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2007年9月24日 (月)

求む、人類学者! (消費者調査シリーズ第四回)

 世界最大の半導体メーカーであるインテルがロンドン名物の二階建てバスで観察調査をしている--と英国BBCニュースが伝えた。心理学者、人類学者、社会科学者から成る研究チームは、通勤通学客がケータイやPDAをどう使っているかを観察しテクノロジーの新しい使い方を発見したいのだそうだ。

 世界のケータイ市場のトップに立つノキアのマーケティング担当上級副社長はマッキンゼー発行の季刊誌で次のように語っている。「わが社では、人類学者、エスノグラファー、心理学者といったカスタマー・インサイトの専門家が消費者の行動を観察し、その結果をR&Dやデザインに利用します・・・私たちが理解しようとしているのは、顧客の無意識の心であり、その製品を購買する本当の理由です。もちろん、製品は技術的に優れていて、それを買う合理的理由を提供するものでなくてはいけません・・・でも、合理的で線形な意思決定プロセスで製品を買う消費者はわずかです。無意識の心と結びついている感情的理由は、購買決定に非常に重要な役割を果たします」

 こういった観察調査をとおして、消費者が「自分はこうしています」と言うことと、日常生活で本当にしていることの違いを見つけることができる--と多くの企業は考えている。

 世界最大の日用品メーカーP&GのCEOアラン・ラフリーも日経ビジネスのインタビューでこう語っている。「消費者は我々に明確な答を言ってくれるわけではありません。しかし、製品を使ったとき何らかの反応は見せてくれます。それを根気よく観察することが大切です」

 観察調査なら日本の企業だってずっと以前からやっている。・・・というか、小売店の販売員や店舗を訪れる顧客の行動を観察し聞き取り調査するのは日本企業特有なマーケティング調査方式だと、1987年のハーバード・ビジネス・レビューは紹介している。では、こういった日本の従来の観察調査と欧米を席巻しているエスノグラフィック調査とどこが違うのか?

 専門分野の修士や博士の肩書きをもつ学者を使っていることだ。

 学者を使うメリットは2点ある。

  1. 社員だと自分の仮設にあったデータを得ようとする傾向が高くなる。第三者の目が必要だ。
  2. グローバル市場においては人類学者の観点が必要となる

 グローバル市場において人類学者のアドバイスを得た成功例を紹介する。マクドナルドが80年代初めにブラジルに進出したときのことだ。最初は、アメリカと同じ広告戦略で、ランチやスナックにマックを食べるように促した。だが、人類学者がこうアドバイスした。ブラジルでは昼食は2時間かけてたっぷり食べるのが普通。マックのようなスナックは昼食にはそぐわない。また、「テレビを見ながらのスナック」という製品ポジショニングは悪くはないが、高価格なマックを食べられるのは、コックやメイドを雇える富裕層。スナックも使用人がつくる。マックの出る幕がない。結果、どうなったかということ、「コックが休みをとる日、つまり日曜の夕食にマックを食べよう!」になった。

                     (第五回に続く・・・・)

Ilm05_cb10029s_2独断度100%のコメント

日本ではマーケティングというかビジネスのことがわかる心理学者とか人類学者を見つけるのはむつかしいだろう。アメリカなら、ハーバード大学心理学教授でありながら、市場調査手法としては史上初めての特許をとり、その手法を使ってコンサルティングをするジェラルド・ザルトマン氏(「心脳マーケティング(ダイヤモンド社)」著者)のような商売っ気のある人材はけっこういる。コンサルティング会社を経営する人類学者もいる。企業が大学と共同してやる研究プロジェクトの規模や数も日本とは比べられないくらい大きく多い。それが、ビジネス界に抵抗なく溶け込める研究者を育てるのに役立っているのだろう。

 日本企業は専門家をもっと利用しなくてはいけないし、専門家は象牙の塔から出てビジネスや商売に自分の知識を適合させる応用力を持たなくてはいけない。心理学も人類学も人間を研究する学問であり、マーケティングは人間を研究してその研究成果を実践するのが仕事なのだから。

言葉の説明: 研究対象者たちをその人たちにとって自然なありのままの環境のなかで観察し記録するのが社会人類学や文化人類学だとしたら、こういったフィールドワークの記録をエスノグラフィーという。こういった調査方法をエスノグラフィック調査といい、そういった専門家をエスノグラファーという。

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参考文献:1.日経ビジネス2005年12月26日号、P.70~72 2.The McKinsey Quarterly May 2007, An Interview with Nokia's Senior Marketer 3, Conrad Phillip Kottak (2003) Mirror for Humanity: A Concise Introduction to Cultural Anthropology, McGraw-Hill

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