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2008年4月 9日 (水)

PBは本当に儲かるのか?

Ilm06_ca07034s_6小売店のPB(プライベート・ブランド)は景気が悪くなると売上が伸びる・・・・といわれる。事実、2007年に発表された「欧米4カ国における調査」では、PBシェアは不景気のときに増大し好景気のときには減少することが確認されている(*1) 。しかし、過去数十年にわたる長期的傾向をみると、不景気のときのPBの伸び率は好景気のときの減少率よりも大きい。結果、先進国におけるPBシェアは1970年代以降基本的に増大してきている 

 (2000年からの伸びはとくに大きく、西欧では、PBシェアは2000年の20%から2010年までには30%に、アメリカでは20から27%に到達すると予測されている(*2) )

 そんなわけで、景気後退の気配が感じられる日本においても(原材料費高騰によるNBの値上げが相次ぐこともあって)、PBを強化しようとする小売業の動きが目立つ。

 小売業者は、「PBは粗利益率が高い、だから、PBシェアが増すことは利益の増大につながる」という。日本の場合は、「PBは粗利益率が高い。だから、NBと比較して安い値づけをしても、これまでの利益を維持できる」・・・という言い方をしたほうが実際に近いような気がする。いずれにしても、「PBは粗利益率が高い。だから、利益が増大ないしは維持できる」という論理は、正しいのだろうか?

 PBシェアを増やすことは、小売店に利益を本当にもたらしてくれるのか? 欧米の調査研究資料を読んでみると、そう簡単には断言できないようだ。

 店舗小売業が利益の最適化を目指すなら、当然のことながら、商品を販売するための必要資源である棚スペースを計算にいれなくてはいけない。つまり、一定のスペース当たりの利益金額を基準として、PBとNB(メーカーのナショナル・ブランド)とどちらが得か比較判断しなくてはいけない。このとき、2つの要素を考慮に入れる。

  1. NBはPBよりも価格が高いのが通常だ。商品カテゴリーによっては、粗利益率はPBのほうが高くとも、利益金額はNBのほうが高いこともある。
  2. 棚回転率(在庫がはけるスピード。売れ足ともいえる)はNBのほうが高いことが多い(ヨーロッパの調査では、著名NB商品の棚回転率はPBより少なくとも10%は高いそうだ)。

 コカコーラが英国でした調査では、上記要素やメーカーからの販促援助金やPB管理に必要な物流経費を加味した結果、PBコーラよりもNBであるコカコーラのほうが小売店にもたらす利益は大であったという結果が出ている。「クラッカー」という食品品目においても、PBのほうが粗利益率は高いが、商品そのものの価格が低いためにNBのほうが利益額は高いという調査結果となっている(*3)。 こういった調査を通して、メーカーは、店舗ブランドよりも自社ブランドのほうが、店舗により高い利益をもたらすことを証明した。だが、メーカー自らがした調査というのは、どことなくウサンクサイ・・・・そう考える疑い深い読者のために、大手コンサルティング会社の調査結果も紹介しよう。

  1.  マッキンゼーがヨーロッパ市場において60品目の食品を調査した結果: 50%のPB商品において、1立方メーター当たりの利益は認知度の高いNB商品よりも低い。ただし、この調査は90年代半ばにされたものでちょっと古い。
  2. 2003年に実施されたボストンコンサルティンググループの調査: 米大規模小売店2社における50品目での調査によると、NBとPBとは、平均して、その利益額においてはほとんど変わりはない。ただし、商品カテゴリーや品目によって大きな差がある。

 もっとも新しい、そしてもっとも広範囲(200商品カテゴリー)にわたる調査結果は次のようになっている。(米国の大手スーパーマーケット・チェーンのデータを分析したもので、「Journal of Marketing (2004年1月号)」に発表された)

                       PB商品        NB商品

     粗利益率                   30.1%      21.7%

     純利益率                   23.2%      15.9%

     価格(PBの価格=$1と仮定)      $1         $1.45

     金額貢献                   $0.23      $0.23

     棚回転率/m2                 90          100

     単品ごとの利益貢献             21           23

 「PB戦略:PBの挑戦にメーカーはどう立ち向かうか?」という本の著者は、この調査結果を引用したうえで、「PB、つまり店舗ブランドは小売店にとって利益性が高い」とは必ずしもいえないと結論づけている。

  1. PBのより高い粗利益率は、PBの低価格によって相殺される。その結果、利益金額においてはPBもNBも変わらない。(こういうこともあって、最近は、多くの小売業者は、利益率ではなく利益額がNBより高いPBを開発するのを基本としている)。
  2. 棚回転率(在庫のはけるスピード)が非常に重要な要素となる。1)著名ブランドだったり、2)売れ足を速くするために多量に広告を出すNBはPBに勝つことができる。
  3. 粗利益率だけでなく、利益額、価格帯、棚回転率などを考慮したうえで、どの商品カテゴリー/商品品目においてPBを開発するべきかを決める。

 もちろん、小売業がPBを採用する理由は、利益以外にもある。たとえば、PBを出すことによって、メーカーへの圧力を増すことができる。これは、調査でも証明されている。PBシェアが高い商品カテゴリーにおいては、小売店はNBとの交渉において優位に立ち、より高い粗利益率を勝ち取ることができている・・・というアメリカでの調査結果がある。実際、PBシェアが高いカテゴリーでは、低いカテゴリーと比較して、小売店はメーカーのNB仕入れにおいて4%も高い粗利益率を獲得するのに成功している(*4)。

 PBで店舗へのロイヤルティを向上することもできる。これも調査で証明された。顧客のPB購買が1%上がるごとに、店舗へのロイヤルティが0.3%上がる。日本からは撤退したが世界小売業ランキング第2位の仏カルフールを対象にした調査では、カルフールPBの売上シェアと店舗へのロイヤルティとの相関関係は0.73と高かった(*5)。 20カ国以上の消費者調査によると、PBヘビーバイヤーは、店舗へのロイヤルティが高いことも明らかになっている。ただし、ヘビーなPBバイヤーは、経済的理由のためにいくつかの店舗を利用し、各店舗でもっとも安いPBを購買しているので、一つの小売業者にロイヤルティがあるというわけではない。米大手ドラッグストアにおける調査結果では、全購買金額におけるPBシェアが10%-20%くらいの消費者の特定店舗へのロイヤルティが一番高く、そのセグメントからの利益も一番高いことが明らかになっている(*6)。  

 結論は、PBを余りに強調しすぎると、選択肢の少ないことで消費者の不満足を生み出し、利益も減少する。NBより品質は落ちるが価格は安いPBなら、PBシェアは20%くらいが適当。しかし、安いPBだけではなく、高級PBも取り扱う小売業であるなら、最適なPBシェアは、20%よりも高く40~50%くらいでもよいのではないか・・・・・と、「PB戦略:PBの挑戦にメーカーはどう立ち向かうか?」の著者は書いている。

 ちなみに、2005年の数字では、欧米大手小売店のPBシェアは、ウォルマートが40%、英テスコが50%、仏カルフールが25%。ドイツの安売り店アルディ(あのウォルマートを降参させドイツ市場から撤退させたチョー激安店)のPBシェアは95%だ。

 日本の大手小売業2社(イオンセブン&アイ)はどちらも数年以内に、(とくに食料品分野において)PBシェアを20%にまで高める方針という。両社のPBも品質的にはNBより少し落ちるが価格的には安いというタイプのPBだから、上記の基準によれば、適切なPBシェアということになる。

 だが、そもそも、NBより品質が少し落ちる・・・ということは誰が決めるのか? もちろん消費者だ。ここで問題になるのは、消費者が知覚する品質だ。NBメーカーの野菜ジュースとPBの野菜ジュースと、品質の違いを消費者は知覚することができるのだろうか? この問題は、またあとで考えるとして、次は、メーカーにとってPBは儲かるのか?・・・をテーマとする。

 ・・ということで、次回は、NBメーカーがPBを製造することのメリット・デメリットを考えてみます。

 最後に、次回のテーマに関係したジョークをひとつ書きます。

 カナダのメーカーのブランドマネジャーが言いました・・・・「OXOX (ウォルマートでもセブン&アイでも恨みつらみのある大規模小売業の名前をいれる) と取引するのは最悪だぜ。条件が厳しくってさ。でも、それよりもっと最悪なことが一つだけある。OXOXとの取引がまったくないことさ(*6)」

                 ・・・・・・おあとがよろしいようで。

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参考文献:1.Francois Glemet, et al.,How profitable are own brand products, The McKinsey Quarterly November 1995 2.Nirmalya Kumar & Jan-Benedict Steenkamp, Private Label Strategy: How to Meet the Store Brand Challenge,Harvard Business Press 2007

*引用資料:1.LIen Lamey, et al., How Business Cycles Contribute to Pirvate Label Success, Journal of Marketing 71(January 2007) 2. Consumer Packaged Goods Private Label Share, M+M Planet Retail 2004, 3. Marcel Costjens, et al., Building Store Loyalty Through Store Brnds, Journal of Marketing Research (August 2000) 4.Kusum Ailawadi, et al., An Empirical Analysis of the Determinants of Retail Margins , Journal of Marketing (January 2004), 5. Jan-Benedict Steenkamp et al.,Fighting Private Label (London:Business Insights 2005) 6. Private Label Strategy:p.21

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