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2007年9月27日 (木)

IT製品のキーワードは「直感的に使いやすい」

  「intuitively easy-to-use」・・「直感的に使いやすい」と直訳できる。

最近、欧米のIT製品や家電製品メーカーのマーケティングについての記事を読んでいると、この言葉がよく目につく。

「アップル、ノキア、フィリップスなどグローバルなIT製品メーカーは、心理学者や人類学者のアドバイスを得て、直感的に使いやすい製品を設計している・・」といったふうに使われる。ぶ厚い文書マニュアルを読まなくても(つまり、意識的に考える努力をしなくても)、直感的にこのボタンを押せばいいだろうとか、次はこのキーを押すのだろう・・・と感じて使えるような製品デザインを設計する。

アップルのi フォンはintuitively easy-to-useな製品だ・・・といわれる。

i フォンがアメリカで発売されたときに、「高い技術力、世界に通じず」とか「技術至上の日本に教訓」といったような見出しが日本の新聞を飾った。日本のメーカーは十一社を合計しても、ケータイ電話世界市場で7%しかシェアを獲得できていない。その現状を嘆いているわけだ。

「日本のメーカーは技術は優秀だが・・・」という言葉は日本だけでなく欧米の新聞や本でも見られるようになっている。ソニーがプレイステーション3を発売した週明けのニューヨークタイムズ(2006年11月20日付)は「PS3はたしかに世界でもっともパワフルなゲーム機器ではあるが、世界一楽しい魅惑的な経験を提供するものではない。この二つの間には大きな違いがあり、その違いにソニーは気づいていない」と書いた。

痛っ!

五感刺激のブランド戦略(ダイヤモンド社)」には、ソニーやパナソニックといった日本のAV機器は視覚聴覚といった感覚にアピールする技術を(つまり、AV機器として伝統的に強調してきた特徴を)極めてはいるが、そういった技術レベルはある高さ以上になると、消費者にはその違いがわからなくなる。結果、それ以外の感覚にアピールしているメーカーの製品のほうが差別化に成功している・・・・と書かれている。

そんなの関係ねえ・・・と言うこともできる。

たとえば、ケータイ電話の話に戻れば、ノキアやモトローラといった電話機の部品、つまり、セラミックコンデンサー、水晶部品、カメラユニット、その他主要部品の多くが日本企業製だ。セラミックコンデンサーにいたっては日本メーカーが世界シェアの8割を占めているという (日経新聞2007年8月27日)。日本のケータイメーカーが世界に先駆けて高機能化を進め、その結果として、部品メーカーの国際競争力が強化されたと考えられている。

誰もがブランドメーカーになる必要はない。

技術をとことんまで極めていくことが日本人の資質に合っているのなら、それでもよいのではないか。一つのことに集中するほうが、いろんな意味で効率がよい。それに、消費者に対応するよりは、企業顧客を理解するほうがずっと簡単なことは事実だし・・・。

グローバルなブランドメーカーが頼る日本の部品メーカー・・・というのも非常にスマートな選択肢ではないだろうか。

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2007年9月24日 (月)

求む、人類学者! (消費者調査シリーズ第四回)

 世界最大の半導体メーカーであるインテルがロンドン名物の二階建てバスで観察調査をしている--と英国BBCニュースが伝えた。心理学者、人類学者、社会科学者から成る研究チームは、通勤通学客がケータイやPDAをどう使っているかを観察しテクノロジーの新しい使い方を発見したいのだそうだ。

 世界のケータイ市場のトップに立つノキアのマーケティング担当上級副社長はマッキンゼー発行の季刊誌で次のように語っている。「わが社では、人類学者、エスノグラファー、心理学者といったカスタマー・インサイトの専門家が消費者の行動を観察し、その結果をR&Dやデザインに利用します・・・私たちが理解しようとしているのは、顧客の無意識の心であり、その製品を購買する本当の理由です。もちろん、製品は技術的に優れていて、それを買う合理的理由を提供するものでなくてはいけません・・・でも、合理的で線形な意思決定プロセスで製品を買う消費者はわずかです。無意識の心と結びついている感情的理由は、購買決定に非常に重要な役割を果たします」

 こういった観察調査をとおして、消費者が「自分はこうしています」と言うことと、日常生活で本当にしていることの違いを見つけることができる--と多くの企業は考えている。

 世界最大の日用品メーカーP&GのCEOアラン・ラフリーも日経ビジネスのインタビューでこう語っている。「消費者は我々に明確な答を言ってくれるわけではありません。しかし、製品を使ったとき何らかの反応は見せてくれます。それを根気よく観察することが大切です」

 観察調査なら日本の企業だってずっと以前からやっている。・・・というか、小売店の販売員や店舗を訪れる顧客の行動を観察し聞き取り調査するのは日本企業特有なマーケティング調査方式だと、1987年のハーバード・ビジネス・レビューは紹介している。では、こういった日本の従来の観察調査と欧米を席巻しているエスノグラフィック調査とどこが違うのか?

 専門分野の修士や博士の肩書きをもつ学者を使っていることだ。

 学者を使うメリットは2点ある。

  1. 社員だと自分の仮設にあったデータを得ようとする傾向が高くなる。第三者の目が必要だ。
  2. グローバル市場においては人類学者の観点が必要となる

 グローバル市場において人類学者のアドバイスを得た成功例を紹介する。マクドナルドが80年代初めにブラジルに進出したときのことだ。最初は、アメリカと同じ広告戦略で、ランチやスナックにマックを食べるように促した。だが、人類学者がこうアドバイスした。ブラジルでは昼食は2時間かけてたっぷり食べるのが普通。マックのようなスナックは昼食にはそぐわない。また、「テレビを見ながらのスナック」という製品ポジショニングは悪くはないが、高価格なマックを食べられるのは、コックやメイドを雇える富裕層。スナックも使用人がつくる。マックの出る幕がない。結果、どうなったかということ、「コックが休みをとる日、つまり日曜の夕食にマックを食べよう!」になった。

                     (第五回に続く・・・・)

Ilm05_cb10029s_2独断度100%のコメント

日本ではマーケティングというかビジネスのことがわかる心理学者とか人類学者を見つけるのはむつかしいだろう。アメリカなら、ハーバード大学心理学教授でありながら、市場調査手法としては史上初めての特許をとり、その手法を使ってコンサルティングをするジェラルド・ザルトマン氏(「心脳マーケティング(ダイヤモンド社)」著者)のような商売っ気のある人材はけっこういる。コンサルティング会社を経営する人類学者もいる。企業が大学と共同してやる研究プロジェクトの規模や数も日本とは比べられないくらい大きく多い。それが、ビジネス界に抵抗なく溶け込める研究者を育てるのに役立っているのだろう。

 日本企業は専門家をもっと利用しなくてはいけないし、専門家は象牙の塔から出てビジネスや商売に自分の知識を適合させる応用力を持たなくてはいけない。心理学も人類学も人間を研究する学問であり、マーケティングは人間を研究してその研究成果を実践するのが仕事なのだから。

言葉の説明: 研究対象者たちをその人たちにとって自然なありのままの環境のなかで観察し記録するのが社会人類学や文化人類学だとしたら、こういったフィールドワークの記録をエスノグラフィーという。こういった調査方法をエスノグラフィック調査といい、そういった専門家をエスノグラファーという。

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参考文献:1.日経ビジネス2005年12月26日号、P.70~72 2.The McKinsey Quarterly May 2007, An Interview with Nokia's Senior Marketer 3, Conrad Phillip Kottak (2003) Mirror for Humanity: A Concise Introduction to Cultural Anthropology, McGraw-Hill

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2007年9月20日 (木)

消費者は言葉では考えない(消費者調査シリーズ第三回)

 現在使われている調査手法は大半は言葉にたよっている。書き言葉中心のアンケート調査はむろんのこと、フォーカスグループ調査だって話し言葉が中心だ。だが、人間は言葉では考えていない。この事実は、進化の歴史をたどってみればすぐに理解できる。

 言葉が登場するようになったのは50万年から100万年ほど前。きちんとした話し言葉が使われるようになったのは25万年前ほどだといわれる。人間が言葉で考えているとしたら、500万年前に進化的に類人猿と別れた人類の祖先さまたちは考えることなどなかった。つまり、思考する能力がなかったということになる。

 それは、ないだろ・・。

 脳をスキャンしてみると、本人が考えていることを意識する以前に、また、言語機能に関係する部位の神経細胞が活性化する以前に、思考に関連する部位が活性化していることがわかる。人間は言葉を使って自分自身や、そして他人に対してその考えを表現し伝達することを無意識的に選択したときになって初めて言葉を使うのだ。

 進化の歴史をたどれば、言葉は人間が抽象的に思考するようになるのを促した。でも、人間は「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」といつもハムレットしているわけではない。

 無意識に考えているなんて、本能的に信じらんない!

 だが、人間が日常的に考えたり、感じたり、行動したりすることの大半は無意識のうちにしている。無意識の領域は95%を占めるという科学者もいる。この数字の正否はともかく、大半の心理学者や脳科学者たちは、意識の世界は氷山の一角であることに同意している。そして、その事実が、ほとんどの人間に信じられないのは「氷山の一角の意識の世界には、海上に出ている自分の姿しか見えないからだ」そうだ。

 ロンドン大学で神経学者(ニューロ・サイエンティスト)たちが面白い実験をしている。

 被験者はコンピュータ画面を見つめる。そして、その被験者の脳の映像を科学者たちはMRIで見る。たとえば、二つのイメージが画面に非常に速く続けて流れる。被験者は二番目のイメージしか見ることができなかったのに、スキャン映像には被験者の脳が両方のイメージを見ているのが映っていた。つまり、被験者本人は一つのイメージしか見ていないと思っていても、無意識的にはしっかり二つのイメージを見ていたのだ。 

 映画「マイノリティ・レポート」に描かれたように、犯罪が実行される前に、その意図があることを本人自身が知る前に、予知することができる--実験に携わっている科学者たちはそう考えていて、こういったテクノロジー利用の倫理基準をつくらなくてはいけないと主張している。もちろん、こういったテクノロジーを利用して、消費者の購買意図を予測するのは簡単だ (これも倫理的に問題があるだろうけれど・・・)。

 これまでの消費者調査のほとんどが、目に見える氷山の一角だけを調べていたことになる。アメリカで科学的な調査が始まったてから100年近くになるが、データの獲得方法はまったく変わっていない。消費者に質問してそれに答えてもらう・・・圧倒的に言葉を介したものだ。ガーベッジ・インにガーベッジ・アウトといわれるように、もともとのデータが消費者の本当の答でなかったとしたら? 出てきた情報が消費者を理解するのに役立たないのは当然のことだろう。

                           (第四回に続く・・・)

Ilm05_cb10029s_2独断度100%のコメント

 ブログで「消費者の声」を探ろうという動きがある。自社商品への非難や批判を早目に発見するためにブログを観察することは必要だが、ここから消費者を知ろうというやり方は感心しない。同様に、苦情・質問データを深読みしすぎるのも良くないと思う。なぜなら、情報過多な状態では、担当者が自分の仮設に沿ったデータを選ぶことは簡単にできるからだ自分の提案を正当化するために意識的にそういったデータ選択をする要領のよい担当者もいるだろう。そういった考えはさらさらなくても、担当者は無意識のうちに自分の都合の良いデータを発見してしまう傾向がある。この現象は、行動経済学でも確証バイアスとして紹介されている。それでなくとも、消費者調査というのは、上司の経営者を納得させるために実行する傾向が高い。アサヒビールがスーパードライを開発するときに日本企業としては大規模な消費者調査をしたことで有名だ。その結果、消費者の新しい好みを発見してスーパードライが生まれたような書き方をした記事も多い。だが、私の独断的意見では、あれは、仮設を証明するためにされた調査だ。

 調査は往々にして、新しい発見をするためではなく、仮設を証明するために実施される。つまり、言葉を介してする調査の、それが限界なのだと私は思うのです

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参考文献 1.Ian Sample, The Brain Scan that can read People's Intentions, The Gurdian Feb.9,2007

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2007年9月16日 (日)

記憶はあてにならない (消費者調査シリーズ第二回)

 あなたの脳はあなたが見たり聞いたり経験したことを事実のまま覚えているわけではない。

そう言われたら大半のひとはこう答えるだろう。「そりゃ、むろん、忘れることだってあるさ。自分の記憶に自信がないときだってある。でも、自分の記憶が不確かなものか、それとも実際に起こった通りのことか・・・それぐらいは自分で判断できるさ」。

 ブー。

 記憶は二つの段階で変わってしまう。まず第一に、新しい経験(新しい情報)が保存されるとき・・・。新しい情報は、いくつかのデータ・ファイル(たとえば、色、形、匂い、言葉、経験に伴った感情、その他)に分けられて異なる場所に保存される。そのために、たとえば、大学時代の友人に会ったときに、顔はすぐに思い出せるが、名前がすぐには出てこないという現象が起こる。顔のファイルはすぐに検索できるのだが、名前のような言語データが保存されている領域はデータ量が多く混みあっている。だから、検索するのに時間がかかるのだ。

 いずれにしても、新しいデータが保存されるとき、すでに保存されているデータに基づいて、どのデータを保存するかが選択される。選択的に保存処理されるのは、たぶん、容量の問題があるからだろうと考えられている

 記憶が変わってしまう第二の段階は思い出そうとするとき・・・。思い出すという作業は、異なる場所にバラバラに保存されているデータを再構築することを意味している。その方法はまだ解明されていない。ファイルがリンクづけされてネットワークを作っていると考えられているが、リンクの弱いファイルは検索されずに終わってしまうかもしれない。あるいはまた、検索されるときのきっかけによって、情報内容が変化することもある。かかりつけのお医者さんとオフィス街ですれちがう。白衣ではなく背広を着ているので、「どこかで見た人?」と思っても誰だか思い出せない。オフィス街だから仕事上のつきあいのある人だと勘違いしてしまう。それは、記憶したときとキュー(Cue、手がかり、刺激、きっかけ)が違うからだ (この場合は白衣がキュー)。

 キューが記憶をゆがめてしまうこともある。記憶したときと異なるキューが使われると、検索できないファイルが出てくるだけではなく、無関係のファイルが呼び出されてしまうこともある。精神分析の創始者フロイトは、患者は精神科医の示唆によって子供時代の経験を新たに創造してしまうと語っている。

 消費者の記憶を知るためにアンケート調査を使うとして、その調査それ自体が消費者に示唆や暗示を与えるキューとなり、それによって、消費者の記憶が変わってしまうことがある。質問の聞き方、質問の順番、使う言葉によって、消費者の答は事実とは異なってしまう。カスタマー・インサイトというカタカナ用語が最近よく使われる。インサイトは心理学用語としては、(顧客の)思考や行動をもたらす動機を理解することだ。

 アンケート調査やフォーカスグループ調査がカスタマー・インサイトを明らかにしてくれると、本当に思っているのだろうか?

 広告も記憶に大きな影響を与えるキューとなる。

 2002年に、広告が消費者の過去の記憶を変えることができるという実験結果が論文として発表された。要約すると、被験者である大学生に過去をなつかしく思い出させるようなディズニーランドの広告を見せた・・・「子供時代を思い出してごらん・・・両親にやっと連れてきてもらったディズニーランド・・・初めてミッキーを間近に見て、ママに押されるようにして近づいて・・・そして、ミッキーと握手をしたときのあの興奮!」。ただし、学生たちに見せた広告では、ミッキーマウスではなくバックスバニーとなっていた。バックスバニーはアメリカでは有名なキャラクターだがディズニーランドのものではない。なのに、この広告を見せられた学生の16%は、実際には起こりえなかった出来事(つまりディズニーランドでバックスバニーと握手するということ)を自分は記憶していると主張したのだ。

 「記憶は創造的再構築の結果であり事実とは異なることがある」という心理学者や脳科学者の言葉が本当に思えてくる。

                          (第三回につづく・・・・)

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独断度100%のコメント

人間は無意識のうちに自分が記憶すべき情報を選択しているしその内容も変えているようだ。著名な心理学者ダニエル・シャクターの言葉を私流に翻訳すると、「記憶は過去に関するものだと思うのは間違いだ。それは、現在の自分が考えていることや自分が描く将来像に大きく影響されて思い出されるものなのだ」。科学は、どんな科学でもつきつめると哲学になるんだ!

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参考文献:1. Kathryn A. Braun, et al (2002) Make My Memory: How Advertising Can Change Our Memories of the Past, Psychology & Marketing, Vol 19, 2.Giep Franzen and Margot Bouwman (2001), The Mental World of Brands, World Advertising Research Center

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2007年9月11日 (火)

消費者はウソをつく(消費者調査シリーズ第1回)

  日本とかアメリカといった成熟した消費者市場は、1)新商品のヒット率の低下と2)ヒット商品でも寿命が短い・・・といった二重苦に悩んでいる。こういった問題を解決するには、「もっと顧客の声を聞く」ことが一番の解決策だという考え方が一般的のようだ。売買取引において、売り手が買い手のことを知ることはむろん最重要事項だ。

 だが、「顧客の声を聞く」ことが「顧客を知る」ことには必ずしもつながらない。

 なぜなら、消費者はウソをつくからだ。

 脳科学は1990年代から大きく進歩した。fMRI(機能的MRI)とかPETや光ポトグラフィーといった非侵襲的脳機能画像技術の実用化が進んだからだ。ヒシンシュウテキなんて舌をかみそうな名前だが、人体に損傷を与えることなく脳のなかで何が起こっているか外からチェックできる技術。最近はテレビのドキュメンタリー番組でもよく取り上げられるのでご覧になった方も多いと思う。頭のまわりに器具をつけた被験者がテレビを見たり誰かと会話をしたりしているときに、脳の中のどの神経細胞がどのくらい活性化しているかを見ることができる。

 アメリカのスーパーボール中継は視聴率が高いために、コマーシャルは30秒のスポットで260万ドル(2007年の場合。このときは米全世帯の63%が番組を見たという)の高値がつくことで有名。一年間でもっとも多くの視聴者に見られるコマーシャルの好感度を、アンケート調査による結果と、fMRIで調べた結果とを比較するという実験が2006年に実施された。全国紙「USA Today」の調査ではビールのバドライトのコマーシャルが、経済紙ウォールストリート・ジャーナルの調査ではフェデックスが好感度一位に選ばれている。ところが・・・、fMRIをつけた被験者にコマーシャルを見てもらった結果は、アンケート調査の結果とは違っていた。

 たとえば、人間の脳のなかには報酬系と呼ばれる「快・不快」の「快」の感情を生み出す領域がある。おいしい食べ物、セックス、お金、美しい芸術作品、面白い映画や漫画のことなどを考えるだけでも、ドーパミンが脳内に放出されて「快」の感情を感じる仕組みになっている。実験では、報酬領域以外にも不安に関係する部位や否定的反応を抑えようとする部位などもチェックされた。その結果、一位に選ばれたのは、調査結果とは異なりディズニーのコマーシャルだった。

 消費者は意識的にウソをつくこともある。「このコマーシャルが好きだと答えたら子供っぽいと思われるのではないか?」と考えて本当の答を言わないこともあるだろう。意識的ウソは見破ることもできる。問題は、無意識的につくウソだ。たとえば、スーパーボールのコマーシャルの実験をした神経科学者は「TVを見て楽しい時をすごさなければいけないと思っている視聴者は、(たとえコマーシャルを見て否定的感情を持ったとしても)無意識的にその感情を抑制しようとする傾向がある」とコメントしている。

 この20年間で急速に進歩した脳科学のおかげで、私たちは消費者が購買決定をしているときの脳の中の動きを知ることができるようになった。その結果、現在の「消費者の声をきく運動」に打撃を与えるような三つの事実が明らかになっている。

  1. 消費者の意思決定は感情優位である
  2. 消費者の記憶はあやふやである
  3. 消費者は言葉では考えない

 この3点については拙著「マーケティングは消費者に勝てるか?」(ダイヤモンド社)でも書いているが、その後も新たにわかってきた面白い事実がある。なんといっても、この分野は日進月歩の新しい研究分野なのだ。

 「消費者調査シリーズ」では5回にわたって、消費者が本当に感じていることや思っていることを探り出すための新しい手法や新しい考え方を紹介します。

 

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独断度100%のコメント

P&Gが2001年にクレアロールから買収したハーバルエッセンス・シャンプーは日本でも2004年に再投入された(1999年にクレアロールの親会社の米製薬会社ブリストルマイヤーズが販売したことがある)。「快感シャンプー体験」を強調したコマーシャル、覚えていますか? 航空機内の洗面所で外国人女性がハーバルエッセンスでシャンプーし、「イエス、イエス、イエス」と快感を口にするものです。アメリカでは、より強くセックスを想起させるバージョンがテレビに流されて物議をかもしました。女性が叫ぶ声がorgasmic sound(辞書でチェックしてね!)だというわけです。で、私は勝手に想像するのです。米バージョンのコマーシャルを日本のターゲット女性に見せて、好きか嫌いか?を質問したら、「好きだといったら下品だと思われる」とか考えて「嫌いだ」と答えた。それでアメリカ版コマーシャルを放映するのは止めた。でも、彼女の脳のなかの報酬系は強く活性化していたかもしれないぞ・・・。ちなみに、アメリカのハーバルエッセンスシャンプーのコマーシャルは「ポルノまがい」だとか「品がない」とか悪い評判も多々ありましたが、売上げは順調で、パンテーンとともにグローバル市場でP&Gのヘアケア製品のシェアを上げるのに大きく貢献しています。

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参考文献 1.Marketing News May 1, 200, Advertising Age、2.Pittsburgh Post-Gazette, Sept. 6, 2007

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