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2010年12月28日 (火)

オールド・メディアの逆襲(ハイボールとダイレクトメール)

「逆襲」って言葉は、ちょっと受けを狙ってるだけです。まあ「オールド・メディアの健闘」というところでしょうか。

 2010年はTVが健闘したのではないでしょうか。2010年7月~9月期の四半期決算によると、電通は大幅経常増益になった。その理由はテレビ広告が持ち直したからだ・・・と日経新聞は報告しています。

 TVが健闘している理由として、1)不景気で残業も減り、自宅で過ごすヒマな時間が多くなった、2)パソコンやケータイをしながらTVを見る・・・という「ながら視聴」が多くなった。 

実際、楽天リサーチの調査によると、10代~50代で「頻繁にながら視聴をしている」割合は平均して30.4%。ネットとTVは敵対関係ではなく協力関係にあるわけだ。たとえば、パソコンでネットを使った日のほうがテレビを見る時間も長い・・・という調査結果もあるくらいです(日本人の情報行動調査)。そして、10代はパソコンではなくケータイでネットを利用する傾向が高いわけですが、ケータイでネットを見る時間は一日66分。テレビの視聴時間はそれより多く110分を越している・・・そうです。

 調査というのは、自分が「こうであって欲しいなあ」と願う結果が出ている調査をついつい探してしまう。そういった行動経済学でいうところの「確証バイアス」を無視して、あえて、NECビッグローブのツイッターに関する調査を紹介します。2010年4月の調査で、ツイッターの主な利用者は20代~30代の会社員だが、書き込みが伸びるのは会社の終わった午後6時以降。そして、話題では、テレビ番組の話題が多い。結果、番組放送後の時間帯に投稿が増える。

 TVとツイッター(PCやケータイ)とは相性が良いという、もうひとつの調査結果です。

 まあ、調査結果はこれくらいにして。TVの威力を思い知らされたのは、やっぱり、ハイボールの復活。というか、ハイボールなんか知らなかった若い世代にとっては、ハイボール人気を誕生させたことでしょう。

 TV広告が始まったのは2009年2月から。もちろん、それ以前に、全国各地の飲み屋にハイボールのおいしい作り方とかを教授し、「角ハイボールタワー」という専用のサーバーをつくって買ってもらうといった、地道な営業努力がありました。でも、小雪のあのコマーシャルなくして、ハイボールはここまで人気を獲得することができたか? 2008年の時点で角ハイボールを取扱う店は約1万5000店、これが、2009年には6万店、2010年7月末には9万7000店を越えた。

 ハイボールは、日経新聞の2009年のヒット商品番付で西の前頭、2010年のヒット商品番付のフードビジネス部門で小結・・・・と二年続けてヒット商品となりました。

 ブランディングと認知度向上へのTVの威力はやっぱりすごい! 企業の明確な意志を伝達するメディアとしてのTVの力は、やっぱりすごい!・・・TV大好き人間の私としては、嬉しいニュースでした。

 次は、紙媒体の威力の話しです。

 リーマンショック後、コスト高ということで需要の落ちたダイレクトメール。このダイレクトメールの(デジタルメディアと比較した)威力を証明するために、神経科学のテクノロジーを利用した会社があります。英国の(日本郵便みたいな会社である)ロイヤルメールです。

 ロイヤルメールは、英国バンゴア大学に依頼して、人間の脳は広告メッセージをどう情報処理しているかを、デジタル媒体と紙媒体との違いで調べてもらいました。

 20人(男女10人ずつ、平均年齢30歳)の被験者にfMRI(機能的MRI)にはいってもらい、既存の広告をデジタル形式(スクリーンに表示される)と紙に印刷された形式と2種類見せ、脳の様子を観察した。

 胸梁膨大後部皮質だとか前頭前皮質内側部とか漢字だらけの部位名がだらだら羅列されているのを省いて簡単にいうと、まず、第一に、紙媒体は脳には「リアル」に具体的に知覚されている。当たり前といえば当たり前のコメントだけれども、「リアル」に知覚されていることは重要で、その結果として、感情が喚起され、感情がともなうがゆえに、記憶に関係する部位も活性化する。

 つまり、感情と記憶に関係する部位が、デジタル広告よりも、強く活性化される・・・ということらしい。

 しかもデフォルトネットワークである前頭前皮質側部や後帯状皮質が活性化して、喚起された感情情報を自己の思考、感情や記憶に関連づけようとしている。(これは、つまり、ブランディングや購買の動機付けに関連してくる・・・はずだ)。

 もうひとつ面白いことは、人間の脳は、スクリーン上のデジタル広告(ヴァーチャルイメージ)には、リアルなイメージに比べて、意識を集中しにくくできているらしい。

 だから、パソコンやケータイを使いながらTVを見る・・・といった「ながら見」をしてしまうのだろうか?

 いずれにしても、この実験結果だけをみると、紙媒体による広告(たとえばダイレクトメール)はeメールやウェブサイトにはない効力をもっていることになる。まあ、私的には賛成します。以前から、「ネット販売企業は、コストが安いからといってネット内だけで完結しようと決めつけないほうがよい。ハガキDMを使えば顧客の継続化をはかれる」と言っていましたから。

 ロイヤルメールの実験に関連して・・・・電子書籍と紙の書籍で、脳が情報をどう処理しているか調べてほしいですね。とくに、感情とか記憶。ロイヤルメールの実験でいけば、紙の書籍で読んだほうが、感情は喚起されるし記憶にも残るってことになります。これは、大きな問題で、教育現場ではiPadじゃなくて、これからもずっと紙の教科書を使ったほうが効果が高いということにならないでしょうか? 

 出版社さん、あるいは、大手本屋さん、一度、実験してみてください。思わしい結果が出なかったら発表しなくていいですから。

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参考文献: 1.「広告3社7~9がウ、電通・博報堂DYが増益】日本経済新聞11/11/20、2.「つぶやき」木曜午後10時最多」日経MJ5/12/10、3.「ネットは携帯で/TVも見るし・・・」 朝日新聞12/12/10、4、「サントリーハイボール、成功の秘訣」日経新聞電子版セクション12/08/10 5, Using Neuroscience to Understand the Role of Direct Mail, Millward Brown 6, www.mb-blog.com, The implications of neuroscience for marketers

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コメント

私はなんと、「小雪のあのコマーシャル」の記憶はなくて、ハイボールのことはTwitterやブログなどのソーシャルメディアで知りました。あとは実際の飲食店店頭とか。ソーシャルメディア上のメッセージはつながっている相手が知人・友人の場合には、自分にとってTVよりもリアルな気がします。

にしむらさん、サントリーは確かにブログやブロガー・イベントを利用して、ハイボールの造り方とかおいしさとかを地道に啓蒙する広報活動をしました。でも、「あの小雪のコマーシャル」はネットでも流されて視聴回数もとても多かったんですよ。

はじめまして。
今回の、デジタル媒体と紙媒体の情報処理の違い、いつも以上に興味深く拝読いたしました。わたしは印刷媒体の仕事をしているので、この記事を見つけたときの嬉しさはひとしおです。ありがとうございました。
この件に関連してもう一つ抱いているナゾが、紙媒体に一切触れず、デジタル媒体だけで育った人間は、ひいてはそんな人たちで構成された社会は、どんな様子になるのだろう?ということです。物事をとらえる感性も、思考も志向も現代人とはずいぶん変わると思うのですが…。ちょっとSF的な世界でもあります。が、不可能ではなさそうな、しばらくするとそんな育ち方をした子供がたくさん登場しそうな気もします。
今後の記事も楽しみにしております。

ワダナオコさま。コメントありがとうございます。デジタル媒体が人間の脳の仕組みをどう変えていくか?については、以前にもiBrainというタイトルで少し書いたことがありますが、変化させることは事実ですが、それには、やはり、気の遠くなるような時間が必要だと思います。で、そのころには、脳の仕組みだけでなく姿形も変化して、SF作家の元祖H.G.ウェルズが想像したような火星人みたいになっているかもしれませんね(2007年に書いたブログ「iPhoneと触覚」、ご興味があったら読んでみてください)。

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