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2008年9月 2日 (火)

「金持ち」にも「貧乏人」にも愛されるスーパー 

Ilm06_ca07034s_6PBは世界市場において2000年以降、急激に成長をとげているが、CPG(Consumer Packaged Goods/飲食料品や日用雑貨品)におけるPBの割合は、2010年には西ヨーロッパで30%、北アメリカでは27%に到達すると予測されている。ちなみに、オーストラリア&ニュージーランドで22%、日本10%、南米9%とつづいている。

 ヨーロッパでPBが伸びている要因として、いくつか挙げることができるが、まず第一に・・・・

 ヨーロッパでPBが発展成長した理由(1): スーパーマーケット業界での買収・統合が続きグローバルに活躍する大規模小売業が登場。ヨーロッパのなかでも、上位五社にスーパーマーケット市場が集中している英国において、PBはもっとも発展している(2006年度のCPG売上に占めるPBの割合は英国では36.7%)

 ヨーロッパでPBが発展成長した理由(2):ドイツのアルディ(Aldi)やフランスのリーダープライス(Leader Price)といった超安売りのハード・ディスカウンターの急激な成長につきあげられ、仏カルフールや英テスコといった一般的スーパーマーケットも、それに対抗して低価格のPBを販売せざるをえなくなった。

 ドイツにはアルディのような大手ハードディスカウンターが数社あり、「毎日が低価格」が売り物のウォルマートでさえ太刀打ちできず、進出してから9年後にはシッポを巻いてドイツ市場から撤退したくらいだ。通常のスーパーよりも三分の一は安いという価格が提供できる理由は、販売商品の95%がPBだからだが、そのほかにもいくつかの要因が挙げられる

 たとえば・・・

  1. 小さな店舗・・・日本の平均的スーパーの半分から三分の一程度(800から1000平方メートル)
  2. 店舗当たりの従業員は平均3.3人と店長
  3. 基本主要商品約2000点販売するだけ。冷凍食品や加工食品が中心だが、肉、乳製品、OTC薬品も取り扱っている。
  4. つい最近まで現金払いしか受けつけなかった。ドイツでは2004年からデビットカードをあつかうようになった。が、クレジットカードは基本的に受けつけない。
  5. ショッピングカートーを使うにはコインを入れなくてはいけない。所定場所に戻せばコインは戻ってくる(これによって、カートを整理するための人件費が削減される)。
  6. 環境問題に関係なく、昔から商品をいれるビニール袋には課金した。

 アルディ創業者であるアルブレヒト兄弟はドイツ一の大金持ちだが、ドケチぶりを伝えるエピソードも多い。

 たとえば・・・1)鉛筆が短くなって手でつかめなくなくなるぎりぎりまで捨てずに使う、2)新しい店舗デザインを見せている社員にむかって、「レイアウトは非常に良い。たった一つ問題があるとしたら、きみがプレゼン用に使っている用紙だ。部厚すぎる。経費節減のためもっと薄い紙をつかいたまえ」・・とか。二人とも北海の島に住んでいて公の場にはほとんど出ない。1971年に発生した誘拐事件のせいだろうといわれている。弟のほうが誘拐されて17日間監禁され、身代金300万ドルで解放された。このときのコメントが、公の場での最後のコメントとなっている。

 この誘拐事件に関しても、兄弟のケチさ加減を象徴するエピソードがついてまわった。誘拐された弟みずからが犯人に身代金の値下げを交渉したとか、あとで、支払った身代金を経費として税務署に申告したとか・・・・。ウォルマート創業者のサム・ウォルトンもアメリカ一の大金持ちになってもケチで有名だった。・・・・ということは、安売り店を経営するにはつましい生活を楽しめる人間じゃないといけない・・ということか? 日本のイオンがドイツのアルディをモデルとして超安売り店を展開していくことを企画していると読売新聞がつい最近(8/6/08)報道した。それが本当なら、最高責任者はドケチで評判な人材を選ばないとネ。

 話を元に戻します。

 ヨーロッパのPBには、アルディのような低価格を売り物にしたPBだけではなく、NBよりも高級イメージで価格も高いプレミアムPBもある。・・・というか、このプレミアムPBの成長がヨーロッパの小売店PBの成長全体を押し上げるのに貢献しているのだ。よって・・・

 ヨーロッパでPBが発展成長した理由(3): 低価格PB以外に、特定消費者セグメントのライフスタイルや嗜好にアピールするプレミアムPBを開発販売した。

 その結果として、英国のテスコは、低所得者だけでなく高額所得者をも顧客として吸収することに成功している。「もし、人類学者が英国とはどういった国かを知りたいと考えるなら、テスコの店舗を訪問すればよい」とビジネス誌「エコノミスト」は書いている。なぜなら、英国の人口を所得や職業を基準とする社会階級で5段階に分けるとして、それをテスコの顧客層と比較してみると、各階級の割合まで非常に似ているのだ。たとえば、テスコの顧客ベースには、一番高い階級であるAB(上級管理職や弁護士、医師といった専門職)と最下位階級であるE(失業者や生活保護受給者)が、どちらも約20%含まれている。

 この事実は、テスコが90年代初めには、どちらかといえば下流イメージであったことを考えると驚くべきことだ。10年もたたないうちに、上中下の階級すべてをひきつけることに成功したのは、テスコが顧客データベースを分析して、あらゆる階級にアピールするPBを開発し、各店舗の品揃えをそれぞれが対応する商圏に合わせてきたからだといわれる。

 テスコがロイヤルティカード(ポイント・カード)を開始し、顧客データベースを蓄積し始めたのが1995年。プレミアムPBを開発するきっかけになったのは、顧客データを分析していて、購買金額の大きい富裕層の客が、ワイン、チーズ、果物といったライフスタイルによる好みが出るタイプの商品をテスコで買っていないことに気がついたからだ。こういった分野で高級品を扱うようになったのが、プレミアムPBの始まりだ。テスコのPBは、現在、とくに食品分野では、低価格、標準、高級PBと3段階に分かれているうえに、最近では、高額PBのなかには、オーガニック、エスニック、低脂肪、アレルギーフリーといったサブブランドまで登場するようになっている。たとえば、インド人とかパキスタン人が多く住んでいる商圏の店舗にエスニック食品を導入した後で顧客データを分析したところ、富裕層の白人もこういったエスニック食品を購買していることが判明。よって、エスニックPBを開発し、他の店舗にも並べるようにした。

 小売店の情報システムというとすぐにウォルマートの名前が浮かんでくる。だが、ウォルマートの情報システムはサプライチェーン中心。POSデータを商品補充や在庫管理に利用することには優れている。だが、ウォルマートは基本的に顧客データベースを持っていないし、その分析においては英テスコに大きく遅れている。その証拠に、1999年にウォルマートに買収されたアズダ(英国第二位のスーパーマーケット)は、その業績に最近少し陰りが見え始め、1位のテスコとの市場シェアの差がひろがってきている(スーパーマーケット部門ではテスコ31%でアズダ16%)。理由は、テスコの顧客データ分析の競争優位性にあるといわれている。

 世界の先進国において消費の二極化がすすむなか、大規模小売店は、上にも下にも、そしてもちろん中間層にもアピールすることに成功しているテスコを羨望の眼差で注目している。ウォルマートでさえも、「毎日が低価格」でひきつけてきた既存の顧客層を失うことなしに、利益額の高い高級高額品を買う富裕層もひきつけたいと願い、この数年、外部からマーケティング専門家を引き抜き、プレミアムPBを開発し、TVやファッション雑誌に広告を出してイメチェンを図っている。いまは、まだ、成功したところまではいっていないけど・・・。

 115 日本では、景気の低迷、商品価格の値上がり、消費者マインドの冷え込み・・・のなか、低価格PBの話ばかりに終始している。だが、消費と消費者が二極化している事実に変わりはない。低価格のヨーグルトを買うひともいるだろうが、NBよりも高価なヨーグルトを買いたいひともいる(ヨーグルトを例に出したのは、テスコの高級PBヨーグルトの写真をネットでみたからだ。高級感あふれるファッショナブルなデザインのパッケージに、つい魅了されて・・・私も絶対買ってみたい♡)。NBメーカーは、こういうときこそ、思いっきり高級バージョンの商品をつくるべきだろう(とくに、飲食品メーカーは・・・。外食をひかえて内食ということで、景気が悪くても、食品部門は健闘しているという新聞記事も出ている。つましい生活をしているからこそ、たまに、豪華なパッケージにはいった高級飲食品を飲んだり食べたくなるものだ)それを食べているときだけでも優雅な気分にひたれる高級飲食品をつくってください。

Ilm05_cb10029s 最後にブラックジョークを一つ・・・「木曜とか金曜日の夕方に赤ちゃん用紙オムツを買うひとはビールも買う」という話は、データマイニングがIT業界の流行語になっていたころによく引用された。いわく、会社帰りに奥さんに買い物を頼まれた夫が、週末にTVでも見ながら飲むビールも買っていく・・・と説明された。ウォルマートのPOSデータ分析の素晴らしさを象徴する話だったわけだが、これが2000年ごろには、「だから、何だってえの?」と揶揄されるようになっていた。そんな情報がわかったからといって、まさか、紙おむつの横にビールを陳列するわけにもいかないし、それに、二つの製品の陳列棚が離れていたほうが「ついで買い」や「衝動買い」を誘発して返ってよいかもしれない。

 つまり、POSデータの分析だけでは、(商品補充を含めた在庫管理以外には)マーケティングの役に立たないと批判されたのだ。

 ビールと紙オムツについてのエピソードはテスコにもある。テスコが顧客データ分析をしたところ、初めての赤ちゃんが誕生した後(購買商品を時系列に分析すれば、赤ちゃん誕生やそれが最初の子供かどうかもある程度推測できる。食品や日用品といった家庭での日常生活が推し量れる商品を週に1度という購買頻度で買う・・・・これがスーパーマーケットの顧客データにパワーがある理由だ)、新米パパはパブ(居酒屋)に行くこともできず赤ん坊と一緒に家にこもる。よって、テスコで初めて赤ちゃん用紙オムツを買った顧客は、ベビー用品のクーポン券とビールのクーポン券の入ったDMをテスコから受け取ることになる。

 なんだか、ウォルマートをからかうためにわざと作られたようなエピソードだ。

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参考文献: 1. Keith Lincoln & Lars Thonmassen, Private Label, Kogan Page 2008, 2.Beth Neil, Exclusive: Brothers who built the 25 billion Aldi discount chain, Mirror Co. UK, 1/07/ 08, 3.Peter N. Child, et.al,, Do Retail Brands Travel, The McKinsey Quarterly, 4.Leonie Talt, Private Label: Seizing a greater share of the global shelf ,Euromonitor 2/18/05, 5.Less is more for Aldi, Professional Marketing,5/28/02,6. Jess Halliday, UK leads the way in Europe's private Labe market, Food Navigator. Com, 4/18/07, 7. Winfried Konrad, Aldi: The Uber Discounter, Private Label Magazine, Spring 2006,8.This Sceptered Aisle, The Economist 8/4/05, 9. Cecilie Rohwedder,Data from loyalty program help Tesco tailer products as it resists U.S. invader, Wall Street Journal 6/6/06

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