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2010年10月20日 (水)

世界一悲観的になりやすい日本人、だ、けれども・・・

  女性ファッション雑誌「Domani (ドマーニ)11月号の新聞広告をご覧になりましたか? 「ありがとう! ニッポンの不況! おかげで私、成長しました--35歳、”華麗なる貧乏”でいこう!」という見出しで始まる広告です。

 年齢的にいって、残念ながら、私は明らかにこの雑誌のターゲット読者層ではありません。ですから、買うどころか立ち読みもしてませんので、中身はまったく知りません。でも、「不況を明るく取り扱っている」コピーが好きです。

 おりしも、トヨタ自動車社長が、「日本でものもづくりにこだわる」というメッセージを出しました。「国内の生産縮小をトヨタがやったら、この国はどうなってしまうんだという危機感がある。よほどのことがない限り、海外に持っていくことはしない」・・・・最近耳にする政治家発信のメッセージよりも、ずっとずっと国民の不安感をやわらげてくれるメッセージです。

  グローバルにビジネスを展開している外国企業のCEOが、「日本企業は悲観的すぎる」とよくコメントしている。たしかに、2009年末に実施された世界36カ国の中堅企業経営者調査でも(グラント・ソントン調べ)、自国の景気見通しを最も悲観しているのは日本の経営者。リーダーがこの有様では、90%の日本人が不安を感じていたとしても当然のことだろう(J.ウォルタートンプソンによる2009年末調査)。90%という数字も、世界13カ国のなかで最高だ。

 「不安」で「悲観的」な暗黒星雲に日本国はすっぽりおおわれてしまったようです。

 なぜ、日本人は、将来への不安感がこうも強いのだろうか? 少子化とか年金の問題は無視し、円高とか産業の空洞化とか雇用の問題も考えない。産業革命以降200年以上続いた西欧支配が終わろうとしているという歴史的かつ構造的問題も無視する。ここでは、あくまで、水が半分入っているコップを見て、「まだ半分ある」と楽観的に思えることと、「もう半分しかない」と悲観的に思えてしまうことについて考えてみます。

 日本人の多くが「水がもう半分しかない」と考える傾向が強いのは、どうやら、セロトニントランスポーター遺伝子S型を受け継いでいるひとの割合が世界で一番高いかららしいのです。

 セロトニンという化学物質(神経伝達物質)が脳内の各部位に一定レベル存在していれば、人間は安心感を覚え不安や恐怖の感情に襲われにくくなります。が、バランスがくずれると不安になり長期的に欠乏するとウツになりやすい。セロトニントランスポーターというたんぱく質が脳内のセロトニンのレベルを調整しているのですが、この情報がコード化された遺伝子にはL型とS型があり、L型遺伝子のほうがより多くのトランスポーターを生産します。よって、S型のセロトニントランスポータ遺伝子を両親より受け継いだひとたちは、L型を遺伝したひとたちよりも、不安を感じたりウツになる傾向が高い・・・・ということが1996年の実験で明らかにされました。

 この遺伝子は、(そのほうが一般受けするからでしょうが)、「不安遺伝子」とか、不安は恐怖の変形なので「恐怖遺伝子」といった名前でよく紹介されます。

 2009年に発表されたジャーナルでは、29カ国50135人の遺伝子調査の結果として、東アジア人はS型遺伝子をもっている割合が高くて70~80%。これに比べてヨーロッパ人は40~45%となっています。29カ国のなかで、S型遺伝子保有者の割合が一番高いのが日本で80.25%、ついで、韓国の79.45%、中国が75.2%となっている。アメリカ44.53%、英国43.98%、独国43.03%、スペイン46.75%、シンガポール71.24%、台湾70.57%。そして、一番低いのが南アフリカの27.79%となっています。

 人類皆兄弟で、20万年前頃にアフリカに住んでいた同じ先祖から始まったことはDNA研究によって証明されている。では、なぜ、東アジアとヨーロッパとでは、「不安遺伝子」保有者率がこれほどまで違っているのか?

 進化生物学では、生命体は環境に順応して、その環境において生存率や繁殖率を高める可能性が一番高いような特性や特質を選択し獲得していくようになるとする。その考え方で最近注目されているのが、遺伝とか文化とかは、互いに作用しあって進化してきたという説だ。

 その典型的例が、牛乳とそれを消化吸収する遺伝子の関係。つまり、ホニュウ類というのは、基本的に離乳期を過ぎると、母乳の消化吸収に必要だったラクターゼ(乳糖分解酵素)の生産を止めるようにプログラムされている。ところが、北ヨーロッパやアフリカにおいては、生存率を高めるために家畜を飼いそのミルクを飲むという長い歴史的習慣がある。その結果として、大人になっても、ラクターゼを生産しつづける遺伝子が存在する割合が高い。だが、東アジアやアメリカ先住民には、歴史的必要性がなく、結果、遺伝子を保有している割合が非常に低い。よって、日本人の多くは牛乳を飲むと、消化不良の症状を起こす。

 ミルクを飲むという文化的習慣が、乳糖を消化するのに必要な遺伝的性質を選択するようになったということだ。

 その観点でいけば、東アジア人で不安遺伝子の発生頻度が高いのも、ヨーロッパとの環境の違いで説明することができるはずだ。気候のちがい? 地質的違い? あるいは、文化的社会的違い?

 これに関して、2008年から2009年にかけて、注目すべき論文があいついで発表された。その内容は・・・・東アジア地域では、マラリア、ハンセン病、発疹チフス、結核といった細菌やウィルスによる感染症に悩まされてきた歴史があり、それを防ぐためにヨーロッパの個人主義(Individualism)とは異なり、グループ内における協調性や自分たちのグループを中心に考え外者(そともの)を恐れる集産主義(Collectivism、ちなみに、この英語を集産主義と訳すのはおかしいと思う)が生まれた。つまり、外者(そともの)との接触を避けることで感染を防ぐ結果として、自分たちグループの伝統、調和、規則への服従が生まれ、外国人への恐怖感や偏見が生まれたのだ。

 S型の「不安遺伝子」をもつことは、ネガティブな情報に敏感に反応することを可能にしてくれる。だから、他人が気分を害したりするとすぐに察知できるし、また、人間関係において、そういった感情が生まれないように気を配ることができる。よって、グループ内の調和を保ちやすくなる。つまり、不安遺伝子は、感染症の多い地域で生存率や繁殖率を高めるために、個人よりもグループを優先する主義に順応しやすくするのに役立ち、結果、東アジア人にそういった遺伝子が自然選択されるようになったというわけだ。

 ネズミを使った実験では、不安や恐怖を感じやすい遺伝子を、世代を通じて自然選択的につくっていくことができることが証明されている。無差別に選択されたネズミたちを、隠れる場所のないオープンで電気がこうこうと輝く明るい箱にいれると、恐怖におびえて壁にへばりつくき排泄をくりかえすネズミもいれば、平気の平左でまわりを探検し始めるネズミもいる。大半のネズミはこの中間にある。怖がりのネズミ同士を10数回の世代で繰り返して繁殖させると、すべてのメンバーが不安度が高く恐怖を感じやすいメンバーばかりになる。つまり、不安遺伝子とか恐怖遺伝子がつくられたということだ。

 人間の場合も、ネズミと同じように、十数世代で恐怖遺伝子がつくられたとすると、昔はそんなに長生きしなかったが、長く見積もって人生50年として、私たちの祖先がアフリカから東アジアに移動してきて伝染病に悩まされてから500年ばかりで、恐怖遺伝子が作られたという計算になる。(あくまで人間もネズミも同じ条件下にあるとしての話だが・・・・)

 ああ、やっぱり日本人は不安遺伝子が多いから、悲観的になりやすいんだ・・・ときめつけるのはまだ早い。こういった遺伝子をもっていても、強いストレスを引き起こすような環境が加わらなければ、誰もが不安やうつ病になるというわけではない。たとえば、ニュージーランドやアメリカの実験では、不運や失敗を経験したあとにウツ状態に陥る率は、S型遺伝子をもっている被験者の場合は33%、L型遺伝子を持っている被験者の場合は17%となっている。反対にいえば、S型遺伝子をもっていてもその67%は、悲劇的体験をしてもウツにはならなかったということだ。

 それから、また、韓国企業の最近の活躍を考えてほしい。韓国は日本についで不安遺伝子を持つ人の割合が多い国だ(統計的誤差を考えたら、80.25%と79.45%の違いなんてほとんど無きに等しい)。なのに、日本企業がガラバゴスで内向きになっているのに、積極的にグローバル市場を開拓して成功を収めている。なぜだろう? サムスン電子や現代自動車のように、オーナー経営者が果敢な投資や事業展開をしかけているからだというのが定説だ。しかし、最近はサラリーマン社長ながら強いリーダーシップを発揮するCEOが目立ってきたともいわれる。その理由として挙げられるのが、1997年~98年のアジア経済危機だ。当時の韓国はIMFからの550億ドルに及ぶ融資を受けるかわりに「屈辱的」な条件を呑まなくてはいけなかった。国家の威信を傷つけられたと感じた国民は、「朝鮮戦争以来最大の国難」を経験したわけだ。しかし、IMFの条件に従うなかで、能力主義が進み、サラリーマン社長でありながらリーダーシップを発揮する経営者が多く登場するようになった。それが、現在、韓国がグローバル市場で業績を伸ばしている理由だという。

 振り返ってみれば、日本だって戦後のどん底状態からわずか20余年、1968年にはGDPでドイツを抜いて世界第二位の経済大国になっている。つまり、不安遺伝子をもっていても、どん底状態からはいあがることをさまたげはしないということだ。

 どん底だと、なぜ、不安遺伝子が邪魔しないのか? どん底ということは、失うものがないということ。失うものがないということは「損失回避性」が出てこないということだ。行動経済学の祖でノーベル経済学賞をもらった心理学者ダニエル・カーネマンは「人間はいまもっているものを失うことに恐れを感じます。たとえ失う可能性が低いとしても、可能性があるというだけで恐怖心を感じるのです。その恐怖心が論理的思考を妨げるのです」とコメントしている。日本は、なんといっても、裕福な国なのです。だから、今もっているものを失うことを恐れるのです。だから冒険ができない。だから現状維持になり新しい行動を起こすことができるなくなるのです。

 だから、いっそのこと「どん底まで落ちたほうがいい」という評論家もいます。

 日経ビジネスに、マッキンゼー日本支社長が「日本企業が抱える最大の問題は、経営者がリーダーシップを発揮しきれていないこと。日本の経営者は「カイゼン」は得意だが、変革を恐れる傾向にある」とコメントしています。

 シャープがアップルのiPadの類似商品を販売するのはいたしかたないとして、一流メーカーが化粧品やサプリメント市場で成功した新興中小企業のまねをして、とくにこれといった差別化もないままに化粧品やサプリメントを発売するのは、まさに、「損失回避性」のあらわれです。

 失うことを恐れる経営者は、リスクをとりなくないから模倣商品をつくる。模倣商品は既存商品の「カイゼン」です。自分ひとりで決断するのをさけて、「赤信号みんなで渡れば恐くない」式に合意で決めようとする。だから、欧米や韓国企業に比べて、経営のスピードが遅くなるのです。200余年続いた西欧支配の世界が終わろうとしている時代に、リスクをとらないからといって生き残れるチャンスがふえるわけではまったくないのに・・・。

 欧米のCEOの給料の多さが最近話題になりました。CEOはある意味、通常の意味での「能力」なんて必要ない。大手一流企業なら、経理、マーケティング、情報通信技術・・・どんな分野でもピカ一の専門家をかかえることができるはずだ。CEOに一番必要なのは、どんなに多くの問題をかかえていても、不安など一抹もないような元気な顔でいられる精神力と体力を持ち合わせていることだと思う。それは、この数年の日本の首相や、政権をとった民主党の閣僚の表情をみればわかる。首相や大臣になって数ヶ月もしないうちに、頬のこけたやつれた顔、疲労感漂う表情、一気に年老いた肌や増えた白髪・・・・こういった「疲労困憊」顔をしたひとたちが、何を言っても、国民は安心できません。一国のリーダーは、たとえ、心配事で夜は熟睡できず気分が晴れない日々がずっと続こうとも、ポーカーフェースを保ちユーモアを忘れない精神力と体力がなくてはいけないはずだ。そして、顔や言動にストレスを出さないことは、実はこれが一番むつかしいことで、それができる人なら給料が高くても問題ないだろう。

 売り手企業は明るくて元気なメッセージを送らなくてはいけません。心理学の実験で、店員が笑顔で応対すると、それを見た客も笑顔で応える傾向が高くなり、なおかつ売上も上がることが証明されている。不安そうな顔をした店員が売っているものなど買いたくない。サントリーは2008年に他社が広告費を削るなか、反対に広告費を増やして、高級ビール「プレミアムモルツ」をアピールした。その一方で、こんな時代に「贅沢」を前面に出すと消費者に反発をくらうんじゃないかと弱気になったエビスビールは、そのブランドスローガンを変えてしまい、結果、高級ビールの座をサントリーに譲ることとなった。 

 明るく元気にみえる企業と弱気で不安そうに見える企業と、あなたはどっちからモノを買いますか?

 少子化、年金、雇用、円高、ひいては政治の不安定さ・・・モノが売れない理由を数え上げればきりがない。こういった基本的問題が解決しなければ、経済の活性化ははかれない。だが、こういった問題が解決するまで、モノが売れないままにしておくつもりなのか? 損を出してまで安売り商品を販売し、リスクの少ない模倣商品を作り続けるつもりなのか? いま、日本の売り手企業がすぐにできることは、日本の消費者が抱えている不安感をもう少し「他の先進国並み」に減少してあげることだ。そして、それは、今日からでもできる。

 なぜなら、気分は、結局は、脳内に分布している化学物質(神経伝達物資)のブレンドの問題なのだから。

 経験したことはありませんか? 憂鬱な気分が一本の映画をみたら飛んでいってしまったこと。ショッピングモールで子供のモノだけ買って返ろうとしたら、広場でコンサートをしていた。そこで、音楽をきいたら、なんか楽しい気分になって、結局、自分の洋服まで買ってしまった。脳内の化学物質の内容がちょっとしたきっかけで変わったのです。女性雑誌が「不況もいいじゃん!」といえば、働く女性たちもなんとなくそんな気になるし、トヨタの社長が「日本でのものづくりにこだわる」と宣言すれば、中小企業の社長さんたちも「そうだ、自分も頑張ろう!」と理屈ではなく、なんとなく元気になるのです。

 今年のクリスマスは明るく行きましょう! お店に入るとサンタが迎えてくれる(経費削減したいなら、メタボでお腹の出た部長がサンタさんになればいい。貧困層への遠慮があるなら、売上が上がった分の5%を寄附すると宣言すればいい)。街にはクリスマスソングが流れ、ライトアップが輝く。

 いえいえ、クリスマスまで待てません 秋から冬にかけては、太陽の照る時間がだんだん少なくなり、季節性ウツにかかる人が多くなるといいます。東京タワーや通天閣をライトアップしましょう。乳ガンや糖尿病撲滅運動の一環として東京タワーをピンクやブルーにライトアップするイベントがあります。日本のいくつかの企業が集まって、全国のタワーや建築物をライトアップして、「自分たちはリスクを恐れない!損をしてまで安売りはしない!模倣商品もつくらない!」と力強く宣言してほしいです。

 ベネッセコーポレーションは大学受験生に「攻める宣誓」をさせています。受験生はいつの時代でも不安です。第一志望をどこにするかで迷います。親の経済的理由から浪人できない。だから70%の確率で第一志望に合格するといわれても、30%が恐くてリスクをとるかどうか迷うのです。そんなとき、やさしい言葉よりも、強い命令口調のメッセージのほうが効果があります。2008年ごろの「攻める宣誓」のサイトにはこう書かれていました・・・・「第一志望にいこう。守りに入っていないか、限界を決めていないか、流されていないか、迷っていないか。大丈夫強気でいこう!」そして、自分の夢を宣言させます。

 企業も宣言してください。自分たちの夢を語って、それを実現するためにリスクを恐れないと宣言してください。企業が強くて明るいメッセージを送ることが、日本の消費者たちを元気にするのです。国民を元気づけるのは本来なら政治家の仕事でしょう。でも、多くの先進国において政治家はその任務に失敗しています。企業は消費者に広告メッセージを送ります。でも、いまは、商品一つ一つの広告メッセージを送ってその商品が売れたか売れないかで一喜一憂する状況ではないでしょう。いまは、消費者にお金を使って消費する(自分へ投資する)ことへの安心感を感じてもらうことが最重要課題です。そのためのメッセージを送る。著名な企業いくつかがメッセージを送り、それがTVのワイドショーやNHKのニュースで紹介されるくらい注目される。きっと、日本を元気づけることができる。

 バカみたい・・・と思うかもしれません。でも、なぜか、心はちょっとしたきっかけで元気になるのです。

 たかが脳内物質、でも、されど脳内物質なのです。

 日銀の白川総裁が10月21日付け朝日新聞で「ゼロ金利政策の真相」ということで長いインタビューに答えています。むつかしい金融政策について語ったあと、最後に、こうコメントしています・・・「最近の日本社会を見ていると、気分の持ちようも大事だと思う。すべてを否定的に考える気分の持ちよう自体が経済の成長力を落としている面もある。過度の悲観論は一掃したほうがいい」

 たかが脳内物質、されど脳内物質なのです。

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 参考文献: 1.Joan Y. _Chiao & Katherine D. Blizinsky, Culture -gene coevolution of individualism-collectivism and the sertoninn transporter gene, Proc. R. Soc.B, 10/28/09, 2. Corey L. Fincher, et.at., Pathogen prevalence predicts human cross-cultural variability in individualism/collectivism, Proc. R. Soc. B, 2/26/08, 3.Turhan Canli, The Character Code, Scientivic American Mind Feb/March 2008 4. 韓国企業に新風、日本経済新聞 10/4/10、5.創造的破壊で日本は再起、日経ビジネス10/4/10 5. よみがえるバブルの夜、日経MJ 9/17/10

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