは乗りごこちもサービスも悪くなかったということになる。

  ピーチが就航前に関空で開いた運賃発表会では、「大阪ー札幌4780円」「機内サービス有料」という手書きのボードがつかわれ、いかにコストをかけないように準備したかを印象づける記者会見になった。事務所の備品はネットオークションで購入したとか、1円単位のケチケチ作戦が話題になりメディアで紹介された。これも事前期待をつくるためのPR活動として効果有りだ。

  その点、スカイマークの顧客戦略というかコミュニケーション戦略は矛盾していた。

  2014年に、仏エアバスA330型機を導入したときには、超ミニスカの女性客室乗務員がA330の機体の前で写真におさまった。A330が飛ぶ路線で半年間限定でミニスカの制服が採用されるという。ところが、A330型機導入よりミニスカのほうに話題が集まってしまい、保安上の問題やセクハラの問題はないかというニュースになった。それに対して、当時の社長が「キャンペーン服として用意したものが、あまりに評判が沸き立ち、こちらも困惑している。かなり歪んだ解釈をされているのは非常に残念だ」と答えいてる。

 が、思い出してほしい。2012年に物議をかもしたサービスコンセプトには「客室乗務員は保安要員として搭乗勤務に就いており接客は補助的なものと位置付けております」とはっきり書いてあった。ミニスカの乗務員が緊急時に主要職務とされる保安業務をどうはたすのか? 緊急時に、まず、ジャージーにでも着替えてから、対処するのか?

  たしかに、サウスウェスト航空も、最初は、ホットパンツとゴーゴーブーツをきた女性乗務員で有名になった。1971年に地方の小さな格安航空が営業を開始してもメディアはとりあげてくれない。ホットパンツとブーツのおかげで、少しは名が知られるようになった。だが、それは、70年代のことだ。当時はミニスカート全盛時代で、ホットパンツもゴーゴーブーツも乗務員の制服としては異色だったからニュースになったが、当時の流行のファッションだった。(ホットパンツは71年72年には日本でも流行している)。また、そういった制服は、Love Airline としてLoveをウリにしていたサウスウェストの企業テーマにも合っていた。(とはいえ、サウスウェスト航空も1980年には裁判に負けて男性客室乗務員を雇う結果となっている。当然ながら、女性乗務員のセクシーさを売りにすることもなくなった)。

  そういった歴史を考えると、スカイマークの2014年のミニスカは時代錯誤としかいいようがない。が、それ以前に、マイケル・ポーターが言うところの下手な模倣だ。サウスウェストが有名になったひとつの要因だけをとりあげ、他の要因とか背景との関係なしに、それだけをまねる。

  世界のLCCにマネされるサウスウェスト航空だが、実は、このサウスウェスト航空自身が忠実に模倣した航空会社がある。

  1949年から1988年までカリフォルニア州内で運行していたPacific Southwest Airlinesで、米国最初の格安航空だった。「世界で一番親しみやすいエアライン」と自称していた。ユーモアあふれる応対で知られ、ハワイのアロハシャツを着た創業者は、乗務員やパイロットに客と冗談を言い合うことを推奨した。60年代には、鮮やかな色彩のミニスカ・ユニフォームをきた乗務員で有名だった。70年代初めにはこれがホットパンツに代わっている。

  サウスウェストの創業者のハーブ・ケラハーは、PSAを徹底的に研究し、自由で親しみやすい従業員といった企業文化から、制服、その他の要素ほとんどすべてを採用した。当時のサウスウェストの社長は、「サウスウェストはPSAを完璧にコピーしたそっくりさんだった」と証言している。

  サウスウェスト航空は、航空産業におけるイノベーションの見本としてとりあげられる。イノベーションというと、それまで市場に存在しなかったまったく新しいもの(あるいはビジネスモデル)を創造したと考えられがちだが、実際には、サウスウェスト航空は模倣から生まれたものだ。だが、モデルにした会社よりも模倣した会社のほうが成功し、航空市場を変革する(破壊する)までに成長した。それは、たぶん、サウスウェスト航空はビジネスモデルの基本4要素を徹底したことと、この4要素を結びつける第5の要素、つまり、ロイヤルティの高い誇りをもった、よって生産性の高い従業員を創造・維持するのに成功したからだろう。

  サウスウェストは顧客第一ではなく従業員第一の企業文化で知られる。

  サウスウェストの従業員の報酬は米航空業界で一番高い。だが、その分、生産性も高い。たとえば、短距離で一日に何度も往復するパイロットは業界平均と比較して、一日当たり一時間多く飛んでいる。生産性が高いこともあって、サウスウェストの1座席1キロメーターあたりのコストは6.4セントでユーナイテッドやデルタの7.7セントより17%低くなっている。

  日本の模倣上手なLCCは、ピーチだろう。ピーチはLCCのビジネスモデル4要素を表面的にマネするのではなく、マクロの観点からマネしているようにみえる。たとえば、ピーチの井上慎一CEOは、「ピーチは航空会社ながら『空飛ぶ電車』のサービスモデルを志向している。お客様が遅れても待たずに出発する。チケットはお客様が自分で手配、駅の改札を通るように自らチェックインしていただく。新幹線のワゴンサービスのように機内の飲食物は有料で提供している」と語っている。

  拙著「合理的なのに愚かな戦略」にも詳しく書いたが、会社の方向性をメタファ-で語れる経営者は、マクロの観点から全体をみている。各要素がどうからみあって全体をつくっているかも理解している。だから、メタファーがつかえる。そして、メタファーで語れる経営者のコミュニケーション力は高い。社員や消費者への発信力や伝達力が高いということだ。「空飛ぶ電車」を目指しているといわれれば、どのサービスは絶対に排除できないものでどのサービスは排除あるいは簡素化してもよいのかが、社員も直感的に理解できる。同じく、どういったサービスを期待してよいのか消費者も直観的に理解できる。遅れてきた客を電車が待つはずがない。電車の乗務員は頼めばある程度親切ではあるが、自分のほうから何々しましょうかと客に寄ってきてくれるほどには親切ではない。

  イノベーションの研究で有名なクレイトン・クリステンセンは、サウスウェスト航空は航空産業に破壊的創造をもたらしたとする。安い値段で自動車やバスから客を奪い、また、大手航空会社からも客を奪った。その結果、大手航空会社の破産や合併があいついだ。

  航空産業に破壊的変化をもたらしたサウスウェストは大きく成長した。そして、いま、自分自身が岐路に立っている。業界再編成によって生まれたデルタやユーナイテッドのような大手航空会社は国内外ともに張りめぐらされた路線を誇っている。そのうえ、下からは、サウスウェストを上手にマネした新興LCCがつきあげてくる。JetBlueの1座席1マイル当たりのコストはサウスウエストよりも低く、料金もサウスウェストを下回ることが多い。

  サウスウェストは、2014年にAirTranを買収することを発表した。これが実現すれば、東海岸への路線数も増える。が、それは、混雑した空港も含まれるし、AirTranが所有しているボーイング717も利用するようになることを意味している。ビジネスモデルの基本4要素のひとつだった「同じ1種類の機体」ではなく、2種類の機体を使うようになるということだ。また、AirTranの社員が入ってくることによる企業文化の変化も懸念される。発着が遅れないように、パイロットも機内の清掃を手伝ってくれるような社風を維持できるだろうか? 

  イノベーションを起こした企業が成熟することで、普通の会社になってしまうのはよくあることだ。、普通の会社になって、新興企業の破壊的創造の波をうけて、新興企業にとってかわられることもよくあることだ。サウスウェストは今後も成長しつづけることができるのか? サウスウェストには、もはや、模倣する先輩企業はない。どちらにしても(成長しつづけても、あるいは、しなくても)、サウスウェストの今後10年の動向は、後輩企業にとっては模倣すべき、あるいは、模倣するべきでないビジネスモデルの模範となることだろう。

参考文献: 1.Jad Mouawad, Pushing 40, Southwest Is Still Playing the Rebel, The New York Times, 11/20/2010, 2.武政秀明、「ミニスカ導入で一悶着、スカイマークの誤算」東洋経済online, 3/8/2014, 3. 「苦情は公共機関に」スカイマーク社長に聞く真意 日経新聞電子版ニュース6/10/2012, 4.「LCCピーチ、けちけち作戦、手書きボードで発表会」大阪讀賣新聞 2/7/2012, 5. LCC 利用者の意識と行動調査2013、日経消費インサイト2014年9月、6.スカイマーク、文書回収、日経新聞6/7/2012, 7. David Mitchell, It's Michael O'Leary's biggest PR gagge-he wants us to like him . Guardian, 11/10,2013, 8. LCC 2年目の岐路(下)、明暗分けた日本流サービス、日経新聞7/24/2013, 9.クレーム噴出、目立つ欠航…成田発格安航空の実態、日経新聞電子版ニュース,3/11/2013、10.「世界の空大争奪線、エアライン&エアポート」週刊ダイヤモンド、11/19/2011、11.「日本の空はLCCで変貌、価値は安さだけじゃない」週刊東洋経済 12/28/2013~1/4/2014

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2015年2月 4日 (水)

米国オムニチャネルの本質はビッグデータにあり

  Attention!

「明日のマーケティング」のURLが変わりました⇒http://newmktg.lekumo.biz/ 

 

  ウォルマートのような米国小売業のオムニチャネル戦略を歴史的にふりかえってみると・・・といっても、この10年くらいの短い歴史だが・・・、最初のころに比べると、その中身が変化してきていることがわかる。

  第1段階は2000年代半ばで、O2O(Online To Offline)、つまりオンラインからオフラインへといわれていたころ。ウォルマートでいえば、2005年からの2年間のテストをへて、2007年にネットで注文した商品を店舗で受け取れるサービスを全店で始めたころだ。ウォルマートのテストによれば、ネットで注文した客の3分の1が店舗で受け取ることを選択する。そして、そういった客の60%が店舗に来たついでに60ドルの付加購買(衝動買い+ついで買い)をする。

    だから、店舗受取りサービスを提供することで付加売上が期待できるリアル店舗のほうが、アマゾンのようなネット専業よりも競争優位にたてる・・・というのが当時の評価だった。

  アマゾンが、年会費79ドル払うプライム会員に、無料で2日以内に配送というサービスを始めたのは2005年1月。それまでは25ドル以上注文の場合は配送料無料・・・というよくある常識的サービスを提供していた。無料配送サービスは期待以上の効果を発揮し、プライム会員は通常顧客よりも150%も多く購買し、よって、会員になってから(サービス開始前に予測した)2年ではなく、3か月で損益分岐に達することが明らかになったという(現在では、プライム会員の平均購買金額は通常顧客の2倍だといわれる)。

  こういったアマゾンに対する対抗策として小売店も自社サイトで無料で迅速な配送サービスを進めざるをえなくなったわけだ。が、なにせ経費がかかる。それだったら客に店に受け取りにきてもらおう。これが、O2Oが始まった理由だといわれる。

  (店舗受取りサービスが始まった理由が店舗側の経済的理由であったとしても、一言つけ加えておきたいことがある。米国における店舗受取サービスは、日本で考える以上に、消費者にとって便利なサービスだということ。日本の宅配便サービスと違って、米国では細かい時間帯指定はできないし、不在の場合、電話したらすぐに指定した時間帯に再配達してくれるなんてこともない。再配達も2・3回くらいはしてくれるようだが、いずれも運悪く不在だった場合は、自ら配送センターまで取りにいくはめになる。だから、、自分に都合のよい時間に、自分が選択した店舗に受け取りにいくほうがよほど便利・・・ということになる)。

  2005年からプライム会員に無料で迅速な配送を始めたアマゾンは、毎年平均34%という驚異の売上成長をつづけていくが、営業利益率は2004年の6%をピークにして、その後は下がり続け、2011年には2%にまで落ち込んだ。小売業の利益率は米国でも低いが、それでもウォルマートは6%くらいを維持している。アマゾンの場合、売上高の9%くらいだといわれる配送経費と物流センター構築への投資が負担になっているのだ。つまり、無料配送と迅速な配送は、売上増には大きく寄与していても、経費は確実にかかり、アマゾンの利益を圧迫しているわけだ。

  (ZOZOTOWNを運営しているスタートトゥデイの社長が「配送するにはそれだけ金がかかるのだ」と無料配送を支持する客を叱咤して炎上した事件があったが、怒る気持ちはよくわかる。アマゾンが無料サービスを提供しながら利益も出しているのならともかくも、利益もださずに無料配送をつづける会社のまねをするなんて・・・・と言いたくもなる。もっとも、アマゾンを創立する前にウォールストリートで働いていたベソスCEOは数字に強く、利益よりもキャッシュフローのほうが重要なんだと投資家たちに説いているくらいだ。その言葉どおり、アマゾンは営業利益は少なくても現金は常に潤沢に保有している)。

  米国大規模小売業は、その後も、リアル店舗の強みをいかすために、スマホやタブレットといったモバイル端末の利用をすすめ、店舗の発信力を高めていった。これが第2段階だ。たとえば、(こういったことは日本の小売業でもやっていることだが)、スマホにアプリをダウンロードした客は、自分がいま現在いる場所から一番近い店に欲しい商品があるかどうか調べ、在庫を確認してからその店を訪れることができる。事前に店内のレイアウトがチェックでき、その商品がどこにあるか棚の位置さえも調べることもできる。

  まあ、こういったサービスは消費者にとっては、それほど魅力あるものでもない。だが、次のようなサービスは大切だろう。

  たとえば、目当ての商品を実際に手に取ってみたら色が気に入らなかった、あるいはサイズが合わなかった。そんなときには、店員がタブレット端末で、あるいは客が店内設置の端末で、色違いやサイズ違いの在庫が他店舗にあるかどうかを調べ、場合によって、取り寄せてもらう、あるいは、直接自宅に配送してもらうなどの選択ができる。

  こういったことを可能にするためには、在庫情報、つまりリアルタイムに更新される一元化された在庫データベースが存在しなくてはいけない。こういった在庫データベースを構築した小売店は店舗のネットワーク化を進めることにより、アマゾンと、少なくとも互角に戦えるプラットフォームをもつことになる

  そして、ここで、オムニチャネル戦略の第3段階にはいる。

  ラストマイルの戦いとかラストマイルの問題とかいった用語を最近よく耳にする。もともとは電話などの有線通信サービス業で使われた言葉だ。幹線を構築するのはよいとして、問題は(つまり、一番経費がかかるのは)、たとえば、電話局(加入者局)から各家庭に線を引っ張るところにある・・・という意味で、最後の1マイル問題といわれた。ネット通販では、物流センターまではよいとして、そこから各顧客の自宅まで個別に荷物を配送するロジスティクスの問題が一番悩ましい。いかにして、あまり経費をかけずに、しかも、早く届けられるか?

  いま、ネット専業のアマゾンと大規模小売業とは、このラスト1マイルをめぐって戦いをくりひろげている。宣伝上手なアマゾンは、無線操縦する模型ヘリコプターのような「ドローン」を飛ばして、近いうちに・・・米連邦航空局の許可がおりれば2015年ごろには、物流センターから30分以内に顧客宅に配送するとPRしている。あるいは、都市部ではバイクをつかって有料で一時間以内の配送、プライム会員なら無料の2時間配送テストも開始している。

  その一方で、大規模小売店はリアル店舗をつかってラストマイルの問題を解決しようとしている。Ship from Store(店舗からの出荷)だ。

    たとえば、ウォルマートなら、顧客Aさんが商品をウォルマートサイトで注文したとして、早く届けるためにはいくつかの選択肢がある。Aさんの自宅がどこにあるかで、物流センターが近ければそこから業者をつかって直接配送する。だが、Aさんの自宅に近いところにX店舗があるとしよう。そのX店舗に在庫があればその日のうちに届けられる。だが、あいにくX店舗に該当商品の在庫がない。次に考えられるのが、X店舗に一番近いY店舗で、ここに在庫がある。①Y店舗からX店舗に届けて、X店舗から自宅配送(あるいは店舗受取り)。②Y店舗から直接配送、③物流センターから配送。この3つの選択肢のなかから、どれが経費が安いか、そして、どれが一番早く顧客のAさんちにとどけられるかという2つの条件を考えてベストな選択をする。コンピュータが最適化分析をして、1つの選択肢を指示してくれる。

  Ship from Store(店舗から出荷)戦略においては、アマゾンの米国内で60以上ある物流センターと、たとえばウォルマートなら4400店舗、メイシーグループなら・メイシーやブルーミングデール百貨店で850店舗を物流拠点として、どっちがコストとスピードで優位にたつかということだ。

  現在、ウォルマートの83件の大型店舗スーパーセンターでは、ウォルマートサイトで注文された商品の5分の1を出荷しているそうだ。これに、店舗に受け取りに来る客を含めると、ネット注文の半分は、店舗受取か店舗出荷ということになるようだ。

  一元化された商品在庫データベースと最適化分析をしてくれるソフトウェアプログラムとが、注文がオンライン、店舗、コールセンター、カタログ・・・と、どのチャネルからであろうとも、リアルタイム在庫、場所、注文状況を提供してくれる。在庫、物流コスト、人件費やサービスレベルなどを考慮して、どこから出荷すべきか決定してくれる。ウォルマートはこういったデータベース・プラットフォームを構築するのに4億3000万ドル投資したという。

  物流拠点としてのリアル店舗をネットワーク化をすることで、ネット専業アマゾンに、物流コストと配送速度で対抗しようというわけだ。が、このアマゾンとの競争において、リアルタイム在庫データベースの構築を進めている大規模小売業は、結果として、小売業の3大ロス(損失)といわれる値引きによるロス、廃棄によるロス、そして販売機会ロスの減少を実現することになる。危機感がなければ、これほど厖大な努力や投資はできない。アマゾンの脅威が米国小売業のムダを排除し利益の向上を生むわけだ。

  オムニチャネルの本質は、店舗小売業が一元化されたリアルタイム在庫のデータベースをもつようになることにある。これは、小売業の利益を向上することに直接つながり、長年の小売り業の悩みをかなりのレベルで解決してくれる。ネット専業と競争するなかで、店舗小売業の財務体質は頑強なものになっていくはずだ。

  考えてみれば、アマゾンが日本に進出した2000年、書店は全国で23000店舗ほどあった。この書店と取次店が協力して在庫のリアルタイム一元化をはかり、朝注文したら夕方には店舗で受け取れるというシステムを構築していたら、書店数が14年間で10000店近く減ることはなかっただろう (もっとも、タブレット端末も存在していなかった当時のIT環境では、無理だったと考えるのが妥当かもしれない)。

  話は突然変わるが、アマゾンは配送料無料サービスをずっと維持していくことができるのだろうか?

  アマゾンが利益も出さないのに積極投資を続けることができたのは株価が高かった。つまり、投資家たちがアマゾンの将来性を信じてついてきたことにある。「アマゾンは消費者利益のために投資家たちによって支えらえている慈善団体だ」と揶揄したアナリストもいるくらいだ。だが、さずがの投資家たちも20年間これといった利益が出ないのにはうんざりしてきたらしく、2014年に入ったころから株価も下がる傾向がみられ、さずがにこのままではいけないと思ったのだろう。アマゾンも利益を上げる意志をみせるために、2005年開始以来初めて、プライム会員費を79ドルから99ドルへと値上げした。

  その後、会費の値上げにもかかわらずプライム会員数が増大したということで、(数字を公表しないアマゾンだが、世界市場で53%増加したといわれる)、下がった株価はまた上がった。だが、これは本当にグッドニュースなのだろうか?

  FacebookやGoogleが無料サービスを広告収入で支えているように、サービスにかかる経費による損失は、どこかで埋め合わされなくてはいけない。購買客の45%を占めるというプライム会員の年間購買金額が非会員客の2倍だとしても、それで配送経費や物流センターへの投資をカバーすることは無理だろう。 

  FacebookやGoogleはアクセス客が増えても、それに合わせてサービス提供費用が相関関係的に増えるわけではない。しかし、アマゾンの配送経費は、プライム会員がふえればふえるほど相関関係的に増える。どこまでいっても、いたちごっこだ。いくらクラウドコンピューティングサービスや広告といった他の収入が成長しているといっても、アマゾンの無料ビジネスモデルで大幅に利益が増大する可能性はあるのだろうか?

  そもそも、90年代後半にネット関連サービス企業が登場するとともに無料が当然のような風潮になってはいるが、この風潮は10年後もつづいているだろうか? 言葉を変えていえば、無料のビジネスモデルは10年後も存続しているだろうか? 欧州では、フランスのようにアマゾンの無料配送を法律で禁止した国もある。また、Google やFacebookのように個人データにもとづいて広告収入をあげるビジネスモデルへの反対も根強くある。

  わたし的には、10年後に配送料無料サービスがなくなっていたとしても驚かない。誰もがそうしたくないのに、アマゾンという企業一社にひっぱられてやっているだけなのだから。そのアマゾンが、今後10年間も、これまでの20年間と同じように利益を出さずに投資家を魅了しつづけていられるとは思わない。株価が下がれば、アマゾンだって配送料を有料化せざるをえないだろう。それに、消費者も、タダでサービスが受けられるのに慣れてしまうことはよくないことだと思う。タダより高いものはない。結局、どこかで支払っているのだから。どこで支払っているのかが明確になっていたほうがいい。(・・・・などと評論家ぶっておえらいことをいいながら、ほとんど毎日、アマゾンで買ってまーす。だって、ペットフード一個買うだけでも配送料無料なんだもの。この便利さ、一度慣れたらやめられなーい~)。

  

 

  

  

  

 

 

参考文献:1. David Streitfeld, Amazon Reports a Profit, Citing Prime as the Key, The New York Times, 1/29/2015, Austin Carr, The Real Story Behind Jeff Bezos's Fire Phone Debacle And What It Means For Amazon's Future, Fast Company , 1/6/2015, 3. Shelly Banjo, Can Wal-Mart Clerks Ship as Fast as Amazon Robots?, The Wall Street Journal, 12/18/2014, 4.Steve Banker  Amazon vs. Walmart: E-Commerce vs. Omni-channel Logistics, Forbes, 10/4/2013

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2014年12月21日 (日)

IT企業や小売業が決済サービスを始める理由

 

 

 Attention!

「明日のマーケティング」のURLが変わりました⇒http://newmktg.lekumo.biz/ 

  最近、ビジネス誌を読んでいると、「決済サービス」という言葉がやたら目につく。商品やサービスを買った時にお金を支払うことを決済といい、決済サービスといったら、たとえばクレジットカード会社が提供しているサービスをさす。

  国語辞典によれば、、「商取引が成立すれば、一般的に、品物をを引き渡したり、金銭を支払ったりする権利(債権)や義務(債務)が生じる。決済とは、これらの債権や債務のうち、金銭にかんするものについて、実際に金銭の受け渡しをおこなって債務や債券を解消すること」だそうだ。

   こういった決済サービスは、銀行やクレジットカード会社といった金融サービス業が提供するものであった。が、最近は、小売業やIT企業の新しい決済サービスが続々と登場している。そのうえ、新しい決済サービスは、いまのプラスティックのクレジットカードより、ずっと使いがってがよくセキュリティも高いとされる。

  コンビニで買い物をしていると楽天のEdyやJR東日本のSuica(いずれもプリペイド形式の電子マネー)で支払っているひとをみかけたりするので、少額の支払いの多くは電子マネーで・・・と思ってしまうが、日本は、まだ、現金大国である。

   日本銀行の調査「決済システムレポート2012-2013」によると、日常的なショッピングにおける現金以外での支払いにおいては、1万円以下の支払いでは97.6%が現金で、電子マネー7.9%、クレジットカード4.7%となっている。1万円~5万円の支払いになると現金66.3%でクレジットカード50.5%、電子マネー1.2%。5万円以上の買い物になって初めてクレジットカードが現金を超えて57.6%、現金52.4%、電子マネー1.0%となる。

  (ちなみに、日銀のレポートにおいては、電子マネー = 一般的には電子的なリテール決済手段のうち、利用する前にチャージを行うプリペイド方式を採用したものと定義している)

   消費者(人間)には保守性があり、長年の習慣からなかなか離れられない。長い歴史がある現金やクレジットカードをつかう習慣が根づいている先進国全般にいえることだ。世界的調査(World Payments Report 2014)においても、非現金による決済金額の伸びの50%以上は新興国や開発途上国で発生している。グローバル全体で、クレジットカードやデビットカードの利用は継続して伸びてはいるが、スマホやタブレットといったモバイル端末による決済の急激な伸びが(モバイル端末による決済は2015年まで毎年60%余の成長が予測されている)、決済市場に大きな影響を与えている。世界でモバイル端末による決済をしている人の5人に1人は中国人だという調査結果もある。反対に、中国ではクレジットカードは10人に1人くらいしか普及していない。このままの傾向がつづくと、5年以内に、非現金取引において、中国が世界で最大の市場になる可能性が高い・・・と報告されている。

   日本には「代引き」というヤマトとか佐川といった宅配業者が提供する決済サービスがある。①ネット通販の利用が増大しているため、また、②商品の受け渡しと代金の支払いが同時に行われることによる安全性の確保といった利点があるため、2012年度には約2億件で2兆円規模に達している(ヤマトと佐川の合計)。

   このように各国の市場状況にあわせて特異な決済サービスが生まれるもので、中国では、eコマース最大手アリババが、「アリペイ」という決済サービスを提供している。顧客が不正な業者にだまされたりしないように、顧客から代金を一時的に預かり、商品が客に届いた時点で代金を販売業者に支払うことで、取引の安全性を確保するのに成功。これが、アリババが急成長した要因のひとつだとされる。

   非現金による決済サービスに注目が集まっている理由は、最近、GoogleとかApple とかAmazonといった著名IT関連企業がこの分野に進出してきているからだ。とくに、2014年秋にAppleがアップルペイという日本の「おサイフケータイ」に似た機能をiPhone 6やApple Watchに搭載したことで、決済サービスの話題に火がついた感がある。

   だいたいにおいて、こういったIT企業が決済サービスを提供することで、どんなメリットがあるというのか?

   小売業が、たとえば、楽天とかイオンが自ら決済サービスを提供したい意図は理解できる。クレジットカードや他の決済手段を使われれば、手数料を払わなくてはいけない。とくに、単価が低く粗利益率が数%しかないスーパーのような業種において、他社のカードをつかわれて手数料を支払うことは利益に大きく影響する。だから、小売業は金融サービスに進出し、願わくば銀行をかかえ、お金とモノが自社グループ内でぐるぐる回る環境をつくりたいと考える。

   よくいう、「XX経済圏」である。

   中国のアリババも、オンラインファンドMMF「余額宝」を2013年に始め、半年で4900万人から2500億元(≒4.5兆円)の預金を集めるのに成功している。銀行の定期預金より2倍も高い6%くらいの金利を提供しているのが人気の理由だ。アリババのECサイトでショッピングした客が、余額宝への預金をもとにアリペイ決済を利用すれば、自社グループ内でお金とモノが循環する。「アリババ経済圏」がつくられたことになる。

   楽天が自社カードを決済につかうのを促すためにポイントを提供するように、アリババも、たとえばスマホで決済すればキャッシュバックがあるようなインセンティブを提供して、経済圏への消費者の囲い込みを積極的に行っている(中国ではクレジットカードは10人に1人くらいしか普及していないので、スマホでの決済が多い。よって、スマホにタクシー配車、レストラン予約等の便利なアプリを無料配布し、そういったサービスへの支払も自社決済機能を使ってもらう。だから、スマホで顧客を囲い込む形でアリババ経済圏をつくろうとしている・・といわれる)。

   日本では小売業で銀行をかかえているところが多いが、米国ではなかなか難しいようだ。現に世界最大の小売り業のウォルマートは2005年に銀行を買収しようとしたが、反対する銀行団体のロビー活動によって2007年にはあきらめている。

  そのうえ、米国では、クレジットカードと、預金口座にリンクづけされているデビットカードで個人の決済方法の40%以上を占める。それに小切手を足すと60%を超す。よって、」eBay傘下のPayPalにしても、Googleにしても、Appleにしても、既存のクレジットカードに頼った形で決済サービスを提供している。

  Googleの決済サービス「グーグル・ウォレット」は、マスターカードをそれぞれのスマホに割り当てている。スマホの所有者がマスターカードを申し込むわけではないので、信用調査をする必要もない。買い物をすれば、グーグルはすぐに、その金額を利用者が選んだクレジットカードかデビットカードに課金するという2段階方式を採用している。

  アップルの場合は、利用者は最初に自分のクレジットカードの必要事項を入力しなくてはいけないが、あとは、スマホを専用カードリーダーにかざすだけで支払ができる。カード番号は店側にはわからないから、通常のクレジットカードよりセキュリティ度が高いことを売りにしている。

  Google が決済サービスを提供する目的は、消費者の購買データがほしいからだといわれている。だが、Apple は購買データは収集しないとはっきり宣言しているので、新製品の機能を高めることだけが目的かもしれない。

  こういった著名IT企業と一線を画しているのがTwitterの創業者の一人が始めたスクエアで、事業ターゲットは中小規模の小売やサービス店舗だ。スクウェアが提供するシステムを使えば、スマホやタブレットをレジ代わりにつかいクレジットカードで決済ができる。スマホのイヤホンジャックに500円玉大の専用カードリーダーを取りつけ、クレジットカードを通せば決済できる。店側にとっては、レジ端末やクレジットカード専用端末がいらず、無料配布するアプリと専用カードリーダーだけで初期投資がほとんどない。しかも、スクウェアは小売店が業績を上げるために必要なデータ管理や分析ツールも提供する。たとえば、顧客が一番多く来店する時間帯はいつかとか、雨天と晴天では売上はどれほど下がるかなど、個人商店がこういったデータをもとにマーケティング効率を向上することができるような無料アプリを提供する。

  Amazonも同じく中小の店舗や屋台とか移動店舗のようなサービス業者をターゲットに、スクエアと似たような決済ツールを、2014年夏に発売した。しかし、コーヒーショップなどが重宝する、こういった決済サービスは利益率が薄く、米スクウエアは2013年には1億ドルの損失をだしたといわれる。もっとも、Amazonの目的は、消費者の店舗における購買情報を収集することにあるそうだから、決済サービスでもうけなくてもよいのだろう。

  日本でも、楽天やコイニ-のように、スクエアやアマゾンと似たようなサービスを提供している企業がいくつかある。こういった企業は、目的はさまざまであっても、POSレジメーカーの脅威となることにかわりはないだろう。

  さて、ウォルマートの話に戻ろう。米国小売業や外食産業は、ウォルマートが中心となりMerchant Customer Exchangeという団体を設立し、2015年から、カレントCというスマホ決済サービスを開始しようとしている。そのため、Apple Payによる支払を拒否する店舗や外食チェーンも登場して、「消費者のことを考えているのか?!」と非難されたりしている。 カレントCの場合はクレジットカードではなくデビットカードを使い、アプリでQRコードを表示して既存のPOSレジで決済できる。これだとカードリーダー専用端末も必要ないし、クレジットカードにくらべて手数料が低い。当然のことながら、企業は利用者が識別できるショッピング情報を獲得できる。

  米国では、クレジットカードの手数料が高すぎるということで、店舗側が集団訴訟を起こす例もあり、カレントCには期待が寄せられている。その意味で、アメリカでは、新しい決済サービスは、銀行 対 小売や外食産業といった対決が背景にみられる。

   ウォルマートは以前から銀行を設立したいという願いがあり、2005年に申請したが、銀行業界から反対されて取り下げている。だが、2014年になって、金融サービスの提供に積極的になっている。たとえば、米国全土にある4200店舗に客が割安に送金できるサービス。ついで、地方銀行と提携して、スマホで利用できる、デビットカードにひも付された預金商品を発売したりしている。

   歴史的にみても、小売業が金融サービスをグループ内にかかえたいと願うようになるのは自然のなりゆきだ。前述したように、支払に他行のカードを使われて手数料を払っていては利益率が落ちる。そのうえ、購買客を決済手段で囲い込めば、そのあと、自動車保険とか他の金融商品を販売することが容易になる。

  利益率が非常に低い、とくにスーパーのような小売業に従事していると、固定費の小さい利益率の高い金融サービスが魅力的にみえるらしい。米国でいえば、70年代から80年代にかけては世界一の小売業だった「シアーズ」という会社は、銀行、保険、証券会社まで傘下にいれ、当時でいうところのコングロメリットとなった。最近の例では、英国のスーパー「テスコ」も同じような道を歩んできている。だが、シアーズは本業の小売業が低迷するとともに、客数が減ることにより、金融サービスもうまくいかなくなり、結果的には、すべての金融サービス子会社を売却することになった。そのうえ、本業の小売業のほうはいまだに低迷したままだ。

   英国のテスコも最近になって本業のスーパーの売上低迷、それに関連して不正経理の疑いも出てきて、株価が1年間で50%も下がっている。本業を盛り返す資金を捻出するために、傘下のテスコ銀行を手放のではないかとウワサされている。

   こういった歴史をふりかえると、本業の顧客ベースをもとに金融サービスに手をひろげた企業は、金融サービスの利益性に目をうばわれ、本業の小売業をついつい無視というわけではないだろうが、努力を怠ってしまう傾向があるようだ。コツコツ努力して1%や2%の利益率を上げるのを、無意識のうちにバカらしく思うようになってしまうのかもしれない。また、本業の売上が落ちても、金融サービスからの利益をあてにしてしまうので、危機意識がすぐには出てこない。

  

  「XXX経済圏」をつくったり、つくろうとしている企業は、そういった落とし穴に落ちないよう気をつけたほうがよいかもしれない・・・って、これ、老婆心のおせっかいだよね。失礼いたしました~

              楽しいクリスマスとお正月をお迎えくださいませ!

参考文献: 1. 「決済システムレポート2012-2013」 日本銀行2013年10月、2. World Payments Report 2014, Capgemini & RBS 、3.「アリババ、市場最大は最強なのか」日経ビジネス 9/29/2014、4.「中国スマホ決済、AT戦争が激化」日経ビジネス 3/3/2014、5.「スマホ決済の「本命」、米スクエア、CEOが語る日本戦略」 日経新聞電子版6/12/2013、6.Kamal Ahmed, Tesco, what went wrong?, BBCNews 10/22/2014,7.Mark Friedman, Wal-Mart's March into Financial Services Unsettling to Some, Arkansasbusiness 5/12/2014, 8. Ben Marlowm, Tesco eyes 1bn from bank sale, Telegraph 11/1/2014, 9.Greg Bensinsger, Amazon Unveils Mobile-Payments Service for Local Shops, WSJ 8/13/2014

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