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2015年12月15日 (火)

ユニクロとハローキティの限界

  

  キティちゃんとユニクロとの間にはなんの関係もないように思えるが、実は、共通点はかなりある。どちらも海外で、とくに、アジアでは知名度の高いブランドだ。欧米を含めて世界的に名の知れたハローキティに比べると、アジア中心のユニクロはちょっとローカル。だが、米国にはニューヨーク五番街の旗艦店をふくめて約40店舗あるし、、欧州でもロンドン、パリといった大都市を中心に19店舗ある。

  そして、ユニクロが米国市場で苦戦をしいられ、進出してからの10年間で赤字が増大しつづけていることが問題となっているように、ハローキティもディズニーの「アナ雪」人気におされ、米小売店の棚スペースの半分くらいを(アナ雪キャラに)うばい取られたことが話題となっている。

  とはいえ、決算の数字を見る限り、ユニクロのファーストリテイリングもキティのサンリオも好調である。ファストリーの2015年8月期の連結業績は、売上高、利益ともに過去最高。売上高は1兆6000億円を超え前期から21.6%増。純利益は前期比47.6%増の1100億円だ。

  サンリオにしても、2015年3月期で売上高(745億円)、営業利益ともに減少はしたが、2014年までは毎年のように最高益を更新していた。2015年度でも、その営業利益率はなんと23%の驚異の高さだ。

  つまり、どちらも、他の多くの企業にしてみればうらやましい限り。だが、好調が続いているからこそ市場の期待感も大きく、かえって、ちょっとした不安材料で株が下がったりする。たとえば、ユニクロの国内既存店売上高が2015年6月から8月までの第四四半期に前年比で下がったと騒がれた。サンリオも、2014年5月に、利益率の高いライセンスビジネスの見直しをするのではないかと株価が6000円台から2000円台に急落した。

  サンリオの場合は、ビジネスモデルを変えるかもしれないという大きな話で、「ちょっとした不安材料」には含められないかもしれない。しかし、両者ともにブランドに陰りが出てきていることを市場は感じ取っており敏感に反応しているといえる。

  ブランドに陰り・・・と書いたが、これは、売上の原動力となるブランド力が落ちたと言っているわけではない。そうではなくて、ユニクロやハローキティのブランドの個性というかアイデンティティがあいまいになってきたという意味。満月に雲がかかって暗い空との境界があいまいになっているという意味での「陰り」です。

  ブランドに陰りが出てきたことが、すぐに、売上に直結するわけではない。だが、ブランドのアイデンティティがあいまいになると、ブランド価値が落ち、結果、売上が下がる例は多い。

  だとえば、2013年、イタリアの自動車メーカー「フェラーリ」の当時の会長が、高級車フェラーリの生産を年間7000台以下に抑えると語った。2012年のフェラーリの生産台数は、中国の富裕層の購入などもあって、過去最高の7318台を記録。「これは多すぎる。フェラーリを買うのにふさわしい洗練された金持ちは世界に7000人以上はいないはずだ」というのが、会長の主張だ。この発言は、フェラーリのアイデンティテイを明確にし、イメージを確立するのに役立つ。そして、また、購買客に「自分は世界中で選ばれたわずか7000人の一人だ」と満足感を与えることもできる。「そのためだったら4000万円払うのも惜しくない」と思わせるには非常に効果的な発言だ。

  だが、生産台数を限定するということは、売上に上限をつくることになる。

  フェラーリの90%の株を所有している米自動車大手FCA(フィアット クライスラー オートモービルズ)は、新興国市場がのびているのだから9000台~1万台に増産してもよいのではないかと、反対意見を表示。結局、フェラーリのラグジュリー性を強調したかった会長は辞任した。というか辞任させられている。

  このように、ブランドアイデンティティやブランドイメージの維持と売上とのバランスはむずかしい。

  キティちゃんの場合は、売上や利益が上昇するなかで、アイデンティティが損なわれてきているのは明らかではないだろうか。

  ハローキティは1999年に女子高校生を中心にブームとなり、サンリオは、過去最高となる188億円の営業利益を出した。、当時、サンリオは、キティー関連商品をみずから企画し直営店で販売する手法をとっていたので、ブームが去ると、直営店の経費や商品在庫がコストとなり収益が急激に悪化。業績不振がつづくサンリオを蘇らせたのが、2008年に入社した鳩山玲人氏と、その手腕を買って三菱商事から引き抜いた創業者の息子で副社長だった辻邦彦氏だ。

  二人が採用した戦略は、自ら商品を企画販売するというコストも在庫リスクも高い従来のビジネスモデルではなく、企業にライセンスを供与して使用料(キャラクター使用のロイヤルティーとして売上の数%~10%程度)をサンリオが徴収するという非常に利益率の高いビジネスモデルに変換することだった。

  その効あって、2009年からは、営業利益が急増し、12年には1999年の営業利益を超えるようにまでなった。しかし、その一方で、「キティは仕事を選ばない」と揶揄されたように、キティーちゃんは過剰労働を強いられ(?)、文具、アパレル、家電はまあよいとして、ありとあらゆるところに顔を出すようになる。

  コンビニでキティ顔の肉まんが売られ、工事現場の単管ゲートもキティー顔。イメージがどうこう言う前に、はっきりいって、これだけあちこちで働いていては、飽きられる。

  鳩山氏は「オープンイノベーションの考え方を導入して、外部の知恵を活かすようにした・・・可愛い、仲よく、助け合いの精神にのっとっていればあとは自由」と語っていたが、オープンイノベーションの意味を自分の都合のよいように解釈して、キティーちゃんで(短期的に)もうけることしか考えていないのではないかと非難されても・・・・仕方がない。

  ミッキーマウス、シンデレラを含める3人のプリンセス、その他の多くのスター・キャラクターを抱え、ライセンスビジネスではNo.1の売上を上げているウォルトディズニーは、他者によるデザイン変更はダメ、使い方も制限し、イメージを慎重に守る方針をとっている。しかも、一業種一社が常識。だが、キティは、ファストファッションの分野で、H&M, フォーエバー21、ZARAにも使用を許可している。経済紙Bloomburgによれば、2014年現在で、世界中で5万個のキティ商品があふれているという。

  いくら可愛くても飽きるだろう。それに、キャラクターのイメージの統一感が失われる。

  アナ雪のキャラクターに米国で売り場をとられたのは、あれだけ映画がヒットしたのだから仕方がない。だが、欧州においても、2010年度がピークで、180億円あったライセンス収入は下降線をたどっているという。やっぱり、キティちゃんに飽きがきているからではないだろうか。

  ウォルトディズニーは、ライセンス供与先を多くすることには慎重だ。売上が多くなることは分かっているが、長期的に考えるとミッキーマウスの寿命を縮めることになる。すでに87歳のミッキーの不老長寿を実現するためには、その商品やサービスがミッキーのストーリーに忠実で、ミッキーがその商品に姿を現すことが意味あることでなくてはいけないと考えている。

  ブランドに価値があるとしたら、そしてその価値を守りながら売上を上げるとしたら、それ以外に最適な方法があるだろうか?

  サンリオは、レディーガガやキャメロン・ディアスといった世界的に有名なセレブがキティーちゃんのアクセサリーやドレスを身に着けた時点(2009年~2010年)で、ライセンス供与先を引き締めるべきだった。売上を上げたいのをぐっと我慢しながら、一流企業とか一流ブランドを供与先とする。あるいは、(ネット上を含め)メディアで話題となるような提携の仕方に制限すべきだった。

  もう、手遅れかもしれない。が、御年41歳のキティが、いまのミッキーマウスの年齢である87歳になったときに、ネズミの先輩のように輝いていてほしい・・・・サンリオ創業者はそう願っているようだ。あまりにオープンすぎたラインセンスビジネスのやり方を変える方針を発表している。

  次期社長とみなされていた副社長が2013年に急死し、自分が当分の間社長をつづけることになった段階で、辻信太郎社長は見直しを表明している。ラインセンスビジネスをある程度制限し、みずから商品を企画し、それをキティの世界感を伝える店舗で販売する。これによってブランド認知を進めると語っている。

  キティーちゃん、がんばってね!

  さて、ユニクロである。

  ユニクロというブランドはファッション衣料品というよりは、どこか、トヨタ自動車を連想させる。機能性とか品質管理とかカイゼンといった言葉を思い出させる製造業的イメージがあるブランドなのだ。これは、けなしているのではなく、褒めているつもり。

  「製造業的イメージをもつアパレル商品」なんて世界にたった一つだろう。

  ユニクロは、誰もが買える「普及価格」で品質の良い自動車や電機製品を世界に提供した、かつての日本企業を思い出せるアパレル・ブランドなのだ。

  そういった意味で、いま、ユニクロが、日本の電機メーカーが経てきたのと似た道をたどっているように見えるのは、当然のことなのかもしれない。

  たとえば、ヒートテックが登場したときは画期的であったが、機能的製品なのだからマネはできる。競合他社が模倣品を出す。ユニクロは、それよりもっと機能的に優れた製品をつくろうと、絶え間ないカイゼンをする。だが、品質のレベルは、すでに、もう、消費者には見分けのつかないレベルとなっている。(ソニーやパナソニックのAV製品に関する2000年頃の調査では、その品質の良さは、世界の消費者にはすでにもう違いがわからないレベルになっていることが明らかにされた。それでも、日本のメーカーはカイゼンを続けた。そして、デザイン性に長けたダイソンや、安価な新興国メーカーの製品に負けた)。

  ユニクロがザラを抱えるスペインのインデティックスやスウェーデンのH&Mの売上を抜くには、ファッション性が必要だといわれる。だが、それはどうだろうか? ユニクロは、ジル・サンダーやクリストフ・ルメールといった著名デザイナーがデザインした服を販売したが、PR的な話題作りを提供はしても、それが、ユニクロにファッショナブルなイメージを与えたというわけでもない

  ユニクロはファッション性を採用したいといろいろ努力をしても、これまでのところ、成功していないのだ。

  ブランドパーソナリティという用語がある。ブランドアイデンティテイとかブランドパーソナリティとか、似たような意味をもつカタカナ用語を微妙な違いで使いわけるのは、あまり好きではありません。でも、この場合、ブランドパーソナリティ(性格)という言葉をつかうと、言いたいことがわかりやすく説明できるので、あえて使ってみます。

  製造業のパーソナリティをもつブランドが、ファッション産業のパーソナリティも合わせ持つということは可能なのか? 二重人格とまではいかなくても、かなり矛盾した性格をもつブランドということになる。

  ユニクロがファッショナブルであろうと幾度か試みたのは、そうでないと、インディテックスを売上で抜けないと考えていたからだ。が、どうも、最近は、その路線はあきらめたようでもある。代わりに、柳井会長兼社長は、3Dプリンティングを含めたITを駆使したマスカスタマイゼ―ションみたいなことを考えているといわれる。

  いずれにしても、ユニクロブランドはファッション路線はやめて、徹底的に機能性を追求すればよい。だが、ヒートテックという機能性だけで世界市場を魅了するのはむつかしいようだ。寒さ対策の機能性が人気があるのは、冷え性という概念があるモンゴル系だけなのではないか? 白人系は基本的に体温が高いので、暖かい下着をありがたがる傾向は少ないのではないか? あるいは、また、暖かい下着をつけてもスリムな外観は保ちたいという気持ちを持っている消費者は、欧米には少ないのではないか?という意見もある。

  たしかに、そういった傾向はあると思う。とくに、欧州に比べると暖房費節約の意識が低く、移動といえば自動車の北米では、日常着に寒さ対策はあまり考えないかもしれない。だが、温暖化が進むなか、消費者の意識は変わるし、啓蒙活動によって変えることはできる。問題は、ユニクロが、そのためにどれだけ投資(時間とお金)をかけられるかだろう。

  ヒートテックという機能性が欧米にはすぐに受け入れられないとして・・・

  世界に通用する機能性とは何か?といえば、やっぱり環境だろう。焼却してもCO2がほとんど出ないとか、土に埋めたら土に帰るとか、いや、私などが思いつかないような点で革新的にエコロジカルな洋服を作り続ければいい。それが、ユニクロというブランドのパーソナリティであり、アイデンティテイだと思う。

  ただ、勝手なことをいわせてもらえば、定番製品の色とかデザインを、工業製品の美しさを表現するようなスマートなものにはしてほしいとは思う。いまのユニクロがガラケーのデザインなら、、iPhoneのようなデザインにして、洗練された機能性を表現したスマホのユニクロSをつくってほしい。ついでにいえば、ユニクロSは、価格も高くする。欧米の旗艦店はニューヨークの五番街とかの一等地にあるが、こういった地では、価格が安いことがかえって商品を理解してもらうことの邪魔になることがある(いくらヒートテックの機能性を説明しても、値段が安いと、NYの消費者にマジメに考慮してもらえない)

  最初に、ユニクロとハローキティの限界というタイトルをつけたが、これは、二つのブランドが拡大したくても限界があってこれ以上は広がっていかない・・・という意味ではありません。反対に、ブランドとしてのアイデンティテイやイメージを確立し、ブランド価値を向上したいのであれば自らが限界をつくらなければいけないという意味で、「限界」という言葉をつかわせていただきました。

  消費者市場においては、強烈な個性がなければ無数の商品のなかで埋もれてしまう。「二兎追うものは一兎を得ず」のことわざどおり。自分のブランドの個性を選択しなければいけない。あれもこれも追うことは、それがたとえ短期的に売上を上げることであっても、ぐっとこらえて我慢しなくてはいけないのでは?

参考文献: 1.「ユニクロ、トレンド読めず大量欠品の深刻度」 日経ビジネスオンライン10/9/15、2.「サンリオ感性経営試練の時」 週刊ダイヤモンド11/1/14、3.「キティは仕事を選ばない」日経ビジネス 5/20/13, 4. Bruce Einhorn, Hello Kitty, a Victim of Disney's Frozen Jugggernaut, BloombergBusiness 10/31/14、5.「サンリオ、物販シフトへの真意」東洋経済オンライン 6/19/14、6.「海外が好調なユニクロ、北米で見える弱点」日経ビジネスオンライン 9/18/15, 7.「米国市場で苦戦続くユニクロ」The Economist, nikkei bijinesu 12/7/15, 10. Kim Bhasin, Inside Uniqlo, The Japanese Compnay With Designs On Dressing The World, Huffingtonpost.com 11/26/14

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