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2014年12月21日 (日)

IT企業や小売業が決済サービスを始める理由

 

 

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  最近、ビジネス誌を読んでいると、「決済サービス」という言葉がやたら目につく。商品やサービスを買った時にお金を支払うことを決済といい、決済サービスといったら、たとえばクレジットカード会社が提供しているサービスをさす。

  国語辞典によれば、、「商取引が成立すれば、一般的に、品物をを引き渡したり、金銭を支払ったりする権利(債権)や義務(債務)が生じる。決済とは、これらの債権や債務のうち、金銭にかんするものについて、実際に金銭の受け渡しをおこなって債務や債券を解消すること」だそうだ。

   こういった決済サービスは、銀行やクレジットカード会社といった金融サービス業が提供するものであった。が、最近は、小売業やIT企業の新しい決済サービスが続々と登場している。そのうえ、新しい決済サービスは、いまのプラスティックのクレジットカードより、ずっと使いがってがよくセキュリティも高いとされる。

  コンビニで買い物をしていると楽天のEdyやJR東日本のSuica(いずれもプリペイド形式の電子マネー)で支払っているひとをみかけたりするので、少額の支払いの多くは電子マネーで・・・と思ってしまうが、日本は、まだ、現金大国である。

   日本銀行の調査「決済システムレポート2012-2013」によると、日常的なショッピングにおける現金以外での支払いにおいては、1万円以下の支払いでは97.6%が現金で、電子マネー7.9%、クレジットカード4.7%となっている。1万円~5万円の支払いになると現金66.3%でクレジットカード50.5%、電子マネー1.2%。5万円以上の買い物になって初めてクレジットカードが現金を超えて57.6%、現金52.4%、電子マネー1.0%となる。

  (ちなみに、日銀のレポートにおいては、電子マネー = 一般的には電子的なリテール決済手段のうち、利用する前にチャージを行うプリペイド方式を採用したものと定義している)

   消費者(人間)には保守性があり、長年の習慣からなかなか離れられない。長い歴史がある現金やクレジットカードをつかう習慣が根づいている先進国全般にいえることだ。世界的調査(World Payments Report 2014)においても、非現金による決済金額の伸びの50%以上は新興国や開発途上国で発生している。グローバル全体で、クレジットカードやデビットカードの利用は継続して伸びてはいるが、スマホやタブレットといったモバイル端末による決済の急激な伸びが(モバイル端末による決済は2015年まで毎年60%余の成長が予測されている)、決済市場に大きな影響を与えている。世界でモバイル端末による決済をしている人の5人に1人は中国人だという調査結果もある。反対に、中国ではクレジットカードは10人に1人くらいしか普及していない。このままの傾向がつづくと、5年以内に、非現金取引において、中国が世界で最大の市場になる可能性が高い・・・と報告されている。

   日本には「代引き」というヤマトとか佐川といった宅配業者が提供する決済サービスがある。①ネット通販の利用が増大しているため、また、②商品の受け渡しと代金の支払いが同時に行われることによる安全性の確保といった利点があるため、2012年度には約2億件で2兆円規模に達している(ヤマトと佐川の合計)。

   このように各国の市場状況にあわせて特異な決済サービスが生まれるもので、中国では、eコマース最大手アリババが、「アリペイ」という決済サービスを提供している。顧客が不正な業者にだまされたりしないように、顧客から代金を一時的に預かり、商品が客に届いた時点で代金を販売業者に支払うことで、取引の安全性を確保するのに成功。これが、アリババが急成長した要因のひとつだとされる。

   非現金による決済サービスに注目が集まっている理由は、最近、GoogleとかApple とかAmazonといった著名IT関連企業がこの分野に進出してきているからだ。とくに、2014年秋にAppleがアップルペイという日本の「おサイフケータイ」に似た機能をiPhone 6やApple Watchに搭載したことで、決済サービスの話題に火がついた感がある。

   だいたいにおいて、こういったIT企業が決済サービスを提供することで、どんなメリットがあるというのか?

   小売業が、たとえば、楽天とかイオンが自ら決済サービスを提供したい意図は理解できる。クレジットカードや他の決済手段を使われれば、手数料を払わなくてはいけない。とくに、単価が低く粗利益率が数%しかないスーパーのような業種において、他社のカードをつかわれて手数料を支払うことは利益に大きく影響する。だから、小売業は金融サービスに進出し、願わくば銀行をかかえ、お金とモノが自社グループ内でぐるぐる回る環境をつくりたいと考える。

   よくいう、「XX経済圏」である。

   中国のアリババも、オンラインファンドMMF「余額宝」を2013年に始め、半年で4900万人から2500億元(≒4.5兆円)の預金を集めるのに成功している。銀行の定期預金より2倍も高い6%くらいの金利を提供しているのが人気の理由だ。アリババのECサイトでショッピングした客が、余額宝への預金をもとにアリペイ決済を利用すれば、自社グループ内でお金とモノが循環する。「アリババ経済圏」がつくられたことになる。

   楽天が自社カードを決済につかうのを促すためにポイントを提供するように、アリババも、たとえばスマホで決済すればキャッシュバックがあるようなインセンティブを提供して、経済圏への消費者の囲い込みを積極的に行っている(中国ではクレジットカードは10人に1人くらいしか普及していないので、スマホでの決済が多い。よって、スマホにタクシー配車、レストラン予約等の便利なアプリを無料配布し、そういったサービスへの支払も自社決済機能を使ってもらう。だから、スマホで顧客を囲い込む形でアリババ経済圏をつくろうとしている・・といわれる)。

   日本では小売業で銀行をかかえているところが多いが、米国ではなかなか難しいようだ。現に世界最大の小売り業のウォルマートは2005年に銀行を買収しようとしたが、反対する銀行団体のロビー活動によって2007年にはあきらめている。

  そのうえ、米国では、クレジットカードと、預金口座にリンクづけされているデビットカードで個人の決済方法の40%以上を占める。それに小切手を足すと60%を超す。よって、」eBay傘下のPayPalにしても、Googleにしても、Appleにしても、既存のクレジットカードに頼った形で決済サービスを提供している。

  Googleの決済サービス「グーグル・ウォレット」は、マスターカードをそれぞれのスマホに割り当てている。スマホの所有者がマスターカードを申し込むわけではないので、信用調査をする必要もない。買い物をすれば、グーグルはすぐに、その金額を利用者が選んだクレジットカードかデビットカードに課金するという2段階方式を採用している。

  アップルの場合は、利用者は最初に自分のクレジットカードの必要事項を入力しなくてはいけないが、あとは、スマホを専用カードリーダーにかざすだけで支払ができる。カード番号は店側にはわからないから、通常のクレジットカードよりセキュリティ度が高いことを売りにしている。

  Google が決済サービスを提供する目的は、消費者の購買データがほしいからだといわれている。だが、Apple は購買データは収集しないとはっきり宣言しているので、新製品の機能を高めることだけが目的かもしれない。

  こういった著名IT企業と一線を画しているのがTwitterの創業者の一人が始めたスクエアで、事業ターゲットは中小規模の小売やサービス店舗だ。スクウェアが提供するシステムを使えば、スマホやタブレットをレジ代わりにつかいクレジットカードで決済ができる。スマホのイヤホンジャックに500円玉大の専用カードリーダーを取りつけ、クレジットカードを通せば決済できる。店側にとっては、レジ端末やクレジットカード専用端末がいらず、無料配布するアプリと専用カードリーダーだけで初期投資がほとんどない。しかも、スクウェアは小売店が業績を上げるために必要なデータ管理や分析ツールも提供する。たとえば、顧客が一番多く来店する時間帯はいつかとか、雨天と晴天では売上はどれほど下がるかなど、個人商店がこういったデータをもとにマーケティング効率を向上することができるような無料アプリを提供する。

  Amazonも同じく中小の店舗や屋台とか移動店舗のようなサービス業者をターゲットに、スクエアと似たような決済ツールを、2014年夏に発売した。しかし、コーヒーショップなどが重宝する、こういった決済サービスは利益率が薄く、米スクウエアは2013年には1億ドルの損失をだしたといわれる。もっとも、Amazonの目的は、消費者の店舗における購買情報を収集することにあるそうだから、決済サービスでもうけなくてもよいのだろう。

  日本でも、楽天やコイニ-のように、スクエアやアマゾンと似たようなサービスを提供している企業がいくつかある。こういった企業は、目的はさまざまであっても、POSレジメーカーの脅威となることにかわりはないだろう。

  さて、ウォルマートの話に戻ろう。米国小売業や外食産業は、ウォルマートが中心となりMerchant Customer Exchangeという団体を設立し、2015年から、カレントCというスマホ決済サービスを開始しようとしている。そのため、Apple Payによる支払を拒否する店舗や外食チェーンも登場して、「消費者のことを考えているのか?!」と非難されたりしている。 カレントCの場合はクレジットカードではなくデビットカードを使い、アプリでQRコードを表示して既存のPOSレジで決済できる。これだとカードリーダー専用端末も必要ないし、クレジットカードにくらべて手数料が低い。当然のことながら、企業は利用者が識別できるショッピング情報を獲得できる。

  米国では、クレジットカードの手数料が高すぎるということで、店舗側が集団訴訟を起こす例もあり、カレントCには期待が寄せられている。その意味で、アメリカでは、新しい決済サービスは、銀行 対 小売や外食産業といった対決が背景にみられる。

   ウォルマートは以前から銀行を設立したいという願いがあり、2005年に申請したが、銀行業界から反対されて取り下げている。だが、2014年になって、金融サービスの提供に積極的になっている。たとえば、米国全土にある4200店舗に客が割安に送金できるサービス。ついで、地方銀行と提携して、スマホで利用できる、デビットカードにひも付された預金商品を発売したりしている。

   歴史的にみても、小売業が金融サービスをグループ内にかかえたいと願うようになるのは自然のなりゆきだ。前述したように、支払に他行のカードを使われて手数料を払っていては利益率が落ちる。そのうえ、購買客を決済手段で囲い込めば、そのあと、自動車保険とか他の金融商品を販売することが容易になる。

  利益率が非常に低い、とくにスーパーのような小売業に従事していると、固定費の小さい利益率の高い金融サービスが魅力的にみえるらしい。米国でいえば、70年代から80年代にかけては世界一の小売業だった「シアーズ」という会社は、銀行、保険、証券会社まで傘下にいれ、当時でいうところのコングロメリットとなった。最近の例では、英国のスーパー「テスコ」も同じような道を歩んできている。だが、シアーズは本業の小売業が低迷するとともに、客数が減ることにより、金融サービスもうまくいかなくなり、結果的には、すべての金融サービス子会社を売却することになった。そのうえ、本業の小売業のほうはいまだに低迷したままだ。

   英国のテスコも最近になって本業のスーパーの売上低迷、それに関連して不正経理の疑いも出てきて、株価が1年間で50%も下がっている。本業を盛り返す資金を捻出するために、傘下のテスコ銀行を手放のではないかとウワサされている。

   こういった歴史をふりかえると、本業の顧客ベースをもとに金融サービスに手をひろげた企業は、金融サービスの利益性に目をうばわれ、本業の小売業をついつい無視というわけではないだろうが、努力を怠ってしまう傾向があるようだ。コツコツ努力して1%や2%の利益率を上げるのを、無意識のうちにバカらしく思うようになってしまうのかもしれない。また、本業の売上が落ちても、金融サービスからの利益をあてにしてしまうので、危機意識がすぐには出てこない。

  

  「XXX経済圏」をつくったり、つくろうとしている企業は、そういった落とし穴に落ちないよう気をつけたほうがよいかもしれない・・・って、これ、老婆心のおせっかいだよね。失礼いたしました~

              楽しいクリスマスとお正月をお迎えくださいませ!

参考文献: 1. 「決済システムレポート2012-2013」 日本銀行2013年10月、2. World Payments Report 2014, Capgemini & RBS 、3.「アリババ、市場最大は最強なのか」日経ビジネス 9/29/2014、4.「中国スマホ決済、AT戦争が激化」日経ビジネス 3/3/2014、5.「スマホ決済の「本命」、米スクエア、CEOが語る日本戦略」 日経新聞電子版6/12/2013、6.Kamal Ahmed, Tesco, what went wrong?, BBCNews 10/22/2014,7.Mark Friedman, Wal-Mart's March into Financial Services Unsettling to Some, Arkansasbusiness 5/12/2014, 8. Ben Marlowm, Tesco eyes 1bn from bank sale, Telegraph 11/1/2014, 9.Greg Bensinsger, Amazon Unveils Mobile-Payments Service for Local Shops, WSJ 8/13/2014

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