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2008年4月 1日 (火)

増殖するメディア(なんでもメディアになれる)

 消費者とのタッチポイントすべてを宣伝広告の機会と心得よ!

 これが、消費財メーカーや広告業界の最近の合言葉だ。マス媒体の威力が減少するなか、消費者との接点(タッチポイント)で広告を出す。その結果として、メディアの増殖(Proliferation of Media)が起こっている。

 たとえば、タマゴだってメディアになれる。

 2007年2月にテストされた「たまご広告」。300万個のタマゴに貼られたシールに日清食品「チキンラーメン」の広告が印刷されている。タマゴとラーメン・・・・レラバンス(Relevance、関連性、適切性)はバツグンだ。

 アメリカでは、2006年に、タマゴにレーザーで直に刻印する「たまご広告」が始まっている。3500万個のタマゴに、CBSテレビの番組広告がレーザー印刷された。朝食に卵料理でもつくろうかと冷蔵庫からタマゴを取り出すと、「毎晩8時の目玉(焼き)番組はなんといってもCBSニュース」というコピーが目に入ってくる。あるいは、「エッグいドラマが月曜夜9時に始まったよ」といった具合。たまご広告はどことなくユーモアがある。

 ペーパー・ナプキンだってメディアになれる。

 アメリカでは、2007年、レストランやバーでカクテルグラスを置く紙ナプキンにカラー印刷された広告が登場した。タッチポイントに広告を出すときは、1)消費者と接触している時間の長短、2)他の広告との競争の有無、3)消費者の注意をひきつけるクリエイティブが肝要だ。日本でいま伸びている屋外・交通広告で、電車の中づり広告は接触時間は長いが、他広告との競争には厳しいものがある。たまご広告は接触時間は短くても、競争が少ない。ペーパー・ナプキン広告は、消費者との接触時間が長いし競争も少ない。とくに、バーでお酒を一人で飲んでいるとき。バーテンダーとの話もつき、手持ち無沙汰のときはナプキンの広告をじっと見る。そこに、ウォッカや南国のリゾート地の広告でもカラー印刷されていれば、そのときその場の消費者の心理にスッと入っていける・・・かも。(もっとも、いまの日本なら、一人で手持ち無沙汰のときにはケータイで手遊びを始める傾向大。ナプキン広告の競争相手はケータイだ)。

 こういった「タッチポイントを利用したメディア」を使うときの問題点は、自己満足に陥りやすいこと。ROIを明確にしにくいこともあって、面白かった、話題になった・・・だけで終わってしまう。

 ROIが数値化でき、なおかつ、ターゲット・セグメントに見てもらえる確率100%、そのうえマス媒体顔負けの到達数を誇るメディアとして、アメリカで最近注目されているのがインサート・メディアだ。そして、アマゾンは、このメディアを提供することでオフラインでも広告収入を得ている。

 米アマゾンは、本を送るときのパッケージに他社の広告をインサート(挿入)するサービスを、2年の実験をへて、2004年1月に本格的に開始した。顧客に配送する本が入っているパッケージ・ボックスの中にパンフレットやサンプルを入れたり、また、ボックスの片側に広告を印刷できる。米アマゾンは、11月12月のクリスマスシーズンを除いて、毎月平均300万個のパッケージを出荷している。2007年には年間8000万個のパッケージが送り出されたという。

 メディア所有者としてのアマゾンの「売り」は:

  1. 顧客は高等教育を受けたどちらかというと高額所得者で、しかもオンライン購買者である。
  2. (自分が買ったものを見ないバカはいないのだから)、当然のことながら、開封率が100%。
  3. パッケージ一個につきインサート広告は1-4枚しか入れないから、顧客の注目を奪い合う競争が少ない
  4. 料金は一パッケージ当たり$0.04から$0.075で安い。しかも、大口割引がある

 いまはまだやっていないが、近い将来、購買した本でセグメンテーションできるようになれば、広告主はより関連性の高いセグメントだけに広告を出すことができる。しかも、到達数もマス媒体並みだ。だから、アマゾンも威張っていて、到達数最低100万人以上でなければ注文は受けない。しかも、大手メーカーや小売業の有名ブランドにしか広告サービスは提供しない。結果として、申し込み企業の80%はお断りしている状態だという。

 いったん、莫大な数の消費者を集めることに成功すれば、オンラインでもオフラインでも広告で商売ができる・・・ということだ。

 莫大な数の消費者とのタッチポイントを毎月創造することができる銀行やクレジットカード会社も、広告で付加収入を得ることができる。アメリカの銀行やクレジットカード会社が、顧客に送る利用代金明細書は、毎月合計して1億2500万通になるという。そして、小売業発行のクレジットカードの明細書は、毎月6000万通。到達数もハンパじゃない。アマゾンと同じく一流金融企業からの郵送物ということでイメージや信用度も高い。100%に近い開封率。しかも、郵便料金の関係からインサートは2-3枚しか挿入しないから競争も少ない。そのうえ、セグメンテーションもできる。

 実は、経費削減を考える金融サービス企業は、2000年ごろまでは、取引明細はネットでチェックしてもらおう・・・と考え、顧客を紙媒体からネットに誘導する方針で進めていた。だが、これだけネット利用が増えたアメリカでも、消費者は、(とくに金融関連の書類に関しては)書類を郵送してもらうことを好むことが調査結果で明らかになった。 

    紙媒体を選好する割合      99年       07年

    新商品の案内           77%        73%

    金融関連書類           93%        86%

            (ICR mail Preference Survey 2007)

 請求書や取引明細書をネットでチェックすればよいと答えた消費者は25%、書類を郵送してほしいが35%、ネットでチェックもするが書類も送ってほしいが40%。結局、経費がかかっても書類の郵送はやめられない。だったら、せっかくのタッチポイントの機会を生かして、広告料金を稼いで、経費の足しにしようというわけだ (ただし、紙の無駄使いについては、最近、とみにうるさくなってきている。今後、環境問題が深刻化するにつれて、ネットでチェックするだけで我慢しよう・・・という消費者のほうが多くなっていく可能性は非常に高い)。

 インサート・メディアの人気で、Transpromoという新語も生まれている。Transaction(トランズアクション/取引)に関する書類をPromotion(プロモーション/販促)にも利用するという意味。「転んでもタダでは起きない」精神を具体化した言葉だ。受取人一人一人に合わせたパーソナライゼーションや各セグメントごとに関連性の高い内容に変えることができるバリアブル・プリンティングの利用が進み、インサート・メディアの価値は余計に高まっている。

 メディアが増殖する社会では、どこをむいても、何を受け取っても広告ばかり。情報が氾濫する環境にいると、日本の保険会社や銀行が送ってくる、味もそっけもない通知文とか告知文風のパンフレットの入ったDMを受け取ると、なんだかホッとする・・・(って、むろん、皮肉です。お客様に対して、「お上からの御達し」ふうのDMを送ってくるなんて、ふんと、けしからんですよ、日本の大手金融サービス企業は・・・)。

 で、ここからは、「トレビアの泉」。たんなる話のネタです。

 道端で配るティッシュ広告は日本で60年代末に生まれたものだそうです。「ジャパンタイムズ4/21/07」の記事によると、高知県の紙製品メーカーが、当時、無料で配布されていた広告入りマッチ箱からヒントを得て、ティッシュを折りたたんでポケットサイズのパッケージにいれる機械を開発したのが始まりだそうです。そして、2004年、伊藤忠子会社のAdpack がティッシュ広告をアメリカで初めて配ってみた。最初は、ゲリラマーケティングの一種とみなされたようだが、いまでは、銀行やNOP団体などに利用されているらしい。

 んなこと、知らなかったなあ・・・。でも、「へえ~」度は2回くらいかな?

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 参考文献: 1.日本発の「たまご広告」、日本食糧新聞 2/5/07、2.Erik Sass, Wipe Me: Napkin Ads Extend Consumer Awareness, Media Post Publication, 11/27/07, 3.Alice Gordenker, Pokect Tissues,Japan Times Online 4/21/07,4.David S. Joachim, For CBS's Fall Lineup, Check Inside Your Refrigerator, The New York Times, 7/17/07, 5,Amazon Embraces Insert Opportunities, Media Buyer Planner 3/7/07,6.Amazon Rolls Out a Pakage-Insert Markeing Program for Other Retailers, Internet Retailer 3/9/04, 7.Jackie Kern, A Look Inside Statement Insert Programs, Target Marketing, 5/31/06 8.Research Shows that Mail is Still the Best Way to Reach Consumers, Pitney Bowes Homepage

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