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2021年9月12日 (日)

日本でビミョーに誤解されているSDGとかESG

  私は、SDGとかESGといった頭文字言葉の順番をよく間違えて、SGDとか言ってしまう。Sustainable Development Goalsという元の言葉を思い出せば順番を間違えることなどないだろうと言う人がいるかもしれないが、いちいち、元の言葉を思い出していたら、時間短縮という頭文字を使うそもそもの理由がなくなってしまう。・・・ということで、最近は、SDGやESGどっちにも当てはまるサスティナビリティという便利であいまいな言葉を使うようにしている。

  基本的に、注目されている言葉とか考え方にいちゃもんでもつけようかとブログを書いているので、この2つの言葉についてブログを書くことはないだろうと思っていた。環境とか人権とか平等とかいった内容にいちゃもんをつけることはできない。だが、最近、優等生イメージのある2つの言葉にも疑惑とか批判が投げかけられるようになっているので、さっそく調べてみた。

  が、その話をする前に、まず最初に、日本で多くみられるSDGへの誤解について書いてみます。

  誤解される原因は、SDGs(Sustainable Development Goals)が「持続可能な開発目標」と翻訳されていることにある・・・と私は思っています。

  国際連合広報センターの日本語訳の文章では、「持続可能な開発目標(SDGs)とは、すべての人々にとってよりよい、より持続可能な未来を築くための青写真です。貧困や不平等、気候変動、環境劣化、繁栄、平和と公正など、私たちが直面するグローバルな諸課題の解決を目指します」と説明されている。

  この説明に問題はない。

  だが、「開発」という言葉をみると、気候変動とか環境劣化に関連して、こういった問題を起こさないような開発の仕方をしなくちゃいけない・・・という思考になって、頭に浮かぶのは、森林開発とか、サンゴ礁のある島の観光開発とか・・・。最近、日本で頻発している土砂くずれ災害も、気候温暖化からくる豪雨が直接の原因だとして、無計画な山林開発が被害を大きくしていると非難された。

  SDGsには17の目標があり、各目標に数項目のターゲットがあり、全部で169のターゲットが挙げられている。SDGというと「環境」がすぐに思い浮かぶが、実は、17ある目標のうち、環境を中核としているのは5つだけ・・・6.「水と衛生」、7.「クリーンエネルギー」、13.「気候変動」、14.「海の生態系」、15.「陸の生態系」。残りは、貧困,飢餓、健康、教育、平等・・といったように「人類の発展」というか「社会の発展」を目標とするものになっている。たしかに、目標12の「責任ある生産と消費」のように、「環境問題」に関連するターゲットが記されている目標は他にもいくつかある。が、それよりも、経済発展を基盤とする社会の発展に関するターゲットのほうが数は多い。

  日本でSDG=環境問題となっているのは、developmentを開発と翻訳してしまっているからではなかろうか? developmentとは経済成長の意味なので、成長とか発展と訳すべきだった。

  そもそも、Sustainable Developmentという言葉は、1987年に国連の「環境と発展に関する世界委員会」が公表した(委員長の名前をとってブルントラント・レポートと呼ばれる)報告書で使われ、その後、広まって一般的に使われるようになった。

  この委員会がつくられた背景を説明すると、80年代にグローバル化が進み、発展途上国に先進国企業が進出することで、発展途上国での公害、酸性雨、森林破壊が進み問題となった。貧困に悩む低所得国にとっては、経済発展のためには環境劣化もやむなしの考え方が基本にある。ブルントラント・レポートは、グローバルな経済成長と環境保護の両立を目指すものであり、それは、経済成長(Economic Development)をサスティナブルな成長(Sustainable Development)に再定義することで達成されるとした。「サスティナブルな成長とは、将来世代の必要性に応える能力を損ねることなく、現代の必要性をも満足させることができる経済成長である」と定義された。

  ブルントラント・レポートの延長上にあるSDGは、持続可能な未来をつくるためには経済成長が必要だとし、GDPが毎年どのくらい成長しなければいけないかというターゲット数値まで出している。たとえば、目標8「働きがいのある仕事と経済成長」のターゲット1には、「各国の状況に応じて、一人当たり経済成長率を持続させる。とくに、後発発展途上国は少なくとも年率7%の成長率を保つ」と明確に書かれている。

  SDGの目標1の「貧困をなくす」のターゲット1には、「1日1.25ドル未満で暮らす極度の貧困層をなくす」、ターゲット2には「2030年までに各国定義による貧困常態にあるすべての人々の割合を半減する」というように具体例が挙げられている。こういった具体例に基づき、SDGの17の目標を達成するためには、一人当たりのグローバルGDPが毎年どれだけ成長しなくてはいけないかを計算した論文がある。ロンドン大学経済人類学者のジェイソン・ヒッケル教授の計算によると、2030年までに、グローバル経済は毎年3%成長する必要があるそうだ。

  SDGの17の目標は、たんに、環境劣化を防ぐための目標を示しているわけではない。そうではなくて、「人類や社会の成長」にかかわる12の目標を達成するためにはグローバル経済成長が必要であるとして、30年までにグローバル経済がどれだけ成長すべきかの目標をかかげた。そのうえで(経済成長が環境問題を引き起こすことを承知のうえで)、環境をこれ以上劣化させないために何をすべきかの5つの目標をかかげたのだ。

  SDGは、世界経済と生活世界とのバランスを取り戻すための目標なのだ。

  だが、日本では、そう言った観点からSDGを語ることはあまりない。Sustainable developmentを「持続可能な開発目標」ではなく、「持続可能な(経済)成長目標」と日本語訳していれば、そういう勘違いは起こらなかったかも・・・。

 

  • 北欧はサスティナビリティの優等生ではない

  2015年9月、世界経済と生活世界とのバランスを取り戻すことを目的に、193の国連加盟国がSDGs行動計画を採択した。その5年後、各国がSDGの目標をどのくらい達成しているかを明らかにする指標として、SDGインデックスなるものがつくられた。

  そのランキングを見ると、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ノルウェイといった北欧を中心とした欧州諸国がトップに並ぶ。その結果として、北欧は環境問題では優等生といったイメージが出来上がっている。が、皮肉なことに、インデックスで上位の国は、環境のサスティナビリティにおいては世界で下位に並ぶ国でもある。

  たとえば、第1位のスウェーデンは、SGDインデックスは84.7だが、スウェーデンのマテアリアル・フットプリント(消費された天然資源総量)は国民一人当たり32トン。グローバル平均は一人当たり12トンだから米国と並ぶくらい最大クラスのものだ。フィンランドもSGDインデックスは83.77で第3位だが、フィランドのカーボンフットプリント(二酸化炭素排出量)は年間一人当たり13トンで石油大国サウジアラビア並みの水準だ。中国やインドは二酸化炭素の最大排出国だとやり玉に挙げられるが、それは人口が多いからで、中国のカーボンフォットプリントは一人当たり7トンでインドは2トン以下だ。

  えっと思う人も多いと思う。だが、SDGインデックスで上位に並ぶ国は、天然資源消費量、二酸化炭素排出量、土地利用や窒素などの化学物質の排出量といった点でも、人口比で各国に許されている範囲を大幅に超過している。

  どうして、こういった国がサスティナビリティのレベルが高いということになっているのか?(実際には違うのに)。

  雑誌「Foreign Policy」2020年9月号に発表されたSDGsインデックスを批判した記事を読むとその理由がよく理解できる。

  理由は、すでに述べたSDGの構造にある。

  SDGは17の目標によってつくられており、各目標ごとにターゲットがいくつかある。インデックス・スコアの算出に当たっては、最初にターゲットごとの達成度を評価する。たとえば、前述した例でいえば、目標3の「健康」のターゲット1には「2030年までに、世界の妊産婦の死亡率を出生10万人当たり70人未満に削減する」と記されているから、各国の達成度は簡単に計算できる。次に、各ターゲットの平均を算出して目標ごとの点数を出す。そして、目標ごとの点数の平均値がその国の点数となる。

  このスコア算出プロセスは適切なように見えるが、実は、そこに大きな問題がひそんでいる。そのうちの2つを紹介しよう。

  1. 17の目標のうち環境関連は5つだけ。それ以外の目標は貧困、教育、平等などで、経済的に発展している国の点数は高くなる。環境関連の5つの項目でスコアが落ちても、北欧のような先進国であればで、結果として上位に躍り出る
  2. 環境に関する数値には国際取引の要素が考慮されていない。例えば大気汚染とか水質に関する項目を見ると、概して富裕国の点数は高い。だが先進諸国は1980年代以降、汚染源となる産業部門の工場を次々と国外に移転させており、結果として汚染も国外に追いやっている。森林破壊や魚の乱獲についても同じようなことが言える。こうした問題の多くは貧困国で起きているが、その原因は裕福な国々の過剰消費にある。途上国は先進国から環境破壊を輸入し、結果として、それを輸出している先進国のインデックスの順位は上がる。

  経済成長と生態系のサスティナビリティとはトレードオフの関係にある。だから、両者ともに発展させようというSDGsの考え方は矛盾しているという批判も多い。生産性とかテクノロジーが進歩すれば、矛盾した二つは共に発展してくれるはず・・・という希望は理解できるが、理想通りには進んでいない。とくに、パンデミックスによって、低所得国が年率7%の成長率を維持するというSGDの目標8はもはや不可能だ。経済成長と生態系サスティナビリティとを切り離し、SDGは環境だけに専念したほうがよいという意見も多くなっている。

  • ESG投資への疑惑や批判

  SDGは各国政府や地球に住む人間一人一人が目標とするものだが、それに対してESGは民間企業が取り組むべき課題だとされる。そのぶん、目標の的が絞られ、企業経営に深く関係した内容となっている。

  企業が環境(Environment)と社会(Social)とガバナンス(Governance)の課題に真剣に取り組んでいるかどうかを監視するのは投資家(株主)だ。投資家は企業価値を評価し判断するのに財務指標だけでなく、その企業の環境や社会への貢献度まで考慮するようになってきている。

  ESGに配慮した経営をしている企業に投資すれば、環境や社会のためにも良い結果を得られるだけでなく、そういった会社に投資する投資家も儲かる・・・ということで、ESG投資ファンドを運用したり販売する会社が増えている。だが、ここに問題がある。ESGに真摯に取り組んでいる会社の業績が良くなり株価も上がるという保証はない。そのため、最近では、ESG投資に対して様々な批判も登場するようになっている。

  が、その話はあとまわしにして、最初にESG投資の簡単な歴史を紹介します。

  ESGはSDGから派生したように思われているが、実際には、投資判断するときに、非財務データをも考慮するという考え方は、米国では1920年ごろに始まっている。米国の教会が信者からの寄付を中心とする資産を投資するときに、アルコール産業など道徳的でない企業をポートフォリオから削除するようにしたのは、その始まりと考えてもよいだろう。

  そして、90年代から2000年代にかけて、CSR(Corporate Social Responsibility企業の社会的責任)の考え方が広まるようになり、2000年代に不正会計が発覚して倒産したエンロン事件後、ガバナンス(企業統治)に厳しい監視の目が注がれるようになる。

  こういった歴史をへて2006年、国連のリーダーシップのもとに、世界的機関投資家たちが責任投資原則(Principles for Responsible Investment、略してPRI)を策定した。PRIは、責任ある投資とは、投資判断のなかに、環境、社会、ガバナンスといったESGの要素を取り入れた戦略や実践をすることだと定義している。2020年には、PRIに署名した機関数は3470機関におよび、その運用資産総額は約100兆ドル(おおよそ1京円)になる。 

  ESGという言葉は、このPRIの序文に登場し、その後、一般的に広まるようになった(だから、ESGはSDGよりも歴史が長い。まあ、ただのウンチクで、どっちでもいいことだけど)。

  ESG経営をしている企業に投資すれば、社会に貢献することになる。しかも、ESG経営をしている企業は長期的に利益を生み出すので、「そういった企業の株をあなたの投資ポートフォリオに入れれば、パフォーマンスは向上しますよ」という売り言葉が使われるようになり、ESG投資への人気が急上昇した。

  20年のESG投資額は約3900兆円で、世界の投資マネーの約4割に達する(世界持続的投資連合調べ)。日本でも、Quick 資産運用研究所調べでは、1999年以降に発売されたESGやSDG、環境などの名称を含む投資信託の純資産残高は3.9兆円で、そのうちの7割の2.7兆円を20年以降の投信が占めるという。

  だが、投資家にも社会にもウィンウィンの結果をもたらす証拠して示されたデータ、つまり、ESGファンドは伝統的なファンドよりも財務的に優れた成績を出しているとして示されたデータの正当性が、最近になって、ゆらいできた。投資運用会社がグリーンウォッシュ(環境配慮をしているように装いごまかすこと)していることが暴露されたのだ。たとえば・・・

  1. ビジネス誌「エコノミスト」(21年3月22日号)によると、世界最大の20本のESGファンドを調べると、どのファンドも平均して17の化石燃料の生産者を含み、6つのファンドが米国最大の石油会社であるエクソンモービルに投資しており、2つが世界最大の原油生産者であるサウジアラモコに出資しており、1つは中国の石炭鉱業会社を所有していた。
  2. ブラックロック(世界一の資産運用管理会社)のサスティナブル投資を率いていた元担当者も、「多くの同業者は、売りやすいようにESGという名前を付けてはいるが、実際には、石油会社とかファストファッションの会社の株を入れることで株価を上げるように工作していた」と暴露している。「ウォールストリートは社会善を追求することは利益にも良いという概念を広めたが、それは希望的観測だ。マーケティングの誇大広告で不誠実な約束だった」。環境に貢献することは利益をもたらすという理想は現実的ではなかったとも言っている。
  3. ESGファンドの多くは、 Apple, Microsoft, Amazon, Facebook, Google そしてTeslaといったビッグテックの株を組み入れている。デジタル企業は製造業より環境負荷が少ない(特にカーボンフットプリント)と一般的に思われているから、こういった株が含まれるのは理解できる。だが、また、こういった ビッグテックの近年の成長率は高いわけだから、こういった会社の株が含まれたファンドの成績が良いのは当然のこと。だから、ESG経営をしている企業の業績が良いと結論づけるのはおかしい。

  以上のことからも、ESG経営が長期的に利益を計上し続けることができるかどうかにも疑問が出てきている。というか、ESG経営をしているから長期的に利益を計上できるという結論は論理的に導き出されない。

  経済・金融情報サービス会社「ブルームバーグ」の報告(2021年5月)によると、日本のGRIF(Government Pension Investment Fund 日本の厚生年金、国民年金といった公的年金の管理運用を行っている年金積立金管理運用独立行政法人。その規模は192兆円を超え世界最大の年金基金となっている)は、「受託責任(資産の運用に携わる者が受益者に負うべき責任)を考えるとESGに良いことをしているからといって、パファーマンスを犠牲にして、その株や債券を買うことはできない」と語ったそうだ。

  GRIFは日本の高齢化社会を支えるために賃金上昇率プラス1.7%のリターンを確保することが要求されている。が、たとえば、GRIFが最初のころ買ったESG関連インデックスファンドのパフォーマンスはTopixインデックスファンドに比べて劣るものだった。ブルームバーグの記事は、「EUや米国が環境問題に多大な予算を計上しているなか、ESGファンドはテーマ別ファンドでは注目を集めるファンドではあるが、世界最大の年金基金が慎重になっているのをみてもわかるように、リターンの観点からみたら、現実的にならざるをえない。主義や信条だけではやっていけない」とつづけている。

  米国労働省も、2020年の10月に、ESG投資を念頭に、民間年金基金は受益者の引退後の生活を支えるという最重要使命から気をそらしてはいけないというルールを発表している。                                                          

  企業のほうでも、ESG投資に力を入れている機関投資家の要求ばかりを聞いてはいられないという気持ちが出てきたようだ。

  ESGファンドに最も一般的に含まれているビッグテックの、マイクロソフトやアルファベットが、10-k年次報告書にESG関連情報は含まれるべきではないとSEC(米国証券取引委員会)に2021年6月に要請している。その理由として、ESG関連情報は、財務情報とかリスク情報の開示とは異なり不確実要素に左右されることが多く、その結果、会社が法的リスクにさらされる可能性が高くなるというのだ。ファイスブック、インテル、セールスフォースといった会社も同様の要請をSECにしている。

  最近では、P&Gのように、ESG経営が最終利益を脅かすリスクになる可能性があると投資家に警告する会社も登場してきている。P&GはSECに最近提出した10-k年次報告書において、ESG事項を「法律や規制上のリスク」に付け加えた。

  ESGに関連する課題に社会や政府の監視の目が厳しくなるうえに、新たに要求される報告義務が加わることで、収益に悪影響を与えるリスクが高くなるというのだ。

  やっと、常識が戻ってきた感じだ。

  ESG的に正しい経営をしているから、利益を長期的に生み出すことができる・・・とするのは、論理的飛躍だ。たしかに、二酸化炭素排出量を減らすテクノロジーやプラスティック再生関連テクノロジーで革新的発明をした企業なら、環境に良いことをすることで急成長することは可能だ。また、消費者を対象に商売しているB2C企業の場合、ESG、とくに環境に良いことをしていると消費者にアピールするのに成功し、競合他社からの差別化に成功すれば、「あの企業が売っている商品やサービスを選択しよう」と思ってもらうことができるかもしれない。結果、ESG経営でより高い利益を継続的に上げることができるかもしれない。

  だが、基本的に、環境問題に積極的に取り組もうと思えば、かなりの投資を必要とし余分のコストがかかる。コスト増を上回る売り上げを上げることで利益を出さなくてはいけない。そういった責任をすべて民間企業が背負うのはおかしいのではないか? トヨタ自動車社長は、二酸化炭素排出量削減などの目標を政府が発表してはいるが、日本の実情を踏まえてきめられたものではないとし、「再生可能エネルギー比率の目標も示しているが、そこのコストの議論は見えてこない。すべて実行するのは民間で、と言っているように聞こえる」と苦情を呈した。

  結局は、ESG投資の考え方そのものが間違っているということだ。たとえば、製造業が化石燃料を使わなくてもよいような革新的なテクノロジーを発明する企業に投資をするESG投資。この場合は、成功した場合は大きなリターンを得る可能性もあるが失敗するリスクも高い。あるいは、ESG経営を積極的にしている企業を長期的にサポートする。この場合は、あくまで、そういった企業を応援するといった投資態度でリターンを期待してはいけない。

  いまのように、利益も社会への貢献も両方とも・・・なんて欲張った投資はもともとありえないということだ。機関投資家もファンド運用会社も、儲けることと地球や社会への貢献と両方とも実現させようと欲張りすぎるのはやめたほうがいい。

 

  • さすがサントリー!

  だからといって、企業が環境劣化を無視してよいということではない。企業市民として、ある程度のコストをかけても、地球や社会への貢献は積極的に進めなくてはいけない。だが、また、自分たちが地球や社会に貢献していることを消費者に上手にアピールすることで、1.企業や商品イメージを高め、ひいては売上を上げる、2.消費者にも環境問題についての意識を高めてもらうことは重要だ。そういった点で、日本で、きちんとした戦略を立てたうえで実践しているのは、やっぱり、マーケティング上手のサントリーだ。

  サントリーはサスティナビリティ―戦略において、あれもこれもという総花的なものではなく、何を自社の目標とするか選択した。SDGの17の目標の中から、6.水と衛生、3.健康、12.責任ある生産・消費、13.気候変動の4つを選び、その中でも6の水を自社にとっての最重要目標とした。ウィスキー、ビール、清涼飲料など、サントリーが提供する製品の多くは水を中心とする。水はサントリーの経営基盤であり基本的資源だ。

  サントリーのサスティナビリティ・ビジョンは「水と生きる」だ。

  おいしい健康的な水を得るためには、それをはぐぐむ森が必要だ。森が健全でなければ良質の水を生み出してはくれない。森をはぐくむ活動を14都道府県20か所、9000ヘクタールの森林で整備活動を進めている。

  サントリーが実践している森を育む活動を紹介する動画が、そのまま、「サントリー天然水」のコマーシャルになっている。逆に言えば、ミネラルウォーター「サントリー天然水」を宣伝するコマーシャルが、サントリーのSDG活動を広報する動画になっているということだ。自社の環境活動を広報する(そして、それは消費者に森の育成が良質の水を作ることを教える啓蒙活動にもなっている)動画が、自社商品の広告宣伝になっているのだ。

  結果、「サントリー天然水」は、2018年から3年続けて清涼飲料水で売上No.1の座を継続して確保。そして、日経BPのESGブランド調査2020年ランキングでサントリーは、トヨタに次いでNo.2に選ばれている。

  ESG経営にも戦略が必要だということだ。

  環境と経済成長とはトレードオフの関係だと前述した。が、サントリーホールディングスの新浪剛史社長は、「サステナブル・ブランド国際会議2018東京」で、次のように語っている・・・「事業を成長させ、自然環境を守り、社会と共生していくことは『トレード・オフ』ではない。私たちは『トレード・オン』に変えていける」。

 

参考文献:1.Jason Hickel, The contradiction of the sustainable development goals: Growth versus ecology on a finite planet, 2019、2.「SDGs優等生の不都合な真実 豊かな国が高い持続可能性を維持しているという嘘」Newsweek 10/8/20 3. The World’s Sustainable Development Goals Aren’t Sustainable, Foreign Policy 9/30/20, 4. Hot air, Sustainable finance is rife with greenwash. Time for more disclosure, The Econonist 3/22/21, 5.Financial world greenwashing the public with deadly distraction in sustainable investing practices, USA Today, 3/16/21, 6.ESG投信、監督強化 金融庁「選定基準の説明不足」、毎日新聞7/8/21、7.The fallacy of ESG investing, Financial Times 10/23/20、8.The SDGs and ESG Investing:Toward a New Era of Responsible Capitalism, The Tokyo Foundation for Policy Research 3/11/20、9.Top tech groups try to dilute ESG disclosure rules, Financial TimeSustainability Science 020s, 6/20/21、10.If ESG enhances profits, then why all the fuss? Forbes. Com 11/18/20, 11.The Sustainable Development Goals prioritize eonomic growth over sustainable resource use: a critical reflection on the SDGs from asocio-ecological perspective,Sustainable Science 2020